ベロニカの突撃
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遊郭の中に入ると、いつぞや私が投げ捨てられた三和土と、その横にある座敷で目を丸くするやり手婆と遊女の皆さん。とりあえず私は敵意がない事を示すべく、「すみませんどこか部屋貸してください。お代は払いますので!」と聞いてみた。にも関わらず、遊女たちは視線を交わし合うばかりで誰も口を開かない。なんだかな、と思って退散しようとしたのと、たまりかねたように遊女の一人が奥へとすっ飛んでいったのが同時くらい。私は気を取り直し、もう少し待ってみる事に決める。
「……げ。マジでいるじゃん」
やがてやってきたのは、確かアンデスとかいうこの遊郭の店長。彼は相変わらずの油ぎった顔を手で撫でつつ悪態をつくので、私は「お代払うって言ってるんですから勘弁してくださいよ」と穏便に注意した。
「まあ……はい」
「よし。どうもです。どこか部屋貸して」
「分かりましたよ……おい」
呼ばれたのは、真っ赤な着物の美しい遊女さん。さっき奥へと店長を呼びにいってくれた人だ。私はその遊女さんに頭を下げ、先導してもらう事にした。もちろんマルコ様と、両脇に抱えられたアルト君親子も一緒。恐怖心と緊張で一杯の背中に従って階段を上れば、一番奥の長めのいい部屋に通して貰えた。
「……こちらで、どうぞごゆるりと」
「ありがとう。ついでで悪いんですが、何か温かい食べ物をお願いできますか?食べたければ貴女の分も出すので」
「……かしこまりました」
そう頭を下げ、遊女さんは出て行った。私はそれをいい事に、早速アルト君親子を座布団に座らせ、自分は正面から少し外した辺りに胡座をかく。
「それで、何があったんですか?」
「いえ……その、本当に何でもないので……」
俯くお母さんの横、アルト君が「僕タバコが欲しいー!」と大声で泣き出す。それで全てを理解した私は、慌てふためいて口を塞ごうとするお母さんに「そっか。大変だ」と声を掛けた。
「本当にすみません……」
「いえいえ。そんな、縮こまらないで下さいな。私のおせっかいの結果なんですから」
「いえ!……あのままではこの子は長くなかった。本当に、感謝してもし足りないと思っています」
言葉と裏腹に曇る表情。不満があるのだ。アルト君の泣き声響く中、私は「でも、アルト君が泣くのを聞くのは辛いですよね。ごめんなさい」と頭を下げた。お母さんの目からまた涙が溢れる。
「……この子、何度もここに戻ってくるんです。麻薬を欲しがって」
「そっか……そうなりますよね……」
「店の前で泣くので……まだ奴隷をしているみんなにも申し訳なくて……」
「そうですよね……」
「同じように、子どもを抱える人も中にはいて……私は母子共に市民になって、恵まれているのにこんな姿を……」
「貴女のせいじゃないですよ。私が力及ばないせい。……本当にごめんなさい」
「違う!」
「……んん?」
私は座ったまま振り返る。声が襖の向こうから聞こえてきたので。
「どなたでしょう?」
襖に声を掛ければ、それは申し訳なさそうにゆっくりと開いた。
「すみません、思わず……」
「……いえいえ?」
向こう側にいたのは、赤い着物の遊女さん。彼女はとりあえずお盆の上のものを配膳しようと、おずおずと正座のまま進み出る。ふわりと漂うあんこの匂い。ぜんざいかしら、と期待してしまうのを悟られぬよう、一生懸命すんとした顔を作る。まあ、その横ではマルコ様が「いい匂い!」と弾んだ声を出しているのだけど。
「ぜんざいをお持ちしました。温かい内にお召し上がり下さいませ」
「ありがとうございます。貴女の分は?」
「お言葉に甘え、持ってまいりました」
「ふふ、良かったです。さ、アルト君、甘いもの食べようよ」
声を掛ければ、彼は涙声のまま「何これ」とお椀を覗き込んだ。お母さんが横からそれを一匙掬い上げ彼の口元へ運ぶ。
「……美味しい」
「良かった……」
お母さんの顔が綻ぶ。しかし、すぐに母親としての柔らかな雰囲気をしまい込んで私に頭を下げる。
「初めて、食べさせました。ありがとうございます」
「気にしないで下さい、本当に」
そう返し、私も照れ隠しに一口。マジで美味しい高級品だった。思わずマルコ様に「すっごい美味しいですね、これ」と耳打ちしてしまう。彼もコクコクと大きく頷いてくれた。彼がお椀を持ち上げて元気に食べ始めたのを見てアルト君もパクつき始めたので、私も安心した気持ちで続きをいただく。
「これ、私達もほとんど食べた事ないんです」
突然遊女さんが口を開いたので、私は「ほう?」とそちらに向き直る。すると彼女は「あ、すみません突然。私、ユウコっていいます」とお椀を置いて頭を下げる。すると、お母さんも慌てて「申し遅れてすみません、私はみみにゃんです。みみとお呼びください」と仰るので、私もそれに倣って「ノヂシャです。そういう事なら、奢って良かったです」と頭を下げる。
