ベロニカの突撃
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「やっぱり勝ったよ貘兄ちゃん、マルコの読みが当たった!!10万!!」
マルコ様が無邪気にガッツポーズを決めるので、貘様は「うん」と薄い笑顔を浮かべる。
「そして、これとは別に伽羅のおじさんに賭けてたんでしょ?」
「うん。俺の上限分3千ビオス。オッズは30倍だ」
「て事は……9千ビオスね!」
「惜しいマルコ様。9万です」
「9万ビオスね!」
元気よく言い直したのを微笑ましく眺めはするが、内心穏やかではない。興奮冷めやらぬマルコ様には申し訳ないが、私は「良かったんですか?」と口を挟ませてもらう。
「どう思う?」
「私は……良くなかったと思います」
「ふうん、どうして?」
「……思い通りに進んでしまうから」
「どうして思い通りにさせるといけないのかな」
「どうしてって、あの人の企みなんて全部挫いて構わないでしょう?」
「なるほどね。それだけが勝利への道じゃないよ、晴乃チャン」
「ムカつく方ですねえ……」
「酷くない?」
「大嫌いですもん」
「そんなっ!前‘ちょっと好きになった’って言ってたじゃない!」
「偏差値35から40に上がった位で何を」
「嘘でしょ?!」
大袈裟に嘆く素振りを見せる貘様を、マルコ様がおたおた慰める。なんだろう、これ。私は賭郎にはあまりなかった軽薄なノリに閉口する。もしかしたら目蒲さんも毎日こんな気持ちだったのだろうか、ごめんねなんて思いつつしばらく時をやり過ごせば、貘様はやがて現実に戻ってきて。
「それで、ラロは何をする気なワケ?」
と一言。
「随分と過大評価しましたね」
「ラロを?」
「私を」
「してないよ」
「そうですか。貴方は教職向いてなさそう」
私は膝に頬杖をついて、ちょっと考える。
「気になったのは、あの人が星の美しさに惚けてなんていなかった点です。どう聞いても不必要な嘘。星は見た、惚けてはいない。ロマンチックな意味合いは無いとすれば?」
私は口に出し、気付く。実用的な星の使い方なんて限られている。
「ホロスコープか、自分の位置を割り出したいか」
「ホロスコープに頼るような男なら、星を見て惚ける事もあるんじゃないかなー?」
「それはそう。て事は、昨日ラロさんはこの島の位置を割り出してた、と」
「なるほどね?」
「……いや、マジでなるほどねってなってきましたよ。ラロさんはあの追加の賭けの下で何か企んでいた。負けていいと思っていたんだ。それは何故か?負けてこの島の位置を外に持ち出すのが目的だったからだ」
「ほーら、分かったね」
「ええ、自分でもびっくりしてます」
「晴乃チャンはもっと使える手札になるよ」
「勘弁して下さい。……分かってたんですか?ラロさんの目的」
「いいや?君が‘惚けてなんていなかった’って言うまでは」
「貴方が考えた方が1分くらい早かったじゃないですか」
私が言うと、彼はくつくつと押し殺した声でしばらく笑っていた。本当に食えない男である。
「さあ、晴乃チャンの初任務だ。ロバートKを止めてきて」
「休みをくれる話は?」
「えー?あったかなあ?」
「こんちくしょう。許せない」
私は立ち上がると振り返る。そして、後ろにいるヰ近さんに聞こえるような大きな声で「ラロさん側の増援が来たら卍戦どころじゃなくなっちゃうな!」とお伝えし、また着席した。
「……何今の」
「止めました、ロバートKを」
「いや却下だよ却下!ホラもっかい立って!行ってきて!」
「嫌ですよ絶対嫌ですだって怖いもん!」
「怖くない!伽羅さんが倒した後だから!」
「あんな超人ですよ?!指一本になっても私の事殺してきますって!」
「そんな怪異じゃないから!」
「いいやあれは人外の類です!舐めちゃいけない!」
「大丈夫だから!」
「絶対ダメ!」
「マー君つけるから!」
「んっ?!」
それなら。私が勝ち筋を見出してしまったのが運の尽き。貘様はあっという間にマルコ様に指先で指示を出し、私を闘技場外へと運び出させたのだった。
