エンゼルランプの腕の中
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番外編:君なき後にできること
※卍戦会議後の話。
「棟耶、良かったのか?」
立会人達は、儂が棟耶と話したがっているのを察してーー門倉に至っては「私がマルコ様も卍に迎え入れます故、御大は先に卍へ」という気遣い様ーー足早に会議室を去っていった。
「良くは…ないのだろうな」
棟耶は机を撫でるように触れながら、こちらに歩いてくる。あえて手元を見つめているのは、儂と目を合わせたくないという事なのだろう。わざわざ目を向けさせるような無粋はするまい。
「孫の為に譲ってくれた事には感謝するが…お主らしくないの」
「私もそう思うよ…最近、色々考えてしまっていけないな」
「年じゃな」
「君にだけは言われたくないな」
小さく息をついた彼。その横顔に「お屋形様の事か?」と問い掛けた。
「ああ。お屋形様と… 伏龍の事だ」
彼は自暴自棄とも取れる笑顔を見せ、語り出す。
「こんな事にさえならなければ、伏龍は責任を持って巳虎君の面倒を見ていただろう。そう思ってしまった」
「そうじゃの…」
救われる優先順位があるとするならば、その席に限りがあるというのなら、勿論一番はお屋形様だ。例え押し退けられたのが自分の孫であったとしても、儂が意見を変えることはない。そもそも、巳虎も立会人。一度の負けで折れるのならそこまでの器なのだ。
会議室に飛び込んできた彼の痛々しさに胸が痛んだのは、ひとえに儂が未熟故。
「確かに伏龍は賭郎に帰ってくるだろう。いくら嫌っているとはいえ…命を捨てるほどではない筈だからな。だが…同じ形には戻らない。立会人になるのか、お屋形様付きになるのか、はたまた妻にでもなるのか…いずれにせよ、立会人のメンタルケアに勤しめる立場ではなくなるだろう。そう思うと、巳虎君が不憫でならなくてな…。せめて、立ち直るきっかけだけでもと考えてしまったよ」
今自分への失望の最中でもがく孫を想う。この一年強、彼等の挫折や失敗、悲しみは全て彼女が飲み干してきた。我々は突然悲しみの置き場を失った。その煽りを受けた最初の一人がたまたま巳虎だった。可哀想に、彼は一人で悲しみを越える方法など知らないだろう。そして、彼の両親もまた、慰め方など知らない筈だ。
「この騒動は、どう結末を迎えるんじゃろうの」
「さあな。…丸く収まるさ。お屋形様と伏龍だ」
あの女は、人を変える。それが賭郎にとってどのような意味をもつかは分からんが、あの女は変化をもたらすぞ、能輪。
不意に思い出したのは、かつての撻器様の言葉。我々も変わっていくのだろうか。あの優しさを分け合うように。
※卍戦会議後の話。
「棟耶、良かったのか?」
立会人達は、儂が棟耶と話したがっているのを察してーー門倉に至っては「私がマルコ様も卍に迎え入れます故、御大は先に卍へ」という気遣い様ーー足早に会議室を去っていった。
「良くは…ないのだろうな」
棟耶は机を撫でるように触れながら、こちらに歩いてくる。あえて手元を見つめているのは、儂と目を合わせたくないという事なのだろう。わざわざ目を向けさせるような無粋はするまい。
「孫の為に譲ってくれた事には感謝するが…お主らしくないの」
「私もそう思うよ…最近、色々考えてしまっていけないな」
「年じゃな」
「君にだけは言われたくないな」
小さく息をついた彼。その横顔に「お屋形様の事か?」と問い掛けた。
「ああ。お屋形様と… 伏龍の事だ」
彼は自暴自棄とも取れる笑顔を見せ、語り出す。
「こんな事にさえならなければ、伏龍は責任を持って巳虎君の面倒を見ていただろう。そう思ってしまった」
「そうじゃの…」
救われる優先順位があるとするならば、その席に限りがあるというのなら、勿論一番はお屋形様だ。例え押し退けられたのが自分の孫であったとしても、儂が意見を変えることはない。そもそも、巳虎も立会人。一度の負けで折れるのならそこまでの器なのだ。
会議室に飛び込んできた彼の痛々しさに胸が痛んだのは、ひとえに儂が未熟故。
「確かに伏龍は賭郎に帰ってくるだろう。いくら嫌っているとはいえ…命を捨てるほどではない筈だからな。だが…同じ形には戻らない。立会人になるのか、お屋形様付きになるのか、はたまた妻にでもなるのか…いずれにせよ、立会人のメンタルケアに勤しめる立場ではなくなるだろう。そう思うと、巳虎君が不憫でならなくてな…。せめて、立ち直るきっかけだけでもと考えてしまったよ」
今自分への失望の最中でもがく孫を想う。この一年強、彼等の挫折や失敗、悲しみは全て彼女が飲み干してきた。我々は突然悲しみの置き場を失った。その煽りを受けた最初の一人がたまたま巳虎だった。可哀想に、彼は一人で悲しみを越える方法など知らないだろう。そして、彼の両親もまた、慰め方など知らない筈だ。
「この騒動は、どう結末を迎えるんじゃろうの」
「さあな。…丸く収まるさ。お屋形様と伏龍だ」
あの女は、人を変える。それが賭郎にとってどのような意味をもつかは分からんが、あの女は変化をもたらすぞ、能輪。
不意に思い出したのは、かつての撻器様の言葉。我々も変わっていくのだろうか。あの優しさを分け合うように。