水仙の排撃
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「帝国タワーから落ちたそうじゃねえか」
「あ、はい」
と答えたのも束の間。伽羅さんが振るう木刀が脳天めがけて降ってきたのでモロに喰らう。ちかちかと瞬く視界。思わず「痛った!」と蹲れば、その腹目掛けて蹴りが飛んできたものだからもう大変。私はなす術もなく腹を抑え、地面に転がる羽目になった。
「弱えな」
「げほ、げほっ!…ひっど!」
すると、視界の端で再び彼の足が持ち上がったので、私は慌てて立ち上がって体勢を立て直した。しかし、あまりに早すぎる攻撃に間に合うはずもなく。
「ぐっ…ふっ!」
背中に食らい、私は無様にもまた地面に転がった。逃げねば、次は背骨がへし折られる。そう思うけど動かない体に、せめて力を入れて攻撃に備える。しかし、「ふん…雑魚が」と声が降ってきたのみだった。
稽古は終わりらしい。私は体の力を抜き、地面に体を委ねた。すると、伽羅さんは「目はいいようだが体がまるで付いてきてねえな。それと、戦うと決めた時点で対話の選択肢は捨てろ。死にたくなけりゃあな」とありがたい講評をくださるので、「心得ました」と返す。
「ほら、さっさと立ち上がれ。殺すぞ」
「うおっ…!」
私は慌てて立ち上がった。だって、言葉に嘘の気配が1ミリもなかったんだもの。何とか痛みを訴える体に無理を聞いてもらった私は、もうそのままの勢いで歩き出すことにする。目指すは宿の自分の部屋である。さもなくば、誰も私を連れてってなどくれないだろう。…いや、連れてってくれそうな人はいるけどあまり部屋に入れたくないし、気のおけない立会人さん達はみんな業務中だからプレイヤーに手出しはしない。
という訳で気合いで足を動かす私に、伽羅さんはもう一度「帝国タワーから落ちたそうじゃねえか」と問い掛けてきた。
「はい、落ちました」
「何故だ」
「何故って…」
私は当時を思い出し、長くなり過ぎそうな話に辟易する。
「落とされたんですもん。捨隈さんって、貘様の対戦相手から」
「おっと、聞いてた話と若干違えな」
私は引きずっていた足を止め、彼を見る。好奇心の宿る瞳と、試してやろうと上がる口元。これは良くないなと身構えた瞬間、彼の意地悪な唇は「天使ちゃん、なんだろ?」なんて動くものだから力が抜けてしまう。
「ちょっと、何でそれを…」
「マルコから聞いたもんでな」
「ああ、そうですか」
「あいつは言葉が拙くていけねえな?」
気さくに聞こえる言葉とは裏腹、目にはごりごりの警戒心が宿っている。さて、彼ほどの絶対強者が一体どうして。私は心当たりを探り、その中でふと警戒心という意味では同じでも、劣等感と羨望の入り混じる梶様の目を思い出す。なるほど、今まで気にも留めなかった事が気になったのはそういう事か。
「助けてあげたくなっちゃったんです、捨隈さんのこと」
「は?」
「可哀想だなって思って、助けてあげられそうだなって思うともうダメですね。体が動いちゃう。割と、あなたと似たような思考回路をしてるんです、私」
「おい。馬鹿にするにも限度がある」
「馬鹿になんて。貴方だって、たった一人のために全てをかなぐり捨てて、あっちもこっちも拾い上げようともがきながらここにいる。同じなんですよ、私達」
「死にてえらしいな」
「今は梶様が不安がるからこうしてるんですよね?」
じっと彼の目を見つめれば、一瞬の逡巡の後、ぬっと手が伸びてくる。丸太のような腕が私の頭上に影を落としたと思えば、頭全体を痛みが包んだ。
「あいたたたたた!」
「誰のためだって?もう一度言ってみろよ、雑魚が」
「あいたっ!いたた!スミマセン!」
「二度と言うな」
「ハイ!」
そう叫ぶと、彼はぱっと手を離して先へ行ってしまう。何だってんだ。とはいえ、納得はしていただけた様子。私はもう遠くなり始めている背中を眺める。梶様の為というのは図星だったのだろう。だからこそ、他人の為に動いたという私を信じてくれたというもの。つい口元が緩む。優しい人だ。一挙手一投足全てが怖いけど。