ーーーーーーーーーー
「それで天使ちゃん、どこ行くのがいい?」
「とりあえず下ろしてください」
私は早速自分の失態を悔やみつつ言った。すると、彼は相変わらずの無垢な笑顔のまま、疑いなく私を下ろすので、怒り続けるのも馬鹿らしくなって「とりあえず、服を替えさせて下さいな」と言った。
「じゃ、天使ちゃんが泊まってるとこ行くか?」
「ううん、町娘の格好でいいならそうするんですけど」
そう言って私は歩き出す。幸い、闘技場がある中立地帯には、数多くのファッション用品店も並ぶ。私はウインドウショッピングも兼ねて、何を着てどこに行くか考えながら歩く。
歩く度ガシャガシャと音を立てる鎧に気を取られつつ砂利道を歩き続ければ、いつの間にやらショッピング街の端、風俗街の入り口にたどり着いてしまう。結局どんな服を買うのがいいか決められなかった事を悔いつつ、私は情報収集に頭を切り替え、そのまま中心部へ向かい歩を進める。
ぴく、とマルコ様が肩を揺らしたのは、懐かしの遊郭に近づいてきた辺り。
「どうしました?」
「誰か泣いてるよ」
「あら」
そう言われて耳を澄ましてみるも、聞こえてくるのは雑踏ばかり。首を傾げて見せると、マルコ様は「こっちの方」と私の手を引いて歩き出した。
15歩も歩けば、彼が言う通り、子供の泣き声が聞こえてくる。
「あら、アルト君」
見知った背中に思わず声を掛けると、横にしゃがんでいた女性がびくっと肩を跳ね上げる。泣きそうな顔でこちらを見上げてくるその顔は、化粧こそ薄くなったものの、あの女郎だった。
「……あっ」
「ありゃ、ご無沙汰してます」
「あ……その、こちら、こそ」
そう言いながらも彼女の表情はどんどん苦悶のものへと変わっていって、すぐに泣き顔に変わってしまうものだから、私は慌てて二人の元へ駆け寄った。
「どうしました?!困り事?お腹減った?」
「いえ……いえすみません……救っていただいたのに……」
そうして親子二人で泣き出すものだから、私は困ってマルコ様に「もう二人とも担いじゃって下さい!」と指令を下し、とりあえず目の前にあった楼閣に飛び込んだ。
マルコ様が無邪気にガッツポーズを決めるので、貘様は「うん」と薄い笑顔を浮かべる。
「そして、これとは別に伽羅のおじさんに賭けてたんでしょ?」
「うん。俺の上限分3千ビオス。オッズは30倍だ」
「て事は……9千ビオスね!」
「惜しいマルコ様。9万です」
「9万ビオスね!」
元気よく言い直したのを微笑ましく眺めはするが、内心穏やかではない。興奮冷めやらぬマルコ様には申し訳ないが、私は「良かったんですか?」と口を挟ませてもらう。
「どう思う?」
「私は……良くなかったと思います」
「ふうん、どうして?」
「……思い通りに進んでしまうから」
「どうして思い通りにさせるといけないのかな」
「どうしてって、あの人の企みなんて全部挫いて構わないでしょう?」
「なるほどね。それだけが勝利への道じゃないよ、晴乃チャン」
「ムカつく方ですねえ……」
「酷くない?」
「大嫌いですもん」
「そんなっ!前‘ちょっと好きになった’って言ってたじゃない!」
「偏差値35から40に上がった位で何を」
「嘘でしょ?!」
大袈裟に嘆く素振りを見せる貘様を、マルコ様がおたおた慰める。なんだろう、これ。私は賭郎にはあまりなかった軽薄なノリに閉口する。もしかしたら目蒲さんも毎日こんな気持ちだったのだろうか、ごめんねなんて思いつつしばらく時をやり過ごせば、貘様はやがて現実に戻ってきて。
「それで、ラロは何をする気なワケ?」
と一言。
「随分と過大評価しましたね」
「ラロを?」
「私を」
「してないよ」
「そうですか。貴方は教職向いてなさそう」
私は膝に頬杖をついて、ちょっと考える。
「気になったのは、あの人が星の美しさに惚けてなんていなかった点です。どう聞いても不必要な嘘。星は見た、惚けてはいない。ロマンチックな意味合いは無いとすれば?」
私は口に出し、気付く。実用的な星の使い方なんて限られている。
