エンゼルランプの腕の中
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食堂で夕飯を食べていると、「やあ門倉」と気さくに声をかけられ、ワシは咄嗟に「来んなや」と笑う。勿論南方は構わず前の席に座った。トレイに乗せられたカツの皿が、かたりと小さく音を立てる。
「何や、お前と飯食う趣味なんぞないわ」
「そう言わず。最上立会人の件、お前も聞いたか?」
「おー、チビを見つけたんやってな。しかし、あいつもクイーン相手に良く逃げおおせたもんやわ」
「そこにいた船員も仲間に引き入れていたそうじゃないか。女史は一体何なんだ」
「少なくとも、一筋縄でいく女じゃあないだろうね、南方君」
聞き慣れた声に、思わず「判事お疲れ様です!」と立ち上がる。一拍遅れて南方もそれに倣うが、すぐに判事に「座りなさい。私も食事に来ただけだ」と嗜められ、ワシらは再び席に着いた。
「ダイヤの件、君達はどう見る」
判事は持っていた煮付けのトレイを南方の横に置き、自分も座る。
「伏龍は…」
「‘チビ’で構わない。その方が私も聞き慣れている」
「お気遣いありがとうございます。チビにアイデアル絡みの何かがあった事は確かでしょう。あいつはクイーン相手に賄賂で誤魔化す真似はしません」
「一応敵にも敬意を払えるタイプですからね、女史は」
「君達は一度伏龍と敵対しているんだったか」
「お恥ずかしい…お耳に入っていましたか」
「ああ。面白く聞かせてもらったよ。だが…私が考えているのは、それ自体がブラフの可能性だ」
「ダイヤ自体が…ですか?はて、何のメリットが?」
「それを私も考えている…そもそも、最上にアイデアルの存在を匂わす事自体のメリットが薄い、そう思わないか?」
そう言われれば、確かに。ワシはカレーの福神漬けを噛みながら考える。前提の可能性は大きく分けて三つ。
1、ダイヤはアイデアルを示しており、チビ達はアイデアルと対峙している。(全て本当)
2、ダイヤはアイデアルを示しているが、チビ達はアイデアルと関係がない。(一部ブラフ)
3、ダイヤはアイデアルと全く関係がない。(全てブラフ)
「女史は我々の目をアイデアルに向けたかった、というのはどうでしょうか」
南方がそう答え、カツを一切れ口に放り込む。サクサクと旨そうな音をBGMに、判事が「成る程な。では、そのメリットは?」と問い返す。
「お屋形様の敵を事前に叩く為、女史捜索の人員をアイデアルに割かなければなりません」
「随分と遠回りな作戦だな」
「もしくは、切実にアイデアルを潰して欲しい事情がある?」
「なんや、アイデアルにお屋形様がバレたか?」
「ああ、それは切実だな」
「命の危険なら、是非、帰ってきて頂きたいものです」
「はは。それを言ったらお終いだよ、門倉…はあ」
命が掛かっても戻って来ないのはおかしいか?チビは安定の強情女じゃが…お屋形様はどっちじゃろうの。そう考えれば前提3はちと無理があるように感じるのう。ワシは茶を啜る。
「そもそも、何でチビはあそこにいたんや」
「それが、中々面白くてな。報告によれば、たまたまジャルード号に取材に来た記者が梶様を引き連れていたそうだ。そしてその記者が監禁され、助けを呼んだ相手がたまたまあの二人を引き連れてきたらしい」
「何ですかその死のピタゴラスイッチは」
「前世で何をしでかしたらそんな目に遭うんですか」
「私もそう思うよ。ただ…実際の所は分からんがね。両陣営共、アイデアルの臭いを嗅ぎつけての行動の可能性はある」
「そうであって欲しいものです…偶然でそんな目に遭うと知ったらもう私、外を歩けません」
「なんや南方、立会人の癖になよっちいのう」
「私は女史にトラウマがあるんだ。お前のせいで」
「情けないのう…ワシはいつかリベンジすっけえ、邪魔すんなよ?」
「頼むから俺のいない所でやってくれ…」
「…あ。分かったわ」
ワシは南方のビビりっぷりをみて、不意にチビの意図を理解した。
