過ぎ去るはエーデルワイス
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鞍馬さんの提案でやってきたのは、何というか、見ているととてもワクワクしてくるオジサマだった。
もう、登場から派手だった。
ギュルル!と変な音がしたかと思ったら、体幹を一切ブラさずに、滑るように入室。悪戯心が湧いたらしい弥鱈君が足を伸ばして引っ掛けようとしたら、膝を曲げずに何故かぴょーんと跳んじゃうし。極め付けはそのままひゅるりと空中でターンを決めて、部屋の隅にあったフロアランプに着地したこと。思わず拍手を送ると、恭しくお辞儀をしてくれた。
「高い所から失礼。私零號立会人、切間撻器と申します」
「たちあいにん?」
私は思わず聞き返す。弥鱈君がすかさず私の額を小突いて、「ついさっきそこのヤクザに説明されたろ。賭郎って、賭けを取り仕切る役目の奴がコイツだ」と言った。そういや、そんなことも言っていたような。額を摩る私を見ながら切間さんは「ぐはぁ!」と笑った。
「破竹の勢いで賭郎会員を潰しまくってる鞍馬様に狙われるとはなんと憐れな高校生!と…思っていたが…中々如何して、不気味な二人組だな。一人一人は好きになれそうだが…セットだと好きか嫌いか…。ふむ。まあいいだろう」
切間さんはひょいとフロアランプから下り、腰に手を当てる。
「さて、賭けの内容は事前に鞍馬様にご連絡頂いた通り、今からこの二人が猫登民政党衆議院議員から七百万円を引っ張れたらこの二人の勝ち。鞍馬組は金輪際この二人に関わらない。しかし、もし失敗したらこの二人ははセットで鞍馬組に加入する。ということでよろしいのですね?」
「ああ、その通りさ。ただね、この二人が猫登から引っ張れたものは全て確実に取り立ててやって頂戴ね」
「ほう。他にも猫登議員から引っ張るのですか」
「いや、金以外はアタシらから見たらしょーもないもんさ。ただ、こういう青臭いの、嫌いじゃなくてね」
鞍馬さんは肩を竦め、喉奥で笑う。そして私たちに起こった出来事を掻い摘んで説明してくれた。こういう呆れたような仕草がとことん似合う人だ。でも、不思議とどこかあったかい。負けたとしても、きっと待っているのは絶望だけじゃないだろう。まあ、そもそも負けないんだけどね。
「成る程…面白い子供達ですね。それはさておき、早速初めてゆきましよう」
切間さんは恭しくお辞儀をした。弥鱈君が迷い無く部屋を出て行く。私は鞍馬さんに軽く頭を下げ、その後をついていった。「精々頑張んな」と、背中に声が掛かる。
スタスタ歩いて行く弥鱈君とは対照的に、私は時々来た道を振り返らないと帰れなくなってしまう。くるりと振り返り、私たちが今まで居たのは「クララ」というカジノクラブだったことを確認する。すると後についてきていた切間さんと目が合ったので、会釈しておく。笑顔を返してくれる切間さんはどうやらとても退屈している様子で、ちょっと申し訳ない。きっと、大人同士の熱い戦いを期待していたんだろう。
とはいえ、私たちにとっては人生を賭けた大勝負。エンターテイメント性なんかいらないのである。堅実に行こう。
「ね、弥鱈君」
「ホテルに戻る」
「まだいるかな」
「何時間経った?」
「一時間ちょい」
「いるな」
「弥鱈君、何で分かるの?」
弥鱈君が煙たそうな目で睨んでくるので、私は仕方がなく見つめ返す。彼はフイと目を背けたかと思ったら、額を小突いてきた。痛い。
「酷い」
「今のはアンタが悪い」
「だって気になるじゃない」
「ならない」
「酒井君だったらスルーしたけどね」
