ハシバミの小旅行
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「厄介なのが入ってきたんだ。と言っても、入れたのは僕なんだけどね」
記憶の中、お屋形様は肩をすくめる。ちょうど20分前の話。突然お屋形様が私の執務室にいらして、徐にそう言ったのだった。私はだだ相槌を打つ。お屋形様に意見を述べるなどあってはならない。
「心が読めるみたいだよ。能輪が怖がっちゃってる」
「能輪…壱號立会人がですか?」
「うん。関わりたがらなくてさ。ホントは能輪に使わせたかったのに困るよね」
「それで、私のところに?」
「ううん。彼女には事務に入って貰うことにしたんだ。あそこなら色んなのと関わるから、当分は嘘発見器として働いて貰おうと思ってね」
「嘘発見器…」
「まあ、本当に能力があるのなら、そんなチンケな役割じゃなく、もっと適した場所が見つかるだろう。見つからなければ僕にスカウトは向いていなかったって事だね」
確かにお屋形様が自ら人を引き抜いてくるとは珍しいな、と思った。先代はどんどん連れてきたけど、最近は能輪立会人ばかりが人を増やしている。そう思うと、お屋形様のお眼鏡に叶ったのはどんな人物なのだろうと、興味も湧いた。
「彼女をどう使うか。利となるか害となるか。買い物に付き添う体で、ちょっと泉江も見てきてよ。もし君が使いたければ使っていいし」
喜んで。そう返せばお屋形様は軽く手を挙げて、彼女の名前と現在地を伝えてきた。後は自分の目で見極めろという事だろう。臨むところだ。だというのに…
「はぁ」
思わずため息を漏らせば、隣を歩く彼女が上目遣いでこちらを窺う。その所作がまた腹立たしくて、私は彼女を睨む。慌てて目を伏せるのがまた腹立ちに拍車をかけた。意図せず不機嫌にしてしまった相手になんと声を掛けるべきかオロオロ悩む姿は、そう、私が大嫌いな弱々しいオンナノコそのもので。
「はぁ」
ついつい、またため息。今からでもいいから断ろうかな。でも、よりによってお屋形様のお頼みだからな…。
悩む。
「あの!」
意を決して、といった体で彼女は声を出した。無視するのも大人気なく思えて、目線だけをそちらにやる。
「私、何かしましたか?」
心を読めるはずの彼女の質問にげんなりする。なんだ、ガセか。
「別に」
私がそう答えると、彼女は目を丸くした。
「そ、存在が気にくわないですか?」
「当たり前だ」
「…どうしてですか?」
立ち止まり、彼女を見る。そして、息を呑んだ。どんなひどい顔をしているだろうと思えば、動揺している声とは裏腹に、柔らかい墨色の瞳が揺るぎなく私の目を捉えていた。
「心を…」
「…読めません。よく誤解されますが、ごめんなさい」
思わず口から零れた言葉を、彼女は優しい声で否定する。このままでは丸裸にされる。直感的にそう思った。背中にじわりと汗が染みる。しかし、一瞬彼女の瞳が揺れて、スイッチが切れたように元のオンナノコに戻ると、しょんぼりとした様子で呟いた。
「ダメだ。分かんないです」
「えっ」
「あの、嫌な事があったら早めに教えてくださいね。直せる事なら直しますから」
彼女をどう使うか。利となるか害となるか。なるほど、難しい。未だ私の不機嫌とどう向き合うべきか悩んでいる彼女に、今更ながら自己紹介をする。彼女はパァっと顔を明るくすると、「伏龍晴乃です!」と元気よく自己紹介を返した。
記憶の中、お屋形様は肩をすくめる。ちょうど20分前の話。突然お屋形様が私の執務室にいらして、徐にそう言ったのだった。私はだだ相槌を打つ。お屋形様に意見を述べるなどあってはならない。
「心が読めるみたいだよ。能輪が怖がっちゃってる」
「能輪…壱號立会人がですか?」
「うん。関わりたがらなくてさ。ホントは能輪に使わせたかったのに困るよね」
「それで、私のところに?」
「ううん。彼女には事務に入って貰うことにしたんだ。あそこなら色んなのと関わるから、当分は嘘発見器として働いて貰おうと思ってね」
「嘘発見器…」
「まあ、本当に能力があるのなら、そんなチンケな役割じゃなく、もっと適した場所が見つかるだろう。見つからなければ僕にスカウトは向いていなかったって事だね」
確かにお屋形様が自ら人を引き抜いてくるとは珍しいな、と思った。先代はどんどん連れてきたけど、最近は能輪立会人ばかりが人を増やしている。そう思うと、お屋形様のお眼鏡に叶ったのはどんな人物なのだろうと、興味も湧いた。
「彼女をどう使うか。利となるか害となるか。買い物に付き添う体で、ちょっと泉江も見てきてよ。もし君が使いたければ使っていいし」
喜んで。そう返せばお屋形様は軽く手を挙げて、彼女の名前と現在地を伝えてきた。後は自分の目で見極めろという事だろう。臨むところだ。だというのに…
「はぁ」
思わずため息を漏らせば、隣を歩く彼女が上目遣いでこちらを窺う。その所作がまた腹立たしくて、私は彼女を睨む。慌てて目を伏せるのがまた腹立ちに拍車をかけた。意図せず不機嫌にしてしまった相手になんと声を掛けるべきかオロオロ悩む姿は、そう、私が大嫌いな弱々しいオンナノコそのもので。
「はぁ」
ついつい、またため息。今からでもいいから断ろうかな。でも、よりによってお屋形様のお頼みだからな…。
悩む。
「あの!」
意を決して、といった体で彼女は声を出した。無視するのも大人気なく思えて、目線だけをそちらにやる。
「私、何かしましたか?」
心を読めるはずの彼女の質問にげんなりする。なんだ、ガセか。
「別に」
私がそう答えると、彼女は目を丸くした。
「そ、存在が気にくわないですか?」
「当たり前だ」
「…どうしてですか?」
立ち止まり、彼女を見る。そして、息を呑んだ。どんなひどい顔をしているだろうと思えば、動揺している声とは裏腹に、柔らかい墨色の瞳が揺るぎなく私の目を捉えていた。
「心を…」
「…読めません。よく誤解されますが、ごめんなさい」
思わず口から零れた言葉を、彼女は優しい声で否定する。このままでは丸裸にされる。直感的にそう思った。背中にじわりと汗が染みる。しかし、一瞬彼女の瞳が揺れて、スイッチが切れたように元のオンナノコに戻ると、しょんぼりとした様子で呟いた。
「ダメだ。分かんないです」
「えっ」
「あの、嫌な事があったら早めに教えてくださいね。直せる事なら直しますから」
彼女をどう使うか。利となるか害となるか。なるほど、難しい。未だ私の不機嫌とどう向き合うべきか悩んでいる彼女に、今更ながら自己紹介をする。彼女はパァっと顔を明るくすると、「伏龍晴乃です!」と元気よく自己紹介を返した。