梅の遊撃
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「貘様代わってくださいよう!」
「無理だよ。俺男だもん」
「行けますってウィッグ被ればぁ!」
横で雑魚が喚くので、俺はそのケツに一発蹴りを入れた。「ぎゃんっ!」と、色気のねえ悲鳴が祭りの喧騒に消える。
「ななな、何するんですか伽羅さん!」
「黙れ」
「酷い!」
中腰になってケツをさする姿が何とも情けなく、俺は思わず鼻で笑う。そうすると雑魚はジトっとした目で俺を睨みつけてくるが、特にそれ以上何をしてくるという訳でもない。要するに、雑魚なのだ。
「だって、練習が中断したと思ったらカリ梅の袋詰めさせられて、終わったと思ったらここですよ?休憩が無いのはおかしい」
「ぶつぶつうるせえ。たかが女子ども相手で疲れてんじゃねえ」
「私も女の子なんですぅ」
またケツに一発入れると、雑魚は「ぎゃん!」と飛び上がり、円形の台の前方に落下した。
「千ビオス、だな」
「足技は反則です!」
キャンキャン喚く雑魚だったが、新たに一人女性客が目の前にやってきたので口を閉じ、一時的にキリッとした表情になった。
「手押し相撲挑戦者の方ですか?」
彼女は言う。そう、結局嘘喰いの言うがまま、カリ梅販売も、手押し相撲バトルも行われる事になった。カリ梅一粒100ビオスという強気な値段設定の裏には、手押し相撲に勝てば一万ビオスのチャレンジチケットがついている。宝くじの側面があるという事だ。ただし、この俺に勝てと言われてもやる気が起きない層がいるのも確か。そのため、女性、子どもに限りこの雑魚ーー伏龍晴乃ーーに手押し相撲で挑戦できる枠が設けられた。ただし、彼女に勝っても賞金は十分の一の千ビオス。一万ビオスを勝ち取りたければ俺に挑む他無い。
それでも、彼女が程よい割合で負けているのが人々に「自分も賞金を得ることができるのではないか」という思いを抱かせ、挑戦に駆り立てるのだ。
その結果、彼女はあの小さな円台を降りられずにいる。
相手取っているのは同年代の細身の女性。格闘技とは無縁である事が筋肉のつき方から窺えるが、それはあの雑魚も同じ。筋肉の足りない細い腕同士だが、違うのは経験。雑魚は「わあ」だの「ひょえ」だの悲鳴を上げつつも、ひょいひょい相手の攻撃をいなしている。経験の差、だけではない。才能の差だ。
彼女の目は感情を捉える。つまり、戦闘において敵意や殺意を捉えられるのと同じ。その多寡を見極めれば、攻撃がいつ来るかは先読みできる。フィジカルが同程度ならば彼女が勝つ。これは確定だ。
これは胸中に留めている話だが、俺はこの女が賭郎から受けてきたであろう様々な暴力は全て‘見切る事はできたが身体能力が追いつかなかった為に受けざるを得なかった’ものだと考えている。仮説が合っていれば、かなりの恐怖だったはずだ。更に不憫なのは、彼女に戦闘センス自体は無いという事。鍛えたところで、黒服とも満足に戦う事はできないだろう。
だが、まあこれでいい。俺は辛くも手押し相撲に勝利し、ガッツポーズをする彼女を見て思う。とりあえず、一般人より強けりゃあ使い道はある。
「たのもー!」
ちょうど列が途切れたタイミングを狙い、マルコがやってきた。
「マルコもカリ梅買ったよ!」
「ム!!」
丁度いい。何戦しようが全力を出せない一般人相手の余興は退屈だったし、雑魚を観察するにも限度があったところだ。俺はいそいそと円台に上がる。「何だか親子みたいですね」と雑魚が笑った。
「おい、俺がそんなジジイに見えるか?」
「どっちかというとマー君が5歳に見えます」
「ム…」
つい納得してしまい、俺は口を噤む。それを見て今度は嘘喰いが笑った。そこに梶の野郎までやってきて、「どうしたんですか、貘さん?」なんて聞き始めるもんだから始末に追えん。俺はマルコに「さっさと始めるぞ」と声を掛け、円台に乗るよう促した。
