水仙の排撃
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「まあ、いいんじゃない?」
「いや、あなたのイカサマの話でしょうが」
相変わらず三人だけのホテルロビー。晴乃チャンは口を尖らせつつも、揃ったカードをディスカードパイルに捨てる。本当に俺のイカサマはスルーする事に決めたらしい。ありがたく流れに乗らせてもらう。
「晴乃チャンのその思い切りの良さ大好き」
「あなたに言われましてもねえ」
「嬉しいくせに」
「なんですかその自己評価の高さは」
「まあまあ。困ってるんでしょ?明日からの畑運営。助けてあげるよ、伽羅さんが」
「まさにその伽羅さんに…」
よって窮地に立たされているんですが、とでも言おうとしたのだろう。しかし、横の伽羅さんが黒黒しいオーラを放ち始めたので彼女は口を噤む。
「…私がした約束じゃありませんもん」
「わあ、晴乃チャンたら屁理屈!いーけないんだ!」
「うざい。伽羅さん、一体どうしてこんな方の下で?」
「うぜえ」
「え、伽羅さんそれどっちのこと!?」
俺は聞いてみたけど、伽羅さんは俺をガン無視の上晴乃チャンに「奴隷を逃れた奴らがいる筈だ。そいつらを使え」とぶっきらぼうな一言を投げる。
「奴隷を逃れた…?市民に戻った方ですか?」
「違え…いる筈だ。‘奴隷という困難な身分’を乗りこなした奴らがな…俺達が把握していなかった勢力…モノにすりゃあラロ共に先手を打てる…」
「ふうん…」
「何が不満だ…」
「だって、」
彼女は言いかけて止める。伽羅さんや護衛の立会人達が、玄関に注意を向けたのに気付いたからだ。そして、その様子を見た俺もまた、玄関に視線を向ける。
「貘兄ちゃん!大変なのよー!」
フィン、と自動ドアが開く音に重ねるように、雄叫びを上げながら突入してきたのはマルコを先頭とした砦落としメンバー。直後マルコは俺達がロビーにいる事に気付いて声量を落とし、「大変なの、カジが怪我しちゃった!」と、背中でぐたっとしている梶ちゃんを見せてきた。
「病院行きじゃない?」
「治療したよ!」
「マー君が?」
「うん!」
大きく頷いたマルコだが、すぐに横にいたチャンプから「いやいや、門倉立会人だよ。俺らも手伝いはしたけど」と訂正が入った。
「ならいいか。寝かそう」
「分かったよ!」
ドタバタと梶ちゃんの部屋目掛けて走っていくマルコ。しかし、砦落としメンバーたちもその後ろについて行こうとしたので、俺はチャンプに声を掛けた。
「ね、ちょっと座って。どうなったか教えてくれない?」
「え?…ああ」
頷いて席に着くチャンプ。それを気遣って、晴乃チャンが机に散らばっているカードを寄せた。
ーーーーーーーーーー
「おーい!」
地上から呼ぶ声がしたので、僕はえっちらおっちら体を起こし、窓を開ける。晴乃さんかな?と思ったら、案の定。子ども達に囲まれながら、楽しそうに手を振っている彼女がいた。
「マー君から目が覚めたって聞きましたよー!おはようございまーす!」
「ええと…おはようござい…っ」
「あ、すみません!傷に響きますね!?」
彼女はちょっとうろたえた様子を見せたと思うと、腰元に侍らせた子ども達に「ほらね、カジ兄ちゃん元気だよ!」と言いながらその場を離れていく。方角的に、また畑に戻るのだろうか?というか、何しに来たんだろう?僕は去りゆく一団を2階から見送りつつ、首を傾げた。
謎が解けたのはそれから5分後のことだった。晴乃さんが「さっきはすみません、子ども達が‘カジは砦落としに失敗して死んだんだ’ってうるさかったものだから」と笑いながら部屋に入ってきたからだ。
「なんですか、その噂」
「ホントにね。上がってるのはショウドの旗なのになんで知ってるんでしょ」
彼女はけらけら笑ったが、僕としてはその話は辛い。
「失敗した事、出回ってるんですかね?」
「失敗?誰のです?」
「それはもちろん…」
「僕、ですか?嫌だ、梶様ちゃんと敵を一人退けたじゃないですか。これであちらの残りは四人になった。最高の結果ですよ」
「でも、砦を取られたんですよ?」
「お屋形様に取られるのの何が問題なんです?あの人同じチームなんだから、あの人が王になったっていいじゃないですか」
「えー、いや…」
そう考えたら、問題は無いような。僕は一旦口を閉じ、考える。確かに伏龍さんが言う通りかもしれない。誰が王になってもいいなら、革命の呼び水は別にテイバーからじゃなくていい。貘さんがあんまり動揺した様子がなかったのはそのせいかな?考える内に、僕は少し元気を取り戻す。
「まあ、お屋形様は貘様とラロさんの共倒れ狙ってるんですけどね」
