過ぎ去るはエーデルワイス
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何分たったのだろうか。突然「うわっ!」という悲鳴が聞こえて、私達は正気に戻る。
「あ、ああっ、ち、違うの亜面さん!これは違うの!」
「すみません!お邪魔する気は無かったんです!」
「待って!弁明の、弁明の機会を!…てか目蒲さん、離して下さい!」
「従いかねます」
「なんで?!」
「あの、私、後で来ますので」
「いや、いい!いい!目蒲さんがすぐ帰ります!」
頑張って目蒲さんの腕を剥がせば、彼は大袈裟なため息を一つついて立ち上がる。そして、大きく伸びをすると、「さて、お邪魔なようですので」と一言。そこまで言ってないと返したらつけこまれそうなので、「明日になったら邪魔じゃなくなってるので、明日でお願いします」と返す。「仕方がありませんね」と、短い返事。
目蒲さんが出て行ったのを確認して、私は紅茶を淹れにいく。ポットとティーカップを持ちながら「あの人彼女作ればいいのにね」と漏らせば、亜面さんは驚愕の表情で私を見た。
「亜面さん?」
「い、いえ…!お二人、そういう関係じゃなかったんですか…?」
「へ?ないですよう」
「じゃあ、さっきのは…」
「ああ!そりゃ勘違いしますね。あの人は甘える練習中です」
「練習…」
「はい」
「えと、何故、ですか?」
「え、切羽詰まる度に暴力振るわれたら誰も受け切れないじゃないですか。そしたらあの人、一人で苦しむしかないですよ?可哀想じゃないですか」
私もまた一ヶ月近く意識失えって言われたら、絶対嫌ですしね。その言葉で亜面さんは顔を曇らせた。なるほど、鍵はここにあるんだな。
だけど、私は敢えてここは一旦流すことに決める。好きだから許しただなんて、思われたくはない。
「まあそれに、あの人だって私が好きなんじゃなく、唯一受け止めてくれるのが私ってだけですよ」
「え、それじゃ、晴乃さんは利用されてるってわかってて」
「利用…?!」
その発想はなかった!と驚けば、亜面さんもそれを利用と言わずなんというんですか?!と驚く。
「利用…利用かぁ…。うーん、でも、確かにほら、教員時代から'私を触媒にして成長していってね'って思ってたので、こう、ある意味利用されるのが当たり前っていうか…」
「ああー」
「いやでも、利用って程のものでもないと思ってました…」
変わってますね、と言われて、聞き覚えのある言葉だと笑った。
「まあまあ。さて、報告書、ありがとうございます」
「驚きました。まさか催促されるとは思ってなくて」
「ふふ。解散ムードだったから、そのまま帰られたらやだなあって。それと、ちょっと話したかったから」
だから、本当は別に亜面さんが帰ろうが残ろうが仕事上全く問題なかったんだけど、というのは分かっているだろうけど、黙っておく。心の中で手を合わせつつ、私は亜面さんから報告書を受け取り、読み始める。手が空いた亜面さんは、カップに注いだ紅茶に息を吹き込んで冷ましつつ、飲み始めた。
「あ、ストロベリーティーですね」
「はい。私、好きなんですよ。フレーバーティー」
「こういうのって、やっぱり…」
「あはは。そう、正解。目蒲さんに頼んで買ってもらうんです」
亜面さんは複雑な顔。笑い話にしようか、それとも。私は是非'それとも'の方の話がしたくて、トスを上げる。
「…びっくりしました?」
「ええ、お使いに行く目蒲立会人、想像出来ません」
「ま、それ位の借りがあるって事ですね」
攻めるべきか、いやでも。亜面さんはまた迷いを表情に出す。いいよ、攻めておいで。
「人にあんな大怪我させたんですから、それくらいしてもらわないと」
「ーーあの、」
亜面さんの目が据わる。よし、スイッチが入った。私は机の下でガッツポーズを作った。
「なんで、そこまで尽くすんですか?」
「目蒲さんにですか?」
彼女は頷く。同じ拉致監禁被害者である彼女にとって、それは当然の疑問だった。今、加害者を許した私の存在によって、加害者を殺した自分が否定されている。私が目蒲さんを恨み糾弾することでしか、彼女が加害者を殺した事を自ら責め後悔する事でしか、私達は分かり合えない。許すか、許さないか。本来中間地点はないのだ。抜け道は一つ。それは、私達同士が認め合うということ。相反する道を選んだけど、そんな選択もあるよね、と、言い合うこと。下手をしたら、これから目蒲さんに掛けるよりずっと多くの労力と時間が必要そうな道。
ただ、私はそれが大好きなのだ。
この子は私の力でどこまで変わっていくのだろう。どこまで私の意に沿うのだろう。どこに譲れぬ自分がいるのだろう。それに触れるのが大好きだ。そのせめぎ合いがゾクゾクする。
