ギリアの元へ
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「久々におもろかったわ」
門っちが言うと、各々頷く。確かに騒がしい、いい夜だったと思う。
夜中の駐車場は車もまばらだが、それでもがらんどうではない辺りがこの組織の過酷さを感じさせる。まだ立会いの真っ最中の立会人がいるのだろう。ならば、彼女も彼らを応対する為に暫く寝ずに待つのだろうか。つくづく変な奴。
「亜面、電車まだあるのか?」
「いえ…歩こうかと」
「送る。乗れ」
泉江が軽く手を上げてから、車に乗り込む。亜面が会釈をして、それを追うように助手席に乗った。俺たちも二人に手を上げ、各々の車に乗り込む。
携帯が鳴ったのはその時だった。
ディスプレイを見れば、伏龍晴乃の文字。俺は通話ボタンを押して、携帯を耳に当てる。
「もしもし、目蒲さん?」
「ああ。どうした」
「ネクタイが出てきたんですが」
「ああそれか、明日取りに行く」
「イヤです」
「は?」
「今来てください」
「はあ?」
まだ近くにいますよね?と追撃してくる彼女の声が、いつもより平坦に聞こえた。なんとなく行った方がいい気がして、俺はこれ以上の抵抗をやめる。了承の旨を伝え、車を降りる。車内との温度差で身体が震えた。
「ちっ」
舌打ちの音が、無人の駐車場に響いた。
ーーーーーーーーーー
追ってきてしまった。バレたらどっちも怒るだろうな。そう思うけどここまできたら引き下がることもできず、僕は気合いを入れて身を潜めた。
何かが違う。どこかに嘘がある。先生と目蒲立会人の関係性はずっとどこか違和感があった。今だっておかしい。車に乗りかけたはずの目蒲立会人が、わざわざ先生の部屋まで戻ってきた。怒りながら。こんな人だっただろうか。こんな、不快感を露わにしながらも人に従う人だっただろうか。違う。目蒲立会人はあんな表情をしない。何故なら、そうなる前に離れるから。人に従わないから。
じゃあ、なんで先生にはこんなに深入りして、従うんだ?
気になったらもう止められなかった。あの魔法のような夜から、先生が賭郎の事務になるまでの空白の時間に何があったのか。先生優位の二人の関係がどうして生まれたのか。そして、どうしてあんなに優しい人が、こんな過酷な組織に身を落とすことになったのか。そのヒントがここにあるような気がして。
目蒲立会人がノックをする。三回。やがて先生が出てきて、二人は会話を始めた。
「ほら、ネクタイ」
「どこにあったか当てたら返しましょう」
「はあ?お前が取りに来いって言ったんだろうが」
「そんなん口実ですよ口実。目蒲さんのがお得意でしょ?」
「何怒ってんだよ」
「あなたには天地がひっくり返っても分かんないと思いますよ、私の心の機微なんて。ちゃんと一から十まで説明してあげますから、さっさとネクタイどこに置いたか自分で言ってください」
目蒲立会人は沈黙する。僕は先生って誰に対しても怒るんだな、と思った。「ちゃんと心配しあいなさい!」と平田様に怒る彼女を思い出す。
彼女はため息をついて、「なら質問を変えます。ネクタイをわざわざクッションの下に隠したのはわざとですね?」と問い直した。直後のさらに深いため息から察するに、目蒲立会人は首を縦に振ったのだろう。
「目蒲さん、私たち、一緒に生きるって約束しましたよね?あなたと約束したから、私はまだここに閉じ込められてる」
「ああ。悪いと思ってる」
一緒に生きる?閉じ込められてる?悪いと思ってる?違和感だらけの言葉たちに首をかしげる。
「悪いとなんて思わなくていいです、目蒲さん。私たちにあれ以外の方法なんてなかったじゃないですか」
「俺を見殺しにすればよかっただろ」
「そんなことしません!あと話ずれてきた!私が言いたいのはね目蒲さん、あなたがあなたの為にここまでした私の事を、まだ信頼してないのがむかつく!って事です」
「はあ?!」
「だって、私まだ理由がないと会えない人って思われてるじゃないですか!ネクタイ取りに来るついでとか、生活用品届けるついでとか!なにかのついでじゃないと私とお話できないみたいに振る舞うじゃないですか!」
「は、そんな、たまたまだろ!」
「たまたまでネクタイ隠すんですかあなたは!犬ですか!ゴールデンレトリバーですか!」
「お前今絶対髪の色見て言っただろう!小ネタを挟むな!」
「いえ仮に目蒲さんが黒髪だったとしたらラブラドールレトリバーだと」
「黙れ馬鹿女!」
「ひどい!」
息を荒げた二人が、一瞬黙る。
「…部屋に入れてくれ。話したい」
「それは、話したいだけですか?」
「話したいだけじゃ駄目なのか?」
「ううん。それだけで十分です。目蒲さん」
そして二人は部屋に入っていった。扉の閉まる音。もう声はほとんど聞こえない。
なんだったんだろう、今の。目蒲立会人を見殺しにしなかった先生と、先生と一緒に生きる為に先生を閉じ込めた目蒲立会人。いまいち締まらない会話の中にある深い闇と、確かに存在する絆。
分かった事が二つある。二人には大きな秘密があるってこと。そして、二人の間に分け入っていくには相当な労力が必要そうってこと。
適度にやっていこう。戦闘準備はOKだ。とりあえず今日のところはここで退散。立ち聞きがバレたら幻滅されちゃうからね。
