過ぎ去るはエーデルワイス
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「滝さん。ここら辺、ファイリングしちゃっていいですか」
「すまんな、よろしく頼む」
伏龍は昨日のことが嘘だったかのように、にこやかに働く。表情のことは俺にはよく読み取れんが、化粧でうまく隠してもまだ頬がうすら青くなってしまっているのを見ると、昨日のことは結局何も終わっていないのだという焦燥にかられる。小娘達のドタバタに介入する気は無かったはずが、自分から巻き込まれに行ってしまっている節がある。毎日見ているうちにこいつのお節介が移ったのだろうか。参ったな、と、俺は頭を掻く。
「心配ご無用ですよ、滝さん」
気を遣って伏龍が声を掛けてくる。相変わらず、人の心に聡い。
ーーーーーーーーーー
「私達、晴乃さんと弥鱈立会人を捕獲しようと思うんです」
と、亜面からアホ極まりない相談を持ちかけられたのは、伏龍がランチに出た後の昼休みの事。どこからツッコミを入れるか本当に迷ったが、とりあえず、何故かを聞くことにした。
「あの二人に仲直りして欲しいと、皆一致しましたので」
「お、おう。で、皆って誰だ」
「昨日の面子です。私と、泉江外務卿と、門倉立会人と、銅寺立会人と、目蒲立会人です」
「そうか。それだけの人数で話し合った結論が捕獲なんだな?」
「はい」
「よし、全員分のハンカチ耳揃えて持ってこい」
「何に使われるのですか?」
「お前らの馬鹿が治るまで預かる」
亜面は衝撃の表情で俺を見る。寧ろ、なんでその顔ができるんだよ。
「一応、言い訳は聞いてやろう」
「は、はい。実は、お恥ずかしながら我々誰もまともに喧嘩の仲裁をした事がなくて…」
「おお…」
「あ、しかし、門倉立会人はありました。でも、余り今回のケースにはそぐわず」
「因みに?」
「喝を入れるそうです」
「ああ」
元ヤンのあいつらしいが、確かに今回のケースにはそぐわない。叱って効くタイプではないだろう。
「で、捕まえることになったのか。捕まえてどうする気だ」
「一つの部屋に入れたら、晴乃さんがなんとかするんじゃないかな、と」
「権田ぁー!すぐ陳情書作れー!アホに立会人やらすなって書けー!」
亜面が慌てて止めてくる。どのツラ下げて止めてんだこいつは。
「お前らなんで肝心なところを人任せなんだ!しかもお前、伏龍って!あいつが弥鱈に勝てそうか?!」
「大丈夫です。我々の誰も勝ったことがありません」
「物理の話だ馬鹿野郎!あの痛々しい頬を見ろ!」
「はっ、確かに…ギャンブルも特に強くはありませんでした…」
「それはどうでもいいんだよ…喧嘩の決着をギャンブルで着ける奴なんか早々いねえよ」
「え」
「おうおう。感覚が麻痺してやがる」
最近の立会人達は、事務室に一歩踏み入れた瞬間にIQが百近く下がるから困る。
「せめて…捕獲計画はちゃんと練ってきたんだろうな?」
「あ、はい。それをお願いしようかと思っていたんです」
そういって亜面がごそごそと取り出したのは…
「トリモチか、まさか」
「はい。皆で技術部に行って選びました。銅寺立会人は投擲がいいと仰ってましたが、やはり最後は絵面優先で」
「絵面で選んだのか!もう嫌だ!権田代わってくれ!」
「呼びましょうか、伏龍さん」
「そうしろ!こいつらの世話は全部あいつだ!」
「それでは計画が…」
「計画と呼べるような代物じゃねえだろ!練り直しだ練り直し!」
「え」
「え、じゃねえ!出直してこい!」
亜面を追い出し、俺はついため息。
「最近、立会人の質が落ちたのか?」
「'やり方が分からないから'だそうですよ」
「何故に伝聞形なんだ?」
「こういうことを言うのは一人だけでしょう」
権田は無人のデスクをチラと見やり、言葉を続ける。
「一人でできるから誰とも寄り添わない。だから寄り添って立つやり方が分からない。そして、それがいつか彼らの足元を掬う」
掬われてるんじゃないですかね、今。そう権田が言うのに、俺はため息まじりに同意した。
