過ぎ去るはエーデルワイス
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「さ、弥鱈君から見えたものも教えてよ」
半月型の口許を崩さず、伏龍は尋ねる。俺は頭を掻いた。あの気の毒な女をこれ以上暴く事が、よろしくないような気になっていた。
「あの女と近藤聖司は親子だ」
「うん」
「恐らく、アイツは昨日もここで猫議員と致していたんだろう。そこに父親が出くわした。父親は娘を殴り、娘も叩き返した。それを見た猫議員は、父親から未成年との交際がスキャンダル化することを怖れ、更に暴行を加えた。恐らく、俺に責任をなすりつけるのを思いついたのは近藤さんだな。俺はアイツの顔を知らなかったから気づかなかったが、アイツは昨日俺を見かけたんだろう。度々暴行事件を起こして停学になっていた俺を」
「なにそれ、ムカつく」
伏龍は唇を尖らし、ホテルで寛いでいるのであろう彼らの幻影を睨み上げる。
「心配してくれる人を、無下にして、もう」
むくれた声。この女のこういう'正しい'一面を見るたびに、コイツがそう育つ為に受け取ってきた潤沢な愛情を垣間見て感心する。でもな、アンタには想像がつかないだろうが、人には色々あるんだよ。考えはいつだってコイツに筒抜けで、俺は物言いたげな視線を受ける。
「近藤聖司の持ち物を覚えてるか?」
「財布と携帯?」
「どうだった」
「どっちも黒だった」
「なんも関係ねえよ、ばーか。他には?」
「ちょ、ええと、他?あ、古かった」
「おー。なんで古いと思う」
「え、ずっと使うから?」
「なんでずっと使うかねェ」
「え、もったいない?」
「なんでもったいないかねェ」
「え、うーん…物持ちがいいから」
察しが悪い。近藤さんがなぜ猫議員と付き合っているかと照らし合わせればすぐの筈だが、コイツはどうにも物から類推するのに弱い。表情や体の動きからなら百発百中なのに、勿体ねえ奴。「宿題な」と言い捨て、俺は歩き出す。伏龍は俺の半歩後ろを俯き、うんうん唸りながら着いてきた。
さて。
俺は考える。これからどうすべきか。事の経緯は恐らく自分の推理で正解だろう。ならば、手っ取り早いのはこちらも脅し返すこと。お宅女子高生とホテルに入りましたよね、犯罪ですよね、と、そんな感じに。ならば後はあそこで張り込んで、写真を一枚撮ればいいだけ。それと、可能ならば伏龍を家に帰したい。仕損じれば近藤聖司の二の舞になる危険がある以上、コイツにはこれ以上いて欲しくない。
果たして言って聞くだろうか、この強情女は。
伏龍の横顔を盗み見れば、彼女はまだ'宿題'について悩んでいた。声を掛けようとしたところで、違和感に気付く。辺りの人に漂う緊張感。その発信源である後方に注意を向ければ、そこにはあからさまなヤクザ風の男。白いスーツに刺繍された蛇を纏うその男は、身長は取り立てて高いとは言えない。しかし、鋭い眼光と鍛え抜かれた体から発せられる威圧感が、その派手なスーツを似合わせていた。
男の目が俺を捉えると、してやったりという顔で歯を見せて笑う。俺は伏龍を引き寄せた。ひょ、という間の抜けた悲鳴。
「おいガキ…選ばせてやる!静かに選択しろ…テメーの彼女を泡に沈めるか、テメーが鞍馬組のメンツを潰した責任を取って惨たらしく死ぬか…オススメは前者だ。誰も傷つかねえし、彼女も良い思いができる」
そう言いながら男は俺の目の前に立ち、鼻が触れ合わんほどの距離まで顔を近づける。「弥鱈君、その人誰?」と、不安気な伏龍の声。俺は天秤にかける。彼女の安全か、目の前のエラソーな男か。浮かんだのは燦然と輝く第三の道。喧嘩を受け、それを口実に伏龍を逃し、そのまま一人で猫議員と対峙する。
風船を飛ばす。反射的に仰け反った男の左足にローキックを入れる。普通ならコケる勢いで蹴った筈が、ほとんどバランスを崩さなかったのに驚きつつも、次はその勢いのまま回転蹴り。左腕で防がれ、そのまま腕を下ろす勢いで足を下げられる。このままでは遊ばれる。足を曲げ、離れる。
強いな。
「選んだのは後者か?馬鹿な奴だ」
余裕綽々ですよ、とでも言いたげに、男は喋り出す。俺はそれを無視して伏龍に「逃げろ」と小声で指示を出す。目が揺れるが、すぐに俺から距離を取った。今日はここでお別れだ。明日には退学を取り消しにしておくから、それで許してくれ。
後ろで伏龍が駆け出す気配。コイツの逃走を邪魔されては構わない。俺は再び男に襲いかかる。躱そうとしたところで、ポケットに入っていた小石を弾き、顔面めがけて放つ。猫議員の事務所前で伏龍に押し付けられたものだ。額にヒットし、一筋の血が流れ、男に動揺が走る。
「なっ…このままじゃ…されちまうじゃねーか…」
ボソボソと何事か呟く男に追撃。飛び上がり、蹴り一閃。顔面にヒットする。来たカウンターを蹴りで止めた。手首を抑えて距離を取る男。そこに駆け寄り、ヤクザキック。元々後退中だった男の体はそれでやっとバランスを崩した。長かったが、ここからは攻めこむだけ。
