アセビよ、貴方の手を引いて
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ディレクターズカット:親子
※23ページ、バトルシップ終結後の話
「お父さんに会ったらねだってみるといい。きっと叶えてくれる」
あの人はそう言った。私を生家へ送り届ける道中でのことだった。今思えば、あれは私達父子を裏社会へ落とす為の布石だったのだろう。いや…そんな事は言われた時に気付いていた。私はあの時確かに必要とされていた。だから私はその声に従い、ただ無自覚に生きているだけの人間達に天災を与えんと、父に目についた者を殺すようねだった。父がその度に苦しみ、狂っていくのもまた快感だった。そこまでしてでも私を手元に留めたいと思っている。そう感じる事ができたから。
愛。きっと私はそれを求めていたのだ。
賭けに勝ち、勝負に負けた父は取り乱して船内を駆け回る。私はその様子を監視カメラ越しにぼんやりと観察する。父は私と次に顔を合わせた時、何と言うだろうか。
大船を殺さなかった事を詫びるのか、私が助けに来なかった事を責めるのか。
どちらでもいい、最早。私は笑う。結局何をされても私は満たされないのだから。
「ヴォジャ!ヴォジャー!」
父の声が近付いてくる。私を呼んでいる。何をかけずり回っているのかと思えば、私を探していたらしい。
「ここよ」
そう言って船長室の扉を開ければ、父は「そこにいたのかヴォジャ!」と私に駆け寄り、両肩を掴んだ。
「さあっ!私が死ぬところを見てくれ!」
父は縋り付くように私を見上げ、そう言った。驚き、「どうして」とその必死の形相に向かって問い掛ける。
「これでっ、これで終わりにするんだ!見せてやる!望みのものを!」
父は左手を私の肩から外し、持っていたナイフを己の喉に突き立てる。私は咄嗟にその手首を掴んだ。
「これで終わりになると思う?」
「おっ、おわっ、おわっ、終わらせるんだ!終わりにしてくれ、ヴォジャ!」
それは初めて父から出された禁戒の言葉だった。
「終わりになると思う…?」
私はもう一度問う。すると、不意に父の表情から恐怖と錯乱が消え失せた。
「ヴォジャ…私は悪い父親だったなあ。結局お前に何も出来なかった」
「父、さん」
「あの男に負けた…私が悪かったんだ。ナディアを…ナディアを殺されて…引き返せないと思い込んだ…違う…ナディアがお前を海に沈めていた時…違う…義父がお前を孤児院に入れた時…そう…全て…私が負けてしまったからいけなかったんだ…」
父はぼろぼろと大粒の涙を零す。そんな父を抱き締めると、彼は持っていたナイフを力無く落とした。
「お前に…殺しちゃいけないんだって、たったそれだけの事を…」
「父さん、私は終わらせられると思う…?」
「終わらせるんだ…終わらせるんだ…」
譫言のような父の言葉が、胸に温かくのしかかる。終わらせるんだ、終わらせるんだ。
「終わらせる」
「ヴォジャ…お前の目はナディアによく似ている…お前の母さんはなぁ、美しい人だった…」
「そう…ありがとう。父さん、見ていてね」
私は回した腕に力を込めた。父は苦しそうに浅い息をしながら、私の背に腕を回す。暫くそうしていると、父の体から力が抜ける。
その後も、もう少しだけ父を抱きしめていた。
ーーーーーーーーーー
父をいつも座っていた椅子に座らせ、暫くその姿を眺める。何か形見になるものをと思ったが、思い直す。母譲りのこの目が何よりの形見だ。後は何もいらない。終わりにするのだから。
私は父に被っていた帽子を渡すと、船長室を出る。沈みゆく夕日は、色を淡く変えていく最中だ。
→番外編:寝れない夜は