ベロニカの突撃
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ず、ず。さっきのゾンビ……もとい、ロバートKよりも重たげに、そのゾンビは通風口から這い出てくる。
「色々暴れすぎたのかもしれません……針で刺されたりもしましたし。インナーのバッテリーパックがイカレてたのかもしれませんが、何とか……動けてます」
ずるずる。ゾンビは上半身を通気口から出し、そのままだらんと垂れ下がって一旦動きを止めた。見慣れた黒いスーツ。
「あなたの弟の事件、私達が力になれる可能性があります。もしそれで良ければ……」
何の事か分からない。私はちらりとロバートKの顔色を窺う。希望と猜疑が浮かぶその目には、何だか見覚えがあって。
「……捨隈さんのご親戚?」
「捨隈?」
「え何?!ええっ、せんっ、うわああ!!」
「うわー何何なんで?!怖っ!!」
ロバートKが初めて私に反応したと思ったら、まず奇声と共にゾンビが通気口から落下して、そのせいで私は悲鳴を上げる。まさにゾンビのように力無く立ち上がって顔を見せたのは予想通り銅寺さんだったのだが、あっちは青天の霹靂だったご様子。ボロボロの人差し指を私に向けると「何で?!何で?!嘘ぉ?!」と捲し立てるので、私は気まずさが勝ってマルコ様の後ろに完全に隠れた。横から「待ってくれ、捨隈というのは?俺に似ているのか?」とロバートKが問い掛け、それを能輪さんが「おっと、彼女と会話をする事はルール違反ですよ」と彼の前に立ちはだかって静止する。待って待って。私はこのカオスの中必死で考える。ええと、一番黙って欲しいのは。
私が中指を立てると、マルコ様が弾かれたように飛び出して能輪さんに殴りかかった。
「なっ……!」
能輪さんは攻撃より一瞬早く防御姿勢をとり、マルコ様の拳を受け止めた。聞いて、覚えていたのだろう。中指がハンドサインになっていた事を。
「マルコ様……いくらプレイヤーといえど、立会人に手を上げれば相応のペナルティがございます」
「天使ちゃんの命令よ!マルコはやるよ!」
「それはそれは……」
ガードの下、能輪さんはにたりと凶悪な笑顔を浮かべる。
「好都合!」
紳士の仮面を脱ぎ捨てた能輪さんは、マルコ様が引っ込めようとした拳を先に掴んでぐんと引っ張った。そして、勢いよく自分の方に倒れ込んでくる彼の側頭部目掛けて、回し蹴りを決める。
「立会いの醍醐味はこれよ……甘ちゃんの晴乃の下じゃあ味わえないかと思っていたが……くくっ」
「よくも……っ!」
ぐらつく頭を抑えながら、マルコ様が能輪さんを睨む。それに薄気味悪いせせら笑いで応え、能輪さんはぴょんと後ろに跳んだ。再び攻撃に転じようとする彼との距離は、強制的に縮まる。次はマルコ様が能輪さんに飛びつくようにして距離を縮め、そのままヘッドバットを決めたからだ。
「やるじゃねえか……!」
能輪さんは拳を握り込み、更なる反撃のために体勢を整える。しかし、その向こうで動き出した影が一つ。ロバートKだ。何の目論見があってか、彼はパソコンへとにじり寄る。そして、それを見咎めた銅寺さんがボロボロの体を引きずって止めようとするので、私の‘賭郎の事務さん’の部分が咄嗟に足を動かした。
「何するつもり?!」
駆け寄り、ノートパソコンを閉じようとする私の手を、ロバートKはその運動神経をもって捉えて捻り上げる。
「痛っ!」
「ロバートK……ノヂシャ様から手を離しなさい……貴方はすでに脱落しています」
身体中が痛むのを抑え、前屈みで近寄ってくる銅寺さん。その姿に、ロバートKが「銅寺立会人……何故、何故まだ立てる」と問い掛けた。
「これは……まだです、まだまだ。全然私が自らに課す‘適度’とは程遠い。必ず弟に会わせます。だからロバートK……手を離せ」
「お前は今……弱い。私よりダメージを受けている……それで私を言いくるめられると思うか?とんだ甘ちゃんだ、銅寺立会人」
