白い芥子は不安げに
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その日の伏龍はそれはもう分かりやすくキレていた。俺は立会人との応対を代わってやるべきかと迷ったが、昨日も今日も俺が応対に出るとクレームがつきそうなので二の足を踏む。
「なあ…どうした?」
能輪のとこの孫が、おずおずと聞いてみる。勇者である。
「別になんにも!ちょっと見殺しにされただけです!」
「み、見殺し?」
見殺し?!俺もついでに驚く。権田に視線を送ってみるが、奴も驚いているようだった。能輪のヒアリングに期待し、俺はペンを置いた。
「見殺しって…なんだよ、アレか?昨日の出張か?」
「ええ!そうですよもう、私すっごく困ってたのに棟耶さんったら写真撮って遊んでたんです!」
見てくださいよコレ!と、彼女は棟耶に貰ったのであろう、一枚の写真を能輪に見せる。能輪が噴き出した。どんな写真だったんだよ。
「なんか、凄え楽しそうじゃねえの、お前ら」
「その時点ではね!ええその時点ではすっごい楽しい出張でしたとも!でもその後…秘密だから言えないんですけど!トラブルがあって!私もお屋形様もすっごい困ったんです!」
「んで、その時判事は…」
「困ってる私たちの写真撮ってたんですよおお!」
伏龍はデスクを連打する。ガスガスと、気の抜けた音。はたから見れば小娘の暴走でも、こんな伏龍を誰も見たことがなかったので、俺たちにとっては迫力満点だった。
「あー腹立つ!」
「いやでもよお、判事もぜってえ訳があったんだろうぜ?」
「ああ?」
「スミマセン」
今あいつ立会人を謝らせたぞ!
「だって棟耶さん、私抜きでもいけるかと思ったって仰ったんですよ!そりゃ棟耶さん抜きでも確かになんとかなったけれども!」
あーむかつく!と吠える伏龍に、能輪は「ヤるか?すっきりするぜ?」と笑う。当然「やらないわよ!」と雄叫びが返ってきて、能輪はおどけて肩をすくめた。
ひらりと落ちてきた写真。そこには仲良く葡萄を頬張るお屋形様と伏龍が写っていた。
ーーーーーーーーーー
「いいね、この写真」
その日何度目かの、お屋形様のその言葉。私は肩を竦め、「伏龍には不評でしたが」と返す。「そりゃあそうだよ」とは、お屋形様の言葉。
「晴乃君の経歴を見たら、びっくりするほど普通だったよ。オーバーアチーバーなんだよ」
「そうでしょうか」
「うん。そこを自分でも弁えてるよね。自分が実力以上を出す綱渡りより、判事の通常通りのパフォーマンスの方がいいって分かってたんだよ」
助けてあげたら良かったじゃない。そう仰るお屋形様に、「お屋形様付きに加えるか、話し合っていたところでしたので」と答える。彼は肩をすくめた。
「どうするの?」
「仰せのままに」
「ふうん」
助けるという発想は勿論あった。しかし、伏龍の必死な態度を見ている内に、お屋形様と目蒲が重なった。過ってしまったのだ。お屋形様を助ける、伏龍の幻想が。
「この写真なんか、凄いよね。普通私の手に書こうとは思わないよ」
「全く、何を考えておったやらですね」
「必死だったんだろうねー。敬語も外れかけてたし」
「この程度で我を忘れるのなら、とてもお屋形様付きはやらせられませんな」
「まあ、そうなるね」
しかし、見れば見るほどいい写真だねえ。お屋形様はそう仰いながら、次はそれを少し離してお眺めになる。大層お気に召された様子だった。
「ちょっとね、栄羽を思い出したんだ」
「栄羽を、ですか」
「うん。栄羽とは全然違うんだけど、あの子の言うこと、栄羽と似てたよ」
「そうでしたか」
お屋形様の傅役であった栄羽。彼女に栄羽と同じようにお屋形様を守れるかと言われれば、勿論答えは否。寧ろ、力関係からいえば…
「傅られ役?」
ぷ、と、お屋形様が噴き出す。
「斬新すぎるよ、判事」
「やはりですか」
「うん。秘書にしとこう。蜂名直器の秘書」
「仰せのままに」
