ベロニカの突撃
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「おや、能輪立会人。お疲れ様です」
あれから一夜明け、遂に嘘喰い・ラロ両陣営の全協力者が入卍した三日目。今日も人がごった返す闘技場で佇んでいた所を肩を叩かれた。振り返ると、そこには社交的な笑顔を浮かべた南方立会人と、好奇心を隠さず目をキラキラさせた門倉立会人が立っている。
もちろん、理由は明白だ。生憎みんなでよーいどんができるお行儀良いプレイヤーなどいないので、この三日でプレイヤーごとの進捗はちょっとやそっとではひっくり返せない程になっている。その中でもフルスロットルで爆走しているプレイヤーの一人であるノヂシャ様…つまり、‘正体不明’な俺の専属。今日この闘技場に俺の姿を見つけた立会人達が、キョロキョロと視線を彷徨わせてはノヂシャ様の姿を探すのはその為。ラロ様専属・南方立会人と梶様専属・門倉立会人もノヂシャらしき人物を己で探そうとし、諦めて声をかけてきたという訳だ。
「お疲れ様です、南方立会人。ラロは如何です」
「いや、目まぐるしいの一言に尽きます。あっという間に一般職まで上り詰めましたよ」
「ホンマ、羨ましいのう」
「はっはっは。心配するな門倉。梶様も嘘喰いと合流したことだし、ここから面白くなってくるんじゃあないか?尤も…」
南方立会人がこちらに視線を流し、「能輪立会人の専属程ではなさそうですが」と水をむけてくる。俺は色々喋り倒したくなる気持ちをグッと堪え、「当たりを引いたようです」とだけ答えた。
「そのようですね。随分と顔色も良い」
「いいえ、これ以上ヘマを犯さぬよう必死ですよ」
「ははっ!珍しいことを仰る」
「手厳しい」
そう唸れば、門倉立会人は「しかし、顔色も本土にいた頃とは見違えるようです。良い立会いができているようですね」とおおらかに笑った。その気持ちの良い言葉に応え、俺も素直に「判事に無理言っておいて情けない事はできませんので」と頭を掻いた。門倉立会人は大きく頷くと居住まいを正し、「それで、そのノヂシャ様はどちらに?」と尋ねてきたので、俺は電光掲示板を指差す。二人は指先を目で追って、すぐにそこにある‘ノヂシャ’の四文字に気付いた。
「…これはこれは。腕に覚えがある方なので?」
「どうでしょうか。実力を見るのは私もこれが初めてになります」
「ふむ…」
二人は頷くと、視線をフィールドに落とす。女性刀剣士達がぞろぞろと出てくるところだった。
「ふむ…能輪立会人、どれがノヂシャ様です?」
「申し訳ありません。私も遠目では」
「残念です」
南方立会人はぐっと眉間に皺を寄せ、陽気に客席に手を振る刀剣士達を睨む。当然、晴乃の奴にオーラなんてないので見抜けるわけもなく、彼らは暫くの間「あいつか?」「いや弱そうだ」などと二人で言い合っていた。とりあえず「スクリーンに映ったらお教えします」と言っておく。
さて、当の晴乃と言えば。見た目の華やかさを重視しているのだろうビキニアーマーの女性達が会場に手を振っている中で、ワンピースを思わせる鎧を着て小さく手を振っている。今朝「がー」だの「ぐー」だの唸り声を上げながら選んだものだ。木を隠すなら森の中。素直に周りと同じようなものを選べば良いものを、相変わらずの強情っぷりである。まあ、一時は御伽話の騎士のような全身鎧を選びかけたことを思えば譲歩した方か。
闘技場の客席上部に備え付けられたスクリーンに、選手達が順に映し出されていく。笑顔を作る者、投げキッスを飛ばす者、ポーズを決める者。その次に苦笑いでカメラに手を振る晴乃が映し出されたので、俺は「あれがノヂシャ様ですよ」と教えてやった。
