ジニアの初撃
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
敗者の全てを手に入れ、遊郭から出た晴乃は開放感から大きく伸びをする。そんな彼女に、一緒に出てきた木村が「あの… 伏龍さん」とおずおず声を掛ける。
「何に…巻き込まれてるんですか」
「秘密。今日はありがとね。これ、私のお散歩代」
「いりませんよ…それより、何に巻き込まれてるんですか?!」
「だから、秘密」
彼女は煩わしげに頭を掻くと、歩き出す。その手を慌てて木村が掴んだ。
「待って…説明して下さいよ!」
「しないよ。ああでも、そうだね…今日、この島に私みたいなのがあと11人入り込んだよ。ちょっとしたゲームの為にね。目的は島の統一…だけど、期限が一ヶ月しかないから、皆私みたいにとりあえず島内の権力者を手駒にしてると思うんだよねえ。うん。遅くても来週には島が荒れ始めるよ」
「なんですか…それ」
「よく分かんないまま離脱してくれる?君の助けはいらないし、そもそも戦力外」
「何でそんな言い方出来るんですか?!そんな事言う人じゃなかったじゃないですか!それに…あんな風に見ぐるみ剥がすなんて…そんな人じゃなかったですよ!もっと優しい人でした!厳しいけど、でも、あんな事する人じゃなかったのに!」
「君は私の何を知ってるの?」
突然、彼女から表情が消えた。
「君は何も聞かなかったし、私も何も教えなかった。君と仕事してる時から私は色々抱えてたし、善人じゃなかった。上辺だけ見て語るのはやめてよね」
とにかく、帰るんだ。そして今月は絶対に島に来ちゃ駄目。次は命がないかもしれないよ。彼女はそう言って木村の手を振り払い、風俗街の外へと歩き出す。暫く着いてきていた筈の彼は、いつの間にか居なくなっていた。
ーーーーーーーーーー
「ふう」
市民にランクアップし、服を買い、宿を取り、夕飯を食べ。テキパキこなしていた彼女だったが、全てが終わる頃には時計は10時を指していた。余程疲れたらしく、彼女は椅子にだらけて座り、暫く窓の外を眺めていた。
「すごいなあ、日本じゃないみたい…まさか海外かな…や、でも船でそんなに掛からなかったから…行っても台湾とか…まあいいや」
呼ぶ増援の当てのない彼女には、島の位置は無意味な情報なのだろう。早々に独り言を打ち切り、立ち上がる。そしてキッチンに行くと、湯を沸かし、コップを用意する。二個。
「能輪さんも飲むでしょう?」
そう問い掛けつつも、手元は既に動いている。湯を注ぎ、ティーバッグをゆっくりと下ろすその動きは何とも言えず懐かしい。
「業務中ですので」
「今日はもう働きませんよ。疲れましたもん。だから…能輪さんの出番も、今日はおしまい」
彼女は俺に笑顔を送ると、コップを両手に持ち、窓際のテーブルに戻る。そして片方を自分の前の席に置き、もう片方に口をつけた。
「あ、割と美味しいですよ。プロトポロスブレンドなんて見かけた時は心配しましたけど」
「なら、何故買ったのですか」
思わずツッコミを入れて、慌てて口をつぐむ。業務中なのだ、俺は。
「だって、面白そうだったから」
彼女は笑い、もう一口口に含む。紅茶で濡れた唇はやんわりと弧を描いている。
「お腹の怪我、痛むでしょ?座った方がいいです」
「…何故それを」
「顔に書いてありますよ。それに…私と組んだ弥鱈君と戦って、無事なはずがない」
彼女の唇がさっきまでとは別物の、人が悪い笑みを浮かべる。俺はその凶悪な空気を振り払う様な気持ちで「どういうことです」と聞いた。
「おじいちゃんの頭の上で、私とお屋形様が喧嘩してたんですよ。あの時」
「…どういう事でしょうか?」
「喧嘩っていうと語弊があるんですけどねぇ…。私、あのテレビ局の賭けで貘様が屋形越えの為の絡め手を調達するってのに気付いて、それを邪魔しようと裏で動いてたんです。夕湖と目蒲さんと南方さんと弥鱈君を巻き込んでね。で、最後に‘私も賭けについて行きます!’ってお屋形様に報告したら、あの人ったら気まぐれで私の妨害工作を始めたんです。…それが貴方達」
「それは…つまり…」
「ええ、貴方が勝っても弥鱈君が勝っても賭郎に問題は無かった訳です。ふざけんな、でしょ?…あ、紅茶。冷めちゃう前に飲んで下さいな」
「はい…」
勧められるまま、俺はカップを掴み一口。すると何だか無性に腹が立ってきてもう一口、二口。
何だマジかよ、ふざけんなよオイ。
「なんだよそれ?コッチは號奪戦の後で直行してきたんだぞ?!」
「あ、すみません。それは念の為に私が仕組んだ奴です。何かあった時に来るのはおじいちゃん派閥の人だろうなーって思ってたので」
「はあ?!ビンゴかよ!全部テメェの掌の上ってか?!」
「おーいえー」
「いえーじゃねえんだよぶっ殺すぞ!」
「やめて下さいよう、晴乃ちゃんはプレイヤーなんですよ?!」
「はー?うっせえよ!紅茶飲んだら業務終了だばーか!」
売り言葉に買い言葉でそう口走った俺は、気付く。やられた!