近い将来、それを身を以て痛感する出来事が訪れるのを、俺たちはまだ知らない。
「すまんな、よろしく頼む」
伏龍は昨日のことが嘘だったかのように、にこやかに働く。表情のことは俺にはよく読み取れんが、化粧でうまく隠してもまだ頬がうすら青くなってしまっているのを見ると、昨日のことは結局何も終わっていないのだという焦燥にかられる。小娘達のドタバタに介入する気は無かったはずが、自分から巻き込まれに行ってしまっている節がある。毎日見ているうちにこいつのお節介が移ったのだろうか。参ったな、と、俺は頭を掻く。
「心配ご無用ですよ、滝さん」
気を遣って伏龍が声を掛けてくる。相変わらず、人の心に聡い。
ーーーーーーーーーー
「私達、晴乃さんと弥鱈立会人を捕獲しようと思うんです」
と、亜面からアホ極まりない相談を持ちかけられたのは、伏龍がランチに出た後の昼休みの事。どこからツッコミを入れるか本当に迷ったが、とりあえず、何故かを聞くことにした。
「あの二人に仲直りして欲しいと、皆一致しましたので」
「お、おう。で、皆って誰だ」
「昨日の面子です。私と、泉江外務卿と、門倉立会人と、銅寺立会人と、目蒲立会人です」
「そうか。それだけの人数で話し合った結論が捕獲なんだな?」
「はい」
「よし、全員分のハンカチ耳揃えて持ってこい」
「何に使われるのですか?」
「お前らの馬鹿が治るまで預かる」
亜面は衝撃の表情で俺を見る。寧ろ、なんでその顔ができるんだよ。
「一応、言い訳は聞いてやろう」
「は、はい。実は、お恥ずかしながら我々誰もまともに喧嘩の仲裁をした事がなくて…」
「おお…」
「あ、しかし、門倉立会人はありました。でも、余り今回のケースにはそぐわず」
「因みに?」
「喝を入れるそうです」
「ああ」
元ヤンのあいつらしいが、確かに今回のケースにはそぐわない。叱って効くタイプではないだろう。
「で、捕まえることになったのか。捕まえてどうする気だ」
「一つの部屋に入れたら、晴乃さんがなんとかするんじゃないかな、と」
「権田ぁー!すぐ陳情書作れー!アホに立会人やらすなって書けー!」
亜面が慌てて止めてくる。どのツラ下げて止めてんだこいつは。
「お前らなんで肝心なところを人任せなんだ!しかもお前、伏龍って!あいつが弥鱈に勝てそうか?!」
「大丈夫です。我々の誰も勝ったことがありません」
「物理の話だ馬鹿野郎!あの痛々しい頬を見ろ!」
「はっ、確かに…ギャンブルも特に強くはありませんでした…」
「それはどうでもいいんだよ…喧嘩の決着をギャンブルで着ける奴なんか早々いねえよ」
「え」
「おうおう。感覚が麻痺してやがる」
最近の立会人達は、事務室に一歩踏み入れた瞬間にIQが百近く下がるから困る。
「せめて…捕獲計画はちゃんと練ってきたんだろうな?」
「あ、はい。それをお願いしようかと思っていたんです」
そういって亜面がごそごそと取り出したのは…
「トリモチか、まさか」
「はい。皆で技術部に行って選びました。銅寺立会人は投擲がいいと仰ってましたが、やはり最後は絵面優先で」
「絵面で選んだのか!もう嫌だ!権田代わってくれ!」
「呼びましょうか、伏龍さん」
「そうしろ!こいつらの世話は全部あいつだ!」
「それでは計画が…」
「計画と呼べるような代物じゃねえだろ!練り直しだ練り直し!」
「え」
「え、じゃねえ!出直してこい!」
亜面を追い出し、俺はついため息。
「最近、立会人の質が落ちたのか?」
「'やり方が分からないから'だそうですよ」
「何故に伝聞形なんだ?」
「こういうことを言うのは一人だけでしょう」
権田は無人のデスクをチラと見やり、言葉を続ける。
「一人でできるから誰とも寄り添わない。だから寄り添って立つやり方が分からない。そして、それがいつか彼らの足元を掬う」
掬われてるんじゃないですかね、今。そう権田が言うのに、俺はため息まじりに同意した。
近い将来、それを身を以て痛感する出来事が訪れるのを、俺たちはまだ知らない。