ベロニカの突撃
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「ちょっとちょっと貘様!何ですか伽羅元立会人って!超怖かったんですけど!」
「あ、晴乃チャン!おつかれー。レベル上がった?」
「上がりましたけれども!」
客席で寛ぐ白髪を見つけるや否や、私は走りよる。が、「あ!天使ちゃんよ!天使ちゃんが帰ってきたのよ!」と楽しそうに両手を振るマルコ様と、貘様を挟んで反対側でにこやかに会釈するラロさんを見つけて大失敗を悟る。
踵を返して逃げ出そうとする私を見て、貘様がマルコ様に捕獲命令を出したのは言うまでもない。
「天使ちゃん!一緒に伽羅のおじさん見るよ!」
「いやもうさっきすれ違ってお腹いっぱいです……っていうか、天使ちゃんってやめて下さいよ!」
「天使ちゃんは天使ちゃんなのよ!」
「ささ、晴乃チャン座って座って。始まってる」
「ぐぬ……」
私は早々に観念してマルコ様の横に座った。というのも、下手に天使云々の話をラロさんの前で掘り下げてしまうのは避けたかったからだ。貘様もそのつもりで割って入ったのだろう。ラロさんは私とカラカルさんの関係を知らない。このアドバンテージを軽率に失うわけにはいかなかった。諸々嫌だが、仕方がない。私はせめてもの反抗心で、組んだ足に頬杖をついて態度悪く座った。
「先程はナイスファイトでした!細腕に似合わぬ長剣を振り回すガッツに感動しました」
そんな空気をものともせずラロさんが話しかけてくるので、仕方なく「どうもです」と返す。すると、彼はそれも構わずにこにこと「貴女は一般職に上がっておられたのですね。流石まだらめBKが粘って招き入れただけあります」なんて話を続けようとするので、私は慌てて訂正する。
「あ、いや、まだです。私この三日間で死ぬほど稼いだからそういうのは免除だと思ってたんですけどね。合流したと思ったら‘しばらくレベル上げね’って闘技場に放り込まれて。自分は見てるだけのくせに」
「Oh……そんなに有能な貴女を馬車馬の如く……。良ければこちらのチームに」
「名案きたな」
「ちょっとちょっとちょっと晴乃チャン?!」
「貘様私休みが欲しい」
「ハイ!!」
「よし」
頷いて組んでいた足を揃えれば、貘様は大袈裟に胸を撫で下ろした。まあ、実際に休みが貰える事はないだろうが仕方がない。国を獲ろうって言うのに一ヶ月足らずしか猶予がないのがそもそもおかしいのだから。
ただ一人分かってないマルコ様が「天使ちゃん休みはどこ行くの?マルコも着いてく!」なんて弾んだ声を出す中、私は「それで、お二人は何を賭けてるんです?」と問い掛けた。
「ん?ああ。10万ビオスと、敗者の追放をね」
「えっ、早々に貘様かラロさん退場するんです?いいけど」
「いやこっちなワケないじゃない。伽羅さんかロバートKよ」
「なあんだ残念」
「君ねえ」
ラロさんがくっくっと笑う中、私は口を尖らせる。
まあでも。
「どちらか退場しても波乱ですね。いいと思います」
そう言うと、ラロさんは「ええ、とても楽しみです」と喰えない笑顔を浮かべた。
諸々気づいた事や申し上げたい事はあったが、私ごときが何を言ってもこの二人に利用されてしまうのがオチ。沈黙は金である。変な事を口走ってしまう前に他の事を考えようと見下ろすアリーナでは、筋骨隆々な男達の中、一際異彩を放つ男達が戦っている。鮮やかな一挙手一投足。何だかさっきまでの自分の試合がちょっと恥ずかしくなってきて、私は小さくなる。
でも、やっぱり視線は美しい戦いに釘付けになってしまうもので。
私の背筋はいつの間にか伸びて、前のめりになっていた。
「凄い……」
思わず呟けば、横でマルコ様が大きく頷く。
「伽羅のおじさん凄いのよ!ほら、敵の動きが分かるみたいにかわすの!」
「本当……芸術ですね」
「うん!でも相手も中々よ……この勝負、読めない……」
わざとらしく眉間に皺を寄せ、腕組みをするマルコ様。その横で貘様が「伽羅さんが勝つよ」と笑った。
そして、それで本当に勝ってしまうんだから素晴らしい。そう言いたいところだったけれど、突然ラロさんが「マーヴェラス!」と立ち上がったので一旦黙る。
「噂には聞いていましたが驚くべき強さです。優れた人材は多分に漏れず美しい。美しく輝く星……まだらめBK、あなたは昨晩の夜空を見ましたか?私はその星の美しさに惚けていました。今私の目の前に立つ輝ける星……昨晩の空はその暗示だったかもしれません」
私はひっそりと耳を澄ます。星空が、何だって?