「そうか…そうですよ判事。最上立会人も内心ではあのコンビと戦いたくなかったとすれば、どうでしょう?」
「どうでしょう、とは?門倉君」
「アイデアルとの繋がりを示すダイヤ…あれは岡目八目やからヒントに見えとったんです。当事者からすればそれは…」
「あー…成る程ね。大義名分に見えるよ俺には。それ持って帰って大騒ぎすれば女史と戦わなくて済むもの」
「こいつのビビりっぷりは異常ですが、正常な立会人ならあのコンビを敵に回したくない筈です。単品でもエグい。何より…正直な所、情もありましょう」
「あるだろうね。しかしそうか、あのダイヤが大義名分…それは一番伏龍らしく、筋が通る仮説だね、門倉君。最上立会人はあのダイヤをフックに、そう仕向けられる所だった訳か」
「…‘所だった’?」
「ああ…最上立会人が言うには、ヴォジャ…今回伏龍の味方についた船員の名前だが…の乱入に、伏龍もお屋形様も驚いた様子だったらしい。恐らく、事前に味方にした訳ではなかったのだろうね。そのヴォジャが余りに強く、足止めを食らった隙に逃げられたらしい」
「成る程…」
「しかし、伏龍の意図が分かったのは大きい。助かったよ、門倉君、南方君…これで心置きなく彼らの寄生先に攻め込める…」
判事はそう頷くと、箸を置き、茶を啜る。ワシらは思わず顔を見合わした。
「寄生先…ですか」
「そうだ。大船額人…二人を引き連れてジャルード号に乗り込んだ役人だ。公には死んだことになっているが…」
「女史が見殺しにする筈がない、という事ですな」
「その通り。今泉江君に彼の家や車の特定を急がせている。分かり次第絨毯爆撃を行う」
「…我々も手伝います」
「そうしてくれるとありがたい。全体像が分かっている立会人の方が都合がいい」
「でしたら、他の立会人にも声を掛けておきましょうか」
「いや、それはこちらでやっておく。任務に備えておいてくれ」
「はい!」
やるべき事が決まったワシらは、残った夕飯を掻っ込む。久々のチビとの対決じゃ、燃えてきたわ。誰より先に確保して、ハンカチを受け取る事を了承させる。腕の見せ所じゃな。とりあえず、これを食い終わったら泉江の元に急ごう。情報が多いに越した事はない。
「何や、お前と飯食う趣味なんぞないわ」
「そう言わず。最上立会人の件、お前も聞いたか?」
「おー、チビを見つけたんやってな。しかし、あいつもクイーン相手に良く逃げおおせたもんやわ」
「そこにいた船員も仲間に引き入れていたそうじゃないか。女史は一体何なんだ」
「少なくとも、一筋縄でいく女じゃあないだろうね、南方君」
聞き慣れた声に、思わず「判事お疲れ様です!」と立ち上がる。一拍遅れて南方もそれに倣うが、すぐに判事に「座りなさい。私も食事に来ただけだ」と嗜められ、ワシらは再び席に着いた。
「ダイヤの件、君達はどう見る」
判事は持っていた煮付けのトレイを南方の横に置き、自分も座る。
「伏龍は…」
「‘チビ’で構わない。その方が私も聞き慣れている」
「お気遣いありがとうございます。チビにアイデアル絡みの何かがあった事は確かでしょう。あいつはクイーン相手に賄賂で誤魔化す真似はしません」
「一応敵にも敬意を払えるタイプですからね、女史は」
「君達は一度伏龍と敵対しているんだったか」
「お恥ずかしい…お耳に入っていましたか」
「ああ。面白く聞かせてもらったよ。だが…私が考えているのは、それ自体がブラフの可能性だ」
「ダイヤ自体が…ですか?はて、何のメリットが?」
「それを私も考えている…そもそも、最上にアイデアルの存在を匂わす事自体のメリットが薄い、そう思わないか?」
そう言われれば、確かに。ワシはカレーの福神漬けを噛みながら考える。前提の可能性は大きく分けて三つ。
1、ダイヤはアイデアルを示しており、チビ達はアイデアルと対峙している。(全て本当)
2、ダイヤはアイデアルを示しているが、チビ達はアイデアルと関係がない。(一部ブラフ)
3、ダイヤはアイデアルと全く関係がない。(全てブラフ)
