ベロニカの突撃
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「あなた方は満足していない!何故ならまだここに居座ってるじゃないか!!何故まだここにいる!!千ビオスも払って何を期待しているんだー!」
「貘様かなあ」
貘様を求めて初めて訪れたコロシアム。にも関わらず晴乃は死んだ目でそう呟くと、手元のリーフレットに視線を戻す。心底興味ありませんよというオーラを身体中から発する彼女の横で、昨晩彼女の財布と成り下がったゴラゴラが会場の盛り上がりに合わせるべきか横の主人に合わせるか悩みつつ、きごちなく歓声を上げている。これが昨晩は晴乃を脅していたと思うと中々に愉快で、俺はこっそり口元を緩める。
「ノヂシャさんはこういうの、興味ないっすか…?」
ゴラゴラが遠慮がちに問い掛けると、彼女は「ないね。ごめんね」とすっぱり返す。すると、ゴラゴラは「い、いやいや!いいと思います!」と取り繕った。どうにも五十手前のでっぷりとした男が二十半ばの女にへいこらする様が滑稽で、俺はほくそ笑む。しかも、金髪をソフトモヒカンにまとめた、いかにも風俗店オーナーといった出立ちなので余計にだ。
「どうも。ゴラゴラさんは?結構こういうとこ、来るの?」
「えっ、自分は、そのっ、あんま来ません!」
「いや、無理して合わせなくていいよ。どう転んでもあなたの事は嫌いだし」
「えっ、そこまで言います?」
「ヤク漬け風俗嬢を量産しておいて何を言うかね」
彼女はゴラゴラを鼻で笑うと、柔らかく目を細めて「一回ホントに強い人の格闘を見ちゃうと、こういうのがお遊戯に見えちゃうからダメだね」と言った。すると、意外と察しがいいらしいゴラゴラはちらりと俺を見て「そんなにすげえんですか」と返した。
「凄いよ。格闘技なんて全然分からなくても凄いって思うもん。テレビでボクシングとか柔道の試合を見る事はあるけど、それよりずーっと凄いの。早くて、重くて、綺麗」
「はぁ」
「その内見れるよ。きっとゴラゴラさんもファンになる」
彼女は恋する乙女の瞳でそう言うが、アナウンスと共にフィールドに出てきた次の対戦相手達を見るや否や、表情を曇らせた。無理もない。俺達立会人は亜面立会人から受け取った情報でこの島の闇を把握しているが、彼女はまだ何も知らない。そう、この‘アンタッチャブルライン’もその一つ。
「ねえ、あの人達どういうこと?」
「は?どういうことっすか?」
「どういうって…何で何も分かってないのよ、あの人達」
彼女はそう言ってフィールドに佇む二つの集団の内一つを指差して問い掛けるが、ゴラゴラは「いや、知らない事ないんじゃないっすか?知らせなきゃゲームになんねえし」と的外れな回答を寄越す。「それにしてはキョロキョロしすぎてない?」と返す晴乃は、どうやら自分の能力をゴラゴラに開示する気はないらしい。
「ま、アンタッチャブルラインに出るならキョドっても仕方がねえっすわ。あんなのに出るくらいなら奴隷のまま大人しくしてた方がマシっていうか?」
「あなたに言われたくはないだろうね。まあいいや。これどんなルールなの?」
「アンタッチャブルラインっすか?えーと、制限時間10分の内に、ハンターはアンタッチャブルに攻撃するたびにポイントが貰えてー、アンタッチャブルは100秒凌ぎ切ったら勝ちっす。でも、カウントはアンタッチャブルが地面に手をついたり倒れたりする度に止まっちまいます。あと、あの‘アンタッチャブルライン’って輪っかに入ってもカウントストップっすけど、あの中にいる時だけは攻撃されずに済みます。10秒しかいられねえし、同じ輪っかに続けては入れねえんすけどね」
「やだゴラゴラさん、説明上手じゃん。ご褒美買ってきてあげる」
「は?アンタッチャブルラインは?」