「てんめっ…!それ狙いで飲ませたな?!」
「全部私の掌の上ですね。ざまあみやがれです」
あっはっは、と大笑いの晴乃が堪らなくムカついて、俺は机から身を乗り出し、思い切り鼻を摘む。「いひゃいいひゃい!やめへ!」と、へにょへにょの抗議の声。もうマジで、それすらもムカつく。
「テメェ表出ろマジで!一発殴ってやるよ!」
「はにゃはにはぐはえたらひにまふっへ!」
「なんて言ってるか分かんねえ!」
俺が怒鳴ると、彼女もちょっと怒って俺の手を振り払って立ち上がり、「貴方に殴られたら死にますって!鼻痛いなあ!」と怒鳴り返してくる。つくづくムカつく女。
そう。ムカつく女。頑固で生意気で愛情深い、俺達の事務員。
堪らなくなって、ぐいとテーブル越しに彼女を抱き寄せる。ガチャ、とカップが倒れる音がしたが、いいだろ。後でコイツが拭くさ。
「心配したんだぞ!愚痴聞けよばーか!」
そう言うと、抱きしめた腕越しに、彼女がくすくす笑う気配がした。いつも通り、って言葉が不意に頭に浮かんだ。
→番外編:今日の反省会
「何に…巻き込まれてるんですか」
「秘密。今日はありがとね。これ、私のお散歩代」
「いりませんよ…それより、何に巻き込まれてるんですか?!」
「だから、秘密」
彼女は煩わしげに頭を掻くと、歩き出す。その手を慌てて木村が掴んだ。
「待って…説明して下さいよ!」
「しないよ。ああでも、そうだね…今日、この島に私みたいなのがあと11人入り込んだよ。ちょっとしたゲームの為にね。目的は島の統一…だけど、期限が一ヶ月しかないから、皆私みたいにとりあえず島内の権力者を手駒にしてると思うんだよねえ。うん。遅くても来週には島が荒れ始めるよ」
「なんですか…それ」
「よく分かんないまま離脱してくれる?君の助けはいらないし、そもそも戦力外」
「何でそんな言い方出来るんですか?!そんな事言う人じゃなかったじゃないですか!それに…あんな風に見ぐるみ剥がすなんて…そんな人じゃなかったですよ!もっと優しい人でした!厳しいけど、でも、あんな事する人じゃなかったのに!」
「君は私の何を知ってるの?」
突然、彼女から表情が消えた。
「君は何も聞かなかったし、私も何も教えなかった。君と仕事してる時から私は色々抱えてたし、善人じゃなかった。上辺だけ見て語るのはやめてよね」
とにかく、帰るんだ。そして今月は絶対に島に来ちゃ駄目。次は命がないかもしれないよ。彼女はそう言って木村の手を振り払い、風俗街の外へと歩き出す。暫く着いてきていた筈の彼は、いつの間にか居なくなっていた。
ーーーーーーーーーー
「ふう」
市民にランクアップし、服を買い、宿を取り、夕飯を食べ。テキパキこなしていた彼女だったが、全てが終わる頃には時計は10時を指していた。余程疲れたらしく、彼女は椅子にだらけて座り、暫く窓の外を眺めていた。
「すごいなあ、日本じゃないみたい…まさか海外かな…や、でも船でそんなに掛からなかったから…行っても台湾とか…まあいいや」
呼ぶ増援の当てのない彼女には、島の位置は無意味な情報なのだろう。早々に独り言を打ち切り、立ち上がる。そしてキッチンに行くと、湯を沸かし、コップを用意する。二個。
「能輪さんも飲むでしょう?」
そう問い掛けつつも、手元は既に動いている。湯を注ぎ、ティーバッグをゆっくりと下ろすその動きは何とも言えず懐かしい。
「業務中ですので」
