白い芥子は不安げに
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気持ちは分かる。十分分かる。でも、頼むからどこか他所でやってくれ。
ーーーーー彼女不在日
「だからそんなしょうもない依頼なんぞ他に回せ!わしは行かんぞ!」
「まーヰ近の旦那、そう言わずによ」
「いーや、譲らん!そもそも伏龍はどっこへ行きおった!伏龍と話す!」
ヰ近立会人のお陰で、事務室には立会人が溜まり始めていた。目蒲立会人と亘立会人、そして私、亜面。
「だから、出張だっつってんだろジジイ」
ぼそりと目蒲立会人が呟く。久しぶりに聞く、険のある言葉だった。隣の亘立会人がすかさず諌めるも、目蒲立会人は「私より先にあちらを諌めていただけませんかねぇ?その勇気がないなら別ですが」と喧嘩腰だ。亘立会人も些か気を悪くした様で、「君は何様のつもりなんだ」と言い返す。晴乃さんといる時とは違う刺々しい振る舞いに、ふと彼女はこの姿を見たらなんて言うだろうかと興味が湧いた。叱るんだろうか。叱るんだろうなあ。
真っ向から叱ってくる彼女を思い出すと、なんだか笑みがこぼれた。早く帰ってきて、この困った立会人達に喝を入れてくれないだろうか。
「いい加減にしてくれヰ近の旦那!若いのに示しが付かんだろうが!」
でも、喝を入れるのは当然晴乃さんではなく、滝さん。ヰ近立会人はちらりと私達を見て、フンと鼻を鳴らした。
「紅茶がなければ承知せんぞ!」
「知らん!さっさと行かねえか!」
どすどす大きな足音を立てて事務室を後にしようとするヰ近立会人に、なんとなく「行ってらっしゃいませ」と言った。返事はない。
「待たせたな、目蒲」
「はぁ…困りますねえ、選り好みするジジイには」
「目蒲…言葉が過ぎるぞ」
目蒲立会人は大げさなため息をついて、滝さんに任務の内容を伺う。滝さんも目蒲立会人相手に第二ラウンドを始めるのは嫌だったようで、苛々を隠し切らないまま、立会いの説明に入った。
なんだか凄くピリピリしているなあ。晴乃さんと滝さん、やってる事は同じはずなのに。
ーーーーーーーーーー
立会いを仰せつかり、私は部下を引き連れて廊下を歩いていた。残念ながら私の引いた立会いもヰ近立会人のそれと同様、あまり魅力的なカードとは言えなかったが、仕方がない。落胆を部下に悟られぬよう、意識して背筋を伸ばす。
「泉江外務卿」
「亜面か」
泉江外務卿とすれ違い、私はつい声を掛ける。彼女は噛んでいた親指の爪を離して、こちらと目を合わせる。
「立会いか」
「はい。外務卿は?」
「掃討作戦だ」
「相変わらずお忙しそうですね」
「そうでもないさ」
外務卿とは、友達と言うには恐れ多いが、晴乃さんととても仲がいい為私ともそれなりの仲だ。
「目蒲立会人も私も立会いですが、他の皆は空いていると思いますよ」
「いらん。ありがとう」
いると思うんだけどな。私はささくれ立った彼女の親指の爪を見ながら、ぼんやり思った。
ーーーーーーーーーー
指先の絆創膏が目に入る度、どうしてもげんなりした気持ちになってしまう。ゲームは予想通りとてつもなくつまらなかったし、ちゃぶ台返しも芸のない暴力頼みだった。それで怪我をしてしまうんだから、自分が情けない。
はあ、と、大きめなため息をつく。心配してくれる部下の皆には、先に立会人室に戻る様言った。
帰還報告をと思い入った事務室では、まだ滝さんが応対をしていた。
「おや、チ…伏龍さんではありませんでしたか」
「すみません門倉立会人、私で」
「悪い訳ではありませんよ。心配ですねと話していたところでしたので」
「おう亜面、こいつを連れて帰ってくれ。さっきからずーっとクダ巻いてやがる」
うんざりした表情の滝さんがそう言うと、門倉立会人は「滅相もない」と両手を挙げた。
「ただ、気になっただけですよ。彼女が今お屋形様と、どこで、どんな任務についているのか」
「すまねえな、知らん」
「知らんことはないでしょう。直属の部下です」
「お屋形様に貸せって言われりゃ、貸すしかねえよ」
いやしかし、と食い下がる門倉立会人と、ほとほとうんざりした顔で頬杖をつく滝さん。こんな時晴乃さんだったら、真っ先に絆創膏に気付いて心配してくれるんだろうな。
大きなため息をつきかけて、慌てて口元を覆った。
