エンゼルランプの腕の中
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「はあー」
「うわ晴乃チャン、なにそのため息」
「逆に何で貘様はそんなヘラヘラしてられるんですか。アイデアルのボスですよ?あーやだ」
「君も諦めが悪いね」
「ちょっとは罪悪感を持ってくださーい」
さっきの津波のような感情は何処へやら、貘様はへらへらと軽薄な笑みを私に向ける。私達三人は、和向奴書店の二階にある一室を会談の場に決めた。貘様がちゃっかりビルごと買い取っていたのである。因みに、流石に大事になりすぎてしまったのでガクトさんは置いて来た。ヴォジャが護衛についてくれているから、政府からの刺客だろうが賭郎からの刺客だろうが、問題なく対処してくれるだろう。何より、どんな刺客もこいつらよりずっとマシである。
そう。私が強く申し上げたいのは、「何で頂上決戦に私が立会わなきゃならないのか」という事である。
「帰っていいですか?」
「駄目だよ、何言ってるの」
「だって、どうせ話に付いてけませんもん」
「まあまあ晴乃チャン。こういう会談にはお飾りの花が必要なんだから、割り切ってさ」
「花が必要なタイプの会談かなあ?」
「そもそも、君に花なんて務まるの?」
「務まる訳ないじゃないですか。お家に帰して下さい」
「駄目だよ。いい加減にしてくれる?」
直器君が大きなため息をついたのに被せ、私ももう一度ため息をつく。
「まあ、ほら。晴乃チャンも座って座って」
「それだけは、絶対やだ」
私はそう言って、直器君が座る椅子の背もたれに肘をつく。いくら椅子が余っているとはいえ、アイデアルのボスとお屋形様と最強のギャンブラーと同じ卓につく気はない。「晴乃チャンは強情だねえ」と笑いながら、貘様は何をとち狂ったか壁のコルクボードから画鋲を一つ引き抜き、アイデアルのボスが座る予定の椅子に乗せた。どんな人かも分からないのに初手でおちょくろうだなんて、流石貘様だ。とてもじゃないが真似できない。
というか、私達に流れ弾が来そうで凄く嫌なんだが。
私はとりあえず直器君に意見を仰ごうと口を開きかけるが、ノックの音がしたので諦める。残念、タイムオーバーだ。
「晴乃君、開けて」
「うへえ」
とは言え、私が開けるのが筋だろう。二人が訪ねて来た人物を出迎えんと立ち上がったのを横目にドアに駆け寄り、開ける。
入ってきた金髪の男が「おや、ありがとうございます」と笑い掛けるのに会釈で返し、中に入るよう促す。彼はドアを閉めるのに差し支えない程度に前へ出ると、そこで一旦立ち止まり「初めまして。私、アイデアルを統べる、ビンセント・ラロと申します」と恭しく一礼した。互いが互いを値踏みし合う、びりびりと音がしそうな緊張が走る。
「座っても宜しいでしょうか?…お二方」
真っ先にその緊張感を崩したのはラロ氏だった。その言葉に呼応するように二人も自席に座り直し、貘様が「あ、どーぞどーぞ」と彼にも着席を促す。直器君が私に視線を送るので、仕方がなくラロ氏の為に椅子を後ろに引いた。
画鋲が先に座っているのをラロ氏がしっかりと確認し、その上で着席を試みる。言い掛かりを付けられては敵わないので、私はすぐに直器君の後ろに戻った。
「では、しつ…」
と思ったら、彼はすんでのところでまた立ち上がり、「失礼!その前に聞きたい事があります!」と直器君を指差した。
「先程の電話では丸腰で来るようにとの話でしたが、私が丸腰がどうかの確認はしないのですか?…もし、私が銃でも持っていたらどうするのですか?」
確かに確認しなかったな、と気付く。私は今のやりとりで丸腰と知る事ができたが、二人はどうなの?と思ったが、二人は何と冷めた目でラロ氏を見つめているではないか。
「…少し見当はずれな質問だったかな?」
え、そうかしら。
「私の目的は倶楽部賭郎を手中に収める事であり、その為に必要な屋形越え…その権利を手にする事であっても、貴方達に直接手を掛ける事ではありません…それではかえって目的から遠ざかってしまいます。力…暴力で賭郎を制圧しても立会人を含めた人材は操れない事は知っています。斑目貘…貴方に対しても同じような事が言えます。私が心配しなければならないのは、私自身の身の安全の方でした」
あー成る程、そう考えるのか…。私は極力しれっとした顔を保ちつつ、内心感服する。
「そもそもお二人に一方的にちょっかいを出していたのは私の組織の一員です。貴方方に私を恨む謂れはあっても、私の方にある筈もありません。本来私はお二人に何をされても文句は言えない存在ですね」
