ハシバミの小旅行
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デパートでも尚、彼女の快進撃が続く。瞬く間に増えていく服の山。唯一試着したのは下着位か。
ーーー「やっぱり下がった!目蒲さんめ!」と毒づいていたが、何があったのだろうか?
よし、と頷く彼女。ひと段落ついたようだ。彼女の申し出る通りに一旦車に服の袋を置いて、買い物を再開する。
「ごめんなさい泉江さん、ここからは悩んでいいですか?」
と、おもむろに彼女が謝ってきた。私はそれ自体は構わないと頷く。そもそもこの快進撃のお陰で想定していた半分の時間で進んでいるのだ。渋る程の事はない。
彼女が入って行ったのは、フェミニン系の店。自分が普段行くのとは別世界の可愛らしい店内に、どことなく余所余所しさを感じてしまう。
柔らかいパステル色の中で、彼女はじっくりと服を眺めている。真っ白なワンピースを着た彼女はとてもこの雰囲気に合って見え、逆に自分はどうだろうかとそわそわした気持ちになる。
吊り下げられた服達に軽く触れる華奢な指、翻るスカートの裾から見える細い足、袖から覗く柔らかそうな二の腕。こんな女らしいのがやっていけるんだろうか、賭郎で。
彼女は私の気なんて知らず、色違いのスカートを両手に持って口をへの字に曲げている。さっきまでの勢いはどこに行ったのか。その姿は優柔不断なオンナノコそのもの。心配しかない。
ーーーまあでも、大丈夫なんだろうな。なにぶん私なんかよりずっと男慣れしていらっしゃる。
楽しそうなお屋形様の声色が、彼女を気にかける目蒲の姿が浮かぶ。個人主義の賭郎において一際人とつるまない二人が、随分と彼女に対しては友好的だ。つまり、そういうことなんだろう。
可愛い、愛らしいっていうのはどこへ行っても武器なんだな。
ため息を一つ。彼女は相変わらず、私の気なんて知らずにブラウスを試着しに行った。
「泉江さん、これこれ!」
彼女が声をかけてきたのは、それからしばらく後のこと。彼女を見れば、高々と一着の紺のワンピースを掲げている。裾に大振りの花がプリントされている。華やかながら落ち着きのある、可愛いデザインだった。
「いいんじゃないか?」
「ですよね!私は白が買いたいんですけど、泉江さん紺どうですか?」
「ん?お前のじゃないのか」
「私のことでわざわざ呼びつけませんよー!泉江さんこういうの好きかなって」
正直に言ってしまえば、好きなデザインだ。でもなぁ、と首をかしげる。
「悪いが、あまりそういうふわふわした服は着ない」
「え、でも好きなデザインなんですよね?」
「言ったか?」
「顔に書いてありますよ」
そういえばお屋形様が心が読めると言っていたな。真偽の程は謎だが。
「大丈夫です泉江さん。着るだけならタダですよ。しっくり来なければやめればいいんです」
「お前…」
意外と押しが強いんだな。私が言い切る前に、試着室に押し込まれた。男の高圧的な押しの強さと違って、こいつの押しの強さって変に柔らかくてなんとなく断りづらい。私は仕方がなく、あくまで仕方がなくワンピースに袖を通した。
「可愛い…」
呟いて、ちょっと負けた気になった。いや。ダメだダメだ。こんな可愛いワンピース買っても使わない。脱ごう。あいつには私には似合わなかったって言おう。
「泉江さん!終わりましたか?」
「え、いや、まだだ」
「よっしゃ失礼します!」
何をとち狂ったか、彼女はカーテンを開けた。
「なななんで開けた!?」
「うわー泉江さん、すっごく似合うじゃないですかー!」
「いやだからなんで開けた!?」
「だって泉江さん見せずに脱ぐ気満々だったじゃないですかー」
彼女はニコニコとそう答えた。やっぱり心が読めるんだこいつは!
「いや、そんなつもりはなかったんだ」
無駄だと分かりつつも、反射的に否定してしまう。なんて浅はかな自分。
「えー、なら、なんでさっき」
「あれは、だって…」
何か無いか。私は考える。
「か、肩幅が、目立つなと、思ってだな」
「ああ!確かにノースリーブって着ない人はホントに着ませんもんね。すぐカーディガン取ってきます」
「違っ…」
脱ぎたいんだ、私は!言いたかったのに、丁度目の前を通った店員が「よくお似合いですよ」なんて言ってくるのでタイミングを逃す。彼女は器用に松葉杖にカーディガンを三着掛けて、すぐに戻ってきた。
「持ってきました泉江さん!さあまずこれを!」
ずい、と差し出されたそれに袖を通す。こいつの押しが強すぎるのが悪い。そう心で唱えながら。
因みに、カーディガンはシンプルな薄い黄色に決めた。
会計を済ませれば、私より一歩先に買い物を済ませていた彼女が微笑みかける。
「ねえ泉江さん。私あと、靴と小物が欲しいなって思ってるんです」
あ、この子私で遊んでる。にこにこと笑う彼女の細められた目を見て気付く。
嫌われてビクビクしてみたり、サバサバ即断即決してみたり、服の色一つで悩んでみたり、人で遊んでみたり、訳がわからないオンナノコ。思わずため息をつく。どうやら私はこの子が苦手みたいだ。
ーーー「やっぱり下がった!目蒲さんめ!」と毒づいていたが、何があったのだろうか?