「今日はもう働きませんよ。疲れましたもん。だから…能輪さんの出番も、今日はおしまい」
彼女は俺に笑顔を送ると、コップを両手に持ち、窓際のテーブルに戻る。そして片方を自分の前の席に置き、もう片方に口をつけた。
「あ、割と美味しいですよ。プロトポロスブレンドなんて見かけた時は心配しましたけど」
「なら、何故買ったのですか」
思わずツッコミを入れて、慌てて口をつぐむ。業務中なのだ、俺は。
「だって、面白そうだったから」
彼女は笑い、もう一口口に含む。紅茶で濡れた唇はやんわりと弧を描いている。
「お腹の怪我、痛むでしょ?座った方がいいです」
「…何故それを」
「顔に書いてありますよ。それに…私と組んだ弥鱈君と戦って、無事なはずがない」
彼女の唇がさっきまでとは別物の、人が悪い笑みを浮かべる。俺はその凶悪な空気を振り払う様な気持ちで「どういうことです」と聞いた。
「おじいちゃんの頭の上で、私とお屋形様が喧嘩してたんですよ。あの時」
「…どういう事でしょうか?」
「喧嘩っていうと語弊があるんですけどねぇ…。私、あのテレビ局の賭けで貘様が屋形越えの為の絡め手を調達するってのに気付いて、それを邪魔しようと裏で動いてたんです。夕湖と目蒲さんと南方さんと弥鱈君を巻き込んでね。で、最後に‘私も賭けについて行きます!’ってお屋形様に報告したら、あの人ったら気まぐれで私の妨害工作を始めたんです。…それが貴方達」
「それは…つまり…」
「ええ、貴方が勝っても弥鱈君が勝っても賭郎に問題は無かった訳です。ふざけんな、でしょ?…あ、紅茶。冷めちゃう前に飲んで下さいな」
「はい…」
勧められるまま、俺はカップを掴み一口。すると何だか無性に腹が立ってきてもう一口、二口。
何だマジかよ、ふざけんなよオイ。
「なんだよそれ?コッチは號奪戦の後で直行してきたんだぞ?!」
「あ、すみません。それは念の為に私が仕組んだ奴です。何かあった時に来るのはおじいちゃん派閥の人だろうなーって思ってたので」
「はあ?!ビンゴかよ!全部テメェの掌の上ってか?!」
「おーいえー」
「いえーじゃねえんだよぶっ殺すぞ!」
「やめて下さいよう、晴乃ちゃんはプレイヤーなんですよ?!」
「はー?うっせえよ!紅茶飲んだら業務終了だばーか!」
売り言葉に買い言葉でそう口走った俺は、気付く。やられた!
「てんめっ…!それ狙いで飲ませたな?!」
「全部私の掌の上ですね。ざまあみやがれです」
あっはっは、と大笑いの晴乃が堪らなくムカついて、俺は机から身を乗り出し、思い切り鼻を摘む。「いひゃいいひゃい!やめへ!」と、へにょへにょの抗議の声。もうマジで、それすらもムカつく。
「テメェ表出ろマジで!一発殴ってやるよ!」
「はにゃはにはぐはえたらひにまふっへ!」
「なんて言ってるか分かんねえ!」
俺が怒鳴ると、彼女もちょっと怒って俺の手を振り払って立ち上がり、「貴方に殴られたら死にますって!鼻痛いなあ!」と怒鳴り返してくる。つくづくムカつく女。
そう。ムカつく女。頑固で生意気で愛情深い、俺達の事務員。
堪らなくなって、ぐいとテーブル越しに彼女を抱き寄せる。ガチャ、とカップが倒れる音がしたが、いいだろ。後でコイツが拭くさ。
「心配したんだぞ!愚痴聞けよばーか!」
そう言うと、抱きしめた腕越しに、彼女がくすくす笑う気配がした。いつも通り、って言葉が不意に頭に浮かんだ。
→番外編:今日の反省会