ロバートKが空いている左手でキーボードに触れる。それを見た私は咄嗟に「捨隈さんもね、こうやって私の手首を握って考えこんでた。私の事殺せなかったんだよ。あなたと同じで」と言った。彼の視線が私に向くと同時に、銅寺さんが「ノヂシャ様」と私の行動を咎める。私にも、時間は無い様だ。慌てて「そうだ、送るのは位置情報だけ?うん分かった」と聞いて、いつも通りの自己完結。後は何を聞けばいいかな。一旦口を閉じた私は、必然的にロバートKと無言で見つめ合う。
でも、その目が不意に見開かれた刹那、左半身に衝撃が走り、私の体は派手に吹っ飛んだ。
「天使ちゃん!!」
「一度目の忠告で自重していただければ良かったものを……ノヂシャ様、困ります」
一瞬天地が分からなくなって混乱する私の上から、「ごめんね天使ちゃん、ごめんね!」という声がした。それで私はどうやら能輪さんに投げられたマルコ様に巻き込まれる形で吹っ飛ばされた事を理解する。
「痛ぁ……!」
「天使ちゃん?!」
「おい、大丈夫か?!」
マルコ様の声に、ロバートKのものが被さる。しかし、それが立会人二人へのダメ押しとなった。目の色を変えた銅寺さんが歩み寄って来る。
「再三の忠告を破りましたね……貴方は冷静さを失っています、ロバートK。私は運営との接触を感じられていました。私がどうやってここに来たのか考えてください……終わったんです。全ては終わったんです」
そう言い切って、銅寺さんは口を真一文字に引き結ぶ。その瞬間、ロバートKの体が不自然に跳ね、その隙を縫うように銅寺さんが腹に殴りかかった。ロバートKは吹っ飛び、PROTOPOROSの額縁に背をぶつけて力を失った。驚いて駆け寄ろうとする私の肩に、マルコ様が腕を回す。
「まさしくギリギリでしたが……この卍内で賭郎を逆手に取る事は不可能となったんです」
「既にこの島は賭郎の手の内……ノヂシャ様、マルコ様。どうぞここからは身の振りをよく考えていただきたい」
未だ立てずにいる私達の前に、二人の立会人が立ちはだかる。これはいけない。諦めて両手を上げて降伏の意思を示す私の背後、ドアががちゃりと音を立てた。
「色々暴れすぎたのかもしれません……針で刺されたりもしましたし。インナーのバッテリーパックがイカレてたのかもしれませんが、何とか……動けてます」
ずるずる。ゾンビは上半身を通気口から出し、そのままだらんと垂れ下がって一旦動きを止めた。見慣れた黒いスーツ。
「あなたの弟の事件、私達が力になれる可能性があります。もしそれで良ければ……」
何の事か分からない。私はちらりとロバートKの顔色を窺う。希望と猜疑が浮かぶその目には、何だか見覚えがあって。
「……捨隈さんのご親戚?」
「捨隈?」
「え何?!ええっ、せんっ、うわああ!!」
「うわー何何なんで?!怖っ!!」
ロバートKが初めて私に反応したと思ったら、まず奇声と共にゾンビが通気口から落下して、そのせいで私は悲鳴を上げる。まさにゾンビのように力無く立ち上がって顔を見せたのは予想通り銅寺さんだったのだが、あっちは青天の霹靂だったご様子。ボロボロの人差し指を私に向けると「何で?!何で?!嘘ぉ?!」と捲し立てるので、私は気まずさが勝ってマルコ様の後ろに完全に隠れた。横から「待ってくれ、捨隈というのは?俺に似ているのか?」とロバートKが問い掛け、それを能輪さんが「おっと、彼女と会話をする事はルール違反ですよ」と彼の前に立ちはだかって静止する。待って待って。私はこのカオスの中必死で考える。ええと、一番黙って欲しいのは。
私が中指を立てると、マルコ様が弾かれたように飛び出して能輪さんに殴りかかった。
「なっ……!」
能輪さんは攻撃より一瞬早く防御姿勢をとり、マルコ様の拳を受け止めた。聞いて、覚えていたのだろう。中指がハンドサインになっていた事を。
「マルコ様……いくらプレイヤーといえど、立会人に手を上げれば相応のペナルティがございます」
「天使ちゃんの命令よ!マルコはやるよ!」
