エンゼルランプの腕の中
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「ふぅ〜」
お屋形様、貘様、そしてアイデアルボスによる恐るべき会談から無事帰還した俺は、伏龍のアドバイス通りに事務室にある彼女の机を漁る。本人曰く‘デスノ方式で隠した’との事だったが、どう見ても引き出しの裏にボールペンの芯を差し入れられそうな穴はない。仕方がないので正攻法で探そうと引き出しを開けると、ぴろりと引き出しの隅からリボンが飛び出ているのを見つけてしまった。途端脳内の伏龍が「だってスチールに穴なんて開けられなかったんだもん」だの「そもそも職場の備品なんだよ」だの喧しくなるのを首を振って打ち消し、リボンを引く。あっけなく引き出しの底が持ち上がり、青い表紙のB5ノートが現れた。
「これか」
三冊あるのを全て片手に持ち、引き出しを元に戻した。
「なあ、それ」と滝さんが声をかけてきたので、一応顔を上げる。視界の端で、彼はおずおずとこちらを伺っている。この一週間で彼は大分やつれた。当たり前だろう。賭郎で一番消えるはずのない女が消えた上、名目上直属の上司でありながら何も聞かされていないのだから。心配もするというものだ。
「これ、ですか」
「ああ…提出すんのか?」
さらっとカマを掛けてくる辺り元立会人だが、乗ってはやらない。俺は現立会人だ。
「何の事でしょうか」
「ああいや…何でもねえよ」
「そうですか〜」
俺はそのまま伏龍の椅子に腰掛け、ノートを読み始める。彼女はゲーム参加者の何人かは調べたと言っていた。態々ノートの場所を教えたという事は、それなりに有益な事が書いてあるのだろうと信じ、俺はページを捲る。
「…持って帰ったらどうだ?」
「いえ〜。滝さんに相談したい事もありますので〜」
「そうかい」
ペラペラとページを捲る音だけが暫く響く。気を遣って権田さんがお茶を持ってきたので、礼を言って一口飲む。
「紅茶ではありませんが」
「何でもかんでも伏龍を踏襲する事もないでしょう」
俺はお茶をもう一口飲むと、「卍戦が始まります」と言った。
「斑目貘がか」
「ええ〜。相手はアイデアルのボス、ビンセント・ラロです」
「…は?」
「…は?」
滝さんは勿論、権田さんからも声が上がる。しかし、権田さんは直ぐに口元を押さえ、「失礼しました」と頭を下げた。気にするなという代わりに手を振った。何より、俺自身も会談では恥ずかしい程狼狽したので人の事は言えない。
まあ、俺の場合、ラロに加えてお屋形様と伏龍という爆弾も見つけてしまったからなのだが、折角料理したら面白いネタが出来たのでそれは言わない。
「驚かれるのも仕方がありません…と言いたいところですが、まだ序の口です」
「ほー」
「この二人、お互いの全てをテーブルに乗せて勝負をし、勝った方がそのまま屋形越えに挑みます」
「やかっ…」
いよいよ滝さんがスタンした。
「滝さんは人生で二回目でしたか?」
「まあな…二回目があるたぁ思ってもみなかったぜ…」
「私も屋形越えの前哨戦に立会えるとは思ってもみませんでした」
「だろうなぁ…ラッキーだったじゃねえか」
「そうですね〜」
俺は漸く斑目貘と仲間達のページを見つけ、付箋を貼る。伽羅の出身地の欄に、‘三鷹花と出身地が同じ!知り合いだったりするかなあ?’と書かれている。後で聞くとしよう。
「滝さん、卍に入る立会人の都合をつけて頂きたいのですが」
「わーってる。斑目貘対ビンセント・ラロなんだろ?それなりに腕の立つのが要るな…」
「ええ〜…協力者はそれぞれ五名。どちらの協力者も名うてばかり…あの梟もラロ側で参戦します」
「アイデアルだったのかよ」
「ええ。既に伏龍が気づいておりましたので、驚くほどの事では」
「なんだそりゃ…あいつにびっくりだよ」
「同意です」
何に一番びっくりって、梟を招き入れたのが他ならぬ伏龍ということだ。
ーーーーーーーーーー
「刻は24日間、協力者はそれぞれ5人まで。それを元に私、地とルールを決めました」
びりびりとこちらの肌までひりつくような睨み合いの中、卍の詳細が決まっていく。不気味な笑顔を崩さないラロ様、不敵に表情をコロコロ変える貘様、終始真顔のお屋形様。
そして我が親友はお屋形様の後ろで死んだ目をしている。逆にすげえよアンタ。緊張感持てよ。
「通信は禁止とさせて頂きましたので、私共が責任を持って協力者にコンタクトし、立会人が勝負の場へと導きます。協力者の居場所、連絡手段をお教え下さい。拒否された場合の責任は持ちません。ラロ様の協力者に関しては綿密なコンタクト法を詰める必要がありそうですね。…貘様の協力者はお決まりですか?」
貘様は「ああ」と短く返事をして、手元に目を落とす。
「当然決まってる…伝えて欲しい。梶隆臣とマルコだ。彼らが望むなら、協力して欲しいと」
「分かりました。3人目は?」
「ちゃんみだ、協力者は誰でもいいわけ?」
「構いません。今回は例え粛清対象といえどプレイヤーです。その人物が了承するならば協力者として扱います。さあ…」
「じゃ、3人目」
彼は指を指す。ちょいまてまて、おいおいおい…!