彼は頭を掻きながら、再び椅子に腰掛けようとする。貘様がウキウキ顔でラロ氏を見ているが、ラロ氏もまたそんな貘様を楽しんでいるのに、彼は気付いているんだろうか。
「しかしですよ?」
またラロ氏がピンと立ち上がり、貘様はあからさまにガッカリ顔。
「私がここに恐る恐る赴いたのは、身の安全は保証されるとの言葉を受けての事です。信じて宜しいのですね?」
「当然だ、ルールは守る」
直器君は静かに頷いた。勿論画鋲を知っての事だと思うが…私はいよいよ自分に流れ弾が飛んでこないよう祈る。
「もし私の身に何か起こったら…?」
「この席での君の身は僕…そして斑目貘と同等に扱う。君に何か被害を加える者にはその全てが己に還るだろう…」
「OK、理解しました!」
貘様が真っ青になったと同時に、ラロ氏が勢いよくお尻に画鋲を刺しにいく。ちょっと笑いそうになるのを大きく息を吐いて誤魔化した。
「アーウチ!!オーマイガッ!これは…言ったそばからっ!一体どーいう事ですかこれはっ!」
「あれー?ど…どしたのー?がびょう?あーそういうのマルコがよくいたずらで…」
「それは多分斑目貘の仕業だ…さっき何かごそごそしていたと思ったが…折角の席を台無しにした責任は取ってもらうよ」
「貘様、どうぞ」
私は直器君が喋っている最中に取ってきておいた画鋲を、貘様に差し出す。「晴乃チャン、顔がにやけてない…?」と聞かれたが「気のせいですとも」と返しておいた。助けを求める瞳をしばらく笑顔で跳ね除け続ければ、彼は意を決して自ら画鋲を椅子に置いた。
「ちょっと待って下さい。私が約束をしたのは貴方です。貴方が嘘喰いにやらせるのは自由ですが、責任を取るのは約束した本人…貴方が筋なのでは?」
「… 晴乃君」
「はい、すぐに」
私は画鋲を差し出す。直器君の目が‘そうじゃない、代われ’と訴えているような気がするが、まあ…約束したのは私じゃないから仕方がない。二人とも頑張れ。
「あっ…あー」
「はぁっ…余計な事をしたね」
画鋲ってのは刺した瞬間のピリッとくる痛みは一瞬だが、あと引く違和感がずーっと残るのだ。可哀想に。私は最早にやついてしまうのを我慢せずに二人を観察する。そんな私達を、ラロ氏が驚きをもって見つめている。
「うわ晴乃チャン、なにそのため息」
「逆に何で貘様はそんなヘラヘラしてられるんですか。アイデアルのボスですよ?あーやだ」
「君も諦めが悪いね」
「ちょっとは罪悪感を持ってくださーい」
さっきの津波のような感情は何処へやら、貘様はへらへらと軽薄な笑みを私に向ける。私達三人は、和向奴書店の二階にある一室を会談の場に決めた。貘様がちゃっかりビルごと買い取っていたのである。因みに、流石に大事になりすぎてしまったのでガクトさんは置いて来た。ヴォジャが護衛についてくれているから、政府からの刺客だろうが賭郎からの刺客だろうが、問題なく対処してくれるだろう。何より、どんな刺客もこいつらよりずっとマシである。
そう。私が強く申し上げたいのは、「何で頂上決戦に私が立会わなきゃならないのか」という事である。
「帰っていいですか?」
「駄目だよ、何言ってるの」
「だって、どうせ話に付いてけませんもん」
「まあまあ晴乃チャン。こういう会談にはお飾りの花が必要なんだから、割り切ってさ」
「花が必要なタイプの会談かなあ?」
「そもそも、君に花なんて務まるの?」
「務まる訳ないじゃないですか。お家に帰して下さい」
「駄目だよ。いい加減にしてくれる?」
直器君が大きなため息をついたのに被せ、私ももう一度ため息をつく。
「まあ、ほら。晴乃チャンも座って座って」
「それだけは、絶対やだ」
私はそう言って、直器君が座る椅子の背もたれに肘をつく。いくら椅子が余っているとはいえ、アイデアルのボスとお屋形様と最強のギャンブラーと同じ卓につく気はない。「晴乃チャンは強情だねえ」と笑いながら、貘様は何をとち狂ったか壁のコルクボードから画鋲を一つ引き抜き、アイデアルのボスが座る予定の椅子に乗せた。どんな人かも分からないのに初手でおちょくろうだなんて、流石貘様だ。とてもじゃないが真似できない。
というか、私達に流れ弾が来そうで凄く嫌なんだが。
私はとりあえず直器君に意見を仰ごうと口を開きかけるが、ノックの音がしたので諦める。残念、タイムオーバーだ。
「晴乃君、開けて」
「うへえ」
