ジニアの初撃
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「それでは…この御膳を使いましょう。御膳の上で裏返された十のお猪口、この内どれか一つに菊の花が隠されています。お二人は交互にお猪口を開いていき、菊の花が隠されたお猪口を開いてしまった方が負け。それまでに開いたお猪口の分だけの店舗が相手のものになります。そして、全ての店舗を先に手にした方が勝ち。こちらで調べましたところ、ゴラゴラ様が所有する店舗は17。ノヂシャ様は1。お二人とも、お間違いはないでしょうか」
「…いつの間に調べたんだよ」
「その専門のスタッフがおりますので」
そう受け流すと、オーナーは不愉快極まりなさ気に舌打ちした。取り合わず、話を進める。
「それでは菊の花ですが…ゲームの度に私が部屋の外で隠し、部屋に戻させて頂きます」
「ああ…」
「よろしくお願いしますね」
にっこり笑顔を作る晴乃に一礼し、「それでは、双方準備が宜しければ、このまま始めさせて頂きたいと思います。立会いを務めますのは私、能輪巳虎。公平な立会いをお約束いたします」と宣言した。二人が何も言わないのを了承とし、お猪口を持って部屋の外に出て、菊の花を隠す。
「それではノヂシャ様対ゴラゴラ様。勝負は菊の花、これより始めます」
呼応して遊女がベンと三味線を鳴らし、歌い出す。
「誰が取るのか菊の花」
朗々と響く歌声。流石高級娼婦、とでも言うべきか。一気に雰囲気が出来あがる中で、晴乃は麗かな笑顔で「先攻どうぞ」と言った。オーナーはそんな彼女を激しく睨みつつ、促されるままお猪口を一つひっくり返す。中身は空。彼は大きくため息を吐き、「さあ、あんたの番だ」とふんぞり返った。対する彼女はすかさずその隣のお猪口をひっくり返し、「さ、どうぞ」と笑う。
凛々しい三味線の音の中、音もなくお猪口が返されていく。開いたお猪口が六つになった時、耐えきれずに木村が晴乃に駆け寄った。
「早目に開けさせた方がいいですよ」
「何言ってるの。どうやるのそれ」
素っ頓狂な彼の提案にクスクス笑いながら、彼女が「これこれ!ってやるの?」と伏せられたお猪口の一つを指差したのを見て、オーナーは哀れなほどに硬直した。ブラフに見えたのだろう。しかし彼女はそんなオーナーを見て「あ、ごめんね。適当に指差しただけよ」と手をひらひらさせる。勿論緊張状態の彼は、それさえもブラフとして受け取る。
オーナーのターン、彼は長考に入る。残り四つしかお猪口は無い。その中で晴乃が指したものを選ぶべきか、外すべきか。今の木村の言葉には何か意図があったのではないか。立会人は本当に中立なのか。本国に秘密を持ち帰ればいいだけの筈がこうして賭けに乗っている、晴乃の狙いは何なのか。
自家中毒の吐きそうな緊張の中、オーナーは晴乃が指し示したお猪口を開けた。
「‘菊の花’です。六店舗の所有権がノヂシャ様に移行します」
オーナーはカッと顔を赤くし、晴乃に食ってかかる。
「イカサマだ!こいつ、菊の花の位置を知ってやがった!」
「して、その根拠は?」
「テメェが指差したお猪口に菊の花が入ってたんだ、知ってたに決まったんだろうが!」
「で、どうやって貴方にそのお猪口を開けさせた?私、無理矢理手を掴んで開けさせてたかなあ?」
具体的な方法を問われ、オーナーは言葉に詰まる。分かる筈がない。晴乃に読心の力があるなど、普通の人間には思い当たらないからだ。そして、仮にそれに思い当たって口に出したとて、晴乃が「まさか」と一笑に伏して終わり。読心の証拠などあるはずもない。このゲームが選出された時点で晴乃の勝ちは確定しているのだ。
「根拠も無しに人聞きの悪い事言わないでよね」
彼女は鼻で笑った。しかし、オーナーは「でも、その立会人が中立かなんて誰にも分からねえ!菊の花の位置を知らせる方法なんていくらでもある!」としつこい。
「人聞き悪い事言うなって言ったの、聞こえなかった?」
「小娘が偉そうにがたがたうっせえんだよ!いいか?!こんな怪しいゲームに…」
「ならゲームはこれで終わりだね」
「はっ?」
「自分の立場を忘れないでよ。私はやめてもいいんだってば」