「アンタだって彼氏できたことない癖に」
「弥鱈君のせいだよ絶対」
「なら、俺に彼女できないのもアンタのせい」
「否定できない」
「はぁ~」
「はぁ~」
大きなため息を吐く私たちを、沈みかけた太陽が照らす。お夕飯までには帰りたいな、とぼんやり思った。
ホテルに到着した私たちは、生垣のレンガの上に座り込む。
「弥鱈君、今日お夕飯食べてく?」
「どーすっかな」
「うちのお父さん喜ぶよ。なんかすっごい弥鱈君のこと好きなんだよね」
「あ~、それ凄い感じる」
「でしょ。家に男が居ないからかな、弥鱈君くると浮かれちゃう」
「そんな理由か」
「多分ね」
ぽちぽち家にメールを入れると、すぐにお母さんから快い返事と心配の言葉が来た。そのことを告げると、弥鱈君は「謎組織とヤクザが参戦してきたってのは言うなよ」と釘を刺してくる。「謎組織とは失礼な奴め」と切間さんが笑う。
「江戸時代からある由緒正しい賭博組織なんだぞっ!ペリー来航の時だって、徳川家定とペリーが行った賭けの立会いをしたんだ。ちゃんと立会い記録が残っているぞ」
「え、開国、賭けで決めたんですか」
「正にテストに出ない豆知識だな」
「他にも様々な歴史上の分岐点に賭郎は立ち会っている。そこらへんの記録は是非賭郎の資料室に来て見てほしい」
「見れるんですか?」
「組織の一員になったらな」
「賭け事は苦手なんですよねぇ」
「ダウト専門ギャンブラー」
「誰も対戦してくれなくなるよ、それ」
「ぐはぁ!なんだお嬢ちゃん、ダウト得意なのか」
「目、瞑ってても勝てますよう」
「それはいい。是非賭郎へ」
「弥鱈君を口説く方がまだ現実的ですよう」
「今は別に」
「そのうちまた口説いて、だそうです」
「分かった、そのうちな!」
ぐはは、と豪快に笑う切間さん。それを遮るように弥鱈君が携帯を取り出し、シャッターを切る。私は慌ててホテルを見て、近藤さん達が出て来たのを確認した。
もう、登場から派手だった。
ギュルル!と変な音がしたかと思ったら、体幹を一切ブラさずに、滑るように入室。悪戯心が湧いたらしい弥鱈君が足を伸ばして引っ掛けようとしたら、膝を曲げずに何故かぴょーんと跳んじゃうし。極め付けはそのままひゅるりと空中でターンを決めて、部屋の隅にあったフロアランプに着地したこと。思わず拍手を送ると、恭しくお辞儀をしてくれた。
「高い所から失礼。私零號立会人、切間撻器と申します」
「たちあいにん?」
私は思わず聞き返す。弥鱈君がすかさず私の額を小突いて、「ついさっきそこのヤクザに説明されたろ。賭郎って、賭けを取り仕切る役目の奴がコイツだ」と言った。そういや、そんなことも言っていたような。額を摩る私を見ながら切間さんは「ぐはぁ!」と笑った。
「破竹の勢いで賭郎会員を潰しまくってる鞍馬様に狙われるとはなんと憐れな高校生!と…思っていたが…中々如何して、不気味な二人組だな。一人一人は好きになれそうだが…セットだと好きか嫌いか…。ふむ。まあいいだろう」
切間さんはひょいとフロアランプから下り、腰に手を当てる。
「さて、賭けの内容は事前に鞍馬様にご連絡頂いた通り、今からこの二人が猫登民政党衆議院議員から七百万円を引っ張れたらこの二人の勝ち。鞍馬組は金輪際この二人に関わらない。しかし、もし失敗したらこの二人ははセットで鞍馬組に加入する。ということでよろしいのですね?」
「ああ、その通りさ。ただね、この二人が猫登から引っ張れたものは全て確実に取り立ててやって頂戴ね」
「ほう。他にも猫登議員から引っ張るのですか」