尤も、二人は自分の絶叫の他は何も聞こえていないようだったが。
ーーーーーーーーーー
「ぎゃーーー!」
「うわーーー!」
話は二日目の夜に遡る。嘘喰いが自室のドアを開けるなり部屋の奥に居たはずの巨漢が叫び声を上げながら迫ってきたので、晴乃が腰を抜かしたシーンへと。
大声の主であるヰ近立会人は、晴乃がそのまま四つん這いになって廊下を後退して行こうとするのを襟首を掴んで止めると、「貴様なんっでここにおる!」と立場を忘れて詰め寄った。
「いやだ怖い!能輪さん!能輪さん助けて!怖いよー!」
「ヰ近立会人、業務中ですよ」
俺はひっそりと回していたビデオカメラをしまい、ヰ近立会人に声を掛ける。彼はハッとして晴乃から手を離すと、気まずそうに咳払いをした。それでも晴乃が油断ならないとばかりに俺の背後に隠れるのを愉快に思いつつ、黙って成り行きを見守る。
「な…なんっで…ここにおる?のですか?」
ヰ近立会人がおずおずと問い掛ける。
「あのその…企業秘密…」
「どっこの企業じゃ!…ですか!」
「ととととにかく秘密です!なの!」
「お二人共、落ち着いて下さい」
二人の「無理!」という声が重なった。何ともまあ、楽しそうで何よりだ。嘘喰いはと言えば、部屋のドアに手をかけたまま二人を笑っている。
晴乃が貘様の部屋を訪れたのは、アンタッチャブルラインが終わってしばらく後の事だった。結局闘技場内で貘様を見つけられず、ゴラゴラの情報網を辿る羽目になった為だ。流石風俗店のマネージャー、である。彼は晴乃と同じくこの二日で一気に金を手に入れた不審な奴隷の噂を手にして戻ってきたし、期待通りそれは嘘喰いだったという訳だ。
「それで、何しに来たの?晴乃チャン」
頓珍漢な二人の世界が続くのに痺れを切らしたらしい嘘喰いが声を掛ける。すると、晴乃は途端に大人の顔になって「卍戦のお手伝いに来ました。お役に立てると思いますよ」と麗らかに笑った。
「お役に?」
「お役に」
「晴乃チャン……本当に今、お役にって言った?」
「……言いましたよ?」
肩を震わせる嘘喰いに、晴乃は思わず後退り。だが、それよりも早く貘様は彼女の両肩を掴んだ。
「マトモのは晴乃チャンだけ!!」
「はあ?!」
ゆっさゆっさと貘様に揺さぶられながら、晴乃は必死に「いやだって、あなた、梶様とマルコ様でっ、荒稼ぎして、たじゃ、ないですか!」とツッコミを入れる。すると、貘様は一際大きな声で「だって出会った時にはもうアンタッチャブルだったんだよ?!」と叫ぶものだから、晴乃は思わず噴き出した。
「んふっ!……ふふふふ、何で奴隷から更に落ちちゃった?!」
「マー君たら言われるがままにアンタッチャブルにスカウトされちゃったんだよー!梶ちゃんまで一緒にだよ?!」
「ふふ、あはは!あはははやべえ!あなたよくその二人を両脇に置いてここまできましたね?!」
「流石に思った!それ思ったよ!ハルもラロも手に負えないのにね!」
「ホントですよ!やべえー!」
晴乃はひいひい笑っているが、俺としては一気に先行きが暗くなった気分だ。せっかく‘ノヂシャ様’が快進撃を見せても、どうやら奇天烈な動きをするのが二人いるようで。
だが、何より貘様の口から出た名前が気になってしまった俺は、ヰ近立会人に歩み寄るとひっそり耳打ちする。
「ハルとは?」
するとヰ近立会人は肩を竦め「伏龍は何か言うとったか?」と返すので、俺もまた肩を竦めて返す。招き入れた張本人である嘘喰いにさえ手に負えない人物。首をもたげてきた仮説を、まさかな、と打ち消した。
