アセビよ、貴方の手を引いて
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「あらぁ、貴女、私の周りにはいないタイプだわ」
「だからどうした」
「黒服に迎えてあげてもいいわよ」
「結構」
ヴォジャさんはまるで最上さんなんて敵ではないとでも言いたげに、ゆったりとした直立体制を取った。しかし、それとは裏腹に彼女の放つ殺気は冷たく鋭い。最上さんもそれにしっかり気付いているようで、ヴォジャさんから目を逸らさないまま腰元のチェーンを手に取り、指先に絡めた。
二人の間に火花が舞う。私はその雰囲気に呑まれ、座り込んだまま唖然と二人を見上げた。
「晴乃君、足を持つんだ!」
そんな私の意識に押し入って来たのは直器君。すわ戦闘開始せんとする二人の足元にいた事実をやっと思い出し、慌ててガクトさんの両足を掴む。やっと腰を上げた私の頬を、最上さんのチェーンが掠める。思わず「ひっ」と声が出るが、それだけで済んだのはヴォジャさんが直前で最上さんの右手を跳ね上げて軌道をずらしてくれたからだ。
「ありがとう!」
「行け」
ヴォジャさんはそう言いながら最上さんにローキックを繰り出すが、彼女も負けてはいない。その足にチェーンを巻き付けると、「ふふ」と笑いながらそれを思い切り引っ張る。ヴォジャさんがバランスを崩すが、彼女は浅い呼吸を繰り返しながら地面に手を付き、最上さんの引きに合わせるように飛び蹴りを放った。まるでダンスのような二人の戦いをずっと見ていたい気持ちにはなるが、ここでは私はおろかガクトさんも危険だ。私は直器君と頷き合い、全速力でガクトさんを運ぶ。
ーーーーーーーーーー
「困るわ」
最上立会人がそう私を睨み付ける。両の小指にはチェーンがくるくると回っている。チャクラムと鞭、両方の特性を併せ持つと考えていいだろう。私は念の為距離を取った。
「あの二人を逃すわけにはいかないのよ」
「あの二人は…何?」
「あら、知らずに助けたの?」
「借りを一つ返すだけ」
「そう…子犬ちゃんらしいわね」
彼女はそう切なげに笑い、一気に距離を詰める。私も同時に前に出て、彼女の胸骨に一発叩き込まんと拳を前に出す。しかし、直前に巻き付けられたチェーンが掌底の軌道を大きく変えた。拳は彼女の左肩にあたるが、それと同時に彼女はそこを大きく引き、右足を繰り出す。脇腹に攻撃を許してしまうが、呼吸で痛みを逃しつつ、また体制を整える。
「あの子達は今アイデアルと接敵している…そうでしょう?」
「どうだろうな…私達はただここですれ違った。それだけの関係」
「貴女は…」
「私は違う…あの方は誰も懐には入れなかった」
あの二人も、あの方も。私の周りには誰もおらず、私は誰にも必要とされない。
不意にぎゅいい!と急激に回るタイヤの音が聞こえた。
「あの二人は今出発した。手詰まりだ」
そう言いながら不審に思う。タイヤの音はこちらに近付いて来ている。
「ヴォジャさん乗り込んでー!」
晴乃の大きな叫び声と共にーー。
ああ、そんな事。私は瞬時に判断を迫られる。自分の心に従うのか、理性に従うのか。
ーー小鹿に生まれたからって、小鹿として生きる必要はない。そうでしょ?
