過ぎ去るはエーデルワイス
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「もうお嫁に行けない…」
「そもそもアンタに貰い手は付かねーよ」
「え」
「何」
「酷い」
「そーでもない」
「いや、酷い」
「そーでもない」
「そこはさ」
「俺は貰わない」
「先回りしないでよ」
「断じて貰わない」
「酷い」
「そーでもない」
お話ししているとノックもなしに部屋の扉が開かれて、着物のお姉さんが入ってくる。「アンタら、捕まってんのにエライ余裕じゃないか」との呆れた声に、私たちは示し合わせたように肩を竦めた。後ろ手に繋がれた手錠がじゃらりと音を立てた。
「ハァ…」
「ほら、アンタのファーストキスの相手が溜息ついてんぞ」
「もう触れないでよ…って、何その悪い笑顔」
「普通」
「絶対違う」
そう、私はこのお姉さんが仲間を呼ぼうとするのを邪魔していたら、文字通り口を塞がれてしまったのだ。
「第一、弥鱈君があれで動揺するから悪いじゃん」
「いや、アンタが絶叫するから悪い」
「だから、その緊張感の無さは何なんだい…」
お姉さんがまた溜息をつく。
「まあいいよ。単刀直入に言おうかい。弥鱈悠助、アンタ、どう落とし前を着けるつもりだい?」
「心当たりが全くないんですがねぇ~」
「そーかい。アンタが二週間前にのした男の事だよ。アイツはアタシの組でね、交渉ごとに向かう途中だったんだ。お陰で取引はパァさ」
「それはそれは~心中お察し致します~」
「察されてもなんの慰めにもなんないよ。だから聞いてんのさ、コッチは」
お姉さんがちろりと唇を舐める。その官能的な動きはなんとなく蛇を思わせた。私は怯えた振りで弥鱈君に擦り寄り、手を握り、いつでも交信できるように備える。弥鱈君は注意深く周りを見渡す。逃走ルートを探してくれるなら、私の仕事はこのお姉さんの相手だね。
「弥鱈君に、何して欲しいんですか?」
「ハァ?解んねぇのかい、コッチは金を失ってんだ、それを埋め合わせる何かを寄越せって言ってんだ」
この人の言葉に嘘はなく、とても助かる。
「じゃ、私いらなくないですか?」
「もっともだねぇ」とお姉さんは笑い出す。
「でも、そうはいかないのさ」
「へぇ?」
「コッチが失ったのは七千万。ソイツ一人にゃ、ちと荷が重いとは思わないかい?」
「ホントに七千万だったら、そうですね」
私はお姉さんを見つめる。お姉さんはさっきからの不敵な笑顔を崩さないが、キセルを持つ手に不自然な力がこもったのを見逃さなかった。
「三千万…ううん、もっと安い。一千万、九百、八百、七百。七百。十掛けでふっかけるなんてやりますね」
「へぇ…面白いじゃないか」
「どーもです」
お姉さんはキセルの先端で私の顎を押し上げる。まっすぐお姉さんを見させられる。私だって目を逸らす気はない。瞳の奥を覗き込む。1つ残らず見抜いてやるんだから。
「アタシの人物鑑定力も能輪のジジイに負けちゃいないようだよ」
首を傾げれば、「コッチの話さ」と鼻で笑われる。
「アンタら二人、アタシの組に入りな」
「へ?!」
「どちらにせよ高校生に払える額じゃないだろう、着けて貰うよ、落とし前」
「い、嫌ですよ!そんな、七百万ぽっちで!」
「じゃ、払えるのかい」
「や、それは…」
「払える」
「へ?!」
突然割り込んできた弥鱈君に驚いて、私は横顔を見つめる。彼はチラと私を見返して、「ちゃんと見ろ」と短く指令を出す。慌てて見直したお姉さんの目は挑戦的に細められている。不思議なことに、疑ってはいない。
「へぇ、払うってのかい」
「俺は払いませんよ~。さる変態議員から引っ張れるだけです~」
お姉さんが片眉を上げる。話せ、ということらしい。私は弥鱈君に目配せをし、彼はその意を汲んで話し出す。
「国会議員の猫登をご存知ですか~?あの男が俺たちのクラスメートと今ホテルにいましてね~。脅し付けてやろうと思っていたところだったんですよ~」
「へぇ、あそこにいたのは訳があったって事かい」
「そうなりますね~」
アンタら、いいね。気に入ったよ。お姉さんは笑う。
「じゃ、それで手を打とうじゃないか。アンタらがその変態議員から七百万円を引っ張れたらアタシ達はそれで手を打つ。だが、もし失敗したらアンタらはセットで鞍馬組の一員さ」
私は弥鱈君を見る。彼も私を見るので、見つめ合う形になる。
「嘘は、付いてないみたい」
「勝てない賭けじゃない」
「じゃ、あなたの問題が二つ一気に片付くね」
「そーだな」