「女史は我々の目をアイデアルに向けたかった、というのはどうでしょうか」
南方がそう答え、カツを一切れ口に放り込む。サクサクと旨そうな音をBGMに、判事が「成る程な。では、そのメリットは?」と問い返す。
「お屋形様の敵を事前に叩く為、女史捜索の人員をアイデアルに割かなければなりません」
「随分と遠回りな作戦だな」
「もしくは、切実にアイデアルを潰して欲しい事情がある?」
「なんや、アイデアルにお屋形様がバレたか?」
「ああ、それは切実だな」
「命の危険なら、是非、帰ってきて頂きたいものです」
「はは。それを言ったらお終いだよ、門倉…はあ」
命が掛かっても戻って来ないのはおかしいか?チビは安定の強情女じゃが…お屋形様はどっちじゃろうの。そう考えれば前提3はちと無理があるように感じるのう。ワシは茶を啜る。
「そもそも、何でチビはあそこにいたんや」
「それが、中々面白くてな。報告によれば、たまたまジャルード号に取材に来た記者が梶様を引き連れていたそうだ。そしてその記者が監禁され、助けを呼んだ相手がたまたまあの二人を引き連れてきたらしい」
「何ですかその死のピタゴラスイッチは」
「前世で何をしでかしたらそんな目に遭うんですか」
「私もそう思うよ。ただ…実際の所は分からんがね。両陣営共、アイデアルの臭いを嗅ぎつけての行動の可能性はある」
「そうであって欲しいものです…偶然でそんな目に遭うと知ったらもう私、外を歩けません」
「なんや南方、立会人の癖になよっちいのう」
「私は女史にトラウマがあるんだ。お前のせいで」
「情けないのう…ワシはいつかリベンジすっけえ、邪魔すんなよ?」
「頼むから俺のいない所でやってくれ…」
「…あ。分かったわ」
ワシは南方のビビりっぷりをみて、不意にチビの意図を理解した。
「そうか…そうですよ判事。最上立会人も内心ではあのコンビと戦いたくなかったとすれば、どうでしょう?」
「どうでしょう、とは?門倉君」
「アイデアルとの繋がりを示すダイヤ…あれは岡目八目やからヒントに見えとったんです。当事者からすればそれは…」
「あー…成る程ね。大義名分に見えるよ俺には。それ持って帰って大騒ぎすれば女史と戦わなくて済むもの」
「こいつのビビりっぷりは異常ですが、正常な立会人ならあのコンビを敵に回したくない筈です。単品でもエグい。何より…正直な所、情もありましょう」
「あるだろうね。しかしそうか、あのダイヤが大義名分…それは一番伏龍らしく、筋が通る仮説だね、門倉君。最上立会人はあのダイヤをフックに、そう仕向けられる所だった訳か」
「…‘所だった’?」
「ああ…最上立会人が言うには、ヴォジャ…今回伏龍の味方についた船員の名前だが…の乱入に、伏龍もお屋形様も驚いた様子だったらしい。恐らく、事前に味方にした訳ではなかったのだろうね。そのヴォジャが余りに強く、足止めを食らった隙に逃げられたらしい」
「成る程…」
「しかし、伏龍の意図が分かったのは大きい。助かったよ、門倉君、南方君…これで心置きなく彼らの寄生先に攻め込める…」
判事はそう頷くと、箸を置き、茶を啜る。ワシらは思わず顔を見合わした。
「寄生先…ですか」
「そうだ。大船額人…二人を引き連れてジャルード号に乗り込んだ役人だ。公には死んだことになっているが…」
「女史が見殺しにする筈がない、という事ですな」
「その通り。今泉江君に彼の家や車の特定を急がせている。分かり次第絨毯爆撃を行う」
「…我々も手伝います」
「そうしてくれるとありがたい。全体像が分かっている立会人の方が都合がいい」
「でしたら、他の立会人にも声を掛けておきましょうか」
「いや、それはこちらでやっておく。任務に備えておいてくれ」
「はい!」
やるべき事が決まったワシらは、残った夕飯を掻っ込む。久々のチビとの対決じゃ、燃えてきたわ。誰より先に確保して、ハンカチを受け取る事を了承させる。腕の見せ所じゃな。とりあえず、これを食い終わったら泉江の元に急ごう。情報が多いに越した事はない。