過ぎ去るはエーデルワイス
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職員室の前で、伏龍は深呼吸。俺はその横顔に向けて、「そういえばだけど、大事にするならお前にも累が及ぶかもってよ」と伝えておく。彼女は真っ青になった。
「よし帰ろうか」
「さっきの青春ドラマは何だったんだ」
「いや、まさかそんなことになってるとはね」
「それ以外で俺が黙ってる訳ねーだろ」
「そういえばこの人私の事大好きだったわ」
「ばーか」
「ひどい」
「ばーか」
「弥鱈君のがばーか」
「あ?」
「ばーか」
腹立ち混じりに頬を抓れば、彼女は「ひゃー」と間の抜けた悲鳴をあげる。面白かったので更に引っ張ってみる。「やめへー」と、さらに間の抜けた声が聞けた。一頻り満足したので、手を離す。
「ひどい」
「そーでもない」
風船を作って飛ばせば、いつも通りに潰される。視線をやった横顔は、緊張を湛えつつもまっすぐ俺を向いていた。
「ありがとね」
「は?」
「守ろうとしてくれて」
そう言って、伏龍はフイと目を逸らす。そして、「守ってね、私の事」と呟く。答える価値も無い。俺はそれを黙って流した。
彼女は職員室のドアを叩き、返事も待たずに入室する。ここから三年生の担任団の場所は遠い。自ずと伏龍が萩原先生を呼ぶ声は大きくなり、職員室の注目が集まった。その中をゆっくりと歩いてくる萩原先生を見つめながら、彼女は「罪悪感があるみたいだよ、先生」と密やかに耳打ちした。「誰に?」と聞くと、首を傾げられる。「頑張って探るよ」と、前向きなお答えを頂いたところで、「どうした、お前達」と萩原先生が声を掛けてきた。
「萩原先生、私どうしても納得できないんです。どうして弥鱈君は退学なんですか?」
単刀直入な質問を受け、先生が俺を見た。止めなかったのか、と、咎めるような視線。
「弥鱈君は納得して、身を引いてくれようとしました。先生、だから私が聞いてるんです。なんでですか?」
「移動しよう、伏龍。カウンセリングルームで良いか?」
「はい」
「いえ~、俺の事は気にせずに~、ここで話しましょう」
校長がこちらを見ている。ここで話した方が面白そうだ、と感じた。
「いや、弥鱈。他の生徒もいるぞ?」
「どうせ知れる事でしょう~。カウンセリングルームは悩んでいる方に譲ります~」
「なあ、伏龍、カウンセリングルームに行くよな?」
「えっと、弥鱈君が良いならここで…あ、先生はどっちがいいですか?」
そう問いかける伏龍は、後ろ手でそっと俺の手を握る。
引け目、秘密。
握る手の強弱で、そう伝えてくる。授業中に散々やったモールスだ。俺は不安のあまり手を握ってきた彼女を庇うかのように装い、伏龍を後ろに隠す。
「ここでいいでしょう、萩原先生」
「いや、でもなぁ」
「まあ、お時間は取らせませんので」
躊躇う先生に、伏龍が三回目になる質問をぶつける。彼は諦めたのか眉間を一揉みし、「弥鱈から聞かなかったか、伏龍。ソイツは暴行事件を起こしたんだ。当然だろう?」とヤケっぽい声で答えた。「でも、弥鱈君はしてないって言ってます。どうやって先生は暴行事件の事、知ったんですか?」と反論する伏龍は、裏で俺に'嘘じゃない'とモールスを送ってくる。なるほどな、と思う。誰かが嘘をついているのは明白だが、萩原先生ではないらしい。
「学校に通報があったんだ。御宅の生徒が男性を殴っていると」
「いつ、どこでですか?」
「7時ごろ、あそこの風俗街だ」
実際の風俗街の場所とは見当違いの方向を指差す萩原先生と、風俗街というワードを聞いてジト目でこっちを見てくる伏龍。俺は両方を視界から外した。それをどう勘違いしたか、先生は「昨日弥鱈は伏龍と別れてからそこへ行ったらしいな?」と確認を取ってくる。余計な事を。伏龍が背中を殴ろうとする手を抑えながら心の中で悪態づいた。
「先程も言いましたが~、俺は風俗街に行きこそしましたが、昨日は誰ともトラブルになっていません」
「とは言えなぁ、弥鱈。お前には前科があるし、実際目撃者もいるんだ」
「目撃者?」
「電話を下さった方だ」
'怯え'。そうモールスが送られた。当たり前だが、どうやら通報者は善意の人ではないらしい。
「その人が弥鱈君のこと、退学にしろって言ったんですか?」
いやいや、そんな事あるはずないだろう、ただの通報者なんだから。そう先生が否定するのとは裏腹に、伏龍がモールスしてきたのは、'ビンゴ'という三文字。まあ、わざわざモールスを送られなくとも、慌ててこちらに来る校長を見れば分かったが。
