アマドコロを頼りに
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「あ、もうすぐ銅寺さん帰って来るそうですよ」
彼女がエプロンからあからさまなキッズスマホを取り出すのを見て、俺はなんともいえない気持ちになった。不釣り合いであって欲しかったが、哀しいかな、幼い派手さは彼女の雰囲気によく馴染む。
彼女に携帯が支給されたのは、つい先日のこと。外部と連絡を取らないようにと、インターネットに繋がらないものを渡されたそうだ。賭郎のイントラネットと社員の連絡先が入ったまさに社用携帯。それでも社交的な彼女にはいい娯楽らしい。頻繁に新しくできた友達と連絡を取り合っている。もちろん銅寺もその一人で、今回は立会い終わりをわざわざ伝えてきたようだ。
「早かったな」
「そうですね。今帰って来られたらちょうど夕飯中なんだけど、どうしようかな」
彼女はスマホの画面を親指で撫でながら逡巡する。
「いつも通り優しく紅茶でも淹れて差し上げればいいんじゃないですかねぇ」
「やだ目蒲さん嫌味…ていうか、目蒲さんにも淹れてるじゃないですか。何が不満なんですか」
「分かりませんか」
「分かりませんよ」
「実は私、だいぶ前から腹が減っていましてね」
「ああ、そういう…」
少し笑って、彼女は「なら、食べましょっか」と言った。さっきまでスマホの上を彷徨っていた親指がスラスラと銅寺への返信を打ち始める。なんて打った?と聞くと、今から夕ご飯なのでごめんなさいとだけですよー、と言いながら携帯をテーブルに置いた。
「ご飯つけてきますね」
「急げ」
「もー」
仕方がないなぁと笑いながら、彼女は小走りでキッチンへ消えていった。俺は減ってしまった茶を淹れ直す。部屋には味噌汁の匂いが充満していた。
ーーーーーーーーーー
「ご馳走様」
「いえ。いつも買い出しありがとうございます」
食べ終わって手を合わせると、彼女はそう言いながら残ったご飯をかっこむ。急ぐなよと制しても遅かったらしい。彼女は最後の一口を口に含み、まったり咀嚼を始めた。
「ったく」
「だーって、一人で食べるの寂しくて…」
「俺のせいか」
「もう、分からず屋」
わざわざ嫌味な言い方をした俺を、彼女は睨む。分からず屋と言われても分からないものは分からない。バツが悪くなって、俺は「ビール」と言った。ため息をつかれる。
「車、どうするんですか?」
「電車で帰る」
「ちゃんと帰って下さいよ?前みたいに終電直前に叩き出すの嫌ですからね」
「善処する」
「だからビール」とねだると、彼女はまたため息をついて、食器を片付け始めた。それらを下げたその手でビールとグラスを運んでくる。俺はそれらを受け取ると、プルトップを引き上げた。プシュ、という軽快な音。
「飲まねえの?」
「今日はいいです。飲んだら寝ちゃいそう」
「ふうん」
俺はビールに口をつける。よく冷えたビールが喉に心地よい。彼女は頬杖をついてそんな俺を眺める。目が合うと彼女の目はすっと細まり、笑みの形を作った。
「どうした?」
「んー、美味しそうだなって、思っただけです」
「飲めばいい」
「それはいいかなぁ」
ふあぁ、と彼女は大きなあくびをした。ほっといたら寝そうだな。俺はまたビールに口をつける。
気怠げな時間を破ったのは、再びの銅寺からのメールだった。
「ん、報告書を出したいそうです」
「行くのか?」
「行きます」
「ふうん」
また一口ビールを飲む。彼女は薄く笑みを浮かべ、「早めに戻ってきますね」と言った。
彼女がエプロンからあからさまなキッズスマホを取り出すのを見て、俺はなんともいえない気持ちになった。不釣り合いであって欲しかったが、哀しいかな、幼い派手さは彼女の雰囲気によく馴染む。
彼女に携帯が支給されたのは、つい先日のこと。外部と連絡を取らないようにと、インターネットに繋がらないものを渡されたそうだ。賭郎のイントラネットと社員の連絡先が入ったまさに社用携帯。それでも社交的な彼女にはいい娯楽らしい。頻繁に新しくできた友達と連絡を取り合っている。もちろん銅寺もその一人で、今回は立会い終わりをわざわざ伝えてきたようだ。
「早かったな」
「そうですね。今帰って来られたらちょうど夕飯中なんだけど、どうしようかな」
彼女はスマホの画面を親指で撫でながら逡巡する。
「いつも通り優しく紅茶でも淹れて差し上げればいいんじゃないですかねぇ」
「やだ目蒲さん嫌味…ていうか、目蒲さんにも淹れてるじゃないですか。何が不満なんですか」
「分かりませんか」
「分かりませんよ」
「実は私、だいぶ前から腹が減っていましてね」
「ああ、そういう…」
少し笑って、彼女は「なら、食べましょっか」と言った。さっきまでスマホの上を彷徨っていた親指がスラスラと銅寺への返信を打ち始める。なんて打った?と聞くと、今から夕ご飯なのでごめんなさいとだけですよー、と言いながら携帯をテーブルに置いた。
「ご飯つけてきますね」
「急げ」
「もー」
仕方がないなぁと笑いながら、彼女は小走りでキッチンへ消えていった。俺は減ってしまった茶を淹れ直す。部屋には味噌汁の匂いが充満していた。
ーーーーーーーーーー
「ご馳走様」
「いえ。いつも買い出しありがとうございます」
食べ終わって手を合わせると、彼女はそう言いながら残ったご飯をかっこむ。急ぐなよと制しても遅かったらしい。彼女は最後の一口を口に含み、まったり咀嚼を始めた。
「ったく」
「だーって、一人で食べるの寂しくて…」
「俺のせいか」
「もう、分からず屋」
わざわざ嫌味な言い方をした俺を、彼女は睨む。分からず屋と言われても分からないものは分からない。バツが悪くなって、俺は「ビール」と言った。ため息をつかれる。
「車、どうするんですか?」
「電車で帰る」
「ちゃんと帰って下さいよ?前みたいに終電直前に叩き出すの嫌ですからね」
「善処する」
「だからビール」とねだると、彼女はまたため息をついて、食器を片付け始めた。それらを下げたその手でビールとグラスを運んでくる。俺はそれらを受け取ると、プルトップを引き上げた。プシュ、という軽快な音。
「飲まねえの?」
「今日はいいです。飲んだら寝ちゃいそう」
「ふうん」
俺はビールに口をつける。よく冷えたビールが喉に心地よい。彼女は頬杖をついてそんな俺を眺める。目が合うと彼女の目はすっと細まり、笑みの形を作った。
「どうした?」
「んー、美味しそうだなって、思っただけです」
「飲めばいい」
「それはいいかなぁ」
ふあぁ、と彼女は大きなあくびをした。ほっといたら寝そうだな。俺はまたビールに口をつける。
気怠げな時間を破ったのは、再びの銅寺からのメールだった。
「ん、報告書を出したいそうです」
「行くのか?」
「行きます」
「ふうん」
また一口ビールを飲む。彼女は薄く笑みを浮かべ、「早めに戻ってきますね」と言った。