「いや、金以外はアタシらから見たらしょーもないもんさ。ただ、こういう青臭いの、嫌いじゃなくてね」
鞍馬さんは肩を竦め、喉奥で笑う。そして私たちに起こった出来事を掻い摘んで説明してくれた。こういう呆れたような仕草がとことん似合う人だ。でも、不思議とどこかあったかい。負けたとしても、きっと待っているのは絶望だけじゃないだろう。まあ、そもそも負けないんだけどね。
「成る程…面白い子供達ですね。それはさておき、早速初めてゆきましよう」
切間さんは恭しくお辞儀をした。弥鱈君が迷い無く部屋を出て行く。私は鞍馬さんに軽く頭を下げ、その後をついていった。「精々頑張んな」と、背中に声が掛かる。
スタスタ歩いて行く弥鱈君とは対照的に、私は時々来た道を振り返らないと帰れなくなってしまう。くるりと振り返り、私たちが今まで居たのは「クララ」というカジノクラブだったことを確認する。すると後についてきていた切間さんと目が合ったので、会釈しておく。笑顔を返してくれる切間さんはどうやらとても退屈している様子で、ちょっと申し訳ない。きっと、大人同士の熱い戦いを期待していたんだろう。
とはいえ、私たちにとっては人生を賭けた大勝負。エンターテイメント性なんかいらないのである。堅実に行こう。
「ね、弥鱈君」
「ホテルに戻る」
「まだいるかな」
「何時間経った?」
「一時間ちょい」
「いるな」
「弥鱈君、何で分かるの?」
弥鱈君が煙たそうな目で睨んでくるので、私は仕方がなく見つめ返す。彼はフイと目を背けたかと思ったら、額を小突いてきた。痛い。
「酷い」
「今のはアンタが悪い」
「だって気になるじゃない」
「ならない」
「酒井君だったらスルーしたけどね」
「アンタだって彼氏できたことない癖に」
「弥鱈君のせいだよ絶対」
「なら、俺に彼女できないのもアンタのせい」
「否定できない」
「はぁ~」
「はぁ~」
大きなため息を吐く私たちを、沈みかけた太陽が照らす。お夕飯までには帰りたいな、とぼんやり思った。
ホテルに到着した私たちは、生垣のレンガの上に座り込む。
「弥鱈君、今日お夕飯食べてく?」
「どーすっかな」
「うちのお父さん喜ぶよ。なんかすっごい弥鱈君のこと好きなんだよね」
「あ~、それ凄い感じる」
「でしょ。家に男が居ないからかな、弥鱈君くると浮かれちゃう」
「そんな理由か」
「多分ね」
ぽちぽち家にメールを入れると、すぐにお母さんから快い返事と心配の言葉が来た。そのことを告げると、弥鱈君は「謎組織とヤクザが参戦してきたってのは言うなよ」と釘を刺してくる。「謎組織とは失礼な奴め」と切間さんが笑う。
「江戸時代からある由緒正しい賭博組織なんだぞっ!ペリー来航の時だって、徳川家定とペリーが行った賭けの立会いをしたんだ。ちゃんと立会い記録が残っているぞ」
「え、開国、賭けで決めたんですか」
「正にテストに出ない豆知識だな」
「他にも様々な歴史上の分岐点に賭郎は立ち会っている。そこらへんの記録は是非賭郎の資料室に来て見てほしい」
「見れるんですか?」
「組織の一員になったらな」
「賭け事は苦手なんですよねぇ」
「ダウト専門ギャンブラー」
「誰も対戦してくれなくなるよ、それ」
「ぐはぁ!なんだお嬢ちゃん、ダウト得意なのか」
「目、瞑ってても勝てますよう」
「それはいい。是非賭郎へ」
「弥鱈君を口説く方がまだ現実的ですよう」
「今は別に」
「そのうちまた口説いて、だそうです」
「分かった、そのうちな!」
ぐはは、と豪快に笑う切間さん。それを遮るように弥鱈君が携帯を取り出し、シャッターを切る。私は慌ててホテルを見て、近藤さん達が出て来たのを確認した。