「萩原君、こんなところでデリケートな話をしちゃいかんよ。校長室に案内しなさい」
俺は心の中でガッツポーズを決める。面白いことになってきた。
「よし帰ろうか」
「さっきの青春ドラマは何だったんだ」
「いや、まさかそんなことになってるとはね」
「それ以外で俺が黙ってる訳ねーだろ」
「そういえばこの人私の事大好きだったわ」
「ばーか」
「ひどい」
「ばーか」
「弥鱈君のがばーか」
「あ?」
「ばーか」
腹立ち混じりに頬を抓れば、彼女は「ひゃー」と間の抜けた悲鳴をあげる。面白かったので更に引っ張ってみる。「やめへー」と、さらに間の抜けた声が聞けた。一頻り満足したので、手を離す。
「ひどい」
「そーでもない」
風船を作って飛ばせば、いつも通りに潰される。視線をやった横顔は、緊張を湛えつつもまっすぐ俺を向いていた。
「ありがとね」
「は?」
「守ろうとしてくれて」
そう言って、伏龍はフイと目を逸らす。そして、「守ってね、私の事」と呟く。答える価値も無い。俺はそれを黙って流した。
彼女は職員室のドアを叩き、返事も待たずに入室する。ここから三年生の担任団の場所は遠い。自ずと伏龍が萩原先生を呼ぶ声は大きくなり、職員室の注目が集まった。その中をゆっくりと歩いてくる萩原先生を見つめながら、彼女は「罪悪感があるみたいだよ、先生」と密やかに耳打ちした。「誰に?」と聞くと、首を傾げられる。「頑張って探るよ」と、前向きなお答えを頂いたところで、「どうした、お前達」と萩原先生が声を掛けてきた。
「萩原先生、私どうしても納得できないんです。どうして弥鱈君は退学なんですか?」
単刀直入な質問を受け、先生が俺を見た。止めなかったのか、と、咎めるような視線。
「弥鱈君は納得して、身を引いてくれようとしました。先生、だから私が聞いてるんです。なんでですか?」
「移動しよう、伏龍。カウンセリングルームで良いか?」
「はい」
「いえ~、俺の事は気にせずに~、ここで話しましょう」
校長がこちらを見ている。ここで話した方が面白そうだ、と感じた。
「いや、弥鱈。他の生徒もいるぞ?」
「どうせ知れる事でしょう~。カウンセリングルームは悩んでいる方に譲ります~」
「なあ、伏龍、カウンセリングルームに行くよな?」
「えっと、弥鱈君が良いならここで…あ、先生はどっちがいいですか?」
そう問いかける伏龍は、後ろ手でそっと俺の手を握る。
引け目、秘密。
握る手の強弱で、そう伝えてくる。授業中に散々やったモールスだ。俺は不安のあまり手を握ってきた彼女を庇うかのように装い、伏龍を後ろに隠す。
「ここでいいでしょう、萩原先生」
「いや、でもなぁ」
「まあ、お時間は取らせませんので」
躊躇う先生に、伏龍が三回目になる質問をぶつける。彼は諦めたのか眉間を一揉みし、「弥鱈から聞かなかったか、伏龍。ソイツは暴行事件を起こしたんだ。当然だろう?」とヤケっぽい声で答えた。「でも、弥鱈君はしてないって言ってます。どうやって先生は暴行事件の事、知ったんですか?」と反論する伏龍は、裏で俺に'嘘じゃない'とモールスを送ってくる。なるほどな、と思う。誰かが嘘をついているのは明白だが、萩原先生ではないらしい。
「学校に通報があったんだ。御宅の生徒が男性を殴っていると」
「いつ、どこでですか?」
「7時ごろ、あそこの風俗街だ」
実際の風俗街の場所とは見当違いの方向を指差す萩原先生と、風俗街というワードを聞いてジト目でこっちを見てくる伏龍。俺は両方を視界から外した。それをどう勘違いしたか、先生は「昨日弥鱈は伏龍と別れてからそこへ行ったらしいな?」と確認を取ってくる。余計な事を。伏龍が背中を殴ろうとする手を抑えながら心の中で悪態づいた。
「先程も言いましたが~、俺は風俗街に行きこそしましたが、昨日は誰ともトラブルになっていません」
「とは言えなぁ、弥鱈。お前には前科があるし、実際目撃者もいるんだ」
「目撃者?」
「電話を下さった方だ」
'怯え'。そうモールスが送られた。当たり前だが、どうやら通報者は善意の人ではないらしい。
「その人が弥鱈君のこと、退学にしろって言ったんですか?」
いやいや、そんな事あるはずないだろう、ただの通報者なんだから。そう先生が否定するのとは裏腹に、伏龍がモールスしてきたのは、'ビンゴ'という三文字。まあ、わざわざモールスを送られなくとも、慌ててこちらに来る校長を見れば分かったが。
「萩原君、こんなところでデリケートな話をしちゃいかんよ。校長室に案内しなさい」
俺は心の中でガッツポーズを決める。面白いことになってきた。