過ぎ去るはエーデルワイス
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「それで、ある日私が伏龍さんに食べ物を与えているところを見た目蒲立会人が、伏龍さんを風呂場に本格的に監禁しました」
「…なんでだよ」
夕湖が唸るように言った。山口さんは彼女を見て、それが敵意に満ち溢れた言葉だと気付く。私が膝元のどす黒いオーラを止めようと下を見た時は、そこに彼女はもうおらず。慌てて顔を上げて、目蒲さんの首根っこに飛び付く夕湖を見つける。彼女は目蒲さんの襟首をガクガク揺さぶりながら、絶叫する。
「なんでそんな事が出来るんだ、貴様は!全部貴様が悪い!それでも立会人か!辞めちまえ、死んじまえ!なんで晴乃の誘いを断らなかったんだよ、貴様に生きる資格なんて、ない!」
「夕湖!」
思わず叫んだ。久々に聞く、自分の金切り声。子供達にも滅多にやらなかったやつだ。驚いて手を離す夕湖を見据え、私は叫ぶ。
「なんて事いうのよ、撤回なさい!あなただって泣くでしょう、私の胸を借りるでしょう!外務卿なのに情けないなんて、私言った事ないでしょう!目蒲さんも同じなの!その人は泣けなかった代わりに殴ったの!その人はずっと苦しかったの、自分じゃどうしようもなかったの!それが情けないっていうのなら、夕湖、あなただって同じ位情けないわ!」
「あ…」
「目蒲さんは、泣けないくらい苦しかったの。それでも誰かに訴えたくて、手が出たの。私にとってはそれだけの話。分かってくれる?」
「ああ…」
「じゃ、撤回して。生きる資格なんてないなんて、嘘って言って」
「…すまなかった」
納得したわけではない、剣幕にやられただけ。私に嫌われる事とあの人を糾弾し続ける事を天秤にかけただけ。悔しいだろう。指で涙を拭ってやると、夕湖はくしゃりと顔を歪め、また本格的に泣き出した。その内脱水症状を起こしそうだなあ。彼女を抱きしめつつ、私は話を引き継ぐ。
「ええと、という訳で、目蒲さんの事悪いと思っていなかったので、私は目蒲さんの不正がバレたところでお屋形様と交渉しました。ありがたいことに、その直前にお風呂場から出してもらえていたので、目蒲さんの立会い現場まで行けたんです。そこでお屋形様と、目蒲さんが粛清されずに立会人を続けられる代わりに、私がここに監禁されて、働くって、約束したんです」
話が終わったところで、暫くの沈黙。なるほどな、と滝さんが呟く。
「それで、住み込みの事務なんてぇのが誕生したのか」
「はい。ただ、立会人に顔を売ることが目的だったので、またどこかに飛ばされるかもです」
「…お屋形様付きとかですか?」
亜面さんがそう問いかける。しかし、その笑顔に押し殺した空虚さを見て、私はひっそりと後悔する。でも、表面上は努めてフランクに。
「それ、聞いちゃいます?」
「え、まさか」
「いえ、実はね、一回話は出たんですけど、頭も力もお屋形様のが上だねってことで立ち消えていきました」
「チビ助…」
「やだ門倉さん、そんな顔されると私まで不甲斐ない気持ちに…」
軽く笑いが起きる。その中に目蒲さんも入っていて、私はホッとした。
問題は、亜面さんだなぁ。
しかし、じっくり考える暇もなく、銅寺さんによって次の話題にもってかれてしまう。
「それじゃ、先生。もう一つ聞くよ」
「はい…でも、目蒲さんとのこと、もう全部お話ししましたけど」
「うん、だから、これから聞くのは弥鱈立会人との話」
「弥鱈君…ですか」
「うん。これについて教えて欲しいんだ」
そう言って銅寺さんが取り出したのは、零の数字がラベリングされたファイルだった。
「…よくそれ、見つけましたね」
「実は僕と弥鱈立会人って立会人デビューが近くてさ、よく話すんだよね。昔なんで立会人になったのって聞いたら、これ、教えてくれた」
銅寺さんはそのファイルを太ももに乗せ、該当ページを探しながら続きを話す。どうにも気になったようで、門倉さんと目蒲さんは彼のそばに寄って、ファイルを覗き込む。
「弥鱈立会人、昔一度賭郎勝負の場に出ているんだ。その時にスカウトを受けたそうだけど…この勝負、弥鱈立会人は、先生を賭けて戦っている」
お前、何してるんだよ。夕湖が力無く突っ込んだ。返事の代わりに背中をポンポンする。
「ええ。懐かしいですね」
「晴乃、もっと自分を大切にしろ」
「目蒲さん…それあなたが言えた義理じゃないですって。まあいいや。それはいいんです。だって弥鱈君負けないって分かってたし」
「すげえ信頼じゃの」