半月型の口許を崩さず、伏龍は尋ねる。俺は頭を掻いた。あの気の毒な女をこれ以上暴く事が、よろしくないような気になっていた。
「あの女と近藤聖司は親子だ」
「うん」
「恐らく、アイツは昨日もここで猫議員と致していたんだろう。そこに父親が出くわした。父親は娘を殴り、娘も叩き返した。それを見た猫議員は、父親から未成年との交際がスキャンダル化することを怖れ、更に暴行を加えた。恐らく、俺に責任をなすりつけるのを思いついたのは近藤さんだな。俺はアイツの顔を知らなかったから気づかなかったが、アイツは昨日俺を見かけたんだろう。度々暴行事件を起こして停学になっていた俺を」
「なにそれ、ムカつく」
伏龍は唇を尖らし、ホテルで寛いでいるのであろう彼らの幻影を睨み上げる。
「心配してくれる人を、無下にして、もう」
むくれた声。この女のこういう'正しい'一面を見るたびに、コイツがそう育つ為に受け取ってきた潤沢な愛情を垣間見て感心する。でもな、アンタには想像がつかないだろうが、人には色々あるんだよ。考えはいつだってコイツに筒抜けで、俺は物言いたげな視線を受ける。
「近藤聖司の持ち物を覚えてるか?」
「財布と携帯?」
「どうだった」
「どっちも黒だった」
「なんも関係ねえよ、ばーか。他には?」
「ちょ、ええと、他?あ、古かった」
「おー。なんで古いと思う」
「え、ずっと使うから?」
「なんでずっと使うかねェ」
「え、もったいない?」
「なんでもったいないかねェ」
「え、うーん…物持ちがいいから」
察しが悪い。近藤さんがなぜ猫議員と付き合っているかと照らし合わせればすぐの筈だが、コイツはどうにも物から類推するのに弱い。表情や体の動きからなら百発百中なのに、勿体ねえ奴。「宿題な」と言い捨て、俺は歩き出す。伏龍は俺の半歩後ろを俯き、うんうん唸りながら着いてきた。
さて。
俺は考える。これからどうすべきか。事の経緯は恐らく自分の推理で正解だろう。ならば、手っ取り早いのはこちらも脅し返すこと。お宅女子高生とホテルに入りましたよね、犯罪ですよね、と、そんな感じに。ならば後はあそこで張り込んで、写真を一枚撮ればいいだけ。それと、可能ならば伏龍を家に帰したい。仕損じれば近藤聖司の二の舞になる危険がある以上、コイツにはこれ以上いて欲しくない。
果たして言って聞くだろうか、この強情女は。
伏龍の横顔を盗み見れば、彼女はまだ'宿題'について悩んでいた。声を掛けようとしたところで、違和感に気付く。辺りの人に漂う緊張感。その発信源である後方に注意を向ければ、そこにはあからさまなヤクザ風の男。白いスーツに刺繍された蛇を纏うその男は、身長は取り立てて高いとは言えない。しかし、鋭い眼光と鍛え抜かれた体から発せられる威圧感が、その派手なスーツを似合わせていた。
男の目が俺を捉えると、してやったりという顔で歯を見せて笑う。俺は伏龍を引き寄せた。ひょ、という間の抜けた悲鳴。
「おいガキ…選ばせてやる!静かに選択しろ…テメーの彼女を泡に沈めるか、テメーが鞍馬組のメンツを潰した責任を取って惨たらしく死ぬか…オススメは前者だ。誰も傷つかねえし、彼女も良い思いができる」
そう言いながら男は俺の目の前に立ち、鼻が触れ合わんほどの距離まで顔を近づける。「弥鱈君、その人誰?」と、不安気な伏龍の声。俺は天秤にかける。彼女の安全か、目の前のエラソーな男か。浮かんだのは燦然と輝く第三の道。喧嘩を受け、それを口実に伏龍を逃し、そのまま一人で猫議員と対峙する。
風船を飛ばす。反射的に仰け反った男の左足にローキックを入れる。普通ならコケる勢いで蹴った筈が、ほとんどバランスを崩さなかったのに驚きつつも、次はその勢いのまま回転蹴り。左腕で防がれ、そのまま腕を下ろす勢いで足を下げられる。このままでは遊ばれる。足を曲げ、離れる。
強いな。
「選んだのは後者か?馬鹿な奴だ」
余裕綽々ですよ、とでも言いたげに、男は喋り出す。俺はそれを無視して伏龍に「逃げろ」と小声で指示を出す。目が揺れるが、すぐに俺から距離を取った。今日はここでお別れだ。明日には退学を取り消しにしておくから、それで許してくれ。
後ろで伏龍が駆け出す気配。コイツの逃走を邪魔されては構わない。俺は再び男に襲いかかる。躱そうとしたところで、ポケットに入っていた小石を弾き、顔面めがけて放つ。猫議員の事務所前で伏龍に押し付けられたものだ。額にヒットし、一筋の血が流れ、男に動揺が走る。
「なっ…このままじゃ…されちまうじゃねーか…」
ボソボソと何事か呟く男に追撃。飛び上がり、蹴り一閃。顔面にヒットする。来たカウンターを蹴りで止めた。手首を抑えて距離を取る男。そこに駆け寄り、ヤクザキック。元々後退中だった男の体はそれでやっとバランスを崩した。長かったが、ここからは攻めこむだけ。