アセビよ、貴方の手を引いて
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私は大きく伸びをして、「ガクトさんまだかなあ?」と直器君に聞いてみた。
「まだ勝負がついたばかりだよ、晴乃君。勝負に負けこそしたが…自力で船を降りられるかどうか…そこまで含めて彼の勝負だ」
「助けてあげたいところだけど…私と貴方だからなあ」
「この程度の怪我…僕は行ける」
「わ、私も行けるし」
「じゃあいいじゃない。何言ってるの」
と言いつつも立つのは辛いみたいで、直器君は車止めポールの一つに腰を下ろした。私も彼に倣い、一つ隣のポールに腰掛ける。
「ガクトさんブリッジ出た?」
「いいや、レーシィ船長と喧嘩してるよ」
「あらー、血の気が多いんだから」
「それがガクトのいい所さ…ん?」
直器君が盗聴器の向こうに耳を澄ますので、私は押し黙る。
「…最上がブリッジを出た」
「へ?何か見つけたのかな。後処理まで自分でしたい派なのにね」
私達は船を見上げる。当然ここからは最上さんは見えないが、何となく嫌な予感がして「車に戻ろっか」と直器君を誘った。
「そうだね。見つからないに越した事はない」
立ち上がって車に向かおうと踵を返した、その時だった。ギャランとというバイクの唸り声と、「裏にいたのはお屋形様と子犬ちゃんだった訳ね…切れる筈だわ」というため息混じりの声がしたかと思えば、大型バイクが降ってきた。
「っ…!」
「貴女が無線を入れたのが失敗だったわね…聞き間違えるはずが無いわ…愛しい貴女の声を…」
「もがみ…さん…」
「ああやめて。貴女の声を聞くと悲しくなるわ…ホントよ」
彼女はバイクから降りてこちらに歩み寄りながら、つつ、と人差し指で顎を撫でる。ホントか嘘かなんて、貴女の歪んだ顔を見れば言わなくても分かる。でも、彼女は立会人。その心を無理矢理覆い隠すと、「でも、興奮する。私って何でも行ける女なの」と気持ちを臨戦体制に持ち込んだ。
‘来る’と思ったのと、突然ワープしてきた最上さんに首を掴まれたのは殆ど同時。分かってても避けられんよ、こんなの。
「うっぐ!」
「何のつもりかしら…お屋形様を連れて失踪だなんて…悪戯にしては度が過ぎるわ、子犬ちゃん」
「最上…離すんだ」
「お屋形様…粛清は覚悟の上ですわ。賭郎にお戻りくださいませ。この女も貴方様も、生捕の命が出ております」
「最上、誰からの命令かは知らないが、今命令しているのは僕だ」
「今お屋形様は洗脳されておられるのです。ご存知でしょう、この女は魔女です」
「ああ魔女さ…だけどね最上、僕はその魔女を離せと言っているんだ」
直器君が最上さんの右腕を掴む。どちらも離すまいと力を込めるので、腕がプルプルと震えている。当然、最上さんが私の首を掴む手にも気合が入り、私は一気に呼吸困難に陥る。
「くっ…あっ」
「ああ…手をお離しくださいお屋形様、このままでは殺してしまいますわ」
「君が先に離せば?」
「貴方様の洗脳を解くには…止むを得ません」
魔女だ洗脳だと、言ってくれるじゃないか畜生。
「うぁ…もが、さ」
何とか名前を呼び、ポケットからダイヤモンドを一つ取り出す。
「わか、って」
そう言って彼女にそれを差し出せば、彼女の不敵な微笑みの中に、僅かに戸惑いが差し込んだ。やってやろうじゃないか、魔女とやらの本領を見せてやる。
私は直器君に視線をやり、手を離すよう目で訴える。彼もまた戸惑いながら、私の意図を汲んで手を離した。私を殺す気までは無い最上さんの手も、それで少しだけ緩む。空気の通るようになった喉を、何とか震わせた。
「これ、もっえかえって」
