過ぎ去るはエーデルワイス
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「俺が殴ったとされているのが、近藤聖司、でしたかねぇ~」
「あ、ああ…そうだ。それがどうかしたかね?」
「謝罪に行かなくてはいけませんねぇ~。その男は今どこに?」
「え、ああ…」
気の無い返事を返す校長は、迷っているというより、困っている風に見えた。直後取り出された手帳。覚えていない、ということだったらしく、ページをめくる。
通報者のことは言えない。被害者のことは言える。
被害者から通報者に繋がることはない、ということだろう。
考えられるのは、例えば俺が通り魔的に暴行に及んだ相手の名前も顔も思い出せないのと同じで、今回の被害者である近藤聖司も加害者と面識がないということ。もしくはその近藤聖司も俺たち同様脅されていて、俺等がどんなに追求しても口を割らないということか。どんな理由かはわからないが、一つ言えるのは、長引きそうでめんどくさい。ため息を堪える。
「今は総合病院に入院中だよ」
「そもそも本当に謝罪に出向くのかね、君」とぼやく校長に「コイツがうるさいんで、巻き込んだことは謝罪しますよ~」と隣を指差す。実際に巻き込まれたのは俺たちだし、伏龍は道理に合わないことで謝るなんぞ死んでもしないが、今はキーキー怒って何も聞いていないようなので使わせて貰う。
「あ」
俺は出された茶を飲もうと持ち上げ、取り落す。熱々の中身を撒き散らしつつ湯呑みは落下し、直後陶器の破片を撒き散らした。フギャー!という伏龍の悲鳴。猫みたいだったなと言うと、まずはごめんなさいでしょ弥鱈君!と怒ってくる。こんなにキーキー怒ってる姿を見てもまだ謝りそうに見えるなんて、人畜無害に見えるってマジ便利。なあ校長、見る目を養おうぜ。
とにかく、中身と破片のダブルパンチに警戒して立ち上がった三人に謝罪をしつつ、俺も立ち上がる。そして「もう片付けはこちらでしておくから、君は自宅でおとなしくしていなさい!退学の正式な連絡は明日親御さんを呼んでするからな!」と怒り出した校長に再度頭を下げた。
「分かりました。失礼します」
伏龍の二の腕を掴み軽く引けば、「まだ話し足りない!」と抗議の声が聞こえた。無視無視。視界の端ではようやく引き取り手が見つかったと、萩原先生が胸をなで下ろす。伏龍が世話をかけたようで、どうも。
校長室を出ると、萩原先生が追ってくる。それに気付いた伏龍が立ち止まるので、俺もそれに合わせる。
「お前達、これからどうするつもりなんだ」
「デートです」
俺がそう答えると、伏龍がわざとらしく科をつくり、きゃあ、と笑う。ふざけ切った俺たちの様子に、萩原先生は憮然とした表情を作った。
「抗議に来たと思ったら、お前達、何なんだ」
「やだ先生、分かりません?」
ねえ?と、伏龍は相変わらず下手くそな科をつくりながら俺に振る。萩原先生が訝しげに眉を顰め、俺を見た。
「勝ち戦、ですので」
「はぁ?!」
「俺たち、得意なので。エラソーな奴叩くの」
「先生を脅すような奴、明日の朝日を拝ませませんよう!任せてください!」
「辞めとけお前達、相手は議員だぞ」
しまった!とでも言いたげに、先生は口を押さえた。それを見た伏龍はふふ、と笑って、「先生ありがと」と言った。わざとなのか、これ。
「とにかく、お前達、よく考えて立ち回れよ。八方塞がりになってからじゃ遅いんだ。諦める時は諦めろ。高校はここだけじゃない」
萩原先生は両手を俺たちの肩に片方ずつ乗せ、そう言った。先生の真剣な眼差しを、俺の代わりに伏龍が受け止めて微笑む。
「大丈夫ですよう、先生。私達、上手くやります」
「ひっくり返ったら後悔しますので~、俺の書類は明日まで処分しないで下さい~」
「お、おお…。頼むぞお前達、本当に無茶はやめろよ」
