ベロニカの突撃
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「間に合いましたか……」
聞き覚えのある声に振り返って、案の定の男と目が合う。
「弥鱈……立会人」
「これはこれはノヂシャ様。随分とお転婆をなされたようで」
そう言って人が悪い笑みを浮かべる彼の横には、長身の男が立っている。島の主である管理人だろう。見下ろしてくる視線の冷たさが、私が運営にかけた迷惑の大きさときっちり同じなので間違いない。だが、そんな私達の睨み合いなんて関係ないと言わんばかりに、弥鱈君は銅寺さんに話し始める。
「……説得は実りませんでしたね、銅寺立会人。ここからはおまかせ下さい」
「OK、悔しいけれどそのようだね。OK」
肩を竦める銅寺さんに同じく肩を竦めて返す弥鱈君の横、管理人さんが「確かに、さっき私が面接した男だ……」と顎に手をやった。
「まさか、我々‘運営’に手をかけるプレイヤーが存在するとは……これは由々しき事態だ」
「しかし、被害は最小に抑えられました。ロバートKが奪った運営スタッフのインナー……その人物の特定やロバートKの追跡は、倉庫にて銅寺立会人と遭遇、シーバーを渡し通信しながら行動できたからに他なりません。そして……プレイヤー・ノヂシャとプレイヤー・マルコをここ管理室に誘導、ロバートKと鉢合わさせた事も」
「はぁー」
私はため息をついた。頭のいい人はこれだから嫌い。そんな私をギロリと見下ろして、管理人さんはインカムで誰かと話し出す。
「台場だ。闘技場にいるアウトロー扱いのプレイヤーハントは中断する。引き上げなさい。だが、今回の騒動の犯人は確保しました。我々に牙を向く事は重罪です。回収に来てください」
彼は通信しながら、じっとこちらを睨んでいる。つまり、言い聞かせられている。私はこの男のプライドと殺意の高さに唾を飲んだ。マルコ様が私に覆い被さったまま肩を抱き寄せ、密着してくる。私も最悪の場合は抱えて逃げてもらえるよう、彼の脇腹を掴む。
「どうする?」
マルコ様に耳元に囁かれ、私も「穏便にいきましょう。やる事はもう全部終わってます」と囁き返す。彼は頷くが、眉間の皺が納得できていない事を告げている。だが……生憎、この男にこれ以上喧嘩を売って無事に帰れる自信が無い。
「さあ……見せしめにはできませんが、私の気がおさまらない……この男には苦しみ抜いて死んでもらいます」
「あ……ちょっと、何言ってるの?」
通信を切り、独りごちる台場さんに待ったをかけたのは、銅寺さん。彼は台場さんと話しやすいよう一歩進み出て、「ロバートKは、私が粛清対象と判断しその任を負ったんです」と言った。
「……だから?」
「‘だから?’……ーーっと、汲み取れなかったですか?粛清はもう終わったんですよ」
銅寺さんの意図を汲み取ったらしい台場さんが、早足でロバートKの元に歩み寄って脈を調べる。そして、「死……んでる」と驚きの声を漏らした。「当然です。それが立会人です」と弥鱈君がその背中に声を掛ける。
だけど。
私は気付いていた。弥鱈君も銅寺さんも嘘をついている事に。しかし、台場さんはちゃんと脈を調べた上で死んでると言ってもいて。どの部分に嘘があるというのだろう。私は内心首を傾げたが、台場さんの矛先がこちらに向いたのに気付いて考えるのをやめた。
「死んでしまったものは仕方がありませんが……さて、こちらをどうするか」
そう言ってしゃがみ込み、台場さんは私達の顔を真正面から覗き込んだ。その瞳を見つめ返し、私は腹を括る。
「……穏便にいきません?」
「何を言っているのか……真正面から運営に喧嘩を売っておきながら……」
「それはそうなんですが……ロバートKと話したかっただけなんですよう」
「最初からそう言っていただければ」
「それはそう。仰る通り」
「……まさかとは思うが、君は私が君の事を殺さないとでも思っているのか?」
青筋を立てる台場さんに、一か八か「違うんですか?」と逆に問い掛ける。