私のこの悪癖を知るのは、世界に一人の大親友だけ。
「あ、ああっ、ち、違うの亜面さん!これは違うの!」
「すみません!お邪魔する気は無かったんです!」
「待って!弁明の、弁明の機会を!…てか目蒲さん、離して下さい!」
「従いかねます」
「なんで?!」
「あの、私、後で来ますので」
「いや、いい!いい!目蒲さんがすぐ帰ります!」
頑張って目蒲さんの腕を剥がせば、彼は大袈裟なため息を一つついて立ち上がる。そして、大きく伸びをすると、「さて、お邪魔なようですので」と一言。そこまで言ってないと返したらつけこまれそうなので、「明日になったら邪魔じゃなくなってるので、明日でお願いします」と返す。「仕方がありませんね」と、短い返事。
目蒲さんが出て行ったのを確認して、私は紅茶を淹れにいく。ポットとティーカップを持ちながら「あの人彼女作ればいいのにね」と漏らせば、亜面さんは驚愕の表情で私を見た。
「亜面さん?」
「い、いえ…!お二人、そういう関係じゃなかったんですか…?」
「へ?ないですよう」
「じゃあ、さっきのは…」
「ああ!そりゃ勘違いしますね。あの人は甘える練習中です」
「練習…」
「はい」
「えと、何故、ですか?」
「え、切羽詰まる度に暴力振るわれたら誰も受け切れないじゃないですか。そしたらあの人、一人で苦しむしかないですよ?可哀想じゃないですか」
私もまた一ヶ月近く意識失えって言われたら、絶対嫌ですしね。その言葉で亜面さんは顔を曇らせた。なるほど、鍵はここにあるんだな。
だけど、私は敢えてここは一旦流すことに決める。好きだから許しただなんて、思われたくはない。
「まあそれに、あの人だって私が好きなんじゃなく、唯一受け止めてくれるのが私ってだけですよ」
「え、それじゃ、晴乃さんは利用されてるってわかってて」
「利用…?!」
その発想はなかった!と驚けば、亜面さんもそれを利用と言わずなんというんですか?!と驚く。
「利用…利用かぁ…。うーん、でも、確かにほら、教員時代から'私を触媒にして成長していってね'って思ってたので、こう、ある意味利用されるのが当たり前っていうか…」
「ああー」
「いやでも、利用って程のものでもないと思ってました…」
変わってますね、と言われて、聞き覚えのある言葉だと笑った。
「まあまあ。さて、報告書、ありがとうございます」
「驚きました。まさか催促されるとは思ってなくて」
「ふふ。解散ムードだったから、そのまま帰られたらやだなあって。それと、ちょっと話したかったから」
だから、本当は別に亜面さんが帰ろうが残ろうが仕事上全く問題なかったんだけど、というのは分かっているだろうけど、黙っておく。心の中で手を合わせつつ、私は亜面さんから報告書を受け取り、読み始める。手が空いた亜面さんは、カップに注いだ紅茶に息を吹き込んで冷ましつつ、飲み始めた。
「あ、ストロベリーティーですね」
「はい。私、好きなんですよ。フレーバーティー」
「こういうのって、やっぱり…」
「あはは。そう、正解。目蒲さんに頼んで買ってもらうんです」
亜面さんは複雑な顔。笑い話にしようか、それとも。私は是非'それとも'の方の話がしたくて、トスを上げる。
「…びっくりしました?」
「ええ、お使いに行く目蒲立会人、想像出来ません」
「ま、それ位の借りがあるって事ですね」
攻めるべきか、いやでも。亜面さんはまた迷いを表情に出す。いいよ、攻めておいで。
「人にあんな大怪我させたんですから、それくらいしてもらわないと」
「ーーあの、」
亜面さんの目が据わる。よし、スイッチが入った。私は机の下でガッツポーズを作った。
「なんで、そこまで尽くすんですか?」
「目蒲さんにですか?」
彼女は頷く。同じ拉致監禁被害者である彼女にとって、それは当然の疑問だった。今、加害者を許した私の存在によって、加害者を殺した自分が否定されている。私が目蒲さんを恨み糾弾することでしか、彼女が加害者を殺した事を自ら責め後悔する事でしか、私達は分かり合えない。許すか、許さないか。本来中間地点はないのだ。抜け道は一つ。それは、私達同士が認め合うということ。相反する道を選んだけど、そんな選択もあるよね、と、言い合うこと。下手をしたら、これから目蒲さんに掛けるよりずっと多くの労力と時間が必要そうな道。
ただ、私はそれが大好きなのだ。
この子は私の力でどこまで変わっていくのだろう。どこまで私の意に沿うのだろう。どこに譲れぬ自分がいるのだろう。それに触れるのが大好きだ。そのせめぎ合いがゾクゾクする。
私のこの悪癖を知るのは、世界に一人の大親友だけ。