白い芥子は不安げに
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「あたーしは、ゆうれい、あなたーに、みえーない」
私は歌う。散々な目にあったなあ、今日は。無事に帰れたことが奇跡だよ、全く。
「ひとーひーらの、想いも、つーたーわーらなーいー」
お屋形様は私のこと忘れちゃうし。酷いなあ。
「それーでも、愛を、あたしーの、名前を、おしえーてほしいのー、そのくーちかーらー」
いつか、思い出してくれる日が来るんだろうか。それとも、一生初めましてを繰り返さなければいけないのか。今日のことも、忘れてしまう日が来るのだろうか。それは寂しいな。
「ひゅーるるるーるる…ん?」
ひゃ、と、思わず声が出る。5時以降のこのフロアには人がいないと思ったから熱唱していたのに、誰だあの影は!
「先生!」
「え、ど、銅寺さん?!」
先生なんて呼ぶのは賭郎で銅寺さんだけだし、何より声が銅寺さん。廊下の電気をつけなかったことが仇となったなあと後悔した。
「えと、聞こえてました?」
「歌ですか?ばっちりと」
叫びそうになった。いやむしろ、叫んだ。それに銅寺さんは苦笑いして、「可愛い声で歌うんですね」と褒めてくれた。でも、そんな事を言われても恥ずかしさが増すばかりで。
熱を持ってしまった頬を持て余している私に、銅寺さんは「無事でよかったです」と笑いかけた。私ははっとして、彼を見上げる。
「お屋形様に付き添って行ったと聞いて、居ても立っても居られなくて」
「もしかして、私のこと、心配して」
銅寺さんは照れて微笑む。それでここにいるって、つまり。
「銅寺さん…優しい…!」
私はつい抱きしめたくなってしまう衝動を堪えつつ、それだけ絞り出した。銅寺さんは後頭部を掻きながら、「ストーカー紛いのことしてるよね、ごめん」と詫びる。私は全力で頭を左右に振った。
「うれしいです、うれしいです」
「OK、良かった。本当に心配してたんです。その、先生が弱いって言う訳じゃないけど、お屋形様のサポートなんて、いつも判事レベルがする仕事だから」
そこは弱い扱いでいいのになあ。ぼやけば、銅寺さんはゆっくりと首を振る。
「先生は凄い人ですよ。皆先生を評価してます」
「でも、銅寺さんたちみたいには出来ませんし」
「OK、僕らができることは僕らがやるからOK。でも、賭郎には先生じゃないと出来ないことばっかりだよ」
「そんなのないですよう」
銅寺さんはふっと微笑んで、「明日、滝さんに聞いてみてください」と言った。もしかして、不在時にトラブルがあったのかしら。私は首を傾げた。銅寺さんはそれ以上の説明は何もくれない。
「怪我はありませんでしたか?」
「怪我?ないですよう」
「良かった。今更だけど、ドレス、すごく似合う…あ、似合います」
「もう銅寺さん、無理に敬語使わなくていいですよ」
「あ、そう?」
「はい。その、ありがとうございます」
自分で褒めておいて、銅寺さんは照れて顔を真っ赤にさせる。思わずこっちまで恥ずかしくなってしまった。頬を手の甲で冷やしながら、私は言う。
「上がっていきます?」
「申し出はすごく嬉しいけど、やめとくよ。誰かに見られたら誤解されちゃうだろうし」
「そうですか?」
「そうだよ。OK?本当は目蒲立会人と二人きりになることだって僕は心配してるんだから」
銅寺さんは紳士的だ。そして、そう言われてしまうと私も引き止めることはできず、「なら、またみんなでご飯にしましょうか」と持ち掛ける。銅寺さんは笑顔を見せて、「僕、ビーフシチューが食べたいな」とねだってきた。「材料さえ揃えば」と、笑って返す。「じゃ、買ってきます」と言って、銅寺さんは帰るそぶりを見せた。
「また明日」
「うん、明日ね」
銅寺さんが手を振るのを見て、私も振り返す。本当にいい人だなぁ。私は結われていた髪を解きながら、鼻歌を再開させた。
今日の最後が銅寺さんで良かった!