「不愉快な」
「ほうら。私とマルコ様に電気ショックが来なかったからそうだろうと思ってたんです。私を粛清するに足る理由がないんだ」
台場さんの青筋が更に濃く浮かび上がるので、私は畳み掛ける。
「見せしめにすればいい。この島に蔓延る闇に悩む人々の前で、彼らの辞職届を運んできただけのシスターを、その手で。喜んで彼らの心に影を落とす存在になってやるわ」
「罪状など……どうとでもなります。貴女は私のテリトリーにいるのだから」
「でっち上げたとて、誰がそれを信じます……?島民に黙って麻薬産業と臓器売買。そんな人が‘あの女は詐欺師だった’と自分の辞職届を握りつぶしたとして?‘ああ詐欺師だったのか、信じて辞職しなくてよかった’と、誰が?まあ、そうね。その場はそれで収まるでしょう。でもね、言った通り。私は彼らの心の影になって、私のボスがそれを利用する。ねえ、お願い。穏便にいきません?私はこれ以上あなたの島を脅かさない、あなたはこれ以上私に意地悪しない」
台場さんが射殺さんばかりの眼光で睨みつけてくるのを、遮ってくれたのは弥鱈君だった。
「この島、維持していくには綺麗事だけでは済まないはずです。あなたも‘管理者’なら分かるでしょう?……ロバートKを臓器用として出荷してこの件は終わらせるのが吉でしょう」
「そうですね……私が間違っていました」
台場さんはそれだけ言って、落ちた額縁を直そうと一旦会話の輪から外れる。立会人三人が一段落の気配を醸すが、生憎台場さんの背中はまだ殺気を放っている。私はぷるぷる首を振って終わっていない事をアピールするが、振り返った台場さんがガン決まった目で私を睨みつけるのに間に合わなかった。
「あるラインを越すとどうでもよくなる事がある。賭郎とか暗謀とかも含めて……という意味だったんです。汲み取ってもらえると思ってましたが……残念です」
これは完全にやらかした。私は降参の意を込めて両手を挙げ、「分かりました分かりました。全部嘘。いい子になるからお願いだから意地悪しないで」とお願いした。
聞き覚えのある声に振り返って、案の定の男と目が合う。
「弥鱈……立会人」
「これはこれはノヂシャ様。随分とお転婆をなされたようで」
そう言って人が悪い笑みを浮かべる彼の横には、長身の男が立っている。島の主である管理人だろう。見下ろしてくる視線の冷たさが、私が運営にかけた迷惑の大きさときっちり同じなので間違いない。だが、そんな私達の睨み合いなんて関係ないと言わんばかりに、弥鱈君は銅寺さんに話し始める。
「……説得は実りませんでしたね、銅寺立会人。ここからはおまかせ下さい」
「OK、悔しいけれどそのようだね。OK」
肩を竦める銅寺さんに同じく肩を竦めて返す弥鱈君の横、管理人さんが「確かに、さっき私が面接した男だ……」と顎に手をやった。
「まさか、我々‘運営’に手をかけるプレイヤーが存在するとは……これは由々しき事態だ」
「しかし、被害は最小に抑えられました。ロバートKが奪った運営スタッフのインナー……その人物の特定やロバートKの追跡は、倉庫にて銅寺立会人と遭遇、シーバーを渡し通信しながら行動できたからに他なりません。そして……プレイヤー・ノヂシャとプレイヤー・マルコをここ管理室に誘導、ロバートKと鉢合わさせた事も」
「はぁー」
私はため息をついた。頭のいい人はこれだから嫌い。そんな私をギロリと見下ろして、管理人さんはインカムで誰かと話し出す。
「台場だ。闘技場にいるアウトロー扱いのプレイヤーハントは中断する。引き上げなさい。だが、今回の騒動の犯人は確保しました。我々に牙を向く事は重罪です。回収に来てください」
彼は通信しながら、じっとこちらを睨んでいる。つまり、言い聞かせられている。私はこの男のプライドと殺意の高さに唾を飲んだ。マルコ様が私に覆い被さったまま肩を抱き寄せ、密着してくる。私も最悪の場合は抱えて逃げてもらえるよう、彼の脇腹を掴む。
「どうする?」
