アセビよ、貴方の手を引いて
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晴乃君が「もう直器君!風穴って何?!何で早く言わないの?!」と、やっぱりキレ散らかしながら犬かきで近寄ってくる。何でって、君がずっとブチギレてたからじゃない。反抗すると大変なことになりそうだから言わないけど。
「早く陸に上ろ!泳げる?」
「うん」
僕は頷いて泳ぎ出す。そうすれば彼女はホッとした笑顔を見せ、後ろのヴォジャを気遣って「貴女は怪我は無い?泳げる?」と声を掛けた。
変な人。
彼女は僕の何だったんだろう。僕はこれからどうしたいんだろう。疑問が波の様に押し寄せては僕の心を攫う。この感覚を、僕の心のどこかが覚えている。僕は少しの間、その波に心を預けた。
ーーーーーーーーーー
『ない…ない…あった!』
「F3だね」
晴乃君は甲板に戻ってくるや否や僕をコンテナの一つに座らせ、自分は大ダッシュで残りのコンテナの確認に行こうとしたので、慌てて携帯を握らせた。今は繋ぎっぱなしの携帯で通話しながら、彼女が元気に確認作業をするのを見守っている。
「ヴォジャの事、どう責任取るつもり?」
『ヴォジャ?戦意喪失してたじゃない』
「君の事を傷付けなくても、ガクトや横井には攻撃するかもしれないよ」
『しないよ』
「君ね、根拠がないじゃない」
『直器君、私は人を見誤らないよ。その一点突破で貴方達と渡り合ってきたんだから、信じて』
「君さ…」
言いかけて、やめる。ずぶ濡れのヴォジャの背中を思い出すと、何も言えなくなる。
彼女は陸に着くや否や「貴方達は好きに行動すれば」と言い、船内に戻って行った。晴乃君はその背中に「ありがとう!」と声を掛け、僕の手を引いて甲板に戻らんと歩き出す。たったそれだけのやり取りで、僕らは船内での自由を手に入れた。
長閑だ、全てが嘘みたいに。見上げれば夕暮れ空を雲が泳いでいる。
「あ!」
「ん?君は…」
さっき僕が閉じ込めた船員じゃないか。何をする気かと警戒し掛けたが、彼が抱えているのが晴乃君の服だと気付き、僕は態度を改める。
「なあ、アンタの連れはどこだ?これを持ってってやりてえんだけど、見つかんねえのよ」
「今G列…そっちにいるよ」
「そうかい。ありがとよ」
「いや…ねえ、荷物の中にイヤホンはあるかい?」
「ああ…これか?」
「うん。投げて」
「いいぜ…そいよっと」
「グラッツェ」
僕はイヤホンを装着する。すると、こっちの長閑さが嘘のような緊迫した声が聞こえてくる。
本来、僕らもこうある筈だったんだけどね。
「じゃ、俺は行くよ」
「うん。スピード上げろって伝えてよ」
「いいぜ…あーそうだ、あの姉ちゃん、いい女だな。手放すなよ!」
そういう関係じゃないっぽいけど、まあいいよ。僕あの子好きだし。
僕は手を振る。船員も振りかえした。
「聞こえた?もうすぐ君の服が届くよ」
『ジャルード号、意外といい所』
「君の周りが狂うだけだよ。…ねえ、結局、彼女は何だったの?」
『ヴォジャ?』
「うん」
『なんて言うのかなあ?あの人も愛されたかったんだよ』
「も?」
『賭郎そんな奴ばっか』
「君と僕とは見えてる世界が大分違うみたいだね」
『あはは。否定はしない』
「でも、ヴォジャは船員にも船長にも、大分信用されていたようだよ」
『才能がなくなれば終わりの関係は愛じゃないんだよ』
「そうかな?才能に惚れるって言うじゃない」
『直器君、じゃあさ、貴方は何であの時、私に電話したの?』
何故。僕は口を噤み、あの日を思い出す。スーツのポケットから知らない女の写真が出てきたあの瞬間、僕はこの人に電話すればいいんだと悟った。そう、‘思った’でも‘考えた’でもない。僕は悟ったのだ。