さあ、最上さんは考える。ダイヤモンドの意図は何?持って帰ってどうするの?飾っておけばいいかしら。まさかね。意味するものは一つしかない。
アイデアル。
正直、ジャルード号とアイデアルが本当に繋がっているかは知らない。でも、このダイヤモンドの持ち主は‘レーシィ船長以外の、ヴォジャさんにとって大切な人’だ。絶対にダイヤモンド好きの誰かが、この上に存在しているってこと。私がこのダイヤモンドに込めた事実はそこまで。後は勝手に推理して、私とお屋形様が失踪した訳をご自分で捏造してくれ。何を隠そう私は魔女らしい。騙してナンボである。
最上さんは動かない。悩んでいるのだ。子犬ちゃんはやっぱり味方なのかしら、二人でアイデアルと戦う必要があったのかしら、なーんてね。
さあ、この隙に何をするか。私は口を開きかけて、突然射した影に戸惑い、声を上げた。
「ヴォジャさん?!」
「その女を放せ」
そう。最上さんに続き、ヴォジャさんまでもが船から降って来たのだ。肩にはガクトさんを担いでいる。一緒に連れて来てくれたのだろう。
最上さんが小さな舌打ちをして私を引き寄せるが、ヴォジャさんは構わず上段蹴り。最上さんが私ごと屈んでくれたのでお互い事なきを得る。
「何のつもりかしら?もう勝負は終わり…これは賭郎の問題よ」
「私には関係無い」
ヴォジャさんは最上さんの手首を掴む。彼女が力を込めるにつれ、ぐぐぐと最上さんの腕が開かれていく。
「晴乃」
ヴォジャさんが私の名前を呼ぶ。逃げろと言われたのだと直ぐに分かった。首周りにはもう十分なスペースが出来ている。
私は膝を折って最上さんの腕から逃れる。「持っていけ」と、ヴォジャさんがガクトさんを私の上に転げ落とした。
「ぐぇっ…直器君助けて!」
「君それくらいも持てないの?」
何とか背で受け止めたはいいが動けなくなってしまった私に、直器君が駆け寄ってくる。
そんな私達に構わず、最上さんとヴォジャさんは戦闘を開始した。
「まだ勝負がついたばかりだよ、晴乃君。勝負に負けこそしたが…自力で船を降りられるかどうか…そこまで含めて彼の勝負だ」
「助けてあげたいところだけど…私と貴方だからなあ」
「この程度の怪我…僕は行ける」
「わ、私も行けるし」
「じゃあいいじゃない。何言ってるの」
と言いつつも立つのは辛いみたいで、直器君は車止めポールの一つに腰を下ろした。私も彼に倣い、一つ隣のポールに腰掛ける。
「ガクトさんブリッジ出た?」
「いいや、レーシィ船長と喧嘩してるよ」
「あらー、血の気が多いんだから」
「それがガクトのいい所さ…ん?」
直器君が盗聴器の向こうに耳を澄ますので、私は押し黙る。
「…最上がブリッジを出た」
「へ?何か見つけたのかな。後処理まで自分でしたい派なのにね」
私達は船を見上げる。当然ここからは最上さんは見えないが、何となく嫌な予感がして「車に戻ろっか」と直器君を誘った。
「そうだね。見つからないに越した事はない」
立ち上がって車に向かおうと踵を返した、その時だった。ギャランとというバイクの唸り声と、「裏にいたのはお屋形様と子犬ちゃんだった訳ね…切れる筈だわ」というため息混じりの声がしたかと思えば、大型バイクが降ってきた。
「っ…!」
「貴女が無線を入れたのが失敗だったわね…聞き間違えるはずが無いわ…愛しい貴女の声を…」
「もがみ…さん…」
「ああやめて。貴女の声を聞くと悲しくなるわ…ホントよ」
彼女はバイクから降りてこちらに歩み寄りながら、つつ、と人差し指で顎を撫でる。ホントか嘘かなんて、貴女の歪んだ顔を見れば言わなくても分かる。でも、彼女は立会人。その心を無理矢理覆い隠すと、「でも、興奮する。私って何でも行ける女なの」と気持ちを臨戦体制に持ち込んだ。
