ベロニカの突撃
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「さて」
私はフェンスに指をかけ、向こう側を覗き込む。一応、この柵の向こうからは‘運営’の敷地、つまりゲームのエリア外という事になっている。賭郎の張った卍内ではあるが、まあ、その前にプロトポロスのプレイヤーの一人である以上おいそれと入っていい場所ではないのは確か。
みみさんとユウコさんは、それはもう親身になって店長さんや同僚の皆さんに聞き回ってくれた。その結果、‘船着場で待っていれば現れはするだろうが、輸送中である為、下手をすればコンテナの中等で見えないまま運ばれ、そうと気付けないままお別れ’があり得ると分かった。酷いケースだと、既に臓器売買に適した形に加工されてしまっている可能性さえも。それが嫌なら、格納される前、加工される前に接触するしかない。よって、私達はその加工が行われる場所、つまり、運営へとやってきたという訳だ。
もちろん無策ではない。私は頭巾をしっかりと被り直すと、大きめの声で喋り出す。
「おおマルコ、感じますか?ここに漂う悲しみの気配……プロトポロスの闇を!」
「アーメン!」
大きな声で合いの手を入れてくれたマルコ様。勢いづいた私は更に声のトーンを上げて、「ここには幾重にも積み重なった悲しみと怒りを感じます……ああ、どうかその無念を晴らしたまえ!」と叫ぶ。「アーメン!」という元気な合いの手。
何をやってるって、あれだ。特殊詐欺、というやつ。
私は‘嘘が嫌い’で通ってこそいるが、実のところ丸切りそうという訳ではない。邦画で言うならコンフィデンスマン、洋画で言うならザ・ハッスル。ああいう、劇場型、と言うんだろうか?とにかく大法螺は大好きだし、それで騙すのも騙されるのも結構好き。まあ、後者は実際のところは騙されないからこその余裕、ってヤツだが。
という訳で騒いでみる事三分。目論見通り声を聞きつけた警備の方がやってきたのを見て、私はひらりと広がった袖で鼻先を覆う。
「ああっ……何て事!」
「アーメン!アーメン!」
な、なんだ?!とたじろぐ警備さんは、見たところ三十代も半ばの男性。私は大剣を構える彼を大袈裟に見開いた目で見つめた後、「おお神よ」と慌てて十字を切った。彼の顔から勇ましさが消える。私はそこに勝機を見て、「どうしてこうなるまで業を重ねてしまったのです……」と、金網越しに彼の手に触れようと手を伸ばした。
作戦は単純明快だ。前回は‘政府のエージェント’でゴリ押したが、今回は‘神託を告げにきたシスター’でゴリ押す。賭郎において銅寺さんや南方さんが子ども殺しを受け入れられなかったように、プロトポロス運営においても麻薬に人身売買を受け入れられていない人は多い筈、と睨んでいたがどうやら正解。この警備さんもこの島の裏の顔に対して罪悪感をもっているようだから、そこに付け込んで中に侵入させて頂こうという訳だ。
「あの、仰る事がさっぱりなのですが……」
「ええそうでしょう……実のところ、私もよく分かってはおりません。ただ、この地に留まる亡霊たちが私を呼ぶのです……どうか助けてくれと。そして、彼らは貴方の事も恨んでおります……どうして、どうして止めてくれなかったのだと泣いておりますわ……。ねえ、貴方は一体何をしたのですか……?」
警備さんがざっと青ざめたのと同じタイミングで、マルコ様が「アーメン」と呟く。因みに、実はマルコ様の台詞はこれ以外用意していない。全てが行き当たりばったりである。
「なっ……何が見えている?!」
「腹部が黒く濁った男……いいえ、女も」
「ひっ?!」
「心当たりがあるのですね……貴方、その建物に戻るべきではありませんわ。このままではこの地に溜まる淀に呑まれてしまう……」
「そんなっ……そんな事をすれば私は運営にっ……一体どうすれば?!」
私は持ち上がってしまう唇の端を手で覆い隠し、「入れてください。できる限りやってみましょう」と言った。
ーーーーーーーーーー
警備さんは狙い通り私達をフェンスの中へと招き入れ、トランシーバーでどこへやら連絡を入れている。その姿を見て今がチャンスと寄ってきたマルコ様が「天使ちゃん、マルコはこれからどうしたらいい?」と耳打ちしてくる。確かに、と私は頬を人差し指で潰しながら少々考えた後、彼に向かって二本指を立てた。
「二つ、サインを決めます。いいですか?」
「うん、マルコ覚えるよ」
「ありがとうございます。まず一つ目、私が中指を立てたらその相手をやっつけてください」
「うん」
「で、二つ目。私が飛びついたら、そのまま私を抱えて逃げてください」
「うん」
「後は引き続き牧師さんのフリでオッケーです」
「うん……え、それだけでいいの?」
「はい」
「天使ちゃんはたくさん作戦立てないの?」
「いやあ、実は立てない派ですね。よく目蒲さんにドン引かれます」
「あらー」
「まあ、なんとかなりますよ」
瞼の裏でイマジナリー目蒲さんがジト目で睨んでくるのを笑い、私は「そもそも、私が頑張らなくても立会人さんの仕事ですよねえ」と肩を竦めた。とはいえ、確実に芽を摘んでおきたい貘様の気持ちは分からなくもない。
何より、恐らく貘様の本当の狙いは私が何かお土産を持ち帰ってくる事。ロバートKが持ち出すのが本当に島の位置情報だけなのか?彼が持っている優良な情報はないか?とか、そういうの。気持ちはわかるので、まあ頑張ろうとは思う。私は警備さんが電話を終えて「今から警備長が参ります。是非お話しいただけますか」と尋ねてきたのにできる限りのアルカイックスマイルで応えた。