お屋形様は満足気に頷かれ、また写真を眺め始めた。私は個人的に気に入っている葡萄の写真を眺めて思う。どうぞ彼女が司る平穏に、彼が招かれますよう。
→番外編:彼女不在日
「なあ…どうした?」
能輪のとこの孫が、おずおずと聞いてみる。勇者である。
「別になんにも!ちょっと見殺しにされただけです!」
「み、見殺し?」
見殺し?!俺もついでに驚く。権田に視線を送ってみるが、奴も驚いているようだった。能輪のヒアリングに期待し、俺はペンを置いた。
「見殺しって…なんだよ、アレか?昨日の出張か?」
「ええ!そうですよもう、私すっごく困ってたのに棟耶さんったら写真撮って遊んでたんです!」
見てくださいよコレ!と、彼女は棟耶に貰ったのであろう、一枚の写真を能輪に見せる。能輪が噴き出した。どんな写真だったんだよ。
「なんか、凄え楽しそうじゃねえの、お前ら」
「その時点ではね!ええその時点ではすっごい楽しい出張でしたとも!でもその後…秘密だから言えないんですけど!トラブルがあって!私もお屋形様もすっごい困ったんです!」
「んで、その時判事は…」
「困ってる私たちの写真撮ってたんですよおお!」
伏龍はデスクを連打する。ガスガスと、気の抜けた音。はたから見れば小娘の暴走でも、こんな伏龍を誰も見たことがなかったので、俺たちにとっては迫力満点だった。
「あー腹立つ!」
「いやでもよお、判事もぜってえ訳があったんだろうぜ?」
「ああ?」
「スミマセン」
今あいつ立会人を謝らせたぞ!
「だって棟耶さん、私抜きでもいけるかと思ったって仰ったんですよ!そりゃ棟耶さん抜きでも確かになんとかなったけれども!」
あーむかつく!と吠える伏龍に、能輪は「ヤるか?すっきりするぜ?」と笑う。当然「やらないわよ!」と雄叫びが返ってきて、能輪はおどけて肩をすくめた。
ひらりと落ちてきた写真。そこには仲良く葡萄を頬張るお屋形様と伏龍が写っていた。
ーーーーーーーーーー
「いいね、この写真」
その日何度目かの、お屋形様のその言葉。私は肩を竦め、「伏龍には不評でしたが」と返す。「そりゃあそうだよ」とは、お屋形様の言葉。
「晴乃君の経歴を見たら、びっくりするほど普通だったよ。オーバーアチーバーなんだよ」
「そうでしょうか」
「うん。そこを自分でも弁えてるよね。自分が実力以上を出す綱渡りより、判事の通常通りのパフォーマンスの方がいいって分かってたんだよ」
助けてあげたら良かったじゃない。そう仰るお屋形様に、「お屋形様付きに加えるか、話し合っていたところでしたので」と答える。彼は肩をすくめた。
「どうするの?」
「仰せのままに」
「ふうん」
助けるという発想は勿論あった。しかし、伏龍の必死な態度を見ている内に、お屋形様と目蒲が重なった。過ってしまったのだ。お屋形様を助ける、伏龍の幻想が。
「この写真なんか、凄いよね。普通私の手に書こうとは思わないよ」
「全く、何を考えておったやらですね」
「必死だったんだろうねー。敬語も外れかけてたし」
「この程度で我を忘れるのなら、とてもお屋形様付きはやらせられませんな」
「まあ、そうなるね」
しかし、見れば見るほどいい写真だねえ。お屋形様はそう仰いながら、次はそれを少し離してお眺めになる。大層お気に召された様子だった。
「ちょっとね、栄羽を思い出したんだ」
「栄羽を、ですか」
「うん。栄羽とは全然違うんだけど、あの子の言うこと、栄羽と似てたよ」
「そうでしたか」
お屋形様の傅役であった栄羽。彼女に栄羽と同じようにお屋形様を守れるかと言われれば、勿論答えは否。寧ろ、力関係からいえば…
「傅られ役?」
ぷ、と、お屋形様が噴き出す。
「斬新すぎるよ、判事」
「やはりですか」
「うん。秘書にしとこう。蜂名直器の秘書」
「仰せのままに」
お屋形様は満足気に頷かれ、また写真を眺め始めた。私は個人的に気に入っている葡萄の写真を眺めて思う。どうぞ彼女が司る平穏に、彼が招かれますよう。
→番外編:彼女不在日