二の句を告げなくなるオーナーにため息を吐くと、晴乃は「根拠がないことは言わないこと」と言いながら膝を崩した。
「で、どうするの?」
「続け…ます」
「ん。いいよ」
彼女は遊女に視線を送る。慌てて背筋を伸ばした遊女の三味線が奏でる、べん、と言う音が再び空気を変えた。
「…いつの間に調べたんだよ」
「その専門のスタッフがおりますので」
そう受け流すと、オーナーは不愉快極まりなさ気に舌打ちした。取り合わず、話を進める。
「それでは菊の花ですが…ゲームの度に私が部屋の外で隠し、部屋に戻させて頂きます」
「ああ…」
「よろしくお願いしますね」
にっこり笑顔を作る晴乃に一礼し、「それでは、双方準備が宜しければ、このまま始めさせて頂きたいと思います。立会いを務めますのは私、能輪巳虎。公平な立会いをお約束いたします」と宣言した。二人が何も言わないのを了承とし、お猪口を持って部屋の外に出て、菊の花を隠す。
「それではノヂシャ様対ゴラゴラ様。勝負は菊の花、これより始めます」
呼応して遊女がベンと三味線を鳴らし、歌い出す。
「誰が取るのか菊の花」
朗々と響く歌声。流石高級娼婦、とでも言うべきか。一気に雰囲気が出来あがる中で、晴乃は麗かな笑顔で「先攻どうぞ」と言った。オーナーはそんな彼女を激しく睨みつつ、促されるままお猪口を一つひっくり返す。中身は空。彼は大きくため息を吐き、「さあ、あんたの番だ」とふんぞり返った。対する彼女はすかさずその隣のお猪口をひっくり返し、「さ、どうぞ」と笑う。
凛々しい三味線の音の中、音もなくお猪口が返されていく。開いたお猪口が六つになった時、耐えきれずに木村が晴乃に駆け寄った。
「早目に開けさせた方がいいですよ」
「何言ってるの。どうやるのそれ」
素っ頓狂な彼の提案にクスクス笑いながら、彼女が「これこれ!ってやるの?」と伏せられたお猪口の一つを指差したのを見て、オーナーは哀れなほどに硬直した。ブラフに見えたのだろう。しかし彼女はそんなオーナーを見て「あ、ごめんね。適当に指差しただけよ」と手をひらひらさせる。勿論緊張状態の彼は、それさえもブラフとして受け取る。
オーナーのターン、彼は長考に入る。残り四つしかお猪口は無い。その中で晴乃が指したものを選ぶべきか、外すべきか。今の木村の言葉には何か意図があったのではないか。立会人は本当に中立なのか。本国に秘密を持ち帰ればいいだけの筈がこうして賭けに乗っている、晴乃の狙いは何なのか。
自家中毒の吐きそうな緊張の中、オーナーは晴乃が指し示したお猪口を開けた。
「‘菊の花’です。六店舗の所有権がノヂシャ様に移行します」
オーナーはカッと顔を赤くし、晴乃に食ってかかる。
「イカサマだ!こいつ、菊の花の位置を知ってやがった!」
「して、その根拠は?」
「テメェが指差したお猪口に菊の花が入ってたんだ、知ってたに決まったんだろうが!」
「で、どうやって貴方にそのお猪口を開けさせた?私、無理矢理手を掴んで開けさせてたかなあ?」
具体的な方法を問われ、オーナーは言葉に詰まる。分かる筈がない。晴乃に読心の力があるなど、普通の人間には思い当たらないからだ。そして、仮にそれに思い当たって口に出したとて、晴乃が「まさか」と一笑に伏して終わり。読心の証拠などあるはずもない。このゲームが選出された時点で晴乃の勝ちは確定しているのだ。
「根拠も無しに人聞きの悪い事言わないでよね」
彼女は鼻で笑った。しかし、オーナーは「でも、その立会人が中立かなんて誰にも分からねえ!菊の花の位置を知らせる方法なんていくらでもある!」としつこい。
「人聞き悪い事言うなって言ったの、聞こえなかった?」
「小娘が偉そうにがたがたうっせえんだよ!いいか?!こんな怪しいゲームに…」
「ならゲームはこれで終わりだね」
「はっ?」
「自分の立場を忘れないでよ。私はやめてもいいんだってば」
二の句を告げなくなるオーナーにため息を吐くと、晴乃は「根拠がないことは言わないこと」と言いながら膝を崩した。
「で、どうするの?」
「続け…ます」
「ん。いいよ」
彼女は遊女に視線を送る。慌てて背筋を伸ばした遊女の三味線が奏でる、べん、と言う音が再び空気を変えた。