過ぎ去るはエーデルワイス
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立会人さんたちは、空気を読んで目蒲さんを置き去りにして帰っていった。
銅寺さんの目が「気をつけるんだよ」と語っていたのは、申し訳ないけどスルーさせて頂く。
4
「怪我、大丈夫ですか?」
「お前さ…なんで黙ってたんだよ…」
目蒲さんは私の質問を無視して、低い声で言った。さっきまで一緒に和やかなムードの中にいたとは思えない。ずっと胸のドロドロを押し殺していたんだろう。仕方がない人だ。私は自分の口角が緩むのを感じながら、目蒲さんの隣に腰掛ける。机に座るのは抵抗があるが、まあ、誰が見るわけでもない。
この人は、一人で処理しようとして、一人で溜め込む。だからこそ、この人との出会いがあれで本当に良かったと、時々強く思うのだ。そうじゃなきゃ、私はこの人が感情をぶつける相手にはなれなかっただろう。
そっと彼の背に手を乗せる。彼が拒絶を示さないのを確認して、それを動かし始める。
「ごめんなさい」
それは、拒絶の為の謝罪。言いたくないものは、これからも言わないよ、というごめんなさい。彼は敏感に感じ取ってくれたようで、両手で顔を覆った。小さなうめき声。ぐちゃぐちゃのそれを言葉にして伝えてくれるようになるまでは、私だって思うこと全部は言えない。
「でも、きっと、私を知れば知るほど、あなたはそうやって悩むようになりますよ」
彼は髪の毛をくしゃっと巻き込みながら、握りこぶしをつくる。関節の白んだ両手は、私が自由を失ったあの日を思い出させた。
「俺が弱いからかよ…」
どろりとした、唸るような声。認めたくない、認めたくないと全身が叫ぶのを感じる。
そうだよね。完璧でいたいよね。でも、それって無理なことなんだよ、誰にも。だから、要らない気持ちは全部私にぶつけてよ。喜んで受けるから。
掴まれる肩。ねえほら、今みたいに。
「なあ答えろよ!そんなに俺は弱いか!お前に隠し事されなきゃならない程、俺は弱いのかよ!」
指が食い込んでズキズキと痛む。その痛みが私にはどうしようもなく懐かしく思えた。
「なんでだよ!なんで俺は…!」
ガクガク揺らされて、思わず痛みが顔に出てしまう。あ、という、目蒲さんの儚げな声。彼はおずおずと私から手を離して、その手を呆然と見つめた。
「違う…」
「違わないです。良いんですよ」
私はその手に自分の手を重ねる。絡む指、握られる手。男の人の中でも、大きい掌。
「違うんだ、俺は、こんな事したいんじゃ」
戸惑いに満ちた声。私は繋いでいた手を解き、立ち上がる。私を不思議そうに見上げる目蒲さんの目は不安げで、子どものようだった。
私は彼の正面に回って、そんな彼を隠すように抱きしめた。
「だから、良いんですって。馬鹿だなぁ」
息を呑む音。それでもそっと回される腕を懐かしく思う。
「俺は、嫌だ」
「嫌?」
彼は頷く。首筋を動く髪がくすぐったい。
「役に立ちたい」
「ふふ」
目蒲さんらしい愛情表現に笑ってしまう。この人が佐田国さんに良いようにされてしまった理由がよく分かる。
「そっか、役に立ちたかったんですね。でも、私は甘えて欲しいって思ってましたよ」
「甘えて…」
「うん。全然違うこと考えてましたね」
目蒲さんは絡める腕に力を込めた。私もそれに応えて体をより密着させる。
「お前は、よく分からん」
「実はそれ、結構言われます」
クックッと、喉奥で笑う声。良かった良かった。元どおり。
「すまなかった」
「いーえー。こちらこそ、ごめんなさい」
銅寺さんの目が「気をつけるんだよ」と語っていたのは、申し訳ないけどスルーさせて頂く。
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「怪我、大丈夫ですか?」
「お前さ…なんで黙ってたんだよ…」
目蒲さんは私の質問を無視して、低い声で言った。さっきまで一緒に和やかなムードの中にいたとは思えない。ずっと胸のドロドロを押し殺していたんだろう。仕方がない人だ。私は自分の口角が緩むのを感じながら、目蒲さんの隣に腰掛ける。机に座るのは抵抗があるが、まあ、誰が見るわけでもない。
この人は、一人で処理しようとして、一人で溜め込む。だからこそ、この人との出会いがあれで本当に良かったと、時々強く思うのだ。そうじゃなきゃ、私はこの人が感情をぶつける相手にはなれなかっただろう。
そっと彼の背に手を乗せる。彼が拒絶を示さないのを確認して、それを動かし始める。
「ごめんなさい」
それは、拒絶の為の謝罪。言いたくないものは、これからも言わないよ、というごめんなさい。彼は敏感に感じ取ってくれたようで、両手で顔を覆った。小さなうめき声。ぐちゃぐちゃのそれを言葉にして伝えてくれるようになるまでは、私だって思うこと全部は言えない。
「でも、きっと、私を知れば知るほど、あなたはそうやって悩むようになりますよ」
彼は髪の毛をくしゃっと巻き込みながら、握りこぶしをつくる。関節の白んだ両手は、私が自由を失ったあの日を思い出させた。
「俺が弱いからかよ…」
どろりとした、唸るような声。認めたくない、認めたくないと全身が叫ぶのを感じる。
そうだよね。完璧でいたいよね。でも、それって無理なことなんだよ、誰にも。だから、要らない気持ちは全部私にぶつけてよ。喜んで受けるから。
掴まれる肩。ねえほら、今みたいに。
「なあ答えろよ!そんなに俺は弱いか!お前に隠し事されなきゃならない程、俺は弱いのかよ!」
指が食い込んでズキズキと痛む。その痛みが私にはどうしようもなく懐かしく思えた。
「なんでだよ!なんで俺は…!」
ガクガク揺らされて、思わず痛みが顔に出てしまう。あ、という、目蒲さんの儚げな声。彼はおずおずと私から手を離して、その手を呆然と見つめた。
「違う…」
「違わないです。良いんですよ」
私はその手に自分の手を重ねる。絡む指、握られる手。男の人の中でも、大きい掌。
「違うんだ、俺は、こんな事したいんじゃ」
戸惑いに満ちた声。私は繋いでいた手を解き、立ち上がる。私を不思議そうに見上げる目蒲さんの目は不安げで、子どものようだった。
私は彼の正面に回って、そんな彼を隠すように抱きしめた。
「だから、良いんですって。馬鹿だなぁ」
息を呑む音。それでもそっと回される腕を懐かしく思う。
「俺は、嫌だ」
「嫌?」
彼は頷く。首筋を動く髪がくすぐったい。
「役に立ちたい」
「ふふ」
目蒲さんらしい愛情表現に笑ってしまう。この人が佐田国さんに良いようにされてしまった理由がよく分かる。
「そっか、役に立ちたかったんですね。でも、私は甘えて欲しいって思ってましたよ」
「甘えて…」
「うん。全然違うこと考えてましたね」
目蒲さんは絡める腕に力を込めた。私もそれに応えて体をより密着させる。
「お前は、よく分からん」
「実はそれ、結構言われます」
クックッと、喉奥で笑う声。良かった良かった。元どおり。
「すまなかった」
「いーえー。こちらこそ、ごめんなさい」