「お目当ての人が出てないっぽいからスルーで!」
「俺が説明した意味…」と肩を落とすゴラゴラを笑いながら、晴乃は立ち上がってスタスタ歩き出す。俺はゴラゴラが困ってさまよわせた視線が俺を捉えるのを無視して、彼女を追う。
「伏龍様、一体何を?」
俺は売店で二人分の飲み物を買ったと思えば、壁にもたれてそれを飲み始めた彼女に問い掛けた。すると彼女は肩を竦め、「ボウズでは帰れないと思って」と言った。
「嘘喰い探しですか?」
「兼、次の獲物探し。だってほら、貘様がいなかったらイヤじゃない?」
俺は「本当にここにいるかの保証もないし…」とブツブツ言う彼女の横に立ち、「勝ちに余念がない様で。流石です」と言った。業務中であるが故にそう言うに留めたが、勿論彼女はおちょくったのを理解した様で、苦笑いで肩を竦める。
「梶様とかマルコ様と違って、私は外様だからね。手土産は多い方がいい」
外様。彼女のその一言から思考を巡らせる。昨夜何故卍の中に入るに至ったか聞いたが、黙秘されてしまっていたのだ。実は失踪中に交友関係になったのかと思っていたが、外様という言葉が出るという事はどうやら違ったらしい。失踪中に何かあったのだろう。
ーー何が腹立つって、コイツに良いように使われてる気がする上、弥鱈のヤローは全部分かってそうだって事だ。ぜってー探ってやる。
俺はぼんやりと売店にたむろする人々を眺める晴乃の横顔を眺める。闇営業を観戦しに来ることが出来る程度の金持ちが集まっている筈だが、中々お眼鏡にかなう人物は現れないようで、彼女は渋い顔をしている。しかし、周りがにわかにざわつき始めるのに気付いた彼女は、「あ」と小さく声を上げた。
ーーーーーーーーーー
「ゴラゴラさんゴラゴラさん!はいお土産!」
そう言って晴乃は、氷の溶け切ったジュースと馬券を一枚差し出した。ゴラゴラは「買ったんすか」と言いながらそれを受け取り、首を傾げる。
「はぁ…奴隷っすか。また大穴狙いですね」
「まあまあ、見てなって。絶対勝つからさ」
「…あーそっか。さっきの試合見てませんでしたね」
「へ?何かあったんですか?」
「普通奴隷には賭けないってバカでもわかりましたよ」
「あー、大丈夫大丈夫。凄いよ、その人」
「知り合いっすか?…内閣の?」
「内閣?」
「はあ?」
「あ…うんそうそうそんな感じ」
晴乃が下手くそに誤魔化すのを、ゴラゴラは驚き半分怒り半分といった感じで睨みつけた。すると、彼女は早々に観念して「ごめんね。ホントは反社なの。内閣情報調査室はいわゆるフロント企業みたいな感じ」と白状する。それを聞いたゴラゴラは「内閣がフロントとか腐ってんな」と自分を棚上げにして舌打ちした。
「まあまあ、大丈夫。どっちだったとしても状況は変わらない」
そう笑うと彼女は闘技場を見て、「ま、とにかくめっちゃ強い知り合いだよ。立会人さん程じゃないけどさ」と言った。ゴラゴラがチラッと俺を見るので、恭しく会釈しておく。
その‘めっちゃ強い知り合い’マルコ様は、鮮やかな自滅で散っていった。流石の晴乃も、これには目が点になる。
「あの、ノヂシャさん」
「何も…何も言わないで」
「その、確かにめっちゃ強かったっすね」
「うんそうなの…強い…強いのよ…」
彼女はゴミになった馬券をくしゃりと握りしめて唸る。彼女の敗因は一つ。マルコ様は並の立会人では歯が立たない程に強いが、シンプルに馬鹿なのだ。晴乃が知も暴も一段劣るとは分かっていたが、まさかこんな形で出るとは、である。確かにマルコ様が負ける画を想像しづらいのも理解できるが、梶様がギャンブラーの端くれということを忘れてはいけない。ギャンブラー達は自分に最大の利益を生じさせるよう行動するのが常。言えば逆ギレしてきそうなので言わないが、一番オッズの低い馬券を買うのが安牌だったということだ。ご愁傷様、である。
