芍薬の意地
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あれ、久しぶり。キタロー君だっけ?」
「お久しぶりです獏様。目蒲鬼郎です」
「ああ、そうだっけ。じゃ、キタロー君、早速始めてくれる?」
態と煽ってくる嘘喰いに対し何か意趣返しをする気も起きず、俺は要望通りにことを進める。その両脇にはいつ俺がキレ出すかとヒヤヒヤしている梶様が、状況はわかっていないが嘘喰いが微笑んでいるから楽しいことが起きているんだろう位の表情のマルコが立っている。相手もどうやら迷い込んできた素人といった風態で、自分の目の前に居るのが立会人を呼べるほどの相手であるということの意味は分かっていないのだろう。ニヤニヤしている。
いたって平和である。これは早いだろうなと思っていたら、案の定、すぐに決着が着いた。つまらん。すごすご退散していく挑戦者達。プレイヤーサイドにも立会人サイドにも気だるい雰囲気が流れていた。
違和感、というか、平たく言えば殺気を感じたのはその時。慌てて後ろに飛び退く。直後、天井を蹴破るようにして男が落ちてくる。瓦礫の中すく、と立ったそれの腹めがけて一突き。それは体を捻りながらそれを躱し、返礼とばかりに同じく突きを繰り出した。首をかしげるような格好でそれを躱す。逃げそこなった髪の毛が風圧で揺れた。
そこでようやくその男を認識する。元零號、伽羅。厄介な男と対峙してしまった。じり、と踏み込みがしやすい位置まで距離をとる。伽羅がニヤリと笑う。剥き出しになった歯が獣のようだった。
「いいじゃねえか。他の奴らよかよっぽど動ける」
「最近獏様の元に派遣した立会人が報告書を提出しないのはあなたのせいでしたか」
「まあな」
「困りますねえ。どういうつもりか知りませんが、事務が嘆いていました…よっ!」
伽羅が出してきた蹴りをしゃがんで躱す。そのまま足払いを掛けるも、彼は敢えてそれに掛かる格好でボディプレス。すぐに転がって回避する。立ち上がるのは同時だった。新たに蹴りを入れながら、伽羅は喋る。
「軟弱な奴らばっかになっちまったからな、叩き直してやってんだよ」
「いっそ殺しておいて頂ければ席が空いてスッキリしたんですがねえ」
俺はそれを防ぎつつ、言葉を返す。彼は邪悪に笑いながら、更に言葉を重ねた。
「報告書云々はどうした」
「死人は報告書を出さないでしょう。生かして返すから彼女が困る羽目になるんです」
「次から考慮してやるよ」
またお互いに飛び退いて、直ぐに攻撃に転じる。一瞬伽羅が速かった。これは喰らう。左肩の筋肉が、痛みに備え硬直するのを感じた。
「伽羅さんストップストップー!」
間の抜けた嘘喰いの声。拍子抜けしたのが命取り。ぎりぎりいなせるかと思ったが、リズムが狂った。二の腕に痛みが走る。
「なんだ嘘喰い」
「伽羅さんこそ、何熱くなっちゃってるの。一撃の約束でしょ」
「うるせえ」
まるでこれ以降俺は襲いかからないと保証でもされたかのように、二人は話し始めた。カチンときて、割り込む。
「これはどういうおつもりでしょうか?獏様」
「予想通りだよ。こっちは本気で狙ってるんだよね、屋形越え」
佐田国様の姿が、ふと思い出された。屋形越えを望むのは珍しいことではないのかもしれない。
「だからさ、あんまり弱い人はいらないんだよね。キタロー君はちゃんと強いのかなって」
「それは、ご心配ありがとうございます」
「いやいや。前の時とは別人でびっくりしたよ」
「私は何も変わっておりません」
「そう?」
素直に言えば、コンディションは雲泥の差だと思う。あの時はあの馬鹿女のせいで極限まで追い詰められていたといっても過言ではない。あれほどしんどかったのは人生で初めてだった。
「そういえば、あの子ってなんていうの?」
「あの子、ですか」
「あの子あの子。廃坑で大暴れだった子」
大暴れとは面白い表現だな。実際は死に体だったが。
「ああ、晴乃」
何気なく出した言葉に些か驚き、そしてすんなり納得した。俺にとっての彼女は伏龍でもチビ助でもなく、晴乃だったらしい。
「ふうん、晴乃チャンか。まだちゃんと生きてる?」
「ええ、しぶとくも」
「よかったねえ」
「半死半生位が丁度良かったのですがねえ…」
「キタロー君、嘘つきだね」
「はて、何のことやら。ゲームも私の力試しも終了したようですので、これにて失礼致します」
このままここにいても彼女…いや、晴乃が嫌う詮索を受けるだけと判断し、俺は踵を返した。それを引き止めるのは、意外にも梶様。
「あの、目蒲さんと、その、晴乃さんってどういう関係なんですか?なんであの人あんなになってたんですか?」
「うわー梶ちゃん、火の玉ストレート」
「あ、すみません、気になっちゃって…その、別に答えなくていいです!」
「いえ…」
逡巡の末、俺は答えた。
「私が監禁して痛めつけました。彼女は被害者ですよ」
そう、それ以外の何でもない。彼女は未だ囚われている。そして、俺はこれからも彼女を捕えて逃さないのだから。