私は歌う。散々な目にあったなあ、今日は。無事に帰れたことが奇跡だよ、全く。
「ひとーひーらの、想いも、つーたーわーらなーいー」
お屋形様は私のこと忘れちゃうし。酷いなあ。
「それーでも、愛を、あたしーの、名前を、おしえーてほしいのー、そのくーちかーらー」
いつか、思い出してくれる日が来るんだろうか。それとも、一生初めましてを繰り返さなければいけないのか。今日のことも、忘れてしまう日が来るのだろうか。それは寂しいな。
「ひゅーるるるーるる…ん?」
ひゃ、と、思わず声が出る。5時以降のこのフロアには人がいないと思ったから熱唱していたのに、誰だあの影は!
「先生!」
「え、ど、銅寺さん?!」
先生なんて呼ぶのは賭郎で銅寺さんだけだし、何より声が銅寺さん。廊下の電気をつけなかったことが仇となったなあと後悔した。
「えと、聞こえてました?」
「歌ですか?ばっちりと」
叫びそうになった。いやむしろ、叫んだ。それに銅寺さんは苦笑いして、「可愛い声で歌うんですね」と褒めてくれた。でも、そんな事を言われても恥ずかしさが増すばかりで。
熱を持ってしまった頬を持て余している私に、銅寺さんは「無事でよかったです」と笑いかけた。私ははっとして、彼を見上げる。
「お屋形様に付き添って行ったと聞いて、居ても立っても居られなくて」
「もしかして、私のこと、心配して」
銅寺さんは照れて微笑む。それでここにいるって、つまり。
「銅寺さん…優しい…!」
私はつい抱きしめたくなってしまう衝動を堪えつつ、それだけ絞り出した。銅寺さんは後頭部を掻きながら、「ストーカー紛いのことしてるよね、ごめん」と詫びる。私は全力で頭を左右に振った。
「うれしいです、うれしいです」
「OK、良かった。本当に心配してたんです。その、先生が弱いって言う訳じゃないけど、お屋形様のサポートなんて、いつも判事レベルがする仕事だから」
そこは弱い扱いでいいのになあ。ぼやけば、銅寺さんはゆっくりと首を振る。
「先生は凄い人ですよ。皆先生を評価してます」
「でも、銅寺さんたちみたいには出来ませんし」
「OK、僕らができることは僕らがやるからOK。でも、賭郎には先生じゃないと出来ないことばっかりだよ」
「そんなのないですよう」
銅寺さんはふっと微笑んで、「明日、滝さんに聞いてみてください」と言った。もしかして、不在時にトラブルがあったのかしら。私は首を傾げた。銅寺さんはそれ以上の説明は何もくれない。
「怪我はありませんでしたか?」
「怪我?ないですよう」
「良かった。今更だけど、ドレス、すごく似合う…あ、似合います」
「もう銅寺さん、無理に敬語使わなくていいですよ」
「あ、そう?」
「はい。その、ありがとうございます」
自分で褒めておいて、銅寺さんは照れて顔を真っ赤にさせる。思わずこっちまで恥ずかしくなってしまった。頬を手の甲で冷やしながら、私は言う。
「上がっていきます?」
「申し出はすごく嬉しいけど、やめとくよ。誰かに見られたら誤解されちゃうだろうし」
「そうですか?」
「そうだよ。OK?本当は目蒲立会人と二人きりになることだって僕は心配してるんだから」
銅寺さんは紳士的だ。そして、そう言われてしまうと私も引き止めることはできず、「なら、またみんなでご飯にしましょうか」と持ち掛ける。銅寺さんは笑顔を見せて、「僕、ビーフシチューが食べたいな」とねだってきた。「材料さえ揃えば」と、笑って返す。「じゃ、買ってきます」と言って、銅寺さんは帰るそぶりを見せた。
「また明日」
「うん、明日ね」
銅寺さんが手を振るのを見て、私も振り返す。本当にいい人だなぁ。私は結われていた髪を解きながら、鼻歌を再開させた。
今日の最後が銅寺さんで良かった!