門っちが言うと、各々頷く。確かに騒がしい、いい夜だったと思う。
夜中の駐車場は車もまばらだが、それでもがらんどうではない辺りがこの組織の過酷さを感じさせる。まだ立会いの真っ最中の立会人がいるのだろう。ならば、彼女も彼らを応対する為に暫く寝ずに待つのだろうか。つくづく変な奴。
「亜面、電車まだあるのか?」
「いえ…歩こうかと」
「送る。乗れ」
泉江が軽く手を上げてから、車に乗り込む。亜面が会釈をして、それを追うように助手席に乗った。俺たちも二人に手を上げ、各々の車に乗り込む。
携帯が鳴ったのはその時だった。
ディスプレイを見れば、伏龍晴乃の文字。俺は通話ボタンを押して、携帯を耳に当てる。
「もしもし、目蒲さん?」
「ああ。どうした」
「ネクタイが出てきたんですが」
「ああそれか、明日取りに行く」
「イヤです」
「は?」
「今来てください」
「はあ?」
まだ近くにいますよね?と追撃してくる彼女の声が、いつもより平坦に聞こえた。なんとなく行った方がいい気がして、俺はこれ以上の抵抗をやめる。了承の旨を伝え、車を降りる。車内との温度差で身体が震えた。
「ちっ」
舌打ちの音が、無人の駐車場に響いた。
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追ってきてしまった。バレたらどっちも怒るだろうな。そう思うけどここまできたら引き下がることもできず、僕は気合いを入れて身を潜めた。
何かが違う。どこかに嘘がある。先生と目蒲立会人の関係性はずっとどこか違和感があった。今だっておかしい。車に乗りかけたはずの目蒲立会人が、わざわざ先生の部屋まで戻ってきた。怒りながら。こんな人だっただろうか。こんな、不快感を露わにしながらも人に従う人だっただろうか。違う。目蒲立会人はあんな表情をしない。何故なら、そうなる前に離れるから。人に従わないから。
じゃあ、なんで先生にはこんなに深入りして、従うんだ?
気になったらもう止められなかった。あの魔法のような夜から、先生が賭郎の事務になるまでの空白の時間に何があったのか。先生優位の二人の関係がどうして生まれたのか。そして、どうしてあんなに優しい人が、こんな過酷な組織に身を落とすことになったのか。そのヒントがここにあるような気がして。
目蒲立会人がノックをする。三回。やがて先生が出てきて、二人は会話を始めた。
「ほら、ネクタイ」
「どこにあったか当てたら返しましょう」
「はあ?お前が取りに来いって言ったんだろうが」
「そんなん口実ですよ口実。目蒲さんのがお得意でしょ?」
「何怒ってんだよ」
「あなたには天地がひっくり返っても分かんないと思いますよ、私の心の機微なんて。ちゃんと一から十まで説明してあげますから、さっさとネクタイどこに置いたか自分で言ってください」
目蒲立会人は沈黙する。僕は先生って誰に対しても怒るんだな、と思った。「ちゃんと心配しあいなさい!」と平田様に怒る彼女を思い出す。
彼女はため息をついて、「なら質問を変えます。ネクタイをわざわざクッションの下に隠したのはわざとですね?」と問い直した。直後のさらに深いため息から察するに、目蒲立会人は首を縦に振ったのだろう。
「目蒲さん、私たち、一緒に生きるって約束しましたよね?あなたと約束したから、私はまだここに閉じ込められてる」
「ああ。悪いと思ってる」
一緒に生きる?閉じ込められてる?悪いと思ってる?違和感だらけの言葉たちに首をかしげる。
「悪いとなんて思わなくていいです、目蒲さん。私たちにあれ以外の方法なんてなかったじゃないですか」
「俺を見殺しにすればよかっただろ」
「そんなことしません!あと話ずれてきた!私が言いたいのはね目蒲さん、あなたがあなたの為にここまでした私の事を、まだ信頼してないのがむかつく!って事です」
「はあ?!」
「だって、私まだ理由がないと会えない人って思われてるじゃないですか!ネクタイ取りに来るついでとか、生活用品届けるついでとか!なにかのついでじゃないと私とお話できないみたいに振る舞うじゃないですか!」
「は、そんな、たまたまだろ!」
「たまたまでネクタイ隠すんですかあなたは!犬ですか!ゴールデンレトリバーですか!」
「お前今絶対髪の色見て言っただろう!小ネタを挟むな!」
「いえ仮に目蒲さんが黒髪だったとしたらラブラドールレトリバーだと」
「黙れ馬鹿女!」
「ひどい!」
息を荒げた二人が、一瞬黙る。
「…部屋に入れてくれ。話したい」
「それは、話したいだけですか?」
「話したいだけじゃ駄目なのか?」
「ううん。それだけで十分です。目蒲さん」
そして二人は部屋に入っていった。扉の閉まる音。もう声はほとんど聞こえない。
なんだったんだろう、今の。目蒲立会人を見殺しにしなかった先生と、先生と一緒に生きる為に先生を閉じ込めた目蒲立会人。いまいち締まらない会話の中にある深い闇と、確かに存在する絆。
分かった事が二つある。二人には大きな秘密があるってこと。そして、二人の間に分け入っていくには相当な労力が必要そうってこと。
適度にやっていこう。戦闘準備はOKだ。とりあえず今日のところはここで退散。立ち聞きがバレたら幻滅されちゃうからね。