私は鼻で笑う。初めて聞いたわよ、そんな生き方。
再び最上立会人に掌底を放つ。私の渾身の一撃を喰らいながら、彼女は確かに笑った。その真意を問う時間はない。私は助手席の窓に手を掛け、そのまま車のスピードに身を任せた。
「うわあごめんごめんヴォジャさん今スピード落とすから!」
「馬鹿だね、落とした途端最上が追いついてくるよ。ヴォジャはそのままぶら下げておきなよ」
「そんな殺生な!」
「晴乃、そのまま行っていいわ」
「嘘やん!」
「貴女はいつも楽しそうね」
「もうちょっと真面目に生きなよ」
「こんちくしょう!」
車は公道に出るやぐんぐんスピードを上げていく。私は無駄な怪我をする前に車内に入らせてもらう事に決め、助手席のドアを開ける。車内には危険を知らせるアラームが鳴り響いているが、誰も気にはしないようだ。私も構わず乗り込み、ドアを閉めた。
「曲芸師になれるね」
シートベルトを装着する私を横目で見て、晴乃が微笑んだ。
「良かったの?」
「いい訳ないじゃん。一つも良くないよ。ねえ直器君?」
「本当だよ。君達がいた事も賭郎会員がいた事も全くもって想定外さ」
「お陰様で直器君の足に風穴は空くし、賭郎にはガクトさんとの繋がりがバレちゃったし、体は磯臭いし、最悪よ」
「密輸兵器の事も片付いていない。…バラスト水を全て抜いておいた。船は兵器と共にこのまま海に沈むだろう…コンテナの中からはガクトのIDと上着が発見され、彼はキャリア官僚謎の行方不明事件として捜査されるが、死亡とされその内捜索も打ち切られる。皮肉なことに彼の死は恐らくこの機密漏洩事件の黒幕に利用される…内部では立場を利用し流出を手引きした犯人とされ、米国との外交問題に成りかねないF35の流出ももみ消される。公式には証拠も証人も全く存在しない」
「ねえ蜂名…お前はその男を始末したかったんじゃないの?」
「…そうだよ」
「へっ?!」
「なっ?!」
晴乃の声にもう一つ重なったのに驚き後部座席を確認する。タイミング良く大船が起きたようだ。
「蜂名俺を…というか待て何故船員がここに?!」
「嫌な事がたくさんあったじゃない?有能な旅のお供を手に入れて帳尻を合わせたかったんだよね」
「何っ…はあ?」
「仲間になったって事さ」
二人はけらけら笑う。仲間とは一言も言った覚えが無いが、それもいい。私は大船と目を合わせ、「ヴォジャよ。よろしく」と挨拶しておいた。
「だからどうした」
「黒服に迎えてあげてもいいわよ」
「結構」
ヴォジャさんはまるで最上さんなんて敵ではないとでも言いたげに、ゆったりとした直立体制を取った。しかし、それとは裏腹に彼女の放つ殺気は冷たく鋭い。最上さんもそれにしっかり気付いているようで、ヴォジャさんから目を逸らさないまま腰元のチェーンを手に取り、指先に絡めた。
二人の間に火花が舞う。私はその雰囲気に呑まれ、座り込んだまま唖然と二人を見上げた。
「晴乃君、足を持つんだ!」
そんな私の意識に押し入って来たのは直器君。すわ戦闘開始せんとする二人の足元にいた事実をやっと思い出し、慌ててガクトさんの両足を掴む。やっと腰を上げた私の頬を、最上さんのチェーンが掠める。思わず「ひっ」と声が出るが、それだけで済んだのはヴォジャさんが直前で最上さんの右手を跳ね上げて軌道をずらしてくれたからだ。
「ありがとう!」
「行け」
ヴォジャさんはそう言いながら最上さんにローキックを繰り出すが、彼女も負けてはいない。その足にチェーンを巻き付けると、「ふふ」と笑いながらそれを思い切り引っ張る。ヴォジャさんがバランスを崩すが、彼女は浅い呼吸を繰り返しながら地面に手を付き、最上さんの引きに合わせるように飛び蹴りを放った。まるでダンスのような二人の戦いをずっと見ていたい気持ちにはなるが、ここでは私はおろかガクトさんも危険だ。私は直器君と頷き合い、全速力でガクトさんを運ぶ。
ーーーーーーーーーー
「困るわ」