「あの、私達、三日前から凄く待遇が良くなりました。ノヂシャ様にオーナーが代わって」
「え、本当ですか。嬉しい」
「本当に。今までは客が取れない子はご飯もなかったんですけど、今はちゃんと食べれて。あと、麻薬の供給が止まったので。苦しんでる子もいますけど、いい事だねって」
どちらも指示するはおろか話さえ知らなかったので、おそらく発覚して地獄を見る前にゴラゴラさんが自主規制したのだろう。偉い。私は敢えて真相を言わず、「良かった」と噛み締めるように言った。
「稼ぎ続ければ市民になれるかもって、やっと思えるようになってきました」
「……ごめんなさい。本当は、分捕った18店舗全部畳むのが人の道だとは分かってる」
「いえそんな!これで十分です!」
「そんな……ホントごめんなさい。私がこんな状況じゃなければ」
「こんな状況、と仰るのは……?」
みみさんが聞いてきた。この人はあの賭け事を見て、中途半端に事情を知っているからこそ気になったのだろう。私は頷いて、「ユウコさんも、聞いておいて欲しいな」と二人の近くに座布団を寄せる。
「まず、みみさんに自分が内閣職員だって言った事、あれは半分本当で半分嘘。そういう役職が存在している事になっているけど、実際には……何というか……闇のフィクサー会社みたいな……うん。秘密結社の所属です」
途端に胡乱な目をし出す二人はさておき、私は続きを話す。
「で、今闇の金持ちとマフィアが‘どちらがその秘密結社を乗っ取るか’で喧嘩を始めましてね。その舞台がここなんです。三国統一を果たした方が、そのままうちのボスへの挑戦権を得る。私は諸事情あって闇の金持ち側で参加しています」
「また変なイベントが始まりましたね……」
「いやみみさん、これガチのやつです。イベンターが麻薬取り締まりする訳ないでしょう」
そう言うと、みみさんはスンとした顔になる。抉るようで申し訳ないが、私はやむを得ず「アルト君の麻薬が抜けたらすぐに本土に帰った方がいい。ユウコさんも、金に余裕が出来次第奴隷から解放しますから」と付け加えた。
「あまり脅したくはないのですが、頭おかしい人しか入ってきてないので気をつけてください。残念ながら私は中でも弱い方。助けられるとは限りません。悪いんですけど、情報があれば早めに欲しいし、避けられそうな危険は自分で避けて下さい。よろしくお願いしますね」
彼女達は二者二様に頷いたので、私は「さ、アルト君も落ち着いたようなので」と立ち上がる。正直に申し上げると、半分忘れていた目的を思い出したのだ。
「……ところでなんですが、強制送還になった人ってどこに行くかご存知ですか……?」
「……げ。マジでいるじゃん」
やがてやってきたのは、確かアンデスとかいうこの遊郭の店長。彼は相変わらずの油ぎった顔を手で撫でつつ悪態をつくので、私は「お代払うって言ってるんですから勘弁してくださいよ」と穏便に注意した。
「まあ……はい」
「よし。どうもです。どこか部屋貸して」
「分かりましたよ……おい」
呼ばれたのは、真っ赤な着物の美しい遊女さん。さっき奥へと店長を呼びにいってくれた人だ。私はその遊女さんに頭を下げ、先導してもらう事にした。もちろんマルコ様と、両脇に抱えられたアルト君親子も一緒。恐怖心と緊張で一杯の背中に従って階段を上れば、一番奥の長めのいい部屋に通して貰えた。
「……こちらで、どうぞごゆるりと」
「ありがとう。ついでで悪いんですが、何か温かい食べ物をお願いできますか?食べたければ貴女の分も出すので」
「……かしこまりました」
そう頭を下げ、遊女さんは出て行った。私はそれをいい事に、早速アルト君親子を座布団に座らせ、自分は正面から少し外した辺りに胡座をかく。
「それで、何があったんですか?」
「いえ……その、本当に何でもないので……」
俯くお母さんの横、アルト君が「僕タバコが欲しいー!」と大声で泣き出す。それで全てを理解した私は、慌てふためいて口を塞ごうとするお母さんに「そっか。大変だ」と声を掛けた。
「本当にすみません……」
「いえいえ。そんな、縮こまらないで下さいな。私のおせっかいの結果なんですから」
「いえ!……あのままではこの子は長くなかった。本当に、感謝してもし足りないと思っています」
言葉と裏腹に曇る表情。不満があるのだ。アルト君の泣き声響く中、私は「でも、アルト君が泣くのを聞くのは辛いですよね。ごめんなさい」と頭を下げた。お母さんの目からまた涙が溢れる。
「……この子、何度もここに戻ってくるんです。麻薬を欲しがって」
「そっか……そうなりますよね……」
「店の前で泣くので……まだ奴隷をしているみんなにも申し訳なくて……」
「そうですよね……」
