エンゼルランプの腕の中
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「もう私の事、誰かに連絡しました?」
亜面さんは答えない。私に読み取られる事を分かった上での抵抗なのだろうから、私も特に答えを求める事はしない。その代わり、聞きたい事は勝手に聞かせてもらう。
「まあ、連絡しようとしたって事は誰かが近くにいるんでしょうね。伏龍会は全員来てるんですか?…ああそう、流石に夕湖はお留守番ですか。成る程。棟耶さんも?夜行掃除人も?うわ、今日仕留める気満々じゃないですか、やだあ。他には?…いない。よしよし。ヴォジャお願い、直器君に七人のハンターが街を彷徨いていますとメールしといて下さいな。後…あ、亜面さん、盗聴器とかって付けてます?」
ここでまさかの展開である。亜面さんは持っていないようだが、何とヴォジャが盗聴器に反応を示したのだ。私は驚きながらも「ヴォジャ、盗聴器出して」と指示する。
「貴女のボスからの指示よ」
「大丈夫大丈夫。ずっこいことしてるのはあっちだから」
流れに身を任せて盗聴器を手渡してきたヴォジャに一言礼を言い、私はそれの電池を抜いた。
ーーーーーーーーーー
「残念」
僕は早々に諦め、イヤホンを外してポケットに入れた。隣でガクトが「どうしたんだ?」と首を傾げている。
「晴乃君を盗聴していたのがバレたんだ」
「晴乃さんを?!」
「うん」
「何故…味方だろう?」
「味方だけど素性が分からないんだよね。ねえガクト、人質で先生ってどういう事だと思う?」
「は?ええと…」
「どちらも伏龍を表す言葉でございます、お屋形様」
真面目に悩むガクトの代わりに、後ろから答える声が聞こえて、僕達は振り向く。
「…やあ、判事」
「ご無事で何よりです」
静々と、気配を殺し、足音を消して歩み寄って来る彼の異様さに、ガクトは慄く。
「大船額人…お屋形様に衣食住を提供して頂いた事、感謝致します。ですが、もう結構。その方はその方のあるべき場所へ戻られます故」
「そっ…それは…勝手だ!」
本能で敵わないことを悟りながらも声を上げるその姿は、僕が見てきたガクトそのもののように思えて、つい口許が緩む。
「蜂名は…逃げてきた!貴殿らの間に何があったかは知らないが…いいか?!生命及び自由の保障は日本国憲法で定められているところであり、それを犯すというのなら!私は…国家公務員として闘うぞ!」
きっと、こういうのが愛なのだろう。僕にはまだ分からない事が沢山ある。
「ガクト…いいんだ、ありがとう」
僕はガクトの肩に手を置き、自分の後ろに下げさせる。そして、持参していた鞄の中から、黒布を取り出した。この為だけに用意していたものだ。僕は恭しく布を広げ、僕とガクトの腰元までを隠す。狙い通り、判事は勿論、通り掛かりの人々の視線までも余す事なく集めている。
「知っているかい、判事?世界は見る側面によって輝きが違う。僕はこの旅で新たな輝きに触れた。それを知る事ができた今の僕は…今までの僕から分岐した、新しい僕なんだ」
そう話しかけて判事の視線を引きつけつつ、ゆっくりと黒布を持ち上げる。ミーハーな車が一台、周りの迷惑も構わずに停車して道路を塞ぐ。計算通り。腹、胸ときて顔を隠す頃には、その車の後ろに数台連なっていた。とてもいい。
「3…2…1…」
パッと布から手を離す。勿論、タネも仕掛けも無い。布が落ち、判事は走り出した僕達を目の当たりにする。
「なっ…は?お屋形様?!」
「あははは!」
僕はガクトの手を引いて車道に走る。布はきっと判事が回収してくれるだろう。要らないけど。
「いくらなんでも伏龍に感化されすぎておりますお屋形様!なんですかそれは?!手品なのですか?!手品のカテゴリに入れて本当によろしいのですか?!」
「良い訳ないでしょ、何言ってるの」
僕はバイクに乗っていた男を引き摺り下ろし、自分がそこに跨る。判事が衝撃から抜けるまでに掛かった2秒を無駄にはできない。僕は珍しく取り乱した判事ともう少し話したい気持ちを抑え、ガクトが後部座席に乗るや否やエンジンを吹かした。側には他にバイクが無かったし、車を乗っ取ったところでバイクの小回りの良さには敵わない。この勝負は僕の勝ち逃げだ。
「あんなんで上手くいったな…蜂名」
「うん。僕完璧だから」
そう。完璧だったからこそ、あんな雑な手品もどきで相手を翻弄できる。積み上げてきたキャラクターは偉大だ。僕はこのまま和向奴書店へ向かうとするが… 晴乃君の方は上手くいっているだろうか。盗聴器で聞こえていた限りでは、彼女が翻弄していたようだったが。