「ええ!?」
戻ってきた元気が粉々に砕け散るのを、晴乃さんが笑った。
「酷いじゃないですが、なんでそんな事言ったんですか!」
「あっはっは、すみませんすみません。すごく落ち込んでたから」
「だから上げて落としたんですか!?」
「笑ってくれるかなって」
僕ががっくりと肩を落とすのを、彼女はやっぱり笑った。
「はあ、楽しい。素直なんだから」
「悪かったですね」
「悪くなんて。久しぶりに人と喋ってる感じです」
「へ?」
「だって、賭郎の人達難しいんですもん」
彼女は笑う。さっきからずっと笑っている。でも、そんな彼女は、不意に笑顔を引っ込めて人差し指を立てる。
「梶様は自分だけがミスをなさってるつもりですが、私も盛大にミスってますよ」
「え、嘘」
「本当。畑はせしめてきたんじゃありません。運営の不況を買って首輪を付けられたんです」
「嘘だあ」
「ホントホント。ミスした者同士ですよ、私達」
適当に慰めているんじゃないかと疑う僕の目をまっすぐ見て、彼女はクスッと笑う。
「本当。仲良くしましょ」
「いやいや…」
「ふふ。私の事疑ってますね?六人目のプレーヤー、ハルが早速裏切ったように、私も裏切るんじゃないかって」
「えっ…」
「顔に書いてありますよう。でも、それは間違い。私はあなた達を裏切らない。だって、この勝負に興味が無いから」
「興味が…無い?いやいや、だって晴乃さん、賭郎の…切間創一の部下じゃないですか!」
「うふふ。正確には‘元’部下ですね。もっと言うなら、‘元人質’。今の私はそんなにも賭郎に拘ってないんです。立会人さん達が酷い目に遭わなければそれで」
「へえ…へえ?え、それ貘さん知ってますか?」
「知ってますね。…やだ、元気出して下さいよ。別に意地悪じゃなくて、あなたを育てたかっただけですから、あの人」
「でもさあ…」
「まあまあ…ね?ほら、私は裏切らない。心配が一つ消えたでしょう?」
確かに、それはそうかもしれない。卍戦開幕からずっとしこりになっていた部分だから、言質を取れてすっきりはした。わざわざ慰めにきて、不安を取り除いてくれた。僕は彼女のように心を読める訳ではないけど、その行動に真実を感じて少しだけ元気を取り戻す事ができた。
「まあ、その代わり時が来たら離脱しますけどね。卍戦興味ないし」
「えええ!?」
戻ってきた元気が粉々に砕け散るのを、晴乃さんがまた笑った。
「いや、あなたのイカサマの話でしょうが」
相変わらず三人だけのホテルロビー。晴乃チャンは口を尖らせつつも、揃ったカードをディスカードパイルに捨てる。本当に俺のイカサマはスルーする事に決めたらしい。ありがたく流れに乗らせてもらう。
「晴乃チャンのその思い切りの良さ大好き」
「あなたに言われましてもねえ」
「嬉しいくせに」
「なんですかその自己評価の高さは」
「まあまあ。困ってるんでしょ?明日からの畑運営。助けてあげるよ、伽羅さんが」
「まさにその伽羅さんに…」
よって窮地に立たされているんですが、とでも言おうとしたのだろう。しかし、横の伽羅さんが黒黒しいオーラを放ち始めたので彼女は口を噤む。
「…私がした約束じゃありませんもん」
「わあ、晴乃チャンたら屁理屈!いーけないんだ!」
「うざい。伽羅さん、一体どうしてこんな方の下で?」
「うぜえ」
「え、伽羅さんそれどっちのこと!?」
俺は聞いてみたけど、伽羅さんは俺をガン無視の上晴乃チャンに「奴隷を逃れた奴らがいる筈だ。そいつらを使え」とぶっきらぼうな一言を投げる。
「奴隷を逃れた…?市民に戻った方ですか?」
「違え…いる筈だ。‘奴隷という困難な身分’を乗りこなした奴らがな…俺達が把握していなかった勢力…モノにすりゃあラロ共に先手を打てる…」
「ふうん…」
「何が不満だ…」
「だって、」
彼女は言いかけて止める。伽羅さんや護衛の立会人達が、玄関に注意を向けたのに気付いたからだ。そして、その様子を見た俺もまた、玄関に視線を向ける。
「貘兄ちゃん!大変なのよー!」
フィン、と自動ドアが開く音に重ねるように、雄叫びを上げながら突入してきたのはマルコを先頭とした砦落としメンバー。直後マルコは俺達がロビーにいる事に気付いて声量を落とし、「大変なの、カジが怪我しちゃった!」と、背中でぐたっとしている梶ちゃんを見せてきた。
「病院行きじゃない?」
「治療したよ!」
「マー君が?」
「うん!」
大きく頷いたマルコだが、すぐに横にいたチャンプから「いやいや、門倉立会人だよ。俺らも手伝いはしたけど」と訂正が入った。
「ならいいか。寝かそう」
「分かったよ!」