「蜂名直器」
「ばっ…?はああ?!」
「はー?!ふざけんな、やめてやめて!」
俺と伏龍は盛大に取り乱す。どうでもいいけど伏龍の方が立場が無い分取り乱し方が派手だった。
「何を驚いてんの二人とも。いい?この勝負はプレイヤーと投入立会人以外には秘密裏に行われる勝負でしょ?ある意味ここにこの勝負に関わりの無い人物がいるじゃない…引っ込む様子もないし。これってちょっと困っちゃうよね。ここまで知った以上口封じの為一緒に卍内に入ってもらわないと…」
あ、やべえこれ、次は伏龍が狙われる。冷や汗が一気に体を冷やす。俺は一所懸命お屋形様に念波を送るが、奮闘虚しく彼は「僕は構わないけど?この勝負が終わるまで僕は切間でなく蜂名でいるつもりだったからね」と答えた。貘様が笑い出す。
「いやいや。そーじゃないでしょ。あんたさ、本当は最初から、その立位置から卍内に入るつもりだったんでしょ?目的を言おーか?卍を貼る…そうする事でどちらかが必ず勝者になるとは限らない舞台にする事を狙った…つまり、勝者不在。ビンセント・ラロ、俺、どちらも勝利条件を満たさないよう横からかっさらうつもりだ!そうすればテーブルに置いたものは丸ごと頂き…屋形越えもやらずに済むじゃない。手っ取り早くて理にかなってる。凄いね。あの時こんな事まで組み立てた訳だ。その冷酷さ…まるで昆虫だ」
「それが例え正解だったとしても手遅れだ。この勝負は必ず行われる…君達に逃れる術はない」
「ふぅん…じゃー、決定ね」
笑みを深くする貘様が次に指を指したのは…当然、伏龍だった。
お屋形様、貘様、そしてアイデアルボスによる恐るべき会談から無事帰還した俺は、伏龍のアドバイス通りに事務室にある彼女の机を漁る。本人曰く‘デスノ方式で隠した’との事だったが、どう見ても引き出しの裏にボールペンの芯を差し入れられそうな穴はない。仕方がないので正攻法で探そうと引き出しを開けると、ぴろりと引き出しの隅からリボンが飛び出ているのを見つけてしまった。途端脳内の伏龍が「だってスチールに穴なんて開けられなかったんだもん」だの「そもそも職場の備品なんだよ」だの喧しくなるのを首を振って打ち消し、リボンを引く。あっけなく引き出しの底が持ち上がり、青い表紙のB5ノートが現れた。
「これか」
三冊あるのを全て片手に持ち、引き出しを元に戻した。
「なあ、それ」と滝さんが声をかけてきたので、一応顔を上げる。視界の端で、彼はおずおずとこちらを伺っている。この一週間で彼は大分やつれた。当たり前だろう。賭郎で一番消えるはずのない女が消えた上、名目上直属の上司でありながら何も聞かされていないのだから。心配もするというものだ。
「これ、ですか」
「ああ…提出すんのか?」
さらっとカマを掛けてくる辺り元立会人だが、乗ってはやらない。俺は現立会人だ。
「何の事でしょうか」
「ああいや…何でもねえよ」
「そうですか〜」
俺はそのまま伏龍の椅子に腰掛け、ノートを読み始める。彼女はゲーム参加者の何人かは調べたと言っていた。態々ノートの場所を教えたという事は、それなりに有益な事が書いてあるのだろうと信じ、俺はページを捲る。
「…持って帰ったらどうだ?」
「いえ〜。滝さんに相談したい事もありますので〜」
「そうかい」
ペラペラとページを捲る音だけが暫く響く。気を遣って権田さんがお茶を持ってきたので、礼を言って一口飲む。
「紅茶ではありませんが」
「何でもかんでも伏龍を踏襲する事もないでしょう」
俺はお茶をもう一口飲むと、「卍戦が始まります」と言った。
「斑目貘がか」
「ええ〜。相手はアイデアルのボス、ビンセント・ラロです」
「…は?」
「…は?」
滝さんは勿論、権田さんからも声が上がる。しかし、権田さんは直ぐに口元を押さえ、「失礼しました」と頭を下げた。気にするなという代わりに手を振った。何より、俺自身も会談では恥ずかしい程狼狽したので人の事は言えない。
まあ、俺の場合、ラロに加えてお屋形様と伏龍という爆弾も見つけてしまったからなのだが、折角料理したら面白いネタが出来たのでそれは言わない。