「同じように、子どもを抱える人も中にはいて……私は母子共に市民になって、恵まれているのにこんな姿を……」
「貴女のせいじゃないですよ。私が力及ばないせい。……本当にごめんなさい」
「違う!」
「……んん?」
私は座ったまま振り返る。声が襖の向こうから聞こえてきたので。
「どなたでしょう?」
襖に声を掛ければ、それは申し訳なさそうにゆっくりと開いた。
「すみません、思わず……」
「……いえいえ?」
向こう側にいたのは、赤い着物の遊女さん。彼女はとりあえずお盆の上のものを配膳しようと、おずおずと正座のまま進み出る。ふわりと漂うあんこの匂い。ぜんざいかしら、と期待してしまうのを悟られぬよう、一生懸命すんとした顔を作る。まあ、その横ではマルコ様が「いい匂い!」と弾んだ声を出しているのだけど。
「ぜんざいをお持ちしました。温かい内にお召し上がり下さいませ」
「ありがとうございます。貴女の分は?」
「お言葉に甘え、持ってまいりました」
「ふふ、良かったです。さ、アルト君、甘いもの食べようよ」
声を掛ければ、彼は涙声のまま「何これ」とお椀を覗き込んだ。お母さんが横からそれを一匙掬い上げ彼の口元へ運ぶ。
「……美味しい」
「良かった……」
お母さんの顔が綻ぶ。しかし、すぐに母親としての柔らかな雰囲気をしまい込んで私に頭を下げる。
「初めて、食べさせました。ありがとうございます」
「気にしないで下さい、本当に」
そう返し、私も照れ隠しに一口。マジで美味しい高級品だった。思わずマルコ様に「すっごい美味しいですね、これ」と耳打ちしてしまう。彼もコクコクと大きく頷いてくれた。彼がお椀を持ち上げて元気に食べ始めたのを見てアルト君もパクつき始めたので、私も安心した気持ちで続きをいただく。
「これ、私達もほとんど食べた事ないんです」
突然遊女さんが口を開いたので、私は「ほう?」とそちらに向き直る。すると彼女は「あ、すみません突然。私、ユウコっていいます」とお椀を置いて頭を下げる。すると、お母さんも慌てて「申し遅れてすみません、私はみみにゃんです。みみとお呼びください」と仰るので、私もそれに倣って「ノヂシャです。そういう事なら、奢って良かったです」と頭を下げる。
「あの、私達、三日前から凄く待遇が良くなりました。ノヂシャ様にオーナーが代わって」
「え、本当ですか。嬉しい」
「本当に。今までは客が取れない子はご飯もなかったんですけど、今はちゃんと食べれて。あと、麻薬の供給が止まったので。苦しんでる子もいますけど、いい事だねって」
どちらも指示するはおろか話さえ知らなかったので、おそらく発覚して地獄を見る前にゴラゴラさんが自主規制したのだろう。偉い。私は敢えて真相を言わず、「良かった」と噛み締めるように言った。
「稼ぎ続ければ市民になれるかもって、やっと思えるようになってきました」
「……ごめんなさい。本当は、分捕った18店舗全部畳むのが人の道だとは分かってる」
「いえそんな!これで十分です!」
「そんな……ホントごめんなさい。私がこんな状況じゃなければ」
「こんな状況、と仰るのは……?」
みみさんが聞いてきた。この人はあの賭け事を見て、中途半端に事情を知っているからこそ気になったのだろう。私は頷いて、「ユウコさんも、聞いておいて欲しいな」と二人の近くに座布団を寄せる。
「まず、みみさんに自分が内閣職員だって言った事、あれは半分本当で半分嘘。そういう役職が存在している事になっているけど、実際には……何というか……闇のフィクサー会社みたいな……うん。秘密結社の所属です」
途端に胡乱な目をし出す二人はさておき、私は続きを話す。
「で、今闇の金持ちとマフィアが‘どちらがその秘密結社を乗っ取るか’で喧嘩を始めましてね。その舞台がここなんです。三国統一を果たした方が、そのままうちのボスへの挑戦権を得る。私は諸事情あって闇の金持ち側で参加しています」
「また変なイベントが始まりましたね……」
「いやみみさん、これガチのやつです。イベンターが麻薬取り締まりする訳ないでしょう」
そう言うと、みみさんはスンとした顔になる。抉るようで申し訳ないが、私はやむを得ず「アルト君の麻薬が抜けたらすぐに本土に帰った方がいい。ユウコさんも、金に余裕が出来次第奴隷から解放しますから」と付け加えた。
「あまり脅したくはないのですが、頭おかしい人しか入ってきてないので気をつけてください。残念ながら私は中でも弱い方。助けられるとは限りません。悪いんですけど、情報があれば早めに欲しいし、避けられそうな危険は自分で避けて下さい。よろしくお願いしますね」
彼女達は二者二様に頷いたので、私は「さ、アルト君も落ち着いたようなので」と立ち上がる。正直に申し上げると、半分忘れていた目的を思い出したのだ。
「……ところでなんですが、強制送還になった人ってどこに行くかご存知ですか……?」