ドタバタと梶ちゃんの部屋目掛けて走っていくマルコ。しかし、砦落としメンバーたちもその後ろについて行こうとしたので、俺はチャンプに声を掛けた。
「ね、ちょっと座って。どうなったか教えてくれない?」
「え?…ああ」
頷いて席に着くチャンプ。それを気遣って、晴乃チャンが机に散らばっているカードを寄せた。
ーーーーーーーーーー
「おーい!」
地上から呼ぶ声がしたので、僕はえっちらおっちら体を起こし、窓を開ける。晴乃さんかな?と思ったら、案の定。子ども達に囲まれながら、楽しそうに手を振っている彼女がいた。
「マー君から目が覚めたって聞きましたよー!おはようございまーす!」
「ええと…おはようござい…っ」
「あ、すみません!傷に響きますね!?」
彼女はちょっとうろたえた様子を見せたと思うと、腰元に侍らせた子ども達に「ほらね、カジ兄ちゃん元気だよ!」と言いながらその場を離れていく。方角的に、また畑に戻るのだろうか?というか、何しに来たんだろう?僕は去りゆく一団を2階から見送りつつ、首を傾げた。
謎が解けたのはそれから5分後のことだった。晴乃さんが「さっきはすみません、子ども達が‘カジは砦落としに失敗して死んだんだ’ってうるさかったものだから」と笑いながら部屋に入ってきたからだ。
「なんですか、その噂」
「ホントにね。上がってるのはショウドの旗なのになんで知ってるんでしょ」
彼女はけらけら笑ったが、僕としてはその話は辛い。
「失敗した事、出回ってるんですかね?」
「失敗?誰のです?」
「それはもちろん…」
「僕、ですか?嫌だ、梶様ちゃんと敵を一人退けたじゃないですか。これであちらの残りは四人になった。最高の結果ですよ」
「でも、砦を取られたんですよ?」
「お屋形様に取られるのの何が問題なんです?あの人同じチームなんだから、あの人が王になったっていいじゃないですか」
「えー、いや…」
そう考えたら、問題は無いような。僕は一旦口を閉じ、考える。確かに伏龍さんが言う通りかもしれない。誰が王になってもいいなら、革命の呼び水は別にテイバーからじゃなくていい。貘さんがあんまり動揺した様子がなかったのはそのせいかな?考える内に、僕は少し元気を取り戻す。
「まあ、お屋形様は貘様とラロさんの共倒れ狙ってるんですけどね」
「ええ!?」
戻ってきた元気が粉々に砕け散るのを、晴乃さんが笑った。
「酷いじゃないですが、なんでそんな事言ったんですか!」
「あっはっは、すみませんすみません。すごく落ち込んでたから」
「だから上げて落としたんですか!?」
「笑ってくれるかなって」
僕ががっくりと肩を落とすのを、彼女はやっぱり笑った。
「はあ、楽しい。素直なんだから」
「悪かったですね」
「悪くなんて。久しぶりに人と喋ってる感じです」
「へ?」
「だって、賭郎の人達難しいんですもん」
彼女は笑う。さっきからずっと笑っている。でも、そんな彼女は、不意に笑顔を引っ込めて人差し指を立てる。
「梶様は自分だけがミスをなさってるつもりですが、私も盛大にミスってますよ」
「え、嘘」
「本当。畑はせしめてきたんじゃありません。運営の不況を買って首輪を付けられたんです」
「嘘だあ」
「ホントホント。ミスした者同士ですよ、私達」
適当に慰めているんじゃないかと疑う僕の目をまっすぐ見て、彼女はクスッと笑う。
「本当。仲良くしましょ」
「いやいや…」
「ふふ。私の事疑ってますね?六人目のプレーヤー、ハルが早速裏切ったように、私も裏切るんじゃないかって」
「えっ…」
「顔に書いてありますよう。でも、それは間違い。私はあなた達を裏切らない。だって、この勝負に興味が無いから」
「興味が…無い?いやいや、だって晴乃さん、賭郎の…切間創一の部下じゃないですか!」
「うふふ。正確には‘元’部下ですね。もっと言うなら、‘元人質’。今の私はそんなにも賭郎に拘ってないんです。立会人さん達が酷い目に遭わなければそれで」
「へえ…へえ?え、それ貘さん知ってますか?」
「知ってますね。…やだ、元気出して下さいよ。別に意地悪じゃなくて、あなたを育てたかっただけですから、あの人」
「でもさあ…」
「まあまあ…ね?ほら、私は裏切らない。心配が一つ消えたでしょう?」
確かに、それはそうかもしれない。卍戦開幕からずっとしこりになっていた部分だから、言質を取れてすっきりはした。わざわざ慰めにきて、不安を取り除いてくれた。僕は彼女のように心を読める訳ではないけど、その行動に真実を感じて少しだけ元気を取り戻す事ができた。
「まあ、その代わり時が来たら離脱しますけどね。卍戦興味ないし」
「えええ!?」
戻ってきた元気が粉々に砕け散るのを、晴乃さんがまた笑った。