白い芥子は不安げに
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「やあ」
「や…あ?え、お屋形様?」
伏龍の素っ頓狂な声。その内容にぎょっとしてドアに目を向けると、確かにそこにいらっしゃるのはお屋形様。
唖然としてる場合じゃねえぞ伏龍!
俺は車椅子を転がしてお屋形様の方へと急いだ。
「おはようございますお屋形様。ここにいらっしゃるとは珍しい」
「ああ、久しぶりだね滝。最近楽しそうじゃない」
「ええ、ちんどん屋みてえな新入りのおかげで楽しませてもらってます」
滝さんひどいです!と後ろから野次が飛んだ気がするが、スルーする。
「そう。馴染んでるみたいでよかったよ。それで、役に立ってる?」
「はい。意外と」
そう。意外なところで非常に役に立ってくれている。残念ながら事務仕事自体の能力は並だが、立会人を御すのが病的に上手いのだ。一癖も二癖もある奴らの、その癖を上手く利用してその気にさせてから仕事に向かわせる。「つまらない仕事は他に回せ」と立会人がごねる姿を最近見ないのは、偏に伏龍の手腕によるところだろう。
そのことを話せば、お屋形様は「ちょうどいい」と満足気に頷いた。
「ちょうどいい、とは?」
「ああ、今日は伏龍を借りようと思ってね。パーティーがあるんだ」
パーティー!後ろで歓喜の声が聞こえた気がするが、スルーする。
「パーティーですか」
「うん。新組織設立による反乱分子をそこで撫で付ける。どうやら僕らに不快な態度を示しているのは警察だけじゃないらしくってね」
「それは伏龍じゃあ力不足では…」
「そんなことはない。それに、伏龍は僕の役に立ちたくて仕方がないはずだよ」
お屋形様の目が細められる。それは一体何を意味するのか真意を測りかね、俺は言葉を選んだ。その一瞬を縫うように、伏龍が後ろから声を掛けた。
「滝さん、そういう訳なので、代わってくださいな」
は?と思って振り返る。彼女がすぐ右後ろに立っていた。いつもと同じ立ち姿、いつもと同じ表情。だが、纏う雰囲気が違うと感じるのは、彼女の瞳の奥に冷たい炎が揺らぐのを見たからだ。
彼女は今誰よりも冷静で、誰よりも熱くなっている。そして、それを受けてお屋形様は不敵に笑う。
立会人としての自分が呼び覚まされる様な心持ちだった。お屋形様と伏龍との真剣勝負を見守る様な気分。
「私は何をすればいいんでしょうか?お屋形様」
彼女は僅かに首を傾げ、問いかける。お屋形様はそれに対し、「君は僕の新しい秘書としてパーティーに参加してくれ。嘘発見器をしてくれればいい。そういうの得意でしょ?」と答えた。彼女はにっこりと頷く。その目にうっすらと光るのは猜疑。それだけじゃないんでしょ?と目で問うていた。しかし、わざわざ口には出さない。何が起ころうが対処できるという自信の表れか。
意外とこの女、奥深い。
「四時になったら僕の部屋においで。そこで打ち合わせをして、そのまま出発する。衣装もこちらで手配するから、そのままで来てよ。事務での仕事があるならそれまでにきりをつけておいてよね」
「わかりました、お屋形様」
じゃあ後で、と、お屋形様は事務室を後にする。伏龍が纏う雰囲気も、普段のそれと変わらないものに戻った。
「なあ、なにがあったんだ?」
態と曖昧にそう問いかければ、彼女は肩を竦めて「名誉と命のための防衛戦です」と言った。なるほど、全然わからん。
「や…あ?え、お屋形様?」
伏龍の素っ頓狂な声。その内容にぎょっとしてドアに目を向けると、確かにそこにいらっしゃるのはお屋形様。
唖然としてる場合じゃねえぞ伏龍!
俺は車椅子を転がしてお屋形様の方へと急いだ。
「おはようございますお屋形様。ここにいらっしゃるとは珍しい」
「ああ、久しぶりだね滝。最近楽しそうじゃない」
「ええ、ちんどん屋みてえな新入りのおかげで楽しませてもらってます」
滝さんひどいです!と後ろから野次が飛んだ気がするが、スルーする。
「そう。馴染んでるみたいでよかったよ。それで、役に立ってる?」
「はい。意外と」
そう。意外なところで非常に役に立ってくれている。残念ながら事務仕事自体の能力は並だが、立会人を御すのが病的に上手いのだ。一癖も二癖もある奴らの、その癖を上手く利用してその気にさせてから仕事に向かわせる。「つまらない仕事は他に回せ」と立会人がごねる姿を最近見ないのは、偏に伏龍の手腕によるところだろう。
そのことを話せば、お屋形様は「ちょうどいい」と満足気に頷いた。
「ちょうどいい、とは?」
「ああ、今日は伏龍を借りようと思ってね。パーティーがあるんだ」
パーティー!後ろで歓喜の声が聞こえた気がするが、スルーする。
「パーティーですか」
「うん。新組織設立による反乱分子をそこで撫で付ける。どうやら僕らに不快な態度を示しているのは警察だけじゃないらしくってね」
「それは伏龍じゃあ力不足では…」
「そんなことはない。それに、伏龍は僕の役に立ちたくて仕方がないはずだよ」
お屋形様の目が細められる。それは一体何を意味するのか真意を測りかね、俺は言葉を選んだ。その一瞬を縫うように、伏龍が後ろから声を掛けた。
「滝さん、そういう訳なので、代わってくださいな」
は?と思って振り返る。彼女がすぐ右後ろに立っていた。いつもと同じ立ち姿、いつもと同じ表情。だが、纏う雰囲気が違うと感じるのは、彼女の瞳の奥に冷たい炎が揺らぐのを見たからだ。
彼女は今誰よりも冷静で、誰よりも熱くなっている。そして、それを受けてお屋形様は不敵に笑う。
立会人としての自分が呼び覚まされる様な心持ちだった。お屋形様と伏龍との真剣勝負を見守る様な気分。
「私は何をすればいいんでしょうか?お屋形様」
彼女は僅かに首を傾げ、問いかける。お屋形様はそれに対し、「君は僕の新しい秘書としてパーティーに参加してくれ。嘘発見器をしてくれればいい。そういうの得意でしょ?」と答えた。彼女はにっこりと頷く。その目にうっすらと光るのは猜疑。それだけじゃないんでしょ?と目で問うていた。しかし、わざわざ口には出さない。何が起ころうが対処できるという自信の表れか。
意外とこの女、奥深い。
「四時になったら僕の部屋においで。そこで打ち合わせをして、そのまま出発する。衣装もこちらで手配するから、そのままで来てよ。事務での仕事があるならそれまでにきりをつけておいてよね」
「わかりました、お屋形様」
じゃあ後で、と、お屋形様は事務室を後にする。伏龍が纏う雰囲気も、普段のそれと変わらないものに戻った。
「なあ、なにがあったんだ?」
態と曖昧にそう問いかければ、彼女は肩を竦めて「名誉と命のための防衛戦です」と言った。なるほど、全然わからん。