「ロバートKこそが最も優れた男、我が最善の切り札……その考えも揺らぎそうな思いです。何しろこのままだと負けてしまう。しかし、逆に燃えます。これこそギャンブルの醍醐味……まだらめBK!!今更な話でとても恐縮なのですが、提案です!どうです?さらに上乗せしませんか?」
「……って、何を?」
警戒し、言葉少なく返す貘様に対し、ラロさんは高揚を崩さず答える。
「とても簡単な事です……ゲームの決着はついてもお互いが生きていれば協力者としても活動可……それだと面白くありません。どちらかには散ってもらいたい。……負けた協力者は島から追放、つまりリタイアして頂く。こうすればこの勝負ももっと盛り上がると思いませんか?まだらめBK」
ラロさんが両手を広げ、さも自分は勝負の熱に当てられてますよといった感じの薄ら笑いを浮かべる。だが、私には分かる。意図してやっている。冷静。彼はどこまでも計算づくだ。お屋形様が、貘様がそうであるように。
「どうする?まだらめBK。考える時間はないぞ。早く決めるのだ」
「貘兄ちゃん、大丈夫……伽羅のおじさんが勝つよ、この勝負」
ヰ近さんが急かし、マルコ様が背中を押す。マルコ様の肩越しに、貘様が私の顔色を窺った。すかさず危険を知らせんと首を振れば、彼は小さく頷いた。
「その提案受けるよ」
いや受けるんかい!私は小さく肩を落とす。ジェスチャーが伝わらなかった訳ではないだろう、あえて突っ込んでいったのだ。
「これは卍戦の第一戦目、10万ぽっちじゃイマイチだと思ってたんだ」
「でしょ?」
「それに……この賭けに乗ろうが乗るまいが、俺の眼前で負けたら伽羅さんは自分から姿を消すさ……」
貘様がそう言った途端、伽羅元立会人は顎に手痛い攻撃を受けた。平衡感覚を失った伽羅元立会人の体が、ぐらりと揺れる。ロバートKがその背に回り、とどめの一発を放とうと予備動作に入る。
「逃げて……!」
思わず声が出た私を、マルコ様が手で制した。咄嗟に覗き見た彼の瞳は、真っ直ぐに伽羅元立会人を見つめていて。何で?私は疑問と共にまた伽羅元立会人の方に目を向けた。
不思議な事に、吹っ飛んでいたのはロバートKの方。
「えっ?」
思わず声が漏れる私の横、マルコ様はあどけない笑顔を浮かべて「ねっ?」と首を傾げた。
「ねっ、て……」
唖然とする私の声を掻き消すように響く、実況の「クリアー!!」というアナウンス。え、本当にクリアしちゃったんだ。
「謎のアンタッチャブル対決を制したのは【キャット】。メインステージへの切符を手にしたぞー!」
「こりゃ幸先がいい。アンタ……弱いね、ギャンブル」
高らかなアナウンスの中、貘様はきっちり私達だけに聞こえる声でそう言った。それにラロさんは憤怒の表情で応えるが、その薄皮の下には次の一手を淡々と考える、爬虫類の顔が潜んでいる。
「あ、晴乃チャン!おつかれー。レベル上がった?」
「上がりましたけれども!」
客席で寛ぐ白髪を見つけるや否や、私は走りよる。が、「あ!天使ちゃんよ!天使ちゃんが帰ってきたのよ!」と楽しそうに両手を振るマルコ様と、貘様を挟んで反対側でにこやかに会釈するラロさんを見つけて大失敗を悟る。
踵を返して逃げ出そうとする私を見て、貘様がマルコ様に捕獲命令を出したのは言うまでもない。
「天使ちゃん!一緒に伽羅のおじさん見るよ!」
「いやもうさっきすれ違ってお腹いっぱいです……っていうか、天使ちゃんってやめて下さいよ!」
「天使ちゃんは天使ちゃんなのよ!」
「ささ、晴乃チャン座って座って。始まってる」
「ぐぬ……」