とは言え、私が開けるのが筋だろう。二人が訪ねて来た人物を出迎えんと立ち上がったのを横目にドアに駆け寄り、開ける。
入ってきた金髪の男が「おや、ありがとうございます」と笑い掛けるのに会釈で返し、中に入るよう促す。彼はドアを閉めるのに差し支えない程度に前へ出ると、そこで一旦立ち止まり「初めまして。私、アイデアルを統べる、ビンセント・ラロと申します」と恭しく一礼した。互いが互いを値踏みし合う、びりびりと音がしそうな緊張が走る。
「座っても宜しいでしょうか?…お二方」
真っ先にその緊張感を崩したのはラロ氏だった。その言葉に呼応するように二人も自席に座り直し、貘様が「あ、どーぞどーぞ」と彼にも着席を促す。直器君が私に視線を送るので、仕方がなくラロ氏の為に椅子を後ろに引いた。
画鋲が先に座っているのをラロ氏がしっかりと確認し、その上で着席を試みる。言い掛かりを付けられては敵わないので、私はすぐに直器君の後ろに戻った。
「では、しつ…」
と思ったら、彼はすんでのところでまた立ち上がり、「失礼!その前に聞きたい事があります!」と直器君を指差した。
「先程の電話では丸腰で来るようにとの話でしたが、私が丸腰がどうかの確認はしないのですか?…もし、私が銃でも持っていたらどうするのですか?」
確かに確認しなかったな、と気付く。私は今のやりとりで丸腰と知る事ができたが、二人はどうなの?と思ったが、二人は何と冷めた目でラロ氏を見つめているではないか。
「…少し見当はずれな質問だったかな?」
え、そうかしら。
「私の目的は倶楽部賭郎を手中に収める事であり、その為に必要な屋形越え…その権利を手にする事であっても、貴方達に直接手を掛ける事ではありません…それではかえって目的から遠ざかってしまいます。力…暴力で賭郎を制圧しても立会人を含めた人材は操れない事は知っています。斑目貘…貴方に対しても同じような事が言えます。私が心配しなければならないのは、私自身の身の安全の方でした」
あー成る程、そう考えるのか…。私は極力しれっとした顔を保ちつつ、内心感服する。
「そもそもお二人に一方的にちょっかいを出していたのは私の組織の一員です。貴方方に私を恨む謂れはあっても、私の方にある筈もありません。本来私はお二人に何をされても文句は言えない存在ですね」
彼は頭を掻きながら、再び椅子に腰掛けようとする。貘様がウキウキ顔でラロ氏を見ているが、ラロ氏もまたそんな貘様を楽しんでいるのに、彼は気付いているんだろうか。
「しかしですよ?」
またラロ氏がピンと立ち上がり、貘様はあからさまにガッカリ顔。
「私がここに恐る恐る赴いたのは、身の安全は保証されるとの言葉を受けての事です。信じて宜しいのですね?」
「当然だ、ルールは守る」
直器君は静かに頷いた。勿論画鋲を知っての事だと思うが…私はいよいよ自分に流れ弾が飛んでこないよう祈る。
「もし私の身に何か起こったら…?」
「この席での君の身は僕…そして斑目貘と同等に扱う。君に何か被害を加える者にはその全てが己に還るだろう…」
「OK、理解しました!」
貘様が真っ青になったと同時に、ラロ氏が勢いよくお尻に画鋲を刺しにいく。ちょっと笑いそうになるのを大きく息を吐いて誤魔化した。
「アーウチ!!オーマイガッ!これは…言ったそばからっ!一体どーいう事ですかこれはっ!」
「あれー?ど…どしたのー?がびょう?あーそういうのマルコがよくいたずらで…」
「それは多分斑目貘の仕業だ…さっき何かごそごそしていたと思ったが…折角の席を台無しにした責任は取ってもらうよ」
「貘様、どうぞ」
私は直器君が喋っている最中に取ってきておいた画鋲を、貘様に差し出す。「晴乃チャン、顔がにやけてない…?」と聞かれたが「気のせいですとも」と返しておいた。助けを求める瞳をしばらく笑顔で跳ね除け続ければ、彼は意を決して自ら画鋲を椅子に置いた。
「ちょっと待って下さい。私が約束をしたのは貴方です。貴方が嘘喰いにやらせるのは自由ですが、責任を取るのは約束した本人…貴方が筋なのでは?」
「… 晴乃君」
「はい、すぐに」
私は画鋲を差し出す。直器君の目が‘そうじゃない、代われ’と訴えているような気がするが、まあ…約束したのは私じゃないから仕方がない。二人とも頑張れ。
「あっ…あー」
「はぁっ…余計な事をしたね」
画鋲ってのは刺した瞬間のピリッとくる痛みは一瞬だが、あと引く違和感がずーっと残るのだ。可哀想に。私は最早にやついてしまうのを我慢せずに二人を観察する。そんな私達を、ラロ氏が驚きをもって見つめている。