過ぎ去るはエーデルワイス
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本来ならそろそろ学校も終わり、部活が始まろうという時間、俺と伏龍は猫議員の事務所前に来ていた。二階にある事務所を見上げ、俺たちは腕を組む。
「どうしよっか」
「お前が行くっつったじゃねーか」
「イヤなんか、何かわかりそうな気がしたんだよね」
「で?」
「ムカつくから石でも投げてみよっか」
道路に転がる小さな石を摘み、俺の手に乗せる。投げねえよ馬鹿。
「じゃあどうするの?」
「知らねえよ。アンタ勇んで出発してたじゃねえか」
「あれは、ノリだよ」
「死ね」
「死ねはダメだよ、死ねは」
「ならこの気持ちをどこにもっていけばいい」
「その石に」
「召されろ」
「天に?やだよ」
俺たちにこんな漫才染みたやりとりをする時間はない。
「そもそもよ」
「なあに?」
「まだコイツ確定じゃねえし」
「いやもう、こいつだね。本能が告げてる」
「馬鹿。ばーか」
俺は伏龍の額を小突いて、風船を飛ばす。即座に潰された。さあ、どうしたもんか。というか、どこに移動したもんか。そう悩む俺の横で、伏龍が鞄から手帳を取り出し、サラサラと近藤聖司と書いた。「何してんの」と聞けば、「あいつって確定すればいいんでしょ?」と笑う。彼女はシャーペンをしまうと、ピッと勢いよくそのページを引きちぎり、郵便受けに入れに行く。狙いを察した俺は「床に置け」と声を掛けた。彼女はコクリと頷き、出て来た猫議員が必ず見るところにそれを置いた。
俺たちは物陰に隠れて、猫議員が出てくるのを待つ。あんぱんと牛乳が要るね、とおどける伏龍の言葉から何故その2つが待ち伏せの風物詩になったのかを真剣に議論すること30分、漸く猫議員が姿を現した。薄くなり始めた頭髪をワックスでテカテカに固めた、背の低い、出っ歯のその容姿はなんとなく頼りなさを感じさせる。あんなのも議員なんだなと、ある意味感心した。
猫議員は狙い通り伏龍が落とした紙を見つけ、視線を落とす。キョロキョロと辺りを見回し、それを拾い上げ、通勤鞄に押し込んだ。「ほらね、弥鱈君」と伏龍が耳元で囁いた。俺は立ち上がり、「尾けるぞ」と囁きを返す。彼女は頷き、立ち上がる。
辿り着いたのは、昨日訪れたばかりの風俗街。ここなら良いだろう。俺たちはこそこそ隠れるのをやめ、堂々と猫議員の後ろを歩き出す。
「そういやさ、弥鱈君、なんで昨日はここに?」
ジト目で見てくる伏龍から逃げるように反対側を見るが、当然コイツはそれくらいで空気を読んでくれるはずもなく。
「ねー、私さぁ、わざわざ獲物探しに行くのやめてって言ったじゃん」
「記憶にございませんねぇ~」
「あるでしょ、絶対」
「ない」
「ある」
「ない」
「もう、その辺にいるエラソーな人で我慢しなってば」
「風俗街だとスゲエ絡まれるから」
「知ってるよもう!」
怒り出した伏龍だが、直後猫議員がホテルに入っていったのに呆気にとられる。口を半開きにしながら煌々と輝くネオンサインを見上げる。
「入るか?」
ふざけ半分で問いかけると、「イイデス」と俯かれる。
「でも、一人でも入れるんだね…」
「呼ぶんじゃね?」
「彼女?」
「いや…」
しまった藪蛇だった。
「…そんなとこじゃね?」
バレるとは知っていても、敢えて誤魔化しに出る。ジト目が心に刺さる。とにかく掘り下げるのはやめてくれ、絶対退学の話とは関係ないから。
必死で逸らす視線を、ちょこまかと追いかけてくる伏龍。気まずさ半分、遊び半分で視線を逸らし続けていると、不意に「あ…」というか細い声が聞こえた。俺は思わず声の主を探す。すぐに見つかった同じ高校の制服の女はこのホテルに用があるのか、逃げ出そうかこのまま近付こうか迷う様子だった。伏龍は俺の中心のずれた視線を器用に追い、俺が見ている相手を見つけた。
「あ、近藤さんだ」
「知り合い?」
「実は弥鱈君の斜め後ろに座ってるよ」
「へぇ~」
伏龍に気付かれたことで観念したのか、'近藤さん'は近付いてくる。叩かれたのか、右頬が青くなっていた。近藤聖司と同じ苗字だ、と思った瞬間、目の形、輪郭、肩のラインと、二人の身体的特徴に共通点が多いのに気付く。親子か、そうでなくとも近しい親戚なのだろう。面白いじゃないか。
「二人とも、デート?」
「そんなとこ」
「ええと、とってもお似合いだと思うよ」
「どーも」
俺は伏龍が答える前に答え、応対の優先権を握る。
「退学が決まったから、付き合わせた」
「そうなんだ」
伏龍の腰を抱きよせながら、モールスで「退学知ってた?」と聞く。答えはYES。更にモールスで「近藤聖司を話題に出せ」と指令を出す。それを受けて伏龍は「この人ね、近藤聖司って人殴ったらしくってさ、参っちゃうよね」と苦笑いした。すかさず「知り合い。弥鱈君に罪悪感」とモールスが返ってくる。素晴らしい。
