過ぎ去るはエーデルワイス
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「なぜそこまで目蒲さんに尽くすのか、ですか。言った通り、あのままじゃ可哀想だからですよ」
亜面さんは複雑そうな顔。私は彼女の気持ちが定まるまでと、つらつら思いを述べる。
「ここの人達は本当に誰かに頼るのが下手くそで、その中でも目蒲さんはとびきり下手くそです。多分、あの人は自分じゃ二進も三進もいかなかったから、本能的に私を誘拐したんだと思いますよ」
「本能的に、ですか?」
「道を聞かれやすいとか、動物に懐かれやすいとかの亜種ですねー。心に爆弾抱えた人に懐かれやすいタイプなんです私」
「と、とんでもないタイプですね」
本当は引き寄せるだけじゃなく、自分から近寄って行っているのもあるんだけれど、悪癖のことは秘密である。
「そう。困っちゃう」
「でもそれ、近付かなければいいんじゃないですか?」
「ふふ。本当ですよねえ」
「これからは、そうした方がいいですよ。絶対」
亜面さんは私を説得する糸口を見つけたようで、目尻をきゅっと上げる。さあ、ここからは決闘だ。許す私、許さない亜面さん。どちらが正義なのか。
「だって、晴乃さんも利用されてるって思っていらっしゃるんですよね?」
「利用とまではいきませんけど、そうですね」
「なら、利用されないように振舞うべきです。おかしい事には毅然とおかしいと伝えるべきです」
「亜面さんは、それを私にされて、平気でいられますか?」
亜面さんは鼻白む。私は追撃を試みる。
「説きましょうか?倫理を。本来そういう仕事をしてましたので、得意ですよ、説教」
「何故、私が説教される話になるんです」
「あなたが耐えられない事は、あの人だって耐えられない。耐えられない事を敢えてしたくないんです、私。今日の夕湖を見てどう思いました?あの子は私に突き放されたらどうなりそうですか?」
「外務卿や私と、目蒲立会人とでは事情が違います!」
亜面さん机を叩く。ガシャンという大きな音と、跳ね上がるカップ。私はそれに動じていないかのように振舞う。
「どう、違うんです?」
「目蒲立会人は晴乃さんの事を人として扱っていない!己の欲を満たす為にあなたを利用している!」
「ダメですか?」
「駄目ですよ!人を人とも思わず利用して、悔い改めもせず、まだ利用しようとする奴らに許される権利なんてない!」
「そうか、亜面さんは目蒲さんが悔い改めてないって思うんですね」
「悔い改めるわけがない、あんな奴ら!」
「あんな奴ら?」
亜面さんはしまったという顔。紅茶に手を伸ばすより先に、追撃をかます。
「私を監禁したのは、目蒲さんだけですが、もしかして黒幕が?」
すっとぼけてみれば、亜面さんは顔をしかめる。本当は知っていたけど、こういうのは本人の口から言わせることが重要だ。
「いえ…目蒲立会人は単独だと思いますが…」
「が?」
「ちょっと、別件で」
「別件。亜面さんの事ですか?」
亜面さんは左下に顔を伏せ、キュッと目を瞑る。これは観念したな。私は彼女を待つ。
「…私も、誘拐されたことがあります」
「え」
「8歳の頃です。近所の男でした。騙されて、その男の部屋で」
「…辛かったですね」
続きを話そうとする彼女の息が不自然に上がっていることに気付き、私はそれ以上の説明を求めるのをやめる。その代わり、私は私のことを話す。
「自分に危害を加えてくる、自分より力の強い人。二人きりになるのはとても怖かったと思います。何が機嫌を損ねるか、何がきっかけで殴られるか、分かりませんでした。自分の行いなら気をつけられるけど、八つ当たりの分はコントロールできませんもんね」
「…はい」
「ビクビクして過ごす毎日は、私にとって苦痛でした。とても情けなかった」
ふと、亜面さんは顔を上げた。
「亜面さんも同じですか?」
「はい…!」
返事をしたら、認めてしまったらもう駄目だったみたいで。溢れてくる辛い思い出に、逆流する感情の渦に、彼女はもう抗えない。
「あんな…っ、あんな目に遭わなきゃいけないほど、私は悪い子じゃなかった!普通に過ごしていたのに!勉強も、手伝いも!悪いところなんてなかった!なのにあんな苦痛を受けて、あんな情けない思いをして、そんなの理不尽ですよね?!」
頷く。彼女は顔を歪めて、その目から涙を零した。そっと手を伸ばし、涙を拭う。そのまま頬を撫でた。
私は理不尽というものが嫌いだ。多分、好きな人はいないだろうけど、みんなより一層嫌いだ。大体の出来事は自分の判断が引き起こす。勉強をサボったからテストが悪かったり、悪口を言ったから喧嘩になったり。私の監禁はこっちのタイプ。目蒲さんに同情して、着いて行ってしまったから監禁された。でも、理不尽というのは全く関係のない他人の判断により引き起こされることが多い。たまたまそこにいただけで犯人扱いされたり、たまたま露出の多い服を着ていたら男を誘惑したことにされたり。みんな理不尽が嫌いなはずなのに、何かの拍子で人を理不尽の落とし穴に突き落とす。そして、自分が落としたことにも気付かずその人をその穴に置き去りにしていく。私はその瞬間が嫌いだ。その時の絶望の表情は私をやるせない気持ちにさせる。だから、私は助け出すことにしている。あなたが悪くないことで、あなたが絶望する必要はないんだよ。それを伝える為に。
