水仙の排撃
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教会の前の畑には、昨日の今日で集めたとは思えない数の女性達が野菜の栽培に励んでいる。全て風俗店の従業員、つまり、女奴隷だ。朝イチの客が少ない時間帯なのをいい事に、小遣い稼ぎに来たという訳。
「さあ、プランターに植えた方のほうれん草は日陰に置いて…と。どうなるかな?」
働く女性たちの中で一人だけ、子どもに囲まれた女性がいる。もちろんあの子どもたちも賃金を払って集めた従業員だが、やっている事といえば理科の実験。良いのだろうか。僕は内心首を傾げるが、畑事業は全て‘彼女’の管轄。僕に口を出す権利は無い。
そんな心配を他所に、横にいたマルコが「カジ、マルコちょっと見てくるよ!」と僕に一言断りを入れ、彼女の方へ駆け寄っていった。年甲斐もなく割り込んで、果たして彼女の真横をゲットしたマルコに「あーずるい!」という少年の声が掛かる。
「早い者勝ちなのよ!」
マルコは叫び返した。大の大人、しかも体躯でいえば他の大人よりずっと大きいなのに、不思議と自然に見えてしまうので僕は苦笑いする。
そうしている間にも、彼女の周りにはわらわらと他の子どもたちが集まってきて。
「日陰でも変わらないんじゃない?!」
「さあ、どうだろうね。どちらにせよ、もう少し待てば美味しいスープになるよ。それともおひたしがいいかな」
「おひたし?」
「ふふ、プロトポロスにはないかもねえ。作ってあげようね」
彼女は問い掛けてきた少年の頭を一撫ですると、「さ、仕事に戻ろう。ブロッコリーの苗植えもあるからね」と呟いて立ち上がった。すると、すぐさまその両脇に少女が二人ひっついたので、他の子どもから「ずるい!」の合唱が始まった。しかし、彼女にうろたえる様子は無い。けらけら笑いながら「みんなで行こうねえ」と一団を足元にまとわりつかせたまま、器用に前進していった。
彼女は伏龍晴乃さん。貘さんの5人目の協力者で、賭郎の人質兼事務員。初日に風俗店18店舗を経営するオーナーを支配下に置き、3日目にはロバートKを追って運営に殴り込みに行き、ついでに畑の運営権を貰って帰ってきた女傑である。尤も、彼女自身は「こんなはずじゃなかった」を繰り返していたので、恐らくもっと凄いものを運営からせしめるつもりだったのだろう。恐れ入るけど……僕の心は複雑だ。あの日の炭坑からずっと貘さんの興味を惹いてきて、ついに味方として卍に入ってきた晴乃さん。貘さんが帝都タワーの後も、僕の知らないところで口説いていたのが察せられてしまって。
実際に、口説く価値のある凄い人なのは分かるけど。でも。
ほうれん草を使って日光と発芽の関係の授業をしている晴乃さんを、畑の外側から眺める。いつも人に囲まれている彼女。どうしてこの島に来てくれたのかは、直接聞けないままだ。
ーーーーーーーーーー
「興味ねえ」
宿泊している宿のロビーで寛ぐ伽羅さんに聞いたら、答えはそれだった。強者の余裕というやつだろうか。鼻を鳴らす彼に、僕は「怪しいじゃないですか。賭郎に軟禁されてた人の筈でしょ?!」と食い下がる。すると、彼はギロリと僕を睨み上げ、「使えねえ奴隷よか怪しい市民だろ」と言うので言葉に詰まる。僕とマルコの参戦初日の事を引き合いに出されてしまえば、もう何も言い返せない。
「でも…」
「キモいんだよ、お前」
「そんな…だって、おかしいじゃないですか!」
「何がだ」
「こんな大事な戦いに敵が味方か分かんないような人がくる事がですよ!」
「ハッ!」
伽羅さんが鼻で笑って立ち上がる。そして、「そんな綺麗事じゃねえ、戦いってのは」とクツクツ笑いながら去っていった。
「そんな…」
がっくり肩を落とす僕。その背後に賑やかな声のかたまりが近づいてくるのを感じ、ゆっくり振り返る。案の定、それは晴乃さんの一団だった。
「あ…終わったんですね、畑仕事」
「ええ、水やりだけですからね」
笑顔を向けてくる彼女の横、マルコが「カジもお手伝いしたら良かったのよ!」と非難してくるので「疲れてて」と咄嗟に嘘をついた。晴乃さんの目が細まる。
底の見えない墨色の瞳。気まずくなって目を伏せた僕を、彼女は「午後からもレベル上げですもんねえ」と苦笑して逃した。よく考えなくても、この人もマルコもレベル上げで休む暇が無いのは同じなのに。
「気にしないで下さいね。自分の失態のカバー半分、趣味半分なんで」
彼女はそう言って、一団を引き連れたまま去っていった。僕は俯いてそれをやり過ごす。