最上立会人がそう私を睨み付ける。両の小指にはチェーンがくるくると回っている。チャクラムと鞭、両方の特性を併せ持つと考えていいだろう。私は念の為距離を取った。
「あの二人を逃すわけにはいかないのよ」
「あの二人は…何?」
「あら、知らずに助けたの?」
「借りを一つ返すだけ」
「そう…子犬ちゃんらしいわね」
彼女はそう切なげに笑い、一気に距離を詰める。私も同時に前に出て、彼女の胸骨に一発叩き込まんと拳を前に出す。しかし、直前に巻き付けられたチェーンが掌底の軌道を大きく変えた。拳は彼女の左肩にあたるが、それと同時に彼女はそこを大きく引き、右足を繰り出す。脇腹に攻撃を許してしまうが、呼吸で痛みを逃しつつ、また体制を整える。
「あの子達は今アイデアルと接敵している…そうでしょう?」
「どうだろうな…私達はただここですれ違った。それだけの関係」
「貴女は…」
「私は違う…あの方は誰も懐には入れなかった」
あの二人も、あの方も。私の周りには誰もおらず、私は誰にも必要とされない。
不意にぎゅいい!と急激に回るタイヤの音が聞こえた。
「あの二人は今出発した。手詰まりだ」
そう言いながら不審に思う。タイヤの音はこちらに近付いて来ている。
「ヴォジャさん乗り込んでー!」
晴乃の大きな叫び声と共にーー。
ああ、そんな事。私は瞬時に判断を迫られる。自分の心に従うのか、理性に従うのか。
ーー小鹿に生まれたからって、小鹿として生きる必要はない。そうでしょ?
私は鼻で笑う。初めて聞いたわよ、そんな生き方。
再び最上立会人に掌底を放つ。私の渾身の一撃を喰らいながら、彼女は確かに笑った。その真意を問う時間はない。私は助手席の窓に手を掛け、そのまま車のスピードに身を任せた。
「うわあごめんごめんヴォジャさん今スピード落とすから!」
「馬鹿だね、落とした途端最上が追いついてくるよ。ヴォジャはそのままぶら下げておきなよ」
「そんな殺生な!」
「晴乃、そのまま行っていいわ」
「嘘やん!」
「貴女はいつも楽しそうね」
「もうちょっと真面目に生きなよ」
「こんちくしょう!」
車は公道に出るやぐんぐんスピードを上げていく。私は無駄な怪我をする前に車内に入らせてもらう事に決め、助手席のドアを開ける。車内には危険を知らせるアラームが鳴り響いているが、誰も気にはしないようだ。私も構わず乗り込み、ドアを閉めた。
「曲芸師になれるね」
シートベルトを装着する私を横目で見て、晴乃が微笑んだ。
「良かったの?」
「いい訳ないじゃん。一つも良くないよ。ねえ直器君?」
「本当だよ。君達がいた事も賭郎会員がいた事も全くもって想定外さ」
「お陰様で直器君の足に風穴は空くし、賭郎にはガクトさんとの繋がりがバレちゃったし、体は磯臭いし、最悪よ」
「密輸兵器の事も片付いていない。…バラスト水を全て抜いておいた。船は兵器と共にこのまま海に沈むだろう…コンテナの中からはガクトのIDと上着が発見され、彼はキャリア官僚謎の行方不明事件として捜査されるが、死亡とされその内捜索も打ち切られる。皮肉なことに彼の死は恐らくこの機密漏洩事件の黒幕に利用される…内部では立場を利用し流出を手引きした犯人とされ、米国との外交問題に成りかねないF35の流出ももみ消される。公式には証拠も証人も全く存在しない」
「ねえ蜂名…お前はその男を始末したかったんじゃないの?」
「…そうだよ」
「へっ?!」
「なっ?!」
晴乃の声にもう一つ重なったのに驚き後部座席を確認する。タイミング良く大船が起きたようだ。
「蜂名俺を…というか待て何故船員がここに?!」
「嫌な事がたくさんあったじゃない?有能な旅のお供を手に入れて帳尻を合わせたかったんだよね」
「何っ…はあ?」
「仲間になったって事さ」
二人はけらけら笑う。仲間とは一言も言った覚えが無いが、それもいい。私は大船と目を合わせ、「ヴォジャよ。よろしく」と挨拶しておいた。