亜面さんは答えない。私に読み取られる事を分かった上での抵抗なのだろうから、私も特に答えを求める事はしない。その代わり、聞きたい事は勝手に聞かせてもらう。
「まあ、連絡しようとしたって事は誰かが近くにいるんでしょうね。伏龍会は全員来てるんですか?…ああそう、流石に夕湖はお留守番ですか。成る程。棟耶さんも?夜行掃除人も?うわ、今日仕留める気満々じゃないですか、やだあ。他には?…いない。よしよし。ヴォジャお願い、直器君に七人のハンターが街を彷徨いていますとメールしといて下さいな。後…あ、亜面さん、盗聴器とかって付けてます?」
ここでまさかの展開である。亜面さんは持っていないようだが、何とヴォジャが盗聴器に反応を示したのだ。私は驚きながらも「ヴォジャ、盗聴器出して」と指示する。
「貴女のボスからの指示よ」
「大丈夫大丈夫。ずっこいことしてるのはあっちだから」
流れに身を任せて盗聴器を手渡してきたヴォジャに一言礼を言い、私はそれの電池を抜いた。
ーーーーーーーーーー
「残念」
僕は早々に諦め、イヤホンを外してポケットに入れた。隣でガクトが「どうしたんだ?」と首を傾げている。
「晴乃君を盗聴していたのがバレたんだ」
「晴乃さんを?!」
「うん」
「何故…味方だろう?」
「味方だけど素性が分からないんだよね。ねえガクト、人質で先生ってどういう事だと思う?」
「は?ええと…」
「どちらも伏龍を表す言葉でございます、お屋形様」
真面目に悩むガクトの代わりに、後ろから答える声が聞こえて、僕達は振り向く。
「…やあ、判事」
「ご無事で何よりです」
静々と、気配を殺し、足音を消して歩み寄って来る彼の異様さに、ガクトは慄く。
「大船額人…お屋形様に衣食住を提供して頂いた事、感謝致します。ですが、もう結構。その方はその方のあるべき場所へ戻られます故」
「そっ…それは…勝手だ!」
本能で敵わないことを悟りながらも声を上げるその姿は、僕が見てきたガクトそのもののように思えて、つい口許が緩む。
「蜂名は…逃げてきた!貴殿らの間に何があったかは知らないが…いいか?!生命及び自由の保障は日本国憲法で定められているところであり、それを犯すというのなら!私は…国家公務員として闘うぞ!」
きっと、こういうのが愛なのだろう。僕にはまだ分からない事が沢山ある。
「ガクト…いいんだ、ありがとう」
僕はガクトの肩に手を置き、自分の後ろに下げさせる。そして、持参していた鞄の中から、黒布を取り出した。この為だけに用意していたものだ。僕は恭しく布を広げ、僕とガクトの腰元までを隠す。狙い通り、判事は勿論、通り掛かりの人々の視線までも余す事なく集めている。
「知っているかい、判事?世界は見る側面によって輝きが違う。僕はこの旅で新たな輝きに触れた。それを知る事ができた今の僕は…今までの僕から分岐した、新しい僕なんだ」
そう話しかけて判事の視線を引きつけつつ、ゆっくりと黒布を持ち上げる。ミーハーな車が一台、周りの迷惑も構わずに停車して道路を塞ぐ。計算通り。腹、胸ときて顔を隠す頃には、その車の後ろに数台連なっていた。とてもいい。
「3…2…1…」
パッと布から手を離す。勿論、タネも仕掛けも無い。布が落ち、判事は走り出した僕達を目の当たりにする。
「なっ…は?お屋形様?!」
「あははは!」
僕はガクトの手を引いて車道に走る。布はきっと判事が回収してくれるだろう。要らないけど。
「いくらなんでも伏龍に感化されすぎておりますお屋形様!なんですかそれは?!手品なのですか?!手品のカテゴリに入れて本当によろしいのですか?!」
「良い訳ないでしょ、何言ってるの」
僕はバイクに乗っていた男を引き摺り下ろし、自分がそこに跨る。判事が衝撃から抜けるまでに掛かった2秒を無駄にはできない。僕は珍しく取り乱した判事ともう少し話したい気持ちを抑え、ガクトが後部座席に乗るや否やエンジンを吹かした。側には他にバイクが無かったし、車を乗っ取ったところでバイクの小回りの良さには敵わない。この勝負は僕の勝ち逃げだ。
「あんなんで上手くいったな…蜂名」
「うん。僕完璧だから」
そう。完璧だったからこそ、あんな雑な手品もどきで相手を翻弄できる。積み上げてきたキャラクターは偉大だ。僕はこのまま和向奴書店へ向かうとするが… 晴乃君の方は上手くいっているだろうか。盗聴器で聞こえていた限りでは、彼女が翻弄していたようだったが。