「驚かれるのも仕方がありません…と言いたいところですが、まだ序の口です」
「ほー」
「この二人、お互いの全てをテーブルに乗せて勝負をし、勝った方がそのまま屋形越えに挑みます」
「やかっ…」
いよいよ滝さんがスタンした。
「滝さんは人生で二回目でしたか?」
「まあな…二回目があるたぁ思ってもみなかったぜ…」
「私も屋形越えの前哨戦に立会えるとは思ってもみませんでした」
「だろうなぁ…ラッキーだったじゃねえか」
「そうですね〜」
俺は漸く斑目貘と仲間達のページを見つけ、付箋を貼る。伽羅の出身地の欄に、‘三鷹花と出身地が同じ!知り合いだったりするかなあ?’と書かれている。後で聞くとしよう。
「滝さん、卍に入る立会人の都合をつけて頂きたいのですが」
「わーってる。斑目貘対ビンセント・ラロなんだろ?それなりに腕の立つのが要るな…」
「ええ〜…協力者はそれぞれ五名。どちらの協力者も名うてばかり…あの梟もラロ側で参戦します」
「アイデアルだったのかよ」
「ええ。既に伏龍が気づいておりましたので、驚くほどの事では」
「なんだそりゃ…あいつにびっくりだよ」
「同意です」
何に一番びっくりって、梟を招き入れたのが他ならぬ伏龍ということだ。
ーーーーーーーーーー
「刻は24日間、協力者はそれぞれ5人まで。それを元に私、地とルールを決めました」
びりびりとこちらの肌までひりつくような睨み合いの中、卍の詳細が決まっていく。不気味な笑顔を崩さないラロ様、不敵に表情をコロコロ変える貘様、終始真顔のお屋形様。
そして我が親友はお屋形様の後ろで死んだ目をしている。逆にすげえよアンタ。緊張感持てよ。
「通信は禁止とさせて頂きましたので、私共が責任を持って協力者にコンタクトし、立会人が勝負の場へと導きます。協力者の居場所、連絡手段をお教え下さい。拒否された場合の責任は持ちません。ラロ様の協力者に関しては綿密なコンタクト法を詰める必要がありそうですね。…貘様の協力者はお決まりですか?」
貘様は「ああ」と短く返事をして、手元に目を落とす。
「当然決まってる…伝えて欲しい。梶隆臣とマルコだ。彼らが望むなら、協力して欲しいと」
「分かりました。3人目は?」
「ちゃんみだ、協力者は誰でもいいわけ?」
「構いません。今回は例え粛清対象といえどプレイヤーです。その人物が了承するならば協力者として扱います。さあ…」
「じゃ、3人目」
彼は指を指す。ちょいまてまて、おいおいおい…!
「蜂名直器」
「ばっ…?はああ?!」
「はー?!ふざけんな、やめてやめて!」
俺と伏龍は盛大に取り乱す。どうでもいいけど伏龍の方が立場が無い分取り乱し方が派手だった。
「何を驚いてんの二人とも。いい?この勝負はプレイヤーと投入立会人以外には秘密裏に行われる勝負でしょ?ある意味ここにこの勝負に関わりの無い人物がいるじゃない…引っ込む様子もないし。これってちょっと困っちゃうよね。ここまで知った以上口封じの為一緒に卍内に入ってもらわないと…」
あ、やべえこれ、次は伏龍が狙われる。冷や汗が一気に体を冷やす。俺は一所懸命お屋形様に念波を送るが、奮闘虚しく彼は「僕は構わないけど?この勝負が終わるまで僕は切間でなく蜂名でいるつもりだったからね」と答えた。貘様が笑い出す。
「いやいや。そーじゃないでしょ。あんたさ、本当は最初から、その立位置から卍内に入るつもりだったんでしょ?目的を言おーか?卍を貼る…そうする事でどちらかが必ず勝者になるとは限らない舞台にする事を狙った…つまり、勝者不在。ビンセント・ラロ、俺、どちらも勝利条件を満たさないよう横からかっさらうつもりだ!そうすればテーブルに置いたものは丸ごと頂き…屋形越えもやらずに済むじゃない。手っ取り早くて理にかなってる。凄いね。あの時こんな事まで組み立てた訳だ。その冷酷さ…まるで昆虫だ」
「それが例え正解だったとしても手遅れだ。この勝負は必ず行われる…君達に逃れる術はない」
「ふぅん…じゃー、決定ね」
笑みを深くする貘様が次に指を指したのは…当然、伏龍だった。