「あ、はい」
と答えたのも束の間。伽羅さんが振るう木刀が脳天めがけて降ってきたのでモロに喰らう。ちかちかと瞬く視界。思わず「痛った!」と蹲れば、その腹目掛けて蹴りが飛んできたものだからもう大変。私はなす術もなく腹を抑え、地面に転がる羽目になった。
「弱えな」
「げほ、げほっ!…ひっど!」
すると、視界の端で再び彼の足が持ち上がったので、私は慌てて立ち上がって体勢を立て直した。しかし、あまりに早すぎる攻撃に間に合うはずもなく。
「ぐっ…ふっ!」
背中に食らい、私は無様にもまた地面に転がった。逃げねば、次は背骨がへし折られる。そう思うけど動かない体に、せめて力を入れて攻撃に備える。しかし、「ふん…雑魚が」と声が降ってきたのみだった。
稽古は終わりらしい。私は体の力を抜き、地面に体を委ねた。すると、伽羅さんは「目はいいようだが体がまるで付いてきてねえな。それと、戦うと決めた時点で対話の選択肢は捨てろ。死にたくなけりゃあな」とありがたい講評をくださるので、「心得ました」と返す。
「ほら、さっさと立ち上がれ。殺すぞ」
「うおっ…!」
私は慌てて立ち上がった。だって、言葉に嘘の気配が1ミリもなかったんだもの。何とか痛みを訴える体に無理を聞いてもらった私は、もうそのままの勢いで歩き出すことにする。目指すは宿の自分の部屋である。さもなくば、誰も私を連れてってなどくれないだろう。…いや、連れてってくれそうな人はいるけどあまり部屋に入れたくないし、気のおけない立会人さん達はみんな業務中だからプレイヤーに手出しはしない。
という訳で気合いで足を動かす私に、伽羅さんはもう一度「帝国タワーから落ちたそうじゃねえか」と問い掛けてきた。
「はい、落ちました」
「何故だ」
「何故って…」
私は当時を思い出し、長くなり過ぎそうな話に辟易する。
「落とされたんですもん。捨隈さんって、貘様の対戦相手から」
「おっと、聞いてた話と若干違えな」
私は引きずっていた足を止め、彼を見る。好奇心の宿る瞳と、試してやろうと上がる口元。これは良くないなと身構えた瞬間、彼の意地悪な唇は「天使ちゃん、なんだろ?」なんて動くものだから力が抜けてしまう。
「ちょっと、何でそれを…」
「マルコから聞いたもんでな」
「ああ、そうですか」
「あいつは言葉が拙くていけねえな?」
気さくに聞こえる言葉とは裏腹、目にはごりごりの警戒心が宿っている。さて、彼ほどの絶対強者が一体どうして。私は心当たりを探り、その中でふと警戒心という意味では同じでも、劣等感と羨望の入り混じる梶様の目を思い出す。なるほど、今まで気にも留めなかった事が気になったのはそういう事か。
「助けてあげたくなっちゃったんです、捨隈さんのこと」
「は?」
「可哀想だなって思って、助けてあげられそうだなって思うともうダメですね。体が動いちゃう。割と、あなたと似たような思考回路をしてるんです、私」
「おい。馬鹿にするにも限度がある」
「馬鹿になんて。貴方だって、たった一人のために全てをかなぐり捨てて、あっちもこっちも拾い上げようともがきながらここにいる。同じなんですよ、私達」
「死にてえらしいな」
「今は梶様が不安がるからこうしてるんですよね?」
じっと彼の目を見つめれば、一瞬の逡巡の後、ぬっと手が伸びてくる。丸太のような腕が私の頭上に影を落としたと思えば、頭全体を痛みが包んだ。
「あいたたたたた!」
「誰のためだって?もう一度言ってみろよ、雑魚が」
「あいたっ!いたた!スミマセン!」
「二度と言うな」
「ハイ!」
そう叫ぶと、彼はぱっと手を離して先へ行ってしまう。何だってんだ。とはいえ、納得はしていただけた様子。私はもう遠くなり始めている背中を眺める。梶様の為というのは図星だったのだろう。だからこそ、他人の為に動いたという私を信じてくれたというもの。つい口元が緩む。優しい人だ。一挙手一投足全てが怖いけど。