「無理だよ。俺男だもん」
「行けますってウィッグ被ればぁ!」
横で雑魚が喚くので、俺はそのケツに一発蹴りを入れた。「ぎゃんっ!」と、色気のねえ悲鳴が祭りの喧騒に消える。
「ななな、何するんですか伽羅さん!」
「黙れ」
「酷い!」
中腰になってケツをさする姿が何とも情けなく、俺は思わず鼻で笑う。そうすると雑魚はジトっとした目で俺を睨みつけてくるが、特にそれ以上何をしてくるという訳でもない。要するに、雑魚なのだ。
「だって、練習が中断したと思ったらカリ梅の袋詰めさせられて、終わったと思ったらここですよ?休憩が無いのはおかしい」
「ぶつぶつうるせえ。たかが女子ども相手で疲れてんじゃねえ」
「私も女の子なんですぅ」
またケツに一発入れると、雑魚は「ぎゃん!」と飛び上がり、円形の台の前方に落下した。
「千ビオス、だな」
「足技は反則です!」
キャンキャン喚く雑魚だったが、新たに一人女性客が目の前にやってきたので口を閉じ、一時的にキリッとした表情になった。
「手押し相撲挑戦者の方ですか?」
彼女は言う。そう、結局嘘喰いの言うがまま、カリ梅販売も、手押し相撲バトルも行われる事になった。カリ梅一粒100ビオスという強気な値段設定の裏には、手押し相撲に勝てば一万ビオスのチャレンジチケットがついている。宝くじの側面があるという事だ。ただし、この俺に勝てと言われてもやる気が起きない層がいるのも確か。そのため、女性、子どもに限りこの雑魚ーー伏龍晴乃ーーに手押し相撲で挑戦できる枠が設けられた。ただし、彼女に勝っても賞金は十分の一の千ビオス。一万ビオスを勝ち取りたければ俺に挑む他無い。
それでも、彼女が程よい割合で負けているのが人々に「自分も賞金を得ることができるのではないか」という思いを抱かせ、挑戦に駆り立てるのだ。
その結果、彼女はあの小さな円台を降りられずにいる。
相手取っているのは同年代の細身の女性。格闘技とは無縁である事が筋肉のつき方から窺えるが、それはあの雑魚も同じ。筋肉の足りない細い腕同士だが、違うのは経験。雑魚は「わあ」だの「ひょえ」だの悲鳴を上げつつも、ひょいひょい相手の攻撃をいなしている。経験の差、だけではない。才能の差だ。
彼女の目は感情を捉える。つまり、戦闘において敵意や殺意を捉えられるのと同じ。その多寡を見極めれば、攻撃がいつ来るかは先読みできる。フィジカルが同程度ならば彼女が勝つ。これは確定だ。
これは胸中に留めている話だが、俺はこの女が賭郎から受けてきたであろう様々な暴力は全て‘見切る事はできたが身体能力が追いつかなかった為に受けざるを得なかった’ものだと考えている。仮説が合っていれば、かなりの恐怖だったはずだ。更に不憫なのは、彼女に戦闘センス自体は無いという事。鍛えたところで、黒服とも満足に戦う事はできないだろう。
だが、まあこれでいい。俺は辛くも手押し相撲に勝利し、ガッツポーズをする彼女を見て思う。とりあえず、一般人より強けりゃあ使い道はある。
「たのもー!」
ちょうど列が途切れたタイミングを狙い、マルコがやってきた。
「マルコもカリ梅買ったよ!」
「ム!!」
丁度いい。何戦しようが全力を出せない一般人相手の余興は退屈だったし、雑魚を観察するにも限度があったところだ。俺はいそいそと円台に上がる。「何だか親子みたいですね」と雑魚が笑った。
「おい、俺がそんなジジイに見えるか?」
「どっちかというとマー君が5歳に見えます」
「ム…」
つい納得してしまい、俺は口を噤む。それを見て今度は嘘喰いが笑った。そこに梶の野郎までやってきて、「どうしたんですか、貘さん?」なんて聞き始めるもんだから始末に追えん。俺はマルコに「さっさと始めるぞ」と声を掛け、円台に乗るよう促した。