「で…でもいいわよ全然!これで貘様がここにいるってはっきりしたわ!」
馬券を握った手を高らかに突き上げ、彼女は叫んだ。
「貘様かなあ」
貘様を求めて初めて訪れたコロシアム。にも関わらず晴乃は死んだ目でそう呟くと、手元のリーフレットに視線を戻す。心底興味ありませんよというオーラを身体中から発する彼女の横で、昨晩彼女の財布と成り下がったゴラゴラが会場の盛り上がりに合わせるべきか横の主人に合わせるか悩みつつ、きごちなく歓声を上げている。これが昨晩は晴乃を脅していたと思うと中々に愉快で、俺はこっそり口元を緩める。
「ノヂシャさんはこういうの、興味ないっすか…?」
ゴラゴラが遠慮がちに問い掛けると、彼女は「ないね。ごめんね」とすっぱり返す。すると、ゴラゴラは「い、いやいや!いいと思います!」と取り繕った。どうにも五十手前のでっぷりとした男が二十半ばの女にへいこらする様が滑稽で、俺はほくそ笑む。しかも、金髪をソフトモヒカンにまとめた、いかにも風俗店オーナーといった出立ちなので余計にだ。
「どうも。ゴラゴラさんは?結構こういうとこ、来るの?」
「えっ、自分は、そのっ、あんま来ません!」
「いや、無理して合わせなくていいよ。どう転んでもあなたの事は嫌いだし」
「えっ、そこまで言います?」
「ヤク漬け風俗嬢を量産しておいて何を言うかね」
彼女はゴラゴラを鼻で笑うと、柔らかく目を細めて「一回ホントに強い人の格闘を見ちゃうと、こういうのがお遊戯に見えちゃうからダメだね」と言った。すると、意外と察しがいいらしいゴラゴラはちらりと俺を見て「そんなにすげえんですか」と返した。
「凄いよ。格闘技なんて全然分からなくても凄いって思うもん。テレビでボクシングとか柔道の試合を見る事はあるけど、それよりずーっと凄いの。早くて、重くて、綺麗」
「はぁ」
「その内見れるよ。きっとゴラゴラさんもファンになる」
彼女は恋する乙女の瞳でそう言うが、アナウンスと共にフィールドに出てきた次の対戦相手達を見るや否や、表情を曇らせた。無理もない。俺達立会人は亜面立会人から受け取った情報でこの島の闇を把握しているが、彼女はまだ何も知らない。そう、この‘アンタッチャブルライン’もその一つ。
「ねえ、あの人達どういうこと?」
「は?どういうことっすか?」
「どういうって…何で何も分かってないのよ、あの人達」
彼女はそう言ってフィールドに佇む二つの集団の内一つを指差して問い掛けるが、ゴラゴラは「いや、知らない事ないんじゃないっすか?知らせなきゃゲームになんねえし」と的外れな回答を寄越す。「それにしてはキョロキョロしすぎてない?」と返す晴乃は、どうやら自分の能力をゴラゴラに開示する気はないらしい。
「ま、アンタッチャブルラインに出るならキョドっても仕方がねえっすわ。あんなのに出るくらいなら奴隷のまま大人しくしてた方がマシっていうか?」
「あなたに言われたくはないだろうね。まあいいや。これどんなルールなの?」
「アンタッチャブルラインっすか?えーと、制限時間10分の内に、ハンターはアンタッチャブルに攻撃するたびにポイントが貰えてー、アンタッチャブルは100秒凌ぎ切ったら勝ちっす。でも、カウントはアンタッチャブルが地面に手をついたり倒れたりする度に止まっちまいます。あと、あの‘アンタッチャブルライン’って輪っかに入ってもカウントストップっすけど、あの中にいる時だけは攻撃されずに済みます。10秒しかいられねえし、同じ輪っかに続けては入れねえんすけどね」
「やだゴラゴラさん、説明上手じゃん。ご褒美買ってきてあげる」
「は?アンタッチャブルラインは?」
「お目当ての人が出てないっぽいからスルーで!」
「俺が説明した意味…」と肩を落とすゴラゴラを笑いながら、晴乃は立ち上がってスタスタ歩き出す。俺はゴラゴラが困ってさまよわせた視線が俺を捉えるのを無視して、彼女を追う。