よし、と頷く彼女。ひと段落ついたようだ。彼女の申し出る通りに一旦車に服の袋を置いて、買い物を再開する。
「ごめんなさい泉江さん、ここからは悩んでいいですか?」
と、おもむろに彼女が謝ってきた。私はそれ自体は構わないと頷く。そもそもこの快進撃のお陰で想定していた半分の時間で進んでいるのだ。渋る程の事はない。
彼女が入って行ったのは、フェミニン系の店。自分が普段行くのとは別世界の可愛らしい店内に、どことなく余所余所しさを感じてしまう。
柔らかいパステル色の中で、彼女はじっくりと服を眺めている。真っ白なワンピースを着た彼女はとてもこの雰囲気に合って見え、逆に自分はどうだろうかとそわそわした気持ちになる。
吊り下げられた服達に軽く触れる華奢な指、翻るスカートの裾から見える細い足、袖から覗く柔らかそうな二の腕。こんな女らしいのがやっていけるんだろうか、賭郎で。
彼女は私の気なんて知らず、色違いのスカートを両手に持って口をへの字に曲げている。さっきまでの勢いはどこに行ったのか。その姿は優柔不断なオンナノコそのもの。心配しかない。
ーーーまあでも、大丈夫なんだろうな。なにぶん私なんかよりずっと男慣れしていらっしゃる。
楽しそうなお屋形様の声色が、彼女を気にかける目蒲の姿が浮かぶ。個人主義の賭郎において一際人とつるまない二人が、随分と彼女に対しては友好的だ。つまり、そういうことなんだろう。
可愛い、愛らしいっていうのはどこへ行っても武器なんだな。
ため息を一つ。彼女は相変わらず、私の気なんて知らずにブラウスを試着しに行った。
「泉江さん、これこれ!」
彼女が声をかけてきたのは、それからしばらく後のこと。彼女を見れば、高々と一着の紺のワンピースを掲げている。裾に大振りの花がプリントされている。華やかながら落ち着きのある、可愛いデザインだった。
「いいんじゃないか?」
「ですよね!私は白が買いたいんですけど、泉江さん紺どうですか?」
「ん?お前のじゃないのか」
「私のことでわざわざ呼びつけませんよー!泉江さんこういうの好きかなって」
正直に言ってしまえば、好きなデザインだ。でもなぁ、と首をかしげる。
「悪いが、あまりそういうふわふわした服は着ない」
「え、でも好きなデザインなんですよね?」
「言ったか?」
「顔に書いてありますよ」
そういえばお屋形様が心が読めると言っていたな。真偽の程は謎だが。
「大丈夫です泉江さん。着るだけならタダですよ。しっくり来なければやめればいいんです」
「お前…」
意外と押しが強いんだな。私が言い切る前に、試着室に押し込まれた。男の高圧的な押しの強さと違って、こいつの押しの強さって変に柔らかくてなんとなく断りづらい。私は仕方がなく、あくまで仕方がなくワンピースに袖を通した。
「可愛い…」
呟いて、ちょっと負けた気になった。いや。ダメだダメだ。こんな可愛いワンピース買っても使わない。脱ごう。あいつには私には似合わなかったって言おう。
「泉江さん!終わりましたか?」
「え、いや、まだだ」
「よっしゃ失礼します!」
何をとち狂ったか、彼女はカーテンを開けた。
「なななんで開けた!?」
「うわー泉江さん、すっごく似合うじゃないですかー!」
「いやだからなんで開けた!?」
「だって泉江さん見せずに脱ぐ気満々だったじゃないですかー」
彼女はニコニコとそう答えた。やっぱり心が読めるんだこいつは!
「いや、そんなつもりはなかったんだ」
無駄だと分かりつつも、反射的に否定してしまう。なんて浅はかな自分。
「えー、なら、なんでさっき」
「あれは、だって…」
何か無いか。私は考える。
「か、肩幅が、目立つなと、思ってだな」
「ああ!確かにノースリーブって着ない人はホントに着ませんもんね。すぐカーディガン取ってきます」
「違っ…」
脱ぎたいんだ、私は!言いたかったのに、丁度目の前を通った店員が「よくお似合いですよ」なんて言ってくるのでタイミングを逃す。彼女は器用に松葉杖にカーディガンを三着掛けて、すぐに戻ってきた。
「持ってきました泉江さん!さあまずこれを!」
ずい、と差し出されたそれに袖を通す。こいつの押しが強すぎるのが悪い。そう心で唱えながら。
因みに、カーディガンはシンプルな薄い黄色に決めた。
会計を済ませれば、私より一歩先に買い物を済ませていた彼女が微笑みかける。
「ねえ泉江さん。私あと、靴と小物が欲しいなって思ってるんです」
あ、この子私で遊んでる。にこにこと笑う彼女の細められた目を見て気付く。
嫌われてビクビクしてみたり、サバサバ即断即決してみたり、服の色一つで悩んでみたり、人で遊んでみたり、訳がわからないオンナノコ。思わずため息をつく。どうやら私はこの子が苦手みたいだ。