私は早々に観念してマルコ様の横に座った。というのも、下手に天使云々の話をラロさんの前で掘り下げてしまうのは避けたかったからだ。貘様もそのつもりで割って入ったのだろう。ラロさんは私とカラカルさんの関係を知らない。このアドバンテージを軽率に失うわけにはいかなかった。諸々嫌だが、仕方がない。私はせめてもの反抗心で、組んだ足に頬杖をついて態度悪く座った。
「先程はナイスファイトでした!細腕に似合わぬ長剣を振り回すガッツに感動しました」
そんな空気をものともせずラロさんが話しかけてくるので、仕方なく「どうもです」と返す。すると、彼はそれも構わずにこにこと「貴女は一般職に上がっておられたのですね。流石まだらめBKが粘って招き入れただけあります」なんて話を続けようとするので、私は慌てて訂正する。
「あ、いや、まだです。私この三日間で死ぬほど稼いだからそういうのは免除だと思ってたんですけどね。合流したと思ったら‘しばらくレベル上げね’って闘技場に放り込まれて。自分は見てるだけのくせに」
「Oh……そんなに有能な貴女を馬車馬の如く……。良ければこちらのチームに」
「名案きたな」
「ちょっとちょっとちょっと晴乃チャン?!」
「貘様私休みが欲しい」
「ハイ!!」
「よし」
頷いて組んでいた足を揃えれば、貘様は大袈裟に胸を撫で下ろした。まあ、実際に休みが貰える事はないだろうが仕方がない。国を獲ろうって言うのに一ヶ月足らずしか猶予がないのがそもそもおかしいのだから。
ただ一人分かってないマルコ様が「天使ちゃん休みはどこ行くの?マルコも着いてく!」なんて弾んだ声を出す中、私は「それで、お二人は何を賭けてるんです?」と問い掛けた。
「ん?ああ。10万ビオスと、敗者の追放をね」
「えっ、早々に貘様かラロさん退場するんです?いいけど」
「いやこっちなワケないじゃない。伽羅さんかロバートKよ」
「なあんだ残念」
「君ねえ」
ラロさんがくっくっと笑う中、私は口を尖らせる。
まあでも。
「どちらか退場しても波乱ですね。いいと思います」
そう言うと、ラロさんは「ええ、とても楽しみです」と喰えない笑顔を浮かべた。
諸々気づいた事や申し上げたい事はあったが、私ごときが何を言ってもこの二人に利用されてしまうのがオチ。沈黙は金である。変な事を口走ってしまう前に他の事を考えようと見下ろすアリーナでは、筋骨隆々な男達の中、一際異彩を放つ男達が戦っている。鮮やかな一挙手一投足。何だかさっきまでの自分の試合がちょっと恥ずかしくなってきて、私は小さくなる。
でも、やっぱり視線は美しい戦いに釘付けになってしまうもので。
私の背筋はいつの間にか伸びて、前のめりになっていた。
「凄い……」
思わず呟けば、横でマルコ様が大きく頷く。
「伽羅のおじさん凄いのよ!ほら、敵の動きが分かるみたいにかわすの!」
「本当……芸術ですね」
「うん!でも相手も中々よ……この勝負、読めない……」
わざとらしく眉間に皺を寄せ、腕組みをするマルコ様。その横で貘様が「伽羅さんが勝つよ」と笑った。
そして、それで本当に勝ってしまうんだから素晴らしい。そう言いたいところだったけれど、突然ラロさんが「マーヴェラス!」と立ち上がったので一旦黙る。
「噂には聞いていましたが驚くべき強さです。優れた人材は多分に漏れず美しい。美しく輝く星……まだらめBK、あなたは昨晩の夜空を見ましたか?私はその星の美しさに惚けていました。今私の目の前に立つ輝ける星……昨晩の空はその暗示だったかもしれません」
私はひっそりと耳を澄ます。星空が、何だって?