「それはそれは……」
ガードの下、能輪さんはにたりと凶悪な笑顔を浮かべる。
「好都合!」
紳士の仮面を脱ぎ捨てた能輪さんは、マルコ様が引っ込めようとした拳を先に掴んでぐんと引っ張った。そして、勢いよく自分の方に倒れ込んでくる彼の側頭部目掛けて、回し蹴りを決める。
「立会いの醍醐味はこれよ……甘ちゃんの晴乃の下じゃあ味わえないかと思っていたが……くくっ」
「よくも……っ!」
ぐらつく頭を抑えながら、マルコ様が能輪さんを睨む。それに薄気味悪いせせら笑いで応え、能輪さんはぴょんと後ろに跳んだ。再び攻撃に転じようとする彼との距離は、強制的に縮まる。次はマルコ様が能輪さんに飛びつくようにして距離を縮め、そのままヘッドバットを決めたからだ。
「やるじゃねえか……!」
能輪さんは拳を握り込み、更なる反撃のために体勢を整える。しかし、その向こうで動き出した影が一つ。ロバートKだ。何の目論見があってか、彼はパソコンへとにじり寄る。そして、それを見咎めた銅寺さんがボロボロの体を引きずって止めようとするので、私の‘賭郎の事務さん’の部分が咄嗟に足を動かした。
「何するつもり?!」
駆け寄り、ノートパソコンを閉じようとする私の手を、ロバートKはその運動神経をもって捉えて捻り上げる。
「痛っ!」
「ロバートK……ノヂシャ様から手を離しなさい……貴方はすでに脱落しています」
身体中が痛むのを抑え、前屈みで近寄ってくる銅寺さん。その姿に、ロバートKが「銅寺立会人……何故、何故まだ立てる」と問い掛けた。
「これは……まだです、まだまだ。全然私が自らに課す‘適度’とは程遠い。必ず弟に会わせます。だからロバートK……手を離せ」
「お前は今……弱い。私よりダメージを受けている……それで私を言いくるめられると思うか?とんだ甘ちゃんだ、銅寺立会人」
ロバートKが空いている左手でキーボードに触れる。それを見た私は咄嗟に「捨隈さんもね、こうやって私の手首を握って考えこんでた。私の事殺せなかったんだよ。あなたと同じで」と言った。彼の視線が私に向くと同時に、銅寺さんが「ノヂシャ様」と私の行動を咎める。私にも、時間は無い様だ。慌てて「そうだ、送るのは位置情報だけ?うん分かった」と聞いて、いつも通りの自己完結。後は何を聞けばいいかな。一旦口を閉じた私は、必然的にロバートKと無言で見つめ合う。
でも、その目が不意に見開かれた刹那、左半身に衝撃が走り、私の体は派手に吹っ飛んだ。
「天使ちゃん!!」
「一度目の忠告で自重していただければ良かったものを……ノヂシャ様、困ります」
一瞬天地が分からなくなって混乱する私の上から、「ごめんね天使ちゃん、ごめんね!」という声がした。それで私はどうやら能輪さんに投げられたマルコ様に巻き込まれる形で吹っ飛ばされた事を理解する。
「痛ぁ……!」
「天使ちゃん?!」
「おい、大丈夫か?!」
マルコ様の声に、ロバートKのものが被さる。しかし、それが立会人二人へのダメ押しとなった。目の色を変えた銅寺さんが歩み寄って来る。
「再三の忠告を破りましたね……貴方は冷静さを失っています、ロバートK。私は運営との接触を感じられていました。私がどうやってここに来たのか考えてください……終わったんです。全ては終わったんです」
そう言い切って、銅寺さんは口を真一文字に引き結ぶ。その瞬間、ロバートKの体が不自然に跳ね、その隙を縫うように銅寺さんが腹に殴りかかった。ロバートKは吹っ飛び、PROTOPOROSの額縁に背をぶつけて力を失った。驚いて駆け寄ろうとする私の肩に、マルコ様が腕を回す。
「まさしくギリギリでしたが……この卍内で賭郎を逆手に取る事は不可能となったんです」
「既にこの島は賭郎の手の内……ノヂシャ様、マルコ様。どうぞここからは身の振りをよく考えていただきたい」
未だ立てずにいる私達の前に、二人の立会人が立ちはだかる。これはいけない。諦めて両手を上げて降伏の意思を示す私の背後、ドアががちゃりと音を立てた。