エンゼルランプの腕の中
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バタン!と乱暴にドアが開き、「おいふざけんな!」と大声を出しながら能輪八號が飛び込んできた。慌てて能輪壱號が静止の声を上げるが、彼はそれにも構わず俺の胸倉を掴み、自分の方へ引き寄せた。
「何で俺が呼ばれねえ!」
「はあ〜。特に他意はありませんが」
「俺が…俺が使えねえって思ってんだろ!テメェもどうせ…!」
「被害妄想も甚だしいですねえ〜」
唾で風船を作って飛ばせば、彼は「きったねえな!」と悪態を吐きつつ顔を離す。その隙をついて、胸倉に伸びる手を足で払う。
「部外者はお引き取り下さい」
「てんめっ…!俺は八號で!テメェは弐拾八號なんだぞっ!」
「だから、何です」
貴方は私よりも弱いでしょう。勿論言わない。だが、伝わる。能輪八號の瞳に灯る炎は轟々と燃え盛り、まるで全身を包むようだ。
「俺は…やれる!俺にやらせろ!」
「困ります」
「巳虎、少し落ち着きなさい」
流石に息子を止めにきた能輪陸號に対して、彼は「うるせえんだよ!」と吠える。
「うるせえ!テメェに俺の気持ちが分かるかよ!俺の…俺は…!どうせテメェも俺の事一族の恥みてぇに…」
「巳虎君」
新たに止めに入ったのは判事だった。
「私の代わりに入るか?」
「な…にを、言うちょる、棟耶」
自分の席からそう声を掛けた彼に、驚いた能輪壱號が反応する。
「私は構わない…お屋形様が不在、伏龍の目的も分からない中、大幹部が三人も卍の中に入るのには懸念があった。君がもしやれると言うのなら、私はこの席を譲ろうと思う。ただね…私を押し退けて卍に入る以上、しくじれば次の悪評は‘弥鱈立会人に負けた’の比ではないよ。君に完璧の傍らに立つ者としての資質があるかどうか?この場にいる全員が判断するだろう。巳虎君、負けん気だけで言っているのなら、今回は下がりなさい」
熱くなった能輪八號の頭から冷水を掛けるような、冷静な判事の言葉。椅子に腰掛けたままの、壁にもたれている、直立不動で話を聞いている立会人達の視線は全て能輪八號に注がれている。一瞬の沈黙の後、彼は「面白えじゃん」と唇を歪めた。
「やるよ…いや、やらせてください、判事…俺は…できる…」
「そうか。では弥鱈君、済まないがそのようにしてくれ。私は卍の外から君をサポートしよう」
「心強いお言葉をありがとうございます。そのように致します」
判事にそう言われてしまえば仕方がない。伏龍のパートナーがコイツに代わってしまうのは若干心配ではあるが、まあいい。不適格と判断したら亜面立会人にチェンジするだけ。寧ろ…亜面立会人に代える道筋ができた事を喜ぼうじゃあないか。彼女なら絶妙に伏龍向けのゲームを選んでくれる筈だ。
「はぁ〜」
とはいえ面倒だ。俺は大きくため息をついた。銅寺立会人が「前途多難だね」と笑うのに肩を竦めて返す。判事は能輪八號の元へ歩み寄ると、ぱさりと配布資料で彼の肩を叩き、「資料だ。弥鱈君が上手く纏めてくれている。読めば分かるだろう。君はノヂシャの専属だ。すぐにヘリに乗りなさい」と声を掛けた。能輪八號はそれを受け取り、「ありがとうございます」と恭しく頭を下げる。俺は聞こえよがしにもう一度ため息をついた。
「それではみなさん、これより任務開始です。よろしくお願いします」
よろしくお願いしますという声が揃って返ってくる。気持ちいいものだが、生憎浸る時間はない。歩き出せば、ヘリに乗る一団が一歩後ろに着いてきた。
ーーーーーーーーーー
「泉江外務卿、これは貴女の方が役立てられるでしょう。よろしく頼みます」
そう言って弥鱈が渡してきたノートをパラパラとめくる。あまりアイツの字を見る事はないので、今更ながら字が上手なんだなあと感心する。
いや、きっと練習したのだろう。アイツの事だから。適当に見えて意外と努力家なのだ。
このノートもそう。賭郎の周辺人物を把握したいと言い出した時は趣味程度にのんびりやるのだろうと思っていたが、門倉が入院してから、毎晩、毎晩。いつの間にかノートも三冊目に入っていたらしい。弥鱈はーー勿論便宜上だがーー裏切り者のノートと形容したが、これほど頼りになるノートもない。執務室に戻ったらゆっくりと読ませて頂こうじゃないか。
パラパラめくる手が止まる。「どうした」と、後ろから夜行掃除人が声を掛けてきたのを、咄嗟に「いえ…よく調べたものですね」と誤魔化した。
パラパラと中身を確認する素振りを続けながら、目に焼き付けた黄色い付箋にあったことを反芻する。
ハル=お屋形様
ノヂシャ=伏龍
二人に腹案有り
今は沈黙されたし
何ともはや、愉快な事になっているじゃあないか。目蒲じゃないが、全くもって予想の範疇にいてくれない奴だこと。内心笑ってしまうが、背後の夜行掃除人に気付かれでもすれば、死に物狂いで卍戦開始前に二人を回収にかかるだろう。付箋の通り、今は沈黙あるのみ。