‘来る’と思ったのと、突然ワープしてきた最上さんに首を掴まれたのは殆ど同時。分かってても避けられんよ、こんなの。
「うっぐ!」
「何のつもりかしら…お屋形様を連れて失踪だなんて…悪戯にしては度が過ぎるわ、子犬ちゃん」
「最上…離すんだ」
「お屋形様…粛清は覚悟の上ですわ。賭郎にお戻りくださいませ。この女も貴方様も、生捕の命が出ております」
「最上、誰からの命令かは知らないが、今命令しているのは僕だ」
「今お屋形様は洗脳されておられるのです。ご存知でしょう、この女は魔女です」
「ああ魔女さ…だけどね最上、僕はその魔女を離せと言っているんだ」
直器君が最上さんの右腕を掴む。どちらも離すまいと力を込めるので、腕がプルプルと震えている。当然、最上さんが私の首を掴む手にも気合が入り、私は一気に呼吸困難に陥る。
「くっ…あっ」
「ああ…手をお離しくださいお屋形様、このままでは殺してしまいますわ」
「君が先に離せば?」
「貴方様の洗脳を解くには…止むを得ません」
魔女だ洗脳だと、言ってくれるじゃないか畜生。
「うぁ…もが、さ」
何とか名前を呼び、ポケットからダイヤモンドを一つ取り出す。
「わか、って」
そう言って彼女にそれを差し出せば、彼女の不敵な微笑みの中に、僅かに戸惑いが差し込んだ。やってやろうじゃないか、魔女とやらの本領を見せてやる。
私は直器君に視線をやり、手を離すよう目で訴える。彼もまた戸惑いながら、私の意図を汲んで手を離した。私を殺す気までは無い最上さんの手も、それで少しだけ緩む。空気の通るようになった喉を、何とか震わせた。
「これ、もっえかえって」
さあ、最上さんは考える。ダイヤモンドの意図は何?持って帰ってどうするの?飾っておけばいいかしら。まさかね。意味するものは一つしかない。
アイデアル。
正直、ジャルード号とアイデアルが本当に繋がっているかは知らない。でも、このダイヤモンドの持ち主は‘レーシィ船長以外の、ヴォジャさんにとって大切な人’だ。絶対にダイヤモンド好きの誰かが、この上に存在しているってこと。私がこのダイヤモンドに込めた事実はそこまで。後は勝手に推理して、私とお屋形様が失踪した訳をご自分で捏造してくれ。何を隠そう私は魔女らしい。騙してナンボである。
最上さんは動かない。悩んでいるのだ。子犬ちゃんはやっぱり味方なのかしら、二人でアイデアルと戦う必要があったのかしら、なーんてね。
さあ、この隙に何をするか。私は口を開きかけて、突然射した影に戸惑い、声を上げた。
「ヴォジャさん?!」
「その女を放せ」
そう。最上さんに続き、ヴォジャさんまでもが船から降って来たのだ。肩にはガクトさんを担いでいる。一緒に連れて来てくれたのだろう。
最上さんが小さな舌打ちをして私を引き寄せるが、ヴォジャさんは構わず上段蹴り。最上さんが私ごと屈んでくれたのでお互い事なきを得る。
「何のつもりかしら?もう勝負は終わり…これは賭郎の問題よ」
「私には関係無い」
ヴォジャさんは最上さんの手首を掴む。彼女が力を込めるにつれ、ぐぐぐと最上さんの腕が開かれていく。
「晴乃」
ヴォジャさんが私の名前を呼ぶ。逃げろと言われたのだと直ぐに分かった。首周りにはもう十分なスペースが出来ている。
私は膝を折って最上さんの腕から逃れる。「持っていけ」と、ヴォジャさんがガクトさんを私の上に転げ落とした。
「ぐぇっ…直器君助けて!」
「君それくらいも持てないの?」
何とか背で受け止めたはいいが動けなくなってしまった私に、直器君が駆け寄ってくる。
そんな私達に構わず、最上さんとヴォジャさんは戦闘を開始した。