「ホロスコープか、自分の位置を割り出したいか」
「ホロスコープに頼るような男なら、星を見て惚ける事もあるんじゃないかなー?」
「それはそう。て事は、昨日ラロさんはこの島の位置を割り出してた、と」
「なるほどね?」
「……いや、マジでなるほどねってなってきましたよ。ラロさんはあの追加の賭けの下で何か企んでいた。負けていいと思っていたんだ。それは何故か?負けてこの島の位置を外に持ち出すのが目的だったからだ」
「ほーら、分かったね」
「ええ、自分でもびっくりしてます」
「晴乃チャンはもっと使える手札になるよ」
「勘弁して下さい。……分かってたんですか?ラロさんの目的」
「いいや?君が‘惚けてなんていなかった’って言うまでは」
「貴方が考えた方が1分くらい早かったじゃないですか」
私が言うと、彼はくつくつと押し殺した声でしばらく笑っていた。本当に食えない男である。
「さあ、晴乃チャンの初任務だ。ロバートKを止めてきて」
「休みをくれる話は?」
「えー?あったかなあ?」
「こんちくしょう。許せない」
私は立ち上がると振り返る。そして、後ろにいるヰ近さんに聞こえるような大きな声で「ラロさん側の増援が来たら卍戦どころじゃなくなっちゃうな!」とお伝えし、また着席した。
「……何今の」
「止めました、ロバートKを」
「いや却下だよ却下!ホラもっかい立って!行ってきて!」
「嫌ですよ絶対嫌ですだって怖いもん!」
「怖くない!伽羅さんが倒した後だから!」
「あんな超人ですよ?!指一本になっても私の事殺してきますって!」
「そんな怪異じゃないから!」
「いいやあれは人外の類です!舐めちゃいけない!」
「大丈夫だから!」
「絶対ダメ!」
「マー君つけるから!」
「んっ?!」
それなら。私が勝ち筋を見出してしまったのが運の尽き。貘様はあっという間にマルコ様に指先で指示を出し、私を闘技場外へと運び出させたのだった。
ーーーーーーーーーー
「それで天使ちゃん、どこ行くのがいい?」
「とりあえず下ろしてください」
私は早速自分の失態を悔やみつつ言った。すると、彼は相変わらずの無垢な笑顔のまま、疑いなく私を下ろすので、怒り続けるのも馬鹿らしくなって「とりあえず、服を替えさせて下さいな」と言った。
「じゃ、天使ちゃんが泊まってるとこ行くか?」
「ううん、町娘の格好でいいならそうするんですけど」
そう言って私は歩き出す。幸い、闘技場がある中立地帯には、数多くのファッション用品店も並ぶ。私はウインドウショッピングも兼ねて、何を着てどこに行くか考えながら歩く。
歩く度ガシャガシャと音を立てる鎧に気を取られつつ砂利道を歩き続ければ、いつの間にやらショッピング街の端、風俗街の入り口にたどり着いてしまう。結局どんな服を買うのがいいか決められなかった事を悔いつつ、私は情報収集に頭を切り替え、そのまま中心部へ向かい歩を進める。
ぴく、とマルコ様が肩を揺らしたのは、懐かしの遊郭に近づいてきた辺り。
「どうしました?」
「誰か泣いてるよ」
「あら」
そう言われて耳を澄ましてみるも、聞こえてくるのは雑踏ばかり。首を傾げて見せると、マルコ様は「こっちの方」と私の手を引いて歩き出した。
15歩も歩けば、彼が言う通り、子供の泣き声が聞こえてくる。
「あら、アルト君」
見知った背中に思わず声を掛けると、横にしゃがんでいた女性がびくっと肩を跳ね上げる。泣きそうな顔でこちらを見上げてくるその顔は、化粧こそ薄くなったものの、あの女郎だった。
「……あっ」
「ありゃ、ご無沙汰してます」
「あ……その、こちら、こそ」
そう言いながらも彼女の表情はどんどん苦悶のものへと変わっていって、すぐに泣き顔に変わってしまうものだから、私は慌てて二人の元へ駆け寄った。
「どうしました?!困り事?お腹減った?」
「いえ……いえすみません……救っていただいたのに……」
そうして親子二人で泣き出すものだから、私は困ってマルコ様に「もう二人とも担いじゃって下さい!」と指令を下し、とりあえず目の前にあった楼閣に飛び込んだ。