過ぎ去るはエーデルワイス
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「ああ、来ましたね」
屋上のドアが開き、その向こうにいる人物を確認して、俺は言った。五時を過ぎたばかりというのに、辺りはすっかり暗がりに包まれている。
「見つけましたよ、弥鱈立会人」
「あいつに傷を付ければ、アンタが来ると思っていました」
「そんな理由で女に手をあげるとは、呆れますねえ。あれとどういう関係なんです?」
「あ~、伏龍から何も聞いていませんでしたか~。相変わらずの秘密主義者ですねえ。まあ、アイツらしいと言えるでしょう。さて目蒲立会人。一応確認して起きたいのですが、アンタは佐田国が有利になるよう、立会人の権限を超えて加担した。それを伏龍に気付かれ、発覚を怖れ監禁した。そこでアンタはあろうことか、アイツに暴行を加えた。それでも伏龍は優しかった。アンタの命を救うべく、お屋形様と交渉し、自由と引き換えにアンタの命を救った。合ってますか~?」
「どこでそれを?」
「アンタの立会い記録を読ませてもらいました。そして、私の専属があの日人主をしていましたので、話を聞きました。二つを統合すれば、何が起きたのか手に取るように分かりましたよ。伏龍がアンタを守った、その理由もね」
「ほう、それは非常に気になりますねえ。私は何故守られたんです?」
「何故だと思います~?特別だからですかねえ~?」
目蒲立会人は気を悪くしたようで、その陰気な目つきをより悪くさせた。そうだと思って居たかったのだろう。目の端に映るそれを、優越感をもって見つめる。そうだ、疑問に思えよ。そして思い知れ。アイツと一緒に生きようとする限り、アンタはアイツの特別にはなれないと。
俺は胸元からハンカチを引き抜き、足元へと投げつける。
「業務中以外の號奪戦は禁止されていますよ、弥鱈立会人。知らなかったかも知れませんがね」
「それも問題ありません。俺はこの二十八號を気に入っていますし、ここで號奪戦を行うつもりもありませんし」
「ほう、では、これはなんです?」
「はぁ~。伏龍が手を掛けるだけありますねえ~。立会人の癖に察しが悪い。今から殺すという意味ですよ」
「フン」
面白いとでも言いたげに、目蒲立会人は笑う。
「アンタを殺して、伏龍を逃します」
「さて、あれが逃げますかねえ?」
クックッと、目蒲立会人は深く笑う。起こりがちな錯覚だと嘲笑ってやりたい気分だった。伏龍は誰のことも大切にする。つまり、誰も特別じゃないんだよ。
あいつの世界に個別に存在するのは、俺と親だけだ。
「伏龍はアンタが思うより、アンタが願うよりずっと弱い。あいつはアンタなんか見てません。見えているのは、可哀想な誰かですよ」
「訳のわからないことを、ペラペラと」
「分かりませんか、そうですか」
アンタは聞きたくないと耳を閉じて、だからあいつは聞かせられないと口をつぐんで。
あいつの優しさに胡座をかくのなら、アンタは要らない。彼女に苦しみをシフトさせて、それを無かったことにするのなら、アンタは要らない。
俺は強く地面を蹴り、目蒲立会人と距離を詰めた。先手を取るのは目蒲立会人。上段に突き。俺はそれをブリッジの要領で躱し、そのまま足を跳ね上げた。ヒット、いや、顎を掠っただけ。そのままの勢いで地面を押し、天地を合わせる。着地のエネルギーを膝を曲げて吸収。それを一気に放出し、上に飛んだ。飛び蹴りである。今度こそヒット。倒れるも、流石に頑丈だ。地面に掌底を打ち込み、その反動で身体を押し上げた。あの、凹んだ床の言い訳は誰がするんでしょうねぇ。
死人に口なしです。私がするしか無いでしょうねぇ~。
さて、目の端に映る目蒲立会人は直ぐに構え直すと、こちらに駆け寄る。そのまま左を打ち込む。違う。こいつは確か右利き。一瞬の違和感に救われた。俺はギリギリのところで追加の拳をいなした。舌打ちの音と、俺のカウンターが飛ぶのは同時。
ぎゅるる!