「そりゃあもう。なんてったって、一人でも強い弥鱈君が私とタッグを組んでるんですもん。負けない負けない」
「…すげえ自信じゃの」
「それくらい相性良かったんです、私達」
「…なんでだよ」
夕湖が唸るように言った。山口さんは彼女を見て、それが敵意に満ち溢れた言葉だと気付く。私が膝元のどす黒いオーラを止めようと下を見た時は、そこに彼女はもうおらず。慌てて顔を上げて、目蒲さんの首根っこに飛び付く夕湖を見つける。彼女は目蒲さんの襟首をガクガク揺さぶりながら、絶叫する。
「なんでそんな事が出来るんだ、貴様は!全部貴様が悪い!それでも立会人か!辞めちまえ、死んじまえ!なんで晴乃の誘いを断らなかったんだよ、貴様に生きる資格なんて、ない!」
「夕湖!」
思わず叫んだ。久々に聞く、自分の金切り声。子供達にも滅多にやらなかったやつだ。驚いて手を離す夕湖を見据え、私は叫ぶ。
「なんて事いうのよ、撤回なさい!あなただって泣くでしょう、私の胸を借りるでしょう!外務卿なのに情けないなんて、私言った事ないでしょう!目蒲さんも同じなの!その人は泣けなかった代わりに殴ったの!その人はずっと苦しかったの、自分じゃどうしようもなかったの!それが情けないっていうのなら、夕湖、あなただって同じ位情けないわ!」
「あ…」
「目蒲さんは、泣けないくらい苦しかったの。それでも誰かに訴えたくて、手が出たの。私にとってはそれだけの話。分かってくれる?」
「ああ…」
「じゃ、撤回して。生きる資格なんてないなんて、嘘って言って」
「…すまなかった」
納得したわけではない、剣幕にやられただけ。私に嫌われる事とあの人を糾弾し続ける事を天秤にかけただけ。悔しいだろう。指で涙を拭ってやると、夕湖はくしゃりと顔を歪め、また本格的に泣き出した。その内脱水症状を起こしそうだなあ。彼女を抱きしめつつ、私は話を引き継ぐ。
「ええと、という訳で、目蒲さんの事悪いと思っていなかったので、私は目蒲さんの不正がバレたところでお屋形様と交渉しました。ありがたいことに、その直前にお風呂場から出してもらえていたので、目蒲さんの立会い現場まで行けたんです。そこでお屋形様と、目蒲さんが粛清されずに立会人を続けられる代わりに、私がここに監禁されて、働くって、約束したんです」
話が終わったところで、暫くの沈黙。なるほどな、と滝さんが呟く。
「それで、住み込みの事務なんてぇのが誕生したのか」
「はい。ただ、立会人に顔を売ることが目的だったので、またどこかに飛ばされるかもです」
「…お屋形様付きとかですか?」
亜面さんがそう問いかける。しかし、その笑顔に押し殺した空虚さを見て、私はひっそりと後悔する。でも、表面上は努めてフランクに。
「それ、聞いちゃいます?」
「え、まさか」
「いえ、実はね、一回話は出たんですけど、頭も力もお屋形様のが上だねってことで立ち消えていきました」
「チビ助…」
「やだ門倉さん、そんな顔されると私まで不甲斐ない気持ちに…」
軽く笑いが起きる。その中に目蒲さんも入っていて、私はホッとした。
問題は、亜面さんだなぁ。
しかし、じっくり考える暇もなく、銅寺さんによって次の話題にもってかれてしまう。
「それじゃ、先生。もう一つ聞くよ」
「はい…でも、目蒲さんとのこと、もう全部お話ししましたけど」
「うん、だから、これから聞くのは弥鱈立会人との話」
「弥鱈君…ですか」
「うん。これについて教えて欲しいんだ」
そう言って銅寺さんが取り出したのは、零の数字がラベリングされたファイルだった。
「…よくそれ、見つけましたね」
「実は僕と弥鱈立会人って立会人デビューが近くてさ、よく話すんだよね。昔なんで立会人になったのって聞いたら、これ、教えてくれた」
銅寺さんはそのファイルを太ももに乗せ、該当ページを探しながら続きを話す。どうにも気になったようで、門倉さんと目蒲さんは彼のそばに寄って、ファイルを覗き込む。
「弥鱈立会人、昔一度賭郎勝負の場に出ているんだ。その時にスカウトを受けたそうだけど…この勝負、弥鱈立会人は、先生を賭けて戦っている」
お前、何してるんだよ。夕湖が力無く突っ込んだ。返事の代わりに背中をポンポンする。
「ええ。懐かしいですね」
「晴乃、もっと自分を大切にしろ」
「目蒲さん…それあなたが言えた義理じゃないですって。まあいいや。それはいいんです。だって弥鱈君負けないって分かってたし」
「すげえ信頼じゃの」
「そりゃあもう。なんてったって、一人でも強い弥鱈君が私とタッグを組んでるんですもん。負けない負けない」
「…すげえ自信じゃの」
「それくらい相性良かったんです、私達」