お前が何を考えているのかは知らないが、腹案があるなら従ってやろう。私はどこまでもお前の味方なんだから。頑張れの代わりに、そっとノートの表紙を撫でた。
→番外編:君なき後にできること
「何で俺が呼ばれねえ!」
「はあ〜。特に他意はありませんが」
「俺が…俺が使えねえって思ってんだろ!テメェもどうせ…!」
「被害妄想も甚だしいですねえ〜」
唾で風船を作って飛ばせば、彼は「きったねえな!」と悪態を吐きつつ顔を離す。その隙をついて、胸倉に伸びる手を足で払う。
「部外者はお引き取り下さい」
「てんめっ…!俺は八號で!テメェは弐拾八號なんだぞっ!」
「だから、何です」
貴方は私よりも弱いでしょう。勿論言わない。だが、伝わる。能輪八號の瞳に灯る炎は轟々と燃え盛り、まるで全身を包むようだ。
「俺は…やれる!俺にやらせろ!」
「困ります」
「巳虎、少し落ち着きなさい」
流石に息子を止めにきた能輪陸號に対して、彼は「うるせえんだよ!」と吠える。
「うるせえ!テメェに俺の気持ちが分かるかよ!俺の…俺は…!どうせテメェも俺の事一族の恥みてぇに…」
「巳虎君」
新たに止めに入ったのは判事だった。
「私の代わりに入るか?」
「な…にを、言うちょる、棟耶」
自分の席からそう声を掛けた彼に、驚いた能輪壱號が反応する。
「私は構わない…お屋形様が不在、伏龍の目的も分からない中、大幹部が三人も卍の中に入るのには懸念があった。君がもしやれると言うのなら、私はこの席を譲ろうと思う。ただね…私を押し退けて卍に入る以上、しくじれば次の悪評は‘弥鱈立会人に負けた’の比ではないよ。君に完璧の傍らに立つ者としての資質があるかどうか?この場にいる全員が判断するだろう。巳虎君、負けん気だけで言っているのなら、今回は下がりなさい」
熱くなった能輪八號の頭から冷水を掛けるような、冷静な判事の言葉。椅子に腰掛けたままの、壁にもたれている、直立不動で話を聞いている立会人達の視線は全て能輪八號に注がれている。一瞬の沈黙の後、彼は「面白えじゃん」と唇を歪めた。
「やるよ…いや、やらせてください、判事…俺は…できる…」
「そうか。では弥鱈君、済まないがそのようにしてくれ。私は卍の外から君をサポートしよう」
「心強いお言葉をありがとうございます。そのように致します」
判事にそう言われてしまえば仕方がない。伏龍のパートナーがコイツに代わってしまうのは若干心配ではあるが、まあいい。不適格と判断したら亜面立会人にチェンジするだけ。寧ろ…亜面立会人に代える道筋ができた事を喜ぼうじゃあないか。彼女なら絶妙に伏龍向けのゲームを選んでくれる筈だ。
「はぁ〜」
とはいえ面倒だ。俺は大きくため息をついた。銅寺立会人が「前途多難だね」と笑うのに肩を竦めて返す。判事は能輪八號の元へ歩み寄ると、ぱさりと配布資料で彼の肩を叩き、「資料だ。弥鱈君が上手く纏めてくれている。読めば分かるだろう。君はノヂシャの専属だ。すぐにヘリに乗りなさい」と声を掛けた。能輪八號はそれを受け取り、「ありがとうございます」と恭しく頭を下げる。俺は聞こえよがしにもう一度ため息をついた。
「それではみなさん、これより任務開始です。よろしくお願いします」
よろしくお願いしますという声が揃って返ってくる。気持ちいいものだが、生憎浸る時間はない。歩き出せば、ヘリに乗る一団が一歩後ろに着いてきた。
ーーーーーーーーーー
「泉江外務卿、これは貴女の方が役立てられるでしょう。よろしく頼みます」
そう言って弥鱈が渡してきたノートをパラパラとめくる。あまりアイツの字を見る事はないので、今更ながら字が上手なんだなあと感心する。
いや、きっと練習したのだろう。アイツの事だから。適当に見えて意外と努力家なのだ。
このノートもそう。賭郎の周辺人物を把握したいと言い出した時は趣味程度にのんびりやるのだろうと思っていたが、門倉が入院してから、毎晩、毎晩。いつの間にかノートも三冊目に入っていたらしい。弥鱈はーー勿論便宜上だがーー裏切り者のノートと形容したが、これほど頼りになるノートもない。執務室に戻ったらゆっくりと読ませて頂こうじゃないか。
パラパラめくる手が止まる。「どうした」と、後ろから夜行掃除人が声を掛けてきたのを、咄嗟に「いえ…よく調べたものですね」と誤魔化した。
パラパラと中身を確認する素振りを続けながら、目に焼き付けた黄色い付箋にあったことを反芻する。
ハル=お屋形様
ノヂシャ=伏龍
二人に腹案有り
今は沈黙されたし
何ともはや、愉快な事になっているじゃあないか。目蒲じゃないが、全くもって予想の範疇にいてくれない奴だこと。内心笑ってしまうが、背後の夜行掃除人に気付かれでもすれば、死に物狂いで卍戦開始前に二人を回収にかかるだろう。付箋の通り、今は沈黙あるのみ。
お前が何を考えているのかは知らないが、腹案があるなら従ってやろう。私はどこまでもお前の味方なんだから。頑張れの代わりに、そっとノートの表紙を撫でた。
→番外編:君なき後にできること