「では、今度こそ失礼致します」
俺はつとめて笑顔をつくって、そう告げた。
「お久しぶりです獏様。目蒲鬼郎です」
「ああ、そうだっけ。じゃ、キタロー君、早速始めてくれる?」
態と煽ってくる嘘喰いに対し何か意趣返しをする気も起きず、俺は要望通りにことを進める。その両脇にはいつ俺がキレ出すかとヒヤヒヤしている梶様が、状況はわかっていないが嘘喰いが微笑んでいるから楽しいことが起きているんだろう位の表情のマルコが立っている。相手もどうやら迷い込んできた素人といった風態で、自分の目の前に居るのが立会人を呼べるほどの相手であるということの意味は分かっていないのだろう。ニヤニヤしている。
いたって平和である。これは早いだろうなと思っていたら、案の定、すぐに決着が着いた。つまらん。すごすご退散していく挑戦者達。プレイヤーサイドにも立会人サイドにも気だるい雰囲気が流れていた。
違和感、というか、平たく言えば殺気を感じたのはその時。慌てて後ろに飛び退く。直後、天井を蹴破るようにして男が落ちてくる。瓦礫の中すく、と立ったそれの腹めがけて一突き。それは体を捻りながらそれを躱し、返礼とばかりに同じく突きを繰り出した。首をかしげるような格好でそれを躱す。逃げそこなった髪の毛が風圧で揺れた。
そこでようやくその男を認識する。元零號、伽羅。厄介な男と対峙してしまった。じり、と踏み込みがしやすい位置まで距離をとる。伽羅がニヤリと笑う。剥き出しになった歯が獣のようだった。
「いいじゃねえか。他の奴らよかよっぽど動ける」
「最近獏様の元に派遣した立会人が報告書を提出しないのはあなたのせいでしたか」
「まあな」
「困りますねえ。どういうつもりか知りませんが、事務が嘆いていました…よっ!」
伽羅が出してきた蹴りをしゃがんで躱す。そのまま足払いを掛けるも、彼は敢えてそれに掛かる格好でボディプレス。すぐに転がって回避する。立ち上がるのは同時だった。新たに蹴りを入れながら、伽羅は喋る。
「軟弱な奴らばっかになっちまったからな、叩き直してやってんだよ」
「いっそ殺しておいて頂ければ席が空いてスッキリしたんですがねえ」
俺はそれを防ぎつつ、言葉を返す。彼は邪悪に笑いながら、更に言葉を重ねた。
「報告書云々はどうした」
「死人は報告書を出さないでしょう。生かして返すから彼女が困る羽目になるんです」
「次から考慮してやるよ」
またお互いに飛び退いて、直ぐに攻撃に転じる。一瞬伽羅が速かった。これは喰らう。左肩の筋肉が、痛みに備え硬直するのを感じた。
「伽羅さんストップストップー!」
間の抜けた嘘喰いの声。拍子抜けしたのが命取り。ぎりぎりいなせるかと思ったが、リズムが狂った。二の腕に痛みが走る。
「なんだ嘘喰い」
「伽羅さんこそ、何熱くなっちゃってるの。一撃の約束でしょ」
「うるせえ」
まるでこれ以降俺は襲いかからないと保証でもされたかのように、二人は話し始めた。カチンときて、割り込む。
「これはどういうおつもりでしょうか?獏様」
「予想通りだよ。こっちは本気で狙ってるんだよね、屋形越え」
佐田国様の姿が、ふと思い出された。屋形越えを望むのは珍しいことではないのかもしれない。
「だからさ、あんまり弱い人はいらないんだよね。キタロー君はちゃんと強いのかなって」
「それは、ご心配ありがとうございます」
「いやいや。前の時とは別人でびっくりしたよ」
「私は何も変わっておりません」
「そう?」
素直に言えば、コンディションは雲泥の差だと思う。あの時はあの馬鹿女のせいで極限まで追い詰められていたといっても過言ではない。あれほどしんどかったのは人生で初めてだった。
「そういえば、あの子ってなんていうの?」
「あの子、ですか」
「あの子あの子。廃坑で大暴れだった子」
大暴れとは面白い表現だな。実際は死に体だったが。
「ああ、晴乃」
何気なく出した言葉に些か驚き、そしてすんなり納得した。俺にとっての彼女は伏龍でもチビ助でもなく、晴乃だったらしい。
「ふうん、晴乃チャンか。まだちゃんと生きてる?」
「ええ、しぶとくも」
「よかったねえ」
「半死半生位が丁度良かったのですがねえ…」
「キタロー君、嘘つきだね」
「はて、何のことやら。ゲームも私の力試しも終了したようですので、これにて失礼致します」
このままここにいても彼女…いや、晴乃が嫌う詮索を受けるだけと判断し、俺は踵を返した。それを引き止めるのは、意外にも梶様。
「あの、目蒲さんと、その、晴乃さんってどういう関係なんですか?なんであの人あんなになってたんですか?」
「うわー梶ちゃん、火の玉ストレート」
「あ、すみません、気になっちゃって…その、別に答えなくていいです!」
「いえ…」
逡巡の末、俺は答えた。
「私が監禁して痛めつけました。彼女は被害者ですよ」
そう、それ以外の何でもない。彼女は未だ囚われている。そして、俺はこれからも彼女を捕えて逃さないのだから。
「では、今度こそ失礼致します」
俺はつとめて笑顔をつくって、そう告げた。