ーーーーー彼女不在日
「だからそんなしょうもない依頼なんぞ他に回せ!わしは行かんぞ!」
「まーヰ近の旦那、そう言わずによ」
「いーや、譲らん!そもそも伏龍はどっこへ行きおった!伏龍と話す!」
ヰ近立会人のお陰で、事務室には立会人が溜まり始めていた。目蒲立会人と亘立会人、そして私、亜面。
「だから、出張だっつってんだろジジイ」
ぼそりと目蒲立会人が呟く。久しぶりに聞く、険のある言葉だった。隣の亘立会人がすかさず諌めるも、目蒲立会人は「私より先にあちらを諌めていただけませんかねぇ?その勇気がないなら別ですが」と喧嘩腰だ。亘立会人も些か気を悪くした様で、「君は何様のつもりなんだ」と言い返す。晴乃さんといる時とは違う刺々しい振る舞いに、ふと彼女はこの姿を見たらなんて言うだろうかと興味が湧いた。叱るんだろうか。叱るんだろうなあ。
真っ向から叱ってくる彼女を思い出すと、なんだか笑みがこぼれた。早く帰ってきて、この困った立会人達に喝を入れてくれないだろうか。
「いい加減にしてくれヰ近の旦那!若いのに示しが付かんだろうが!」
でも、喝を入れるのは当然晴乃さんではなく、滝さん。ヰ近立会人はちらりと私達を見て、フンと鼻を鳴らした。
「紅茶がなければ承知せんぞ!」
「知らん!さっさと行かねえか!」
どすどす大きな足音を立てて事務室を後にしようとするヰ近立会人に、なんとなく「行ってらっしゃいませ」と言った。返事はない。
「待たせたな、目蒲」
「はぁ…困りますねえ、選り好みするジジイには」
「目蒲…言葉が過ぎるぞ」
目蒲立会人は大げさなため息をついて、滝さんに任務の内容を伺う。滝さんも目蒲立会人相手に第二ラウンドを始めるのは嫌だったようで、苛々を隠し切らないまま、立会いの説明に入った。
なんだか凄くピリピリしているなあ。晴乃さんと滝さん、やってる事は同じはずなのに。
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立会いを仰せつかり、私は部下を引き連れて廊下を歩いていた。残念ながら私の引いた立会いもヰ近立会人のそれと同様、あまり魅力的なカードとは言えなかったが、仕方がない。落胆を部下に悟られぬよう、意識して背筋を伸ばす。
「泉江外務卿」
「亜面か」
泉江外務卿とすれ違い、私はつい声を掛ける。彼女は噛んでいた親指の爪を離して、こちらと目を合わせる。
「立会いか」
「はい。外務卿は?」
「掃討作戦だ」
「相変わらずお忙しそうですね」
「そうでもないさ」
外務卿とは、友達と言うには恐れ多いが、晴乃さんととても仲がいい為私ともそれなりの仲だ。
「目蒲立会人も私も立会いですが、他の皆は空いていると思いますよ」
「いらん。ありがとう」
いると思うんだけどな。私はささくれ立った彼女の親指の爪を見ながら、ぼんやり思った。
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指先の絆創膏が目に入る度、どうしてもげんなりした気持ちになってしまう。ゲームは予想通りとてつもなくつまらなかったし、ちゃぶ台返しも芸のない暴力頼みだった。それで怪我をしてしまうんだから、自分が情けない。
はあ、と、大きめなため息をつく。心配してくれる部下の皆には、先に立会人室に戻る様言った。
帰還報告をと思い入った事務室では、まだ滝さんが応対をしていた。
「おや、チ…伏龍さんではありませんでしたか」
「すみません門倉立会人、私で」
「悪い訳ではありませんよ。心配ですねと話していたところでしたので」
「おう亜面、こいつを連れて帰ってくれ。さっきからずーっとクダ巻いてやがる」
うんざりした表情の滝さんがそう言うと、門倉立会人は「滅相もない」と両手を挙げた。
「ただ、気になっただけですよ。彼女が今お屋形様と、どこで、どんな任務についているのか」
「すまねえな、知らん」
「知らんことはないでしょう。直属の部下です」
「お屋形様に貸せって言われりゃ、貸すしかねえよ」
いやしかし、と食い下がる門倉立会人と、ほとほとうんざりした顔で頬杖をつく滝さん。こんな時晴乃さんだったら、真っ先に絆創膏に気付いて心配してくれるんだろうな。
大きなため息をつきかけて、慌てて口元を覆った。