亜面さんは複雑そうな顔。私は彼女の気持ちが定まるまでと、つらつら思いを述べる。
「ここの人達は本当に誰かに頼るのが下手くそで、その中でも目蒲さんはとびきり下手くそです。多分、あの人は自分じゃ二進も三進もいかなかったから、本能的に私を誘拐したんだと思いますよ」
「本能的に、ですか?」
「道を聞かれやすいとか、動物に懐かれやすいとかの亜種ですねー。心に爆弾抱えた人に懐かれやすいタイプなんです私」
「と、とんでもないタイプですね」
本当は引き寄せるだけじゃなく、自分から近寄って行っているのもあるんだけれど、悪癖のことは秘密である。
「そう。困っちゃう」
「でもそれ、近付かなければいいんじゃないですか?」
「ふふ。本当ですよねえ」
「これからは、そうした方がいいですよ。絶対」
亜面さんは私を説得する糸口を見つけたようで、目尻をきゅっと上げる。さあ、ここからは決闘だ。許す私、許さない亜面さん。どちらが正義なのか。
「だって、晴乃さんも利用されてるって思っていらっしゃるんですよね?」
「利用とまではいきませんけど、そうですね」
「なら、利用されないように振舞うべきです。おかしい事には毅然とおかしいと伝えるべきです」
「亜面さんは、それを私にされて、平気でいられますか?」
亜面さんは鼻白む。私は追撃を試みる。
「説きましょうか?倫理を。本来そういう仕事をしてましたので、得意ですよ、説教」
「何故、私が説教される話になるんです」
「あなたが耐えられない事は、あの人だって耐えられない。耐えられない事を敢えてしたくないんです、私。今日の夕湖を見てどう思いました?あの子は私に突き放されたらどうなりそうですか?」
「外務卿や私と、目蒲立会人とでは事情が違います!」
亜面さん机を叩く。ガシャンという大きな音と、跳ね上がるカップ。私はそれに動じていないかのように振舞う。
「どう、違うんです?」
「目蒲立会人は晴乃さんの事を人として扱っていない!己の欲を満たす為にあなたを利用している!」
「ダメですか?」
「駄目ですよ!人を人とも思わず利用して、悔い改めもせず、まだ利用しようとする奴らに許される権利なんてない!」
「そうか、亜面さんは目蒲さんが悔い改めてないって思うんですね」
「悔い改めるわけがない、あんな奴ら!」
「あんな奴ら?」
亜面さんはしまったという顔。紅茶に手を伸ばすより先に、追撃をかます。
「私を監禁したのは、目蒲さんだけですが、もしかして黒幕が?」
すっとぼけてみれば、亜面さんは顔をしかめる。本当は知っていたけど、こういうのは本人の口から言わせることが重要だ。
「いえ…目蒲立会人は単独だと思いますが…」
「が?」
「ちょっと、別件で」
「別件。亜面さんの事ですか?」
亜面さんは左下に顔を伏せ、キュッと目を瞑る。これは観念したな。私は彼女を待つ。
「…私も、誘拐されたことがあります」
「え」
「8歳の頃です。近所の男でした。騙されて、その男の部屋で」
「…辛かったですね」
続きを話そうとする彼女の息が不自然に上がっていることに気付き、私はそれ以上の説明を求めるのをやめる。その代わり、私は私のことを話す。
「自分に危害を加えてくる、自分より力の強い人。二人きりになるのはとても怖かったと思います。何が機嫌を損ねるか、何がきっかけで殴られるか、分かりませんでした。自分の行いなら気をつけられるけど、八つ当たりの分はコントロールできませんもんね」
「…はい」
「ビクビクして過ごす毎日は、私にとって苦痛でした。とても情けなかった」
ふと、亜面さんは顔を上げた。
「亜面さんも同じですか?」
「はい…!」
返事をしたら、認めてしまったらもう駄目だったみたいで。溢れてくる辛い思い出に、逆流する感情の渦に、彼女はもう抗えない。
「あんな…っ、あんな目に遭わなきゃいけないほど、私は悪い子じゃなかった!普通に過ごしていたのに!勉強も、手伝いも!悪いところなんてなかった!なのにあんな苦痛を受けて、あんな情けない思いをして、そんなの理不尽ですよね?!」
頷く。彼女は顔を歪めて、その目から涙を零した。そっと手を伸ばし、涙を拭う。そのまま頬を撫でた。
私は理不尽というものが嫌いだ。多分、好きな人はいないだろうけど、みんなより一層嫌いだ。大体の出来事は自分の判断が引き起こす。勉強をサボったからテストが悪かったり、悪口を言ったから喧嘩になったり。私の監禁はこっちのタイプ。目蒲さんに同情して、着いて行ってしまったから監禁された。でも、理不尽というのは全く関係のない他人の判断により引き起こされることが多い。たまたまそこにいただけで犯人扱いされたり、たまたま露出の多い服を着ていたら男を誘惑したことにされたり。みんな理不尽が嫌いなはずなのに、何かの拍子で人を理不尽の落とし穴に突き落とす。そして、自分が落としたことにも気付かずその人をその穴に置き去りにしていく。私はその瞬間が嫌いだ。その時の絶望の表情は私をやるせない気持ちにさせる。だから、私は助け出すことにしている。あなたが悪くないことで、あなたが絶望する必要はないんだよ。それを伝える為に。