いまいち背中を押す気分になり切れないらしい先生に伏龍が手を振り、俺は会釈する。先生はそれ以上何も言わなかった。
「あ、ああ…そうだ。それがどうかしたかね?」
「謝罪に行かなくてはいけませんねぇ~。その男は今どこに?」
「え、ああ…」
気の無い返事を返す校長は、迷っているというより、困っている風に見えた。直後取り出された手帳。覚えていない、ということだったらしく、ページをめくる。
通報者のことは言えない。被害者のことは言える。
被害者から通報者に繋がることはない、ということだろう。
考えられるのは、例えば俺が通り魔的に暴行に及んだ相手の名前も顔も思い出せないのと同じで、今回の被害者である近藤聖司も加害者と面識がないということ。もしくはその近藤聖司も俺たち同様脅されていて、俺等がどんなに追求しても口を割らないということか。どんな理由かはわからないが、一つ言えるのは、長引きそうでめんどくさい。ため息を堪える。
「今は総合病院に入院中だよ」
「そもそも本当に謝罪に出向くのかね、君」とぼやく校長に「コイツがうるさいんで、巻き込んだことは謝罪しますよ~」と隣を指差す。実際に巻き込まれたのは俺たちだし、伏龍は道理に合わないことで謝るなんぞ死んでもしないが、今はキーキー怒って何も聞いていないようなので使わせて貰う。
「あ」
俺は出された茶を飲もうと持ち上げ、取り落す。熱々の中身を撒き散らしつつ湯呑みは落下し、直後陶器の破片を撒き散らした。フギャー!という伏龍の悲鳴。猫みたいだったなと言うと、まずはごめんなさいでしょ弥鱈君!と怒ってくる。こんなにキーキー怒ってる姿を見てもまだ謝りそうに見えるなんて、人畜無害に見えるってマジ便利。なあ校長、見る目を養おうぜ。
とにかく、中身と破片のダブルパンチに警戒して立ち上がった三人に謝罪をしつつ、俺も立ち上がる。そして「もう片付けはこちらでしておくから、君は自宅でおとなしくしていなさい!退学の正式な連絡は明日親御さんを呼んでするからな!」と怒り出した校長に再度頭を下げた。
「分かりました。失礼します」
伏龍の二の腕を掴み軽く引けば、「まだ話し足りない!」と抗議の声が聞こえた。無視無視。視界の端ではようやく引き取り手が見つかったと、萩原先生が胸をなで下ろす。伏龍が世話をかけたようで、どうも。
校長室を出ると、萩原先生が追ってくる。それに気付いた伏龍が立ち止まるので、俺もそれに合わせる。
「お前達、これからどうするつもりなんだ」
「デートです」
俺がそう答えると、伏龍がわざとらしく科をつくり、きゃあ、と笑う。ふざけ切った俺たちの様子に、萩原先生は憮然とした表情を作った。
「抗議に来たと思ったら、お前達、何なんだ」
「やだ先生、分かりません?」
ねえ?と、伏龍は相変わらず下手くそな科をつくりながら俺に振る。萩原先生が訝しげに眉を顰め、俺を見た。
「勝ち戦、ですので」
「はぁ?!」
「俺たち、得意なので。エラソーな奴叩くの」
「先生を脅すような奴、明日の朝日を拝ませませんよう!任せてください!」
「辞めとけお前達、相手は議員だぞ」
しまった!とでも言いたげに、先生は口を押さえた。それを見た伏龍はふふ、と笑って、「先生ありがと」と言った。わざとなのか、これ。
「とにかく、お前達、よく考えて立ち回れよ。八方塞がりになってからじゃ遅いんだ。諦める時は諦めろ。高校はここだけじゃない」
萩原先生は両手を俺たちの肩に片方ずつ乗せ、そう言った。先生の真剣な眼差しを、俺の代わりに伏龍が受け止めて微笑む。
「大丈夫ですよう、先生。私達、上手くやります」
「ひっくり返ったら後悔しますので~、俺の書類は明日まで処分しないで下さい~」
「お、おお…。頼むぞお前達、本当に無茶はやめろよ」
いまいち背中を押す気分になり切れないらしい先生に伏龍が手を振り、俺は会釈する。先生はそれ以上何も言わなかった。