あれから一夜明け、遂に嘘喰い・ラロ両陣営の全協力者が入卍した三日目。今日も人がごった返す闘技場で佇んでいた所を肩を叩かれた。振り返ると、そこには社交的な笑顔を浮かべた南方立会人と、好奇心を隠さず目をキラキラさせた門倉立会人が立っている。
もちろん、理由は明白だ。生憎みんなでよーいどんができるお行儀良いプレイヤーなどいないので、この三日でプレイヤーごとの進捗はちょっとやそっとではひっくり返せない程になっている。その中でもフルスロットルで爆走しているプレイヤーの一人であるノヂシャ様…つまり、‘正体不明’な俺の専属。今日この闘技場に俺の姿を見つけた立会人達が、キョロキョロと視線を彷徨わせてはノヂシャ様の姿を探すのはその為。ラロ様専属・南方立会人と梶様専属・門倉立会人もノヂシャらしき人物を己で探そうとし、諦めて声をかけてきたという訳だ。
「お疲れ様です、南方立会人。ラロは如何です」
「いや、目まぐるしいの一言に尽きます。あっという間に一般職まで上り詰めましたよ」
「ホンマ、羨ましいのう」
「はっはっは。心配するな門倉。梶様も嘘喰いと合流したことだし、ここから面白くなってくるんじゃあないか?尤も…」
南方立会人がこちらに視線を流し、「能輪立会人の専属程ではなさそうですが」と水をむけてくる。俺は色々喋り倒したくなる気持ちをグッと堪え、「当たりを引いたようです」とだけ答えた。
「そのようですね。随分と顔色も良い」
「いいえ、これ以上ヘマを犯さぬよう必死ですよ」
「ははっ!珍しいことを仰る」
「手厳しい」
そう唸れば、門倉立会人は「しかし、顔色も本土にいた頃とは見違えるようです。良い立会いができているようですね」とおおらかに笑った。その気持ちの良い言葉に応え、俺も素直に「判事に無理言っておいて情けない事はできませんので」と頭を掻いた。門倉立会人は大きく頷くと居住まいを正し、「それで、そのノヂシャ様はどちらに?」と尋ねてきたので、俺は電光掲示板を指差す。二人は指先を目で追って、すぐにそこにある‘ノヂシャ’の四文字に気付いた。
「…これはこれは。腕に覚えがある方なので?」
「どうでしょうか。実力を見るのは私もこれが初めてになります」
「ふむ…」
二人は頷くと、視線をフィールドに落とす。女性刀剣士達がぞろぞろと出てくるところだった。
「ふむ…能輪立会人、どれがノヂシャ様です?」
「申し訳ありません。私も遠目では」
「残念です」
南方立会人はぐっと眉間に皺を寄せ、陽気に客席に手を振る刀剣士達を睨む。当然、晴乃の奴にオーラなんてないので見抜けるわけもなく、彼らは暫くの間「あいつか?」「いや弱そうだ」などと二人で言い合っていた。とりあえず「スクリーンに映ったらお教えします」と言っておく。
さて、当の晴乃と言えば。見た目の華やかさを重視しているのだろうビキニアーマーの女性達が会場に手を振っている中で、ワンピースを思わせる鎧を着て小さく手を振っている。今朝「がー」だの「ぐー」だの唸り声を上げながら選んだものだ。木を隠すなら森の中。素直に周りと同じようなものを選べば良いものを、相変わらずの強情っぷりである。まあ、一時は御伽話の騎士のような全身鎧を選びかけたことを思えば譲歩した方か。
闘技場の客席上部に備え付けられたスクリーンに、選手達が順に映し出されていく。笑顔を作る者、投げキッスを飛ばす者、ポーズを決める者。その次に苦笑いでカメラに手を振る晴乃が映し出されたので、俺は「あれがノヂシャ様ですよ」と教えてやった。