「伏龍様、一体何を?」
俺は売店で二人分の飲み物を買ったと思えば、壁にもたれてそれを飲み始めた彼女に問い掛けた。すると彼女は肩を竦め、「ボウズでは帰れないと思って」と言った。
「嘘喰い探しですか?」
「兼、次の獲物探し。だってほら、貘様がいなかったらイヤじゃない?」
俺は「本当にここにいるかの保証もないし…」とブツブツ言う彼女の横に立ち、「勝ちに余念がない様で。流石です」と言った。業務中であるが故にそう言うに留めたが、勿論彼女はおちょくったのを理解した様で、苦笑いで肩を竦める。
「梶様とかマルコ様と違って、私は外様だからね。手土産は多い方がいい」
外様。彼女のその一言から思考を巡らせる。昨夜何故卍の中に入るに至ったか聞いたが、黙秘されてしまっていたのだ。実は失踪中に交友関係になったのかと思っていたが、外様という言葉が出るという事はどうやら違ったらしい。失踪中に何かあったのだろう。
ーー何が腹立つって、コイツに良いように使われてる気がする上、弥鱈のヤローは全部分かってそうだって事だ。ぜってー探ってやる。
俺はぼんやりと売店にたむろする人々を眺める晴乃の横顔を眺める。闇営業を観戦しに来ることが出来る程度の金持ちが集まっている筈だが、中々お眼鏡にかなう人物は現れないようで、彼女は渋い顔をしている。しかし、周りがにわかにざわつき始めるのに気付いた彼女は、「あ」と小さく声を上げた。
ーーーーーーーーーー
「ゴラゴラさんゴラゴラさん!はいお土産!」
そう言って晴乃は、氷の溶け切ったジュースと馬券を一枚差し出した。ゴラゴラは「買ったんすか」と言いながらそれを受け取り、首を傾げる。
「はぁ…奴隷っすか。また大穴狙いですね」
「まあまあ、見てなって。絶対勝つからさ」
「…あーそっか。さっきの試合見てませんでしたね」
「へ?何かあったんですか?」
「普通奴隷には賭けないってバカでもわかりましたよ」
「あー、大丈夫大丈夫。凄いよ、その人」
「知り合いっすか?…内閣の?」
「内閣?」
「はあ?」
「あ…うんそうそうそんな感じ」
晴乃が下手くそに誤魔化すのを、ゴラゴラは驚き半分怒り半分といった感じで睨みつけた。すると、彼女は早々に観念して「ごめんね。ホントは反社なの。内閣情報調査室はいわゆるフロント企業みたいな感じ」と白状する。それを聞いたゴラゴラは「内閣がフロントとか腐ってんな」と自分を棚上げにして舌打ちした。
「まあまあ、大丈夫。どっちだったとしても状況は変わらない」
そう笑うと彼女は闘技場を見て、「ま、とにかくめっちゃ強い知り合いだよ。立会人さん程じゃないけどさ」と言った。ゴラゴラがチラッと俺を見るので、恭しく会釈しておく。
その‘めっちゃ強い知り合い’マルコ様は、鮮やかな自滅で散っていった。流石の晴乃も、これには目が点になる。
「あの、ノヂシャさん」
「何も…何も言わないで」
「その、確かにめっちゃ強かったっすね」
「うんそうなの…強い…強いのよ…」
彼女はゴミになった馬券をくしゃりと握りしめて唸る。彼女の敗因は一つ。マルコ様は並の立会人では歯が立たない程に強いが、シンプルに馬鹿なのだ。晴乃が知も暴も一段劣るとは分かっていたが、まさかこんな形で出るとは、である。確かにマルコ様が負ける画を想像しづらいのも理解できるが、梶様がギャンブラーの端くれということを忘れてはいけない。ギャンブラー達は自分に最大の利益を生じさせるよう行動するのが常。言えば逆ギレしてきそうなので言わないが、一番オッズの低い馬券を買うのが安牌だったということだ。ご愁傷様、である。
「で…でもいいわよ全然!これで貘様がここにいるってはっきりしたわ!」
馬券を握った手を高らかに突き上げ、彼女は叫んだ。