「どうしよっか」
「お前が行くっつったじゃねーか」
「イヤなんか、何かわかりそうな気がしたんだよね」
「で?」
「ムカつくから石でも投げてみよっか」
道路に転がる小さな石を摘み、俺の手に乗せる。投げねえよ馬鹿。
「じゃあどうするの?」
「知らねえよ。アンタ勇んで出発してたじゃねえか」
「あれは、ノリだよ」
「死ね」
「死ねはダメだよ、死ねは」
「ならこの気持ちをどこにもっていけばいい」
「その石に」
「召されろ」
「天に?やだよ」
俺たちにこんな漫才染みたやりとりをする時間はない。
「そもそもよ」
「なあに?」
「まだコイツ確定じゃねえし」
「いやもう、こいつだね。本能が告げてる」
「馬鹿。ばーか」
俺は伏龍の額を小突いて、風船を飛ばす。即座に潰された。さあ、どうしたもんか。というか、どこに移動したもんか。そう悩む俺の横で、伏龍が鞄から手帳を取り出し、サラサラと近藤聖司と書いた。「何してんの」と聞けば、「あいつって確定すればいいんでしょ?」と笑う。彼女はシャーペンをしまうと、ピッと勢いよくそのページを引きちぎり、郵便受けに入れに行く。狙いを察した俺は「床に置け」と声を掛けた。彼女はコクリと頷き、出て来た猫議員が必ず見るところにそれを置いた。
俺たちは物陰に隠れて、猫議員が出てくるのを待つ。あんぱんと牛乳が要るね、とおどける伏龍の言葉から何故その2つが待ち伏せの風物詩になったのかを真剣に議論すること30分、漸く猫議員が姿を現した。薄くなり始めた頭髪をワックスでテカテカに固めた、背の低い、出っ歯のその容姿はなんとなく頼りなさを感じさせる。あんなのも議員なんだなと、ある意味感心した。
猫議員は狙い通り伏龍が落とした紙を見つけ、視線を落とす。キョロキョロと辺りを見回し、それを拾い上げ、通勤鞄に押し込んだ。「ほらね、弥鱈君」と伏龍が耳元で囁いた。俺は立ち上がり、「尾けるぞ」と囁きを返す。彼女は頷き、立ち上がる。
辿り着いたのは、昨日訪れたばかりの風俗街。ここなら良いだろう。俺たちはこそこそ隠れるのをやめ、堂々と猫議員の後ろを歩き出す。
「そういやさ、弥鱈君、なんで昨日はここに?」
ジト目で見てくる伏龍から逃げるように反対側を見るが、当然コイツはそれくらいで空気を読んでくれるはずもなく。
「ねー、私さぁ、わざわざ獲物探しに行くのやめてって言ったじゃん」
「記憶にございませんねぇ~」
「あるでしょ、絶対」
「ない」
「ある」
「ない」
「もう、その辺にいるエラソーな人で我慢しなってば」
「風俗街だとスゲエ絡まれるから」
「知ってるよもう!」
怒り出した伏龍だが、直後猫議員がホテルに入っていったのに呆気にとられる。口を半開きにしながら煌々と輝くネオンサインを見上げる。
「入るか?」
ふざけ半分で問いかけると、「イイデス」と俯かれる。
「でも、一人でも入れるんだね…」
「呼ぶんじゃね?」
「彼女?」
「いや…」
しまった藪蛇だった。
「…そんなとこじゃね?」
バレるとは知っていても、敢えて誤魔化しに出る。ジト目が心に刺さる。とにかく掘り下げるのはやめてくれ、絶対退学の話とは関係ないから。
必死で逸らす視線を、ちょこまかと追いかけてくる伏龍。気まずさ半分、遊び半分で視線を逸らし続けていると、不意に「あ…」というか細い声が聞こえた。俺は思わず声の主を探す。すぐに見つかった同じ高校の制服の女はこのホテルに用があるのか、逃げ出そうかこのまま近付こうか迷う様子だった。伏龍は俺の中心のずれた視線を器用に追い、俺が見ている相手を見つけた。
「あ、近藤さんだ」
「知り合い?」
「実は弥鱈君の斜め後ろに座ってるよ」
「へぇ~」
伏龍に気付かれたことで観念したのか、'近藤さん'は近付いてくる。叩かれたのか、右頬が青くなっていた。近藤聖司と同じ苗字だ、と思った瞬間、目の形、輪郭、肩のラインと、二人の身体的特徴に共通点が多いのに気付く。親子か、そうでなくとも近しい親戚なのだろう。面白いじゃないか。
「二人とも、デート?」
「そんなとこ」
「ええと、とってもお似合いだと思うよ」
「どーも」
俺は伏龍が答える前に答え、応対の優先権を握る。
「退学が決まったから、付き合わせた」
「そうなんだ」
伏龍の腰を抱きよせながら、モールスで「退学知ってた?」と聞く。答えはYES。更にモールスで「近藤聖司を話題に出せ」と指令を出す。それを受けて伏龍は「この人ね、近藤聖司って人殴ったらしくってさ、参っちゃうよね」と苦笑いした。すかさず「知り合い。弥鱈君に罪悪感」とモールスが返ってくる。素晴らしい。