私はフェンスに指をかけ、向こう側を覗き込む。一応、この柵の向こうからは‘運営’の敷地、つまりゲームのエリア外という事になっている。賭郎の張った卍内ではあるが、まあ、その前にプロトポロスのプレイヤーの一人である以上おいそれと入っていい場所ではないのは確か。
みみさんとユウコさんは、それはもう親身になって店長さんや同僚の皆さんに聞き回ってくれた。その結果、‘船着場で待っていれば現れはするだろうが、輸送中である為、下手をすればコンテナの中等で見えないまま運ばれ、そうと気付けないままお別れ’があり得ると分かった。酷いケースだと、既に臓器売買に適した形に加工されてしまっている可能性さえも。それが嫌なら、格納される前、加工される前に接触するしかない。よって、私達はその加工が行われる場所、つまり、運営へとやってきたという訳だ。
もちろん無策ではない。私は頭巾をしっかりと被り直すと、大きめの声で喋り出す。
「おおマルコ、感じますか?ここに漂う悲しみの気配……プロトポロスの闇を!」
「アーメン!」
大きな声で合いの手を入れてくれたマルコ様。勢いづいた私は更に声のトーンを上げて、「ここには幾重にも積み重なった悲しみと怒りを感じます……ああ、どうかその無念を晴らしたまえ!」と叫ぶ。「アーメン!」という元気な合いの手。
何をやってるって、あれだ。特殊詐欺、というやつ。
私は‘嘘が嫌い’で通ってこそいるが、実のところ丸切りそうという訳ではない。邦画で言うならコンフィデンスマン、洋画で言うならザ・ハッスル。ああいう、劇場型、と言うんだろうか?とにかく大法螺は大好きだし、それで騙すのも騙されるのも結構好き。まあ、後者は実際のところは騙されないからこその余裕、ってヤツだが。
という訳で騒いでみる事三分。目論見通り声を聞きつけた警備の方がやってきたのを見て、私はひらりと広がった袖で鼻先を覆う。
「ああっ……何て事!」
「アーメン!アーメン!」
な、なんだ?!とたじろぐ警備さんは、見たところ三十代も半ばの男性。私は大剣を構える彼を大袈裟に見開いた目で見つめた後、「おお神よ」と慌てて十字を切った。彼の顔から勇ましさが消える。私はそこに勝機を見て、「どうしてこうなるまで業を重ねてしまったのです……」と、金網越しに彼の手に触れようと手を伸ばした。
作戦は単純明快だ。前回は‘政府のエージェント’でゴリ押したが、今回は‘神託を告げにきたシスター’でゴリ押す。賭郎において銅寺さんや南方さんが子ども殺しを受け入れられなかったように、プロトポロス運営においても麻薬に人身売買を受け入れられていない人は多い筈、と睨んでいたがどうやら正解。この警備さんもこの島の裏の顔に対して罪悪感をもっているようだから、そこに付け込んで中に侵入させて頂こうという訳だ。
「あの、仰る事がさっぱりなのですが……」
「ええそうでしょう……実のところ、私もよく分かってはおりません。ただ、この地に留まる亡霊たちが私を呼ぶのです……どうか助けてくれと。そして、彼らは貴方の事も恨んでおります……どうして、どうして止めてくれなかったのだと泣いておりますわ……。ねえ、貴方は一体何をしたのですか……?」
警備さんがざっと青ざめたのと同じタイミングで、マルコ様が「アーメン」と呟く。因みに、実はマルコ様の台詞はこれ以外用意していない。全てが行き当たりばったりである。
「なっ……何が見えている?!」
「腹部が黒く濁った男……いいえ、女も」
「ひっ?!」
「心当たりがあるのですね……貴方、その建物に戻るべきではありませんわ。このままではこの地に溜まる淀に呑まれてしまう……」
「そんなっ……そんな事をすれば私は運営にっ……一体どうすれば?!」
私は持ち上がってしまう唇の端を手で覆い隠し、「入れてください。できる限りやってみましょう」と言った。
ーーーーーーーーーー
警備さんは狙い通り私達をフェンスの中へと招き入れ、トランシーバーでどこへやら連絡を入れている。その姿を見て今がチャンスと寄ってきたマルコ様が「天使ちゃん、マルコはこれからどうしたらいい?」と耳打ちしてくる。確かに、と私は頬を人差し指で潰しながら少々考えた後、彼に向かって二本指を立てた。
「二つ、サインを決めます。いいですか?」
「うん、マルコ覚えるよ」
「ありがとうございます。まず一つ目、私が中指を立てたらその相手をやっつけてください」
「うん」
「で、二つ目。私が飛びついたら、そのまま私を抱えて逃げてください」
「うん」
「後は引き続き牧師さんのフリでオッケーです」
「うん……え、それだけでいいの?」
「はい」
「天使ちゃんはたくさん作戦立てないの?」
「いやあ、実は立てない派ですね。よく目蒲さんにドン引かれます」
「あらー」
「まあ、なんとかなりますよ」
瞼の裏でイマジナリー目蒲さんがジト目で睨んでくるのを笑い、私は「そもそも、私が頑張らなくても立会人さんの仕事ですよねえ」と肩を竦めた。とはいえ、確実に芽を摘んでおきたい貘様の気持ちは分からなくもない。
何より、恐らく貘様の本当の狙いは私が何かお土産を持ち帰ってくる事。ロバートKが持ち出すのが本当に島の位置情報だけなのか?彼が持っている優良な情報はないか?とか、そういうの。気持ちはわかるので、まあ頑張ろうとは思う。私は警備さんが電話を終えて「今から警備長が参ります。是非お話しいただけますか」と尋ねてきたのにできる限りのアルカイックスマイルで応えた。