「ロバートKこそが最も優れた男、我が最善の切り札……その考えも揺らぎそうな思いです。何しろこのままだと負けてしまう。しかし、逆に燃えます。これこそギャンブルの醍醐味……まだらめBK!!今更な話でとても恐縮なのですが、提案です!どうです?さらに上乗せしませんか?」
「……って、何を?」
警戒し、言葉少なく返す貘様に対し、ラロさんは高揚を崩さず答える。
「とても簡単な事です……ゲームの決着はついてもお互いが生きていれば協力者としても活動可……それだと面白くありません。どちらかには散ってもらいたい。……負けた協力者は島から追放、つまりリタイアして頂く。こうすればこの勝負ももっと盛り上がると思いませんか?まだらめBK」
ラロさんが両手を広げ、さも自分は勝負の熱に当てられてますよといった感じの薄ら笑いを浮かべる。だが、私には分かる。意図してやっている。冷静。彼はどこまでも計算づくだ。お屋形様が、貘様がそうであるように。
「どうする?まだらめBK。考える時間はないぞ。早く決めるのだ」
「貘兄ちゃん、大丈夫……伽羅のおじさんが勝つよ、この勝負」
ヰ近さんが急かし、マルコ様が背中を押す。マルコ様の肩越しに、貘様が私の顔色を窺った。すかさず危険を知らせんと首を振れば、彼は小さく頷いた。
「その提案受けるよ」
いや受けるんかい!私は小さく肩を落とす。ジェスチャーが伝わらなかった訳ではないだろう、あえて突っ込んでいったのだ。
「これは卍戦の第一戦目、10万ぽっちじゃイマイチだと思ってたんだ」
「でしょ?」
「それに……この賭けに乗ろうが乗るまいが、俺の眼前で負けたら伽羅さんは自分から姿を消すさ……」
貘様がそう言った途端、伽羅元立会人は顎に手痛い攻撃を受けた。平衡感覚を失った伽羅元立会人の体が、ぐらりと揺れる。ロバートKがその背に回り、とどめの一発を放とうと予備動作に入る。
「逃げて……!」
思わず声が出た私を、マルコ様が手で制した。咄嗟に覗き見た彼の瞳は、真っ直ぐに伽羅元立会人を見つめていて。何で?私は疑問と共にまた伽羅元立会人の方に目を向けた。
不思議な事に、吹っ飛んでいたのはロバートKの方。
「えっ?」
思わず声が漏れる私の横、マルコ様はあどけない笑顔を浮かべて「ねっ?」と首を傾げた。
「ねっ、て……」
唖然とする私の声を掻き消すように響く、実況の「クリアー!!」というアナウンス。え、本当にクリアしちゃったんだ。
「謎のアンタッチャブル対決を制したのは【キャット】。メインステージへの切符を手にしたぞー!」
「こりゃ幸先がいい。アンタ……弱いね、ギャンブル」
高らかなアナウンスの中、貘様はきっちり私達だけに聞こえる声でそう言った。それにラロさんは憤怒の表情で応えるが、その薄皮の下には次の一手を淡々と考える、爬虫類の顔が潜んでいる。