聞き覚えのある音。「ぐはぁ!」という特徴的な笑いを添えて、伸ばされた俺の足に着地したのは、切間立会人だった。
屋上のドアが開き、その向こうにいる人物を確認して、俺は言った。五時を過ぎたばかりというのに、辺りはすっかり暗がりに包まれている。
「見つけましたよ、弥鱈立会人」
「あいつに傷を付ければ、アンタが来ると思っていました」
「そんな理由で女に手をあげるとは、呆れますねえ。あれとどういう関係なんです?」
「あ~、伏龍から何も聞いていませんでしたか~。相変わらずの秘密主義者ですねえ。まあ、アイツらしいと言えるでしょう。さて目蒲立会人。一応確認して起きたいのですが、アンタは佐田国が有利になるよう、立会人の権限を超えて加担した。それを伏龍に気付かれ、発覚を怖れ監禁した。そこでアンタはあろうことか、アイツに暴行を加えた。それでも伏龍は優しかった。アンタの命を救うべく、お屋形様と交渉し、自由と引き換えにアンタの命を救った。合ってますか~?」
「どこでそれを?」
「アンタの立会い記録を読ませてもらいました。そして、私の専属があの日人主をしていましたので、話を聞きました。二つを統合すれば、何が起きたのか手に取るように分かりましたよ。伏龍がアンタを守った、その理由もね」
「ほう、それは非常に気になりますねえ。私は何故守られたんです?」
「何故だと思います~?特別だからですかねえ~?」
目蒲立会人は気を悪くしたようで、その陰気な目つきをより悪くさせた。そうだと思って居たかったのだろう。目の端に映るそれを、優越感をもって見つめる。そうだ、疑問に思えよ。そして思い知れ。アイツと一緒に生きようとする限り、アンタはアイツの特別にはなれないと。
俺は胸元からハンカチを引き抜き、足元へと投げつける。
「業務中以外の號奪戦は禁止されていますよ、弥鱈立会人。知らなかったかも知れませんがね」
「それも問題ありません。俺はこの二十八號を気に入っていますし、ここで號奪戦を行うつもりもありませんし」
「ほう、では、これはなんです?」
「はぁ~。伏龍が手を掛けるだけありますねえ~。立会人の癖に察しが悪い。今から殺すという意味ですよ」
「フン」
面白いとでも言いたげに、目蒲立会人は笑う。
「アンタを殺して、伏龍を逃します」
「さて、あれが逃げますかねえ?」
クックッと、目蒲立会人は深く笑う。起こりがちな錯覚だと嘲笑ってやりたい気分だった。伏龍は誰のことも大切にする。つまり、誰も特別じゃないんだよ。
あいつの世界に個別に存在するのは、俺と親だけだ。
「伏龍はアンタが思うより、アンタが願うよりずっと弱い。あいつはアンタなんか見てません。見えているのは、可哀想な誰かですよ」
「訳のわからないことを、ペラペラと」
「分かりませんか、そうですか」
アンタは聞きたくないと耳を閉じて、だからあいつは聞かせられないと口をつぐんで。
あいつの優しさに胡座をかくのなら、アンタは要らない。彼女に苦しみをシフトさせて、それを無かったことにするのなら、アンタは要らない。
俺は強く地面を蹴り、目蒲立会人と距離を詰めた。先手を取るのは目蒲立会人。上段に突き。俺はそれをブリッジの要領で躱し、そのまま足を跳ね上げた。ヒット、いや、顎を掠っただけ。そのままの勢いで地面を押し、天地を合わせる。着地のエネルギーを膝を曲げて吸収。それを一気に放出し、上に飛んだ。飛び蹴りである。今度こそヒット。倒れるも、流石に頑丈だ。地面に掌底を打ち込み、その反動で身体を押し上げた。あの、凹んだ床の言い訳は誰がするんでしょうねぇ。
死人に口なしです。私がするしか無いでしょうねぇ~。
さて、目の端に映る目蒲立会人は直ぐに構え直すと、こちらに駆け寄る。そのまま左を打ち込む。違う。こいつは確か右利き。一瞬の違和感に救われた。俺はギリギリのところで追加の拳をいなした。舌打ちの音と、俺のカウンターが飛ぶのは同時。
ぎゅるる!
聞き覚えのある音。「ぐはぁ!」という特徴的な笑いを添えて、伸ばされた俺の足に着地したのは、切間立会人だった。