なんか嫌だな、と思う。こうやって、自分がずっといたはずのチームで新しい人が大きな顔をしてるのって。無人に戻ったロビーで、僕は行き場なくソファに腰掛けた。
「さあ、プランターに植えた方のほうれん草は日陰に置いて…と。どうなるかな?」
働く女性たちの中で一人だけ、子どもに囲まれた女性がいる。もちろんあの子どもたちも賃金を払って集めた従業員だが、やっている事といえば理科の実験。良いのだろうか。僕は内心首を傾げるが、畑事業は全て‘彼女’の管轄。僕に口を出す権利は無い。
そんな心配を他所に、横にいたマルコが「カジ、マルコちょっと見てくるよ!」と僕に一言断りを入れ、彼女の方へ駆け寄っていった。年甲斐もなく割り込んで、果たして彼女の真横をゲットしたマルコに「あーずるい!」という少年の声が掛かる。
「早い者勝ちなのよ!」
マルコは叫び返した。大の大人、しかも体躯でいえば他の大人よりずっと大きいなのに、不思議と自然に見えてしまうので僕は苦笑いする。
そうしている間にも、彼女の周りにはわらわらと他の子どもたちが集まってきて。
「日陰でも変わらないんじゃない?!」
「さあ、どうだろうね。どちらにせよ、もう少し待てば美味しいスープになるよ。それともおひたしがいいかな」
「おひたし?」
「ふふ、プロトポロスにはないかもねえ。作ってあげようね」
彼女は問い掛けてきた少年の頭を一撫ですると、「さ、仕事に戻ろう。ブロッコリーの苗植えもあるからね」と呟いて立ち上がった。すると、すぐさまその両脇に少女が二人ひっついたので、他の子どもから「ずるい!」の合唱が始まった。しかし、彼女にうろたえる様子は無い。けらけら笑いながら「みんなで行こうねえ」と一団を足元にまとわりつかせたまま、器用に前進していった。
彼女は伏龍晴乃さん。貘さんの5人目の協力者で、賭郎の人質兼事務員。初日に風俗店18店舗を経営するオーナーを支配下に置き、3日目にはロバートKを追って運営に殴り込みに行き、ついでに畑の運営権を貰って帰ってきた女傑である。尤も、彼女自身は「こんなはずじゃなかった」を繰り返していたので、恐らくもっと凄いものを運営からせしめるつもりだったのだろう。恐れ入るけど……僕の心は複雑だ。あの日の炭坑からずっと貘さんの興味を惹いてきて、ついに味方として卍に入ってきた晴乃さん。貘さんが帝都タワーの後も、僕の知らないところで口説いていたのが察せられてしまって。
実際に、口説く価値のある凄い人なのは分かるけど。でも。
ほうれん草を使って日光と発芽の関係の授業をしている晴乃さんを、畑の外側から眺める。いつも人に囲まれている彼女。どうしてこの島に来てくれたのかは、直接聞けないままだ。
ーーーーーーーーーー
「興味ねえ」
宿泊している宿のロビーで寛ぐ伽羅さんに聞いたら、答えはそれだった。強者の余裕というやつだろうか。鼻を鳴らす彼に、僕は「怪しいじゃないですか。賭郎に軟禁されてた人の筈でしょ?!」と食い下がる。すると、彼はギロリと僕を睨み上げ、「使えねえ奴隷よか怪しい市民だろ」と言うので言葉に詰まる。僕とマルコの参戦初日の事を引き合いに出されてしまえば、もう何も言い返せない。
「でも…」
「キモいんだよ、お前」
「そんな…だって、おかしいじゃないですか!」
「何がだ」
「こんな大事な戦いに敵が味方か分かんないような人がくる事がですよ!」
「ハッ!」
伽羅さんが鼻で笑って立ち上がる。そして、「そんな綺麗事じゃねえ、戦いってのは」とクツクツ笑いながら去っていった。
「そんな…」
がっくり肩を落とす僕。その背後に賑やかな声のかたまりが近づいてくるのを感じ、ゆっくり振り返る。案の定、それは晴乃さんの一団だった。
「あ…終わったんですね、畑仕事」
「ええ、水やりだけですからね」
笑顔を向けてくる彼女の横、マルコが「カジもお手伝いしたら良かったのよ!」と非難してくるので「疲れてて」と咄嗟に嘘をついた。晴乃さんの目が細まる。
底の見えない墨色の瞳。気まずくなって目を伏せた僕を、彼女は「午後からもレベル上げですもんねえ」と苦笑して逃した。よく考えなくても、この人もマルコもレベル上げで休む暇が無いのは同じなのに。
「気にしないで下さいね。自分の失態のカバー半分、趣味半分なんで」
彼女はそう言って、一団を引き連れたまま去っていった。僕は俯いてそれをやり過ごす。
なんか嫌だな、と思う。こうやって、自分がずっといたはずのチームで新しい人が大きな顔をしてるのって。無人に戻ったロビーで、僕は行き場なくソファに腰掛けた。