私たちは頷き合う。私で分が悪くても、あなたで分が悪くても、私たちならやれるだろう。
「そもそもアンタに貰い手は付かねーよ」
「え」
「何」
「酷い」
「そーでもない」
「いや、酷い」
「そーでもない」
「そこはさ」
「俺は貰わない」
「先回りしないでよ」
「断じて貰わない」
「酷い」
「そーでもない」
お話ししているとノックもなしに部屋の扉が開かれて、着物のお姉さんが入ってくる。「アンタら、捕まってんのにエライ余裕じゃないか」との呆れた声に、私たちは示し合わせたように肩を竦めた。後ろ手に繋がれた手錠がじゃらりと音を立てた。
「ハァ…」
「ほら、アンタのファーストキスの相手が溜息ついてんぞ」
「もう触れないでよ…って、何その悪い笑顔」
「普通」
「絶対違う」
そう、私はこのお姉さんが仲間を呼ぼうとするのを邪魔していたら、文字通り口を塞がれてしまったのだ。
「第一、弥鱈君があれで動揺するから悪いじゃん」
「いや、アンタが絶叫するから悪い」
「だから、その緊張感の無さは何なんだい…」
お姉さんがまた溜息をつく。
「まあいいよ。単刀直入に言おうかい。弥鱈悠助、アンタ、どう落とし前を着けるつもりだい?」
「心当たりが全くないんですがねぇ~」
「そーかい。アンタが二週間前にのした男の事だよ。アイツはアタシの組でね、交渉ごとに向かう途中だったんだ。お陰で取引はパァさ」
「それはそれは~心中お察し致します~」
「察されてもなんの慰めにもなんないよ。だから聞いてんのさ、コッチは」
お姉さんがちろりと唇を舐める。その官能的な動きはなんとなく蛇を思わせた。私は怯えた振りで弥鱈君に擦り寄り、手を握り、いつでも交信できるように備える。弥鱈君は注意深く周りを見渡す。逃走ルートを探してくれるなら、私の仕事はこのお姉さんの相手だね。
「弥鱈君に、何して欲しいんですか?」
「ハァ?解んねぇのかい、コッチは金を失ってんだ、それを埋め合わせる何かを寄越せって言ってんだ」
この人の言葉に嘘はなく、とても助かる。
「じゃ、私いらなくないですか?」
「もっともだねぇ」とお姉さんは笑い出す。
「でも、そうはいかないのさ」
「へぇ?」
「コッチが失ったのは七千万。ソイツ一人にゃ、ちと荷が重いとは思わないかい?」
「ホントに七千万だったら、そうですね」
私はお姉さんを見つめる。お姉さんはさっきからの不敵な笑顔を崩さないが、キセルを持つ手に不自然な力がこもったのを見逃さなかった。
「三千万…ううん、もっと安い。一千万、九百、八百、七百。七百。十掛けでふっかけるなんてやりますね」
「へぇ…面白いじゃないか」
「どーもです」
お姉さんはキセルの先端で私の顎を押し上げる。まっすぐお姉さんを見させられる。私だって目を逸らす気はない。瞳の奥を覗き込む。1つ残らず見抜いてやるんだから。
「アタシの人物鑑定力も能輪のジジイに負けちゃいないようだよ」
首を傾げれば、「コッチの話さ」と鼻で笑われる。
「アンタら二人、アタシの組に入りな」
「へ?!」
「どちらにせよ高校生に払える額じゃないだろう、着けて貰うよ、落とし前」
「い、嫌ですよ!そんな、七百万ぽっちで!」
「じゃ、払えるのかい」
「や、それは…」
「払える」
「へ?!」
突然割り込んできた弥鱈君に驚いて、私は横顔を見つめる。彼はチラと私を見返して、「ちゃんと見ろ」と短く指令を出す。慌てて見直したお姉さんの目は挑戦的に細められている。不思議なことに、疑ってはいない。
「へぇ、払うってのかい」
「俺は払いませんよ~。さる変態議員から引っ張れるだけです~」
お姉さんが片眉を上げる。話せ、ということらしい。私は弥鱈君に目配せをし、彼はその意を汲んで話し出す。
「国会議員の猫登をご存知ですか~?あの男が俺たちのクラスメートと今ホテルにいましてね~。脅し付けてやろうと思っていたところだったんですよ~」
「へぇ、あそこにいたのは訳があったって事かい」
「そうなりますね~」
アンタら、いいね。気に入ったよ。お姉さんは笑う。
「じゃ、それで手を打とうじゃないか。アンタらがその変態議員から七百万円を引っ張れたらアタシ達はそれで手を打つ。だが、もし失敗したらアンタらはセットで鞍馬組の一員さ」
私は弥鱈君を見る。彼も私を見るので、見つめ合う形になる。
「嘘は、付いてないみたい」
「勝てない賭けじゃない」
「じゃ、あなたの問題が二つ一気に片付くね」
「そーだな」
私たちは頷き合う。私で分が悪くても、あなたで分が悪くても、私たちならやれるだろう。