捩花そよぐ夜の道
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「伏龍さん…」
CMで聞いた曲が流れ、ああ、この曲を歌っているアーティストだったかと思った所で、横からため息のような声が聞こえた。嘘だろう。身体が硬直する。やはりいたのか。しかも、男の方だったか。
どうする。俺は自問する。
声を掛けるか?とすれば、何と。膝の上で握る拳は硬く、己の緊張をこれでもかというほどに伝えてくる。声を掛けて、そして、何を得るというのだろうか。彼女を知りたいという欲求は、果たしてこの俺に許されるものなのだろうか。彼女を散々貶めたこの俺に。俺は拳を見つめる。彼女を人と思えぬ扱いをしたその拳は、全く反省しないまま、彼女の周辺にまで手を出そうとしている。許されていいのか、それが。これ以上彼女に迷惑をかけないよう、彼女の言うことを淡々とこなすのが筋ではなかろうか。俺は傲慢ではないのか。ああ、初めてだ。俺は行動する事に恐怖を感じている。笑える。この俺が、こんな、土壇場で迷うとは。
あの事件で、俺は弱くなったのだな。
口元が綻びるのを感じる。駄目だこれ。諦めた。何を言えばいいか分からん。椅子に深く腰掛け直す。いつのまにか曲は終わり、アーティストがさっきまで歌っていた曲を紹介していた。
ーーーーーーーーーー
「あら、お帰りなさい目蒲さん」
部屋のドアをノックすれば、いつも通りの笑顔で彼女が出てきた。「わざわざ戻ってきてくれたんですか?直帰で良かったのに」と笑う彼女に押しつけるように物販で買ったタオルを渡し、そのまま中へと体をねじ込む。わあ、と歓声が上がるのに聞こえないふりをして、そのままテーブルについた。
彼女はすぐに紅茶を持って来ると、前に座った。
「ありがとうございました」
「気にするな」
にこにこしながら俺を見つめる彼女に思わず舌打ちが出る。勿論、彼女は意に介さない。
「疲れた」
「あはは、目蒲さんああいう所苦手そうですもんねえ」
「大学の時以来だよ」
「へえ、行った事あったんですか」
「まあな。今日と一緒だよ、無理矢理だ」
「無理矢理…あなたを無理矢理連れて行ける人がいたなんて。彼女ですか?」
「お前さあ」
非難の意を込めて睨みつける。彼女はさして応えた様子もない様子で「ひゃあ怖っ」と悲鳴を上げた。
「いいじゃないですか、教えてくれたって」
「何で教えなきゃいけねえんだよ」
むしろお前が教えろよ。誰だったんだ俺の横にいた男。と言いかけて、飲み込む。知りたいような、知りたくないような。迷って、やっぱり飲み込む。
彼女は俺の思いをどこまで知ってか、くすりと笑った。
「どうでした?」
「あ?」
「ライブ」
「ああ…」
いい所を探そうとして、彼女にはあまり意味がないと思い直す。
「悪いが、俺には合わなかった」
「残念」
「がちゃがちゃ煩い」
「ああ、確かに賑やかな曲多いですしね」
「ああ。だが、CMに使われていた曲、あれはよかった」
「CMかあ。どれでしょ」
「何だったか…」
思い出しながら口ずさめば、彼女はぱっと表情を明るくさせた。
「あ、あの曲好きですか?!私もです!」
同じである事がそんなに嬉しいか。つい皮肉ろうとしたが、ふと、同じ気持ちになっている自分に気付く。
ああ、そうか。同じであることは嬉しいんだなあ。
俺は紅潮する頬を悟られないよう、そっと右手を顔に当てた。
CMで聞いた曲が流れ、ああ、この曲を歌っているアーティストだったかと思った所で、横からため息のような声が聞こえた。嘘だろう。身体が硬直する。やはりいたのか。しかも、男の方だったか。
どうする。俺は自問する。
声を掛けるか?とすれば、何と。膝の上で握る拳は硬く、己の緊張をこれでもかというほどに伝えてくる。声を掛けて、そして、何を得るというのだろうか。彼女を知りたいという欲求は、果たしてこの俺に許されるものなのだろうか。彼女を散々貶めたこの俺に。俺は拳を見つめる。彼女を人と思えぬ扱いをしたその拳は、全く反省しないまま、彼女の周辺にまで手を出そうとしている。許されていいのか、それが。これ以上彼女に迷惑をかけないよう、彼女の言うことを淡々とこなすのが筋ではなかろうか。俺は傲慢ではないのか。ああ、初めてだ。俺は行動する事に恐怖を感じている。笑える。この俺が、こんな、土壇場で迷うとは。
あの事件で、俺は弱くなったのだな。
口元が綻びるのを感じる。駄目だこれ。諦めた。何を言えばいいか分からん。椅子に深く腰掛け直す。いつのまにか曲は終わり、アーティストがさっきまで歌っていた曲を紹介していた。
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「あら、お帰りなさい目蒲さん」
部屋のドアをノックすれば、いつも通りの笑顔で彼女が出てきた。「わざわざ戻ってきてくれたんですか?直帰で良かったのに」と笑う彼女に押しつけるように物販で買ったタオルを渡し、そのまま中へと体をねじ込む。わあ、と歓声が上がるのに聞こえないふりをして、そのままテーブルについた。
彼女はすぐに紅茶を持って来ると、前に座った。
「ありがとうございました」
「気にするな」
にこにこしながら俺を見つめる彼女に思わず舌打ちが出る。勿論、彼女は意に介さない。
「疲れた」
「あはは、目蒲さんああいう所苦手そうですもんねえ」
「大学の時以来だよ」
「へえ、行った事あったんですか」
「まあな。今日と一緒だよ、無理矢理だ」
「無理矢理…あなたを無理矢理連れて行ける人がいたなんて。彼女ですか?」
「お前さあ」
非難の意を込めて睨みつける。彼女はさして応えた様子もない様子で「ひゃあ怖っ」と悲鳴を上げた。
「いいじゃないですか、教えてくれたって」
「何で教えなきゃいけねえんだよ」
むしろお前が教えろよ。誰だったんだ俺の横にいた男。と言いかけて、飲み込む。知りたいような、知りたくないような。迷って、やっぱり飲み込む。
彼女は俺の思いをどこまで知ってか、くすりと笑った。
「どうでした?」
「あ?」
「ライブ」
「ああ…」
いい所を探そうとして、彼女にはあまり意味がないと思い直す。
「悪いが、俺には合わなかった」
「残念」
「がちゃがちゃ煩い」
「ああ、確かに賑やかな曲多いですしね」
「ああ。だが、CMに使われていた曲、あれはよかった」
「CMかあ。どれでしょ」
「何だったか…」
思い出しながら口ずさめば、彼女はぱっと表情を明るくさせた。
「あ、あの曲好きですか?!私もです!」
同じである事がそんなに嬉しいか。つい皮肉ろうとしたが、ふと、同じ気持ちになっている自分に気付く。
ああ、そうか。同じであることは嬉しいんだなあ。
俺は紅潮する頬を悟られないよう、そっと右手を顔に当てた。