尤も、二人は自分の絶叫の他は何も聞こえていないようだったが。
ーーーーーーーーーー
「ぎゃーーー!」
「うわーーー!」
話は二日目の夜に遡る。嘘喰いが自室のドアを開けるなり部屋の奥に居たはずの巨漢が叫び声を上げながら迫ってきたので、晴乃が腰を抜かしたシーンへと。
大声の主であるヰ近立会人は、晴乃がそのまま四つん這いになって廊下を後退して行こうとするのを襟首を掴んで止めると、「貴様なんっでここにおる!」と立場を忘れて詰め寄った。
「いやだ怖い!能輪さん!能輪さん助けて!怖いよー!」
「ヰ近立会人、業務中ですよ」
俺はひっそりと回していたビデオカメラをしまい、ヰ近立会人に声を掛ける。彼はハッとして晴乃から手を離すと、気まずそうに咳払いをした。それでも晴乃が油断ならないとばかりに俺の背後に隠れるのを愉快に思いつつ、黙って成り行きを見守る。
「な…なんっで…ここにおる?のですか?」
ヰ近立会人がおずおずと問い掛ける。
「あのその…企業秘密…」
「どっこの企業じゃ!…ですか!」
「ととととにかく秘密です!なの!」
「お二人共、落ち着いて下さい」
二人の「無理!」という声が重なった。何ともまあ、楽しそうで何よりだ。嘘喰いはと言えば、部屋のドアに手をかけたまま二人を笑っている。
晴乃が貘様の部屋を訪れたのは、アンタッチャブルラインが終わってしばらく後の事だった。結局闘技場内で貘様を見つけられず、ゴラゴラの情報網を辿る羽目になった為だ。流石風俗店のマネージャー、である。彼は晴乃と同じくこの二日で一気に金を手に入れた不審な奴隷の噂を手にして戻ってきたし、期待通りそれは嘘喰いだったという訳だ。
「それで、何しに来たの?晴乃チャン」
頓珍漢な二人の世界が続くのに痺れを切らしたらしい嘘喰いが声を掛ける。すると、晴乃は途端に大人の顔になって「卍戦のお手伝いに来ました。お役に立てると思いますよ」と麗らかに笑った。
「お役に?」
「お役に」
「晴乃チャン……本当に今、お役にって言った?」
「……言いましたよ?」
肩を震わせる嘘喰いに、晴乃は思わず後退り。だが、それよりも早く貘様は彼女の両肩を掴んだ。
「マトモのは晴乃チャンだけ!!」
「はあ?!」
ゆっさゆっさと貘様に揺さぶられながら、晴乃は必死に「いやだって、あなた、梶様とマルコ様でっ、荒稼ぎして、たじゃ、ないですか!」とツッコミを入れる。すると、貘様は一際大きな声で「だって出会った時にはもうアンタッチャブルだったんだよ?!」と叫ぶものだから、晴乃は思わず噴き出した。
「んふっ!……ふふふふ、何で奴隷から更に落ちちゃった?!」
「マー君たら言われるがままにアンタッチャブルにスカウトされちゃったんだよー!梶ちゃんまで一緒にだよ?!」
「ふふ、あはは!あはははやべえ!あなたよくその二人を両脇に置いてここまできましたね?!」
「流石に思った!それ思ったよ!ハルもラロも手に負えないのにね!」
「ホントですよ!やべえー!」
晴乃はひいひい笑っているが、俺としては一気に先行きが暗くなった気分だ。せっかく‘ノヂシャ様’が快進撃を見せても、どうやら奇天烈な動きをするのが二人いるようで。
だが、何より貘様の口から出た名前が気になってしまった俺は、ヰ近立会人に歩み寄るとひっそり耳打ちする。
「ハルとは?」
するとヰ近立会人は肩を竦め「伏龍は何か言うとったか?」と返すので、俺もまた肩を竦めて返す。招き入れた張本人である嘘喰いにさえ手に負えない人物。首をもたげてきた仮説を、まさかな、と打ち消した。