沈丁花の約束
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
山口さんが帰った後の部屋で二人、何も言えないまま時間が過ぎる。目蒲さんはずっと座り込んで頭を抱え込んだまま。私は部屋の隅で膝を抱えたまま。
掛けるべき言葉は、本当は知っている。でも、それを言えば山口さんが守った最後の一線を踏み越えてしまうから、言えなかった。
「帰らないんですか?」
代わりに出てきたのは、そんな棘のある言葉。
「なんでだよ」
「もう、大分遅いですよ」
「ああ」
YESともNOともとれない返事をして、目蒲さんは続ける。
「お前は、帰らないの?」
「へ?どこへ?」
「…それもそうか」
目蒲さんは徐に立ち上がって、私をひょいと小脇に抱えた。圧力がかかってお腹が痛くて、思わず呻き声を上げてしまう。目蒲さんはそれを聞かなかったかのように、私をそのままお風呂場に連れて行った。
「お前はこれからここな」
当然の事のように、目蒲さんは言った。私はあまりの衝撃に言葉を失う。
「明日南京錠か何か買ってくるから、お前はもう俺以外と関わるな」
「え」
「なんでもするんだろ」
「あ、そういう流れ…って」
危うく納得しかけて、すぐに正気に戻る。こんな狭くて窓もない所嫌だ!
「これで俺もお前もどこにも帰れないな」
クックッと、目蒲さんは喉の奥で笑う。今までは感じなかった自虐的な響きがあった。それに気づいて、思わず言いたかった言葉も飲み込んでしまう。そうこうしているうちに、お風呂場の磨りガラスは閉められ、目蒲さんのぼやけたシルエットが見えるだけになった。
俺は何がしたいんだろう。何をしているんだろう。
彼女を閉じ込んだ風呂場のドアを眺める。ぼやけたシルエットが、すぐそこでうずくまる彼女を描いていた。
不思議と心は穏やかだった。
問題が一つ解決したからかもしれない。部下の誰かが自分に隠れて彼女の面倒を見ていることは気付いていた。それが直属の部下の中でも信用を置く山口だったのは予想外だったが、最早どうでもいい。
彼女はもう、誰の目に触れることはない。それが重要だ。
明日はちゃんと、食べるものを用意してやろう。
掛けるべき言葉は、本当は知っている。でも、それを言えば山口さんが守った最後の一線を踏み越えてしまうから、言えなかった。
「帰らないんですか?」
代わりに出てきたのは、そんな棘のある言葉。
「なんでだよ」
「もう、大分遅いですよ」
「ああ」
YESともNOともとれない返事をして、目蒲さんは続ける。
「お前は、帰らないの?」
「へ?どこへ?」
「…それもそうか」
目蒲さんは徐に立ち上がって、私をひょいと小脇に抱えた。圧力がかかってお腹が痛くて、思わず呻き声を上げてしまう。目蒲さんはそれを聞かなかったかのように、私をそのままお風呂場に連れて行った。
「お前はこれからここな」
当然の事のように、目蒲さんは言った。私はあまりの衝撃に言葉を失う。
「明日南京錠か何か買ってくるから、お前はもう俺以外と関わるな」
「え」
「なんでもするんだろ」
「あ、そういう流れ…って」
危うく納得しかけて、すぐに正気に戻る。こんな狭くて窓もない所嫌だ!
「これで俺もお前もどこにも帰れないな」
クックッと、目蒲さんは喉の奥で笑う。今までは感じなかった自虐的な響きがあった。それに気づいて、思わず言いたかった言葉も飲み込んでしまう。そうこうしているうちに、お風呂場の磨りガラスは閉められ、目蒲さんのぼやけたシルエットが見えるだけになった。
俺は何がしたいんだろう。何をしているんだろう。
彼女を閉じ込んだ風呂場のドアを眺める。ぼやけたシルエットが、すぐそこでうずくまる彼女を描いていた。
不思議と心は穏やかだった。
問題が一つ解決したからかもしれない。部下の誰かが自分に隠れて彼女の面倒を見ていることは気付いていた。それが直属の部下の中でも信用を置く山口だったのは予想外だったが、最早どうでもいい。
彼女はもう、誰の目に触れることはない。それが重要だ。
明日はちゃんと、食べるものを用意してやろう。