マルコ様に耳元に囁かれ、私も「穏便にいきましょう。やる事はもう全部終わってます」と囁き返す。彼は頷くが、眉間の皺が納得できていない事を告げている。だが……生憎、この男にこれ以上喧嘩を売って無事に帰れる自信が無い。
「さあ……見せしめにはできませんが、私の気がおさまらない……この男には苦しみ抜いて死んでもらいます」
「あ……ちょっと、何言ってるの?」
通信を切り、独りごちる台場さんに待ったをかけたのは、銅寺さん。彼は台場さんと話しやすいよう一歩進み出て、「ロバートKは、私が粛清対象と判断しその任を負ったんです」と言った。
「……だから?」
「‘だから?’……ーーっと、汲み取れなかったですか?粛清はもう終わったんですよ」
銅寺さんの意図を汲み取ったらしい台場さんが、早足でロバートKの元に歩み寄って脈を調べる。そして、「死……んでる」と驚きの声を漏らした。「当然です。それが立会人です」と弥鱈君がその背中に声を掛ける。
だけど。
私は気付いていた。弥鱈君も銅寺さんも嘘をついている事に。しかし、台場さんはちゃんと脈を調べた上で死んでると言ってもいて。どの部分に嘘があるというのだろう。私は内心首を傾げたが、台場さんの矛先がこちらに向いたのに気付いて考えるのをやめた。
「死んでしまったものは仕方がありませんが……さて、こちらをどうするか」
そう言ってしゃがみ込み、台場さんは私達の顔を真正面から覗き込んだ。その瞳を見つめ返し、私は腹を括る。
「……穏便にいきません?」
「何を言っているのか……真正面から運営に喧嘩を売っておきながら……」
「それはそうなんですが……ロバートKと話したかっただけなんですよう」
「最初からそう言っていただければ」
「それはそう。仰る通り」
「……まさかとは思うが、君は私が君の事を殺さないとでも思っているのか?」
青筋を立てる台場さんに、一か八か「違うんですか?」と逆に問い掛ける。
「不愉快な」
「ほうら。私とマルコ様に電気ショックが来なかったからそうだろうと思ってたんです。私を粛清するに足る理由がないんだ」
台場さんの青筋が更に濃く浮かび上がるので、私は畳み掛ける。
「見せしめにすればいい。この島に蔓延る闇に悩む人々の前で、彼らの辞職届を運んできただけのシスターを、その手で。喜んで彼らの心に影を落とす存在になってやるわ」
「罪状など……どうとでもなります。貴女は私のテリトリーにいるのだから」
「でっち上げたとて、誰がそれを信じます……?島民に黙って麻薬産業と臓器売買。そんな人が‘あの女は詐欺師だった’と自分の辞職届を握りつぶしたとして?‘ああ詐欺師だったのか、信じて辞職しなくてよかった’と、誰が?まあ、そうね。その場はそれで収まるでしょう。でもね、言った通り。私は彼らの心の影になって、私のボスがそれを利用する。ねえ、お願い。穏便にいきません?私はこれ以上あなたの島を脅かさない、あなたはこれ以上私に意地悪しない」
台場さんが射殺さんばかりの眼光で睨みつけてくるのを、遮ってくれたのは弥鱈君だった。
「この島、維持していくには綺麗事だけでは済まないはずです。あなたも‘管理者’なら分かるでしょう?……ロバートKを臓器用として出荷してこの件は終わらせるのが吉でしょう」
「そうですね……私が間違っていました」
台場さんはそれだけ言って、落ちた額縁を直そうと一旦会話の輪から外れる。立会人三人が一段落の気配を醸すが、生憎台場さんの背中はまだ殺気を放っている。私はぷるぷる首を振って終わっていない事をアピールするが、振り返った台場さんがガン決まった目で私を睨みつけるのに間に合わなかった。
「あるラインを越すとどうでもよくなる事がある。賭郎とか暗謀とかも含めて……という意味だったんです。汲み取ってもらえると思ってましたが……残念です」
これは完全にやらかした。私は降参の意を込めて両手を挙げ、「分かりました分かりました。全部嘘。いい子になるからお願いだから意地悪しないで」とお願いした。