「あの写真の君の、必死な顔を見たら、この人は味方なんだって」
『そうなの、直器君…ううん、お屋形様。私は貴方が大好きですよ。大好きだから、貴方が行方不明になったって知って、私は粛清覚悟で飛び出しました。お屋形様、貴方は素晴らしい才能をお持ちです。でも、私は貴方が貴方だから大好きなんです。貴方が何を失おうが、私は貴方のことが大好きな、貴方の味方です。分かりますか?これが愛…貴方が写真の私から感じ取ったのはこれなんです』
「……」
『……』
「…一回電話切っていい?」
『いいえ駄目ですお屋形様。私も超絶恥ずかしいのを我慢しています』
丁度というか何というか、船員がコートを届けにきてくれたらしい。彼女はオーバーなほどに喜んで、コートや靴を装着する。
『まあ…ヴォジャもね、そういうのが欲しかったんでしょ』
「…そうかもね」
彼女はコンテナの捜索を終わらせると、『城道さんに手だけ合わせてくる』と言って、通話を切った。それが終わったら、僕はこの戦いをどう終わらせるか決めなくてはいけない。彼女の、ガクトの仲間として。
「早く陸に上ろ!泳げる?」
「うん」
僕は頷いて泳ぎ出す。そうすれば彼女はホッとした笑顔を見せ、後ろのヴォジャを気遣って「貴女は怪我は無い?泳げる?」と声を掛けた。
変な人。
彼女は僕の何だったんだろう。僕はこれからどうしたいんだろう。疑問が波の様に押し寄せては僕の心を攫う。この感覚を、僕の心のどこかが覚えている。僕は少しの間、その波に心を預けた。
ーーーーーーーーーー
『ない…ない…あった!』
「F3だね」
晴乃君は甲板に戻ってくるや否や僕をコンテナの一つに座らせ、自分は大ダッシュで残りのコンテナの確認に行こうとしたので、慌てて携帯を握らせた。今は繋ぎっぱなしの携帯で通話しながら、彼女が元気に確認作業をするのを見守っている。
「ヴォジャの事、どう責任取るつもり?」
『ヴォジャ?戦意喪失してたじゃない』
「君の事を傷付けなくても、ガクトや横井には攻撃するかもしれないよ」
『しないよ』
「君ね、根拠がないじゃない」
『直器君、私は人を見誤らないよ。その一点突破で貴方達と渡り合ってきたんだから、信じて』
「君さ…」
言いかけて、やめる。ずぶ濡れのヴォジャの背中を思い出すと、何も言えなくなる。
彼女は陸に着くや否や「貴方達は好きに行動すれば」と言い、船内に戻って行った。晴乃君はその背中に「ありがとう!」と声を掛け、僕の手を引いて甲板に戻らんと歩き出す。たったそれだけのやり取りで、僕らは船内での自由を手に入れた。
長閑だ、全てが嘘みたいに。見上げれば夕暮れ空を雲が泳いでいる。
「あ!」
「ん?君は…」
さっき僕が閉じ込めた船員じゃないか。何をする気かと警戒し掛けたが、彼が抱えているのが晴乃君の服だと気付き、僕は態度を改める。
「なあ、アンタの連れはどこだ?これを持ってってやりてえんだけど、見つかんねえのよ」
「今G列…そっちにいるよ」
「そうかい。ありがとよ」
「いや…ねえ、荷物の中にイヤホンはあるかい?」
「ああ…これか?」
「うん。投げて」
「いいぜ…そいよっと」
「グラッツェ」
僕はイヤホンを装着する。すると、こっちの長閑さが嘘のような緊迫した声が聞こえてくる。
本来、僕らもこうある筈だったんだけどね。
「じゃ、俺は行くよ」
「うん。スピード上げろって伝えてよ」
「いいぜ…あーそうだ、あの姉ちゃん、いい女だな。手放すなよ!」
そういう関係じゃないっぽいけど、まあいいよ。僕あの子好きだし。
僕は手を振る。船員も振りかえした。
「聞こえた?もうすぐ君の服が届くよ」
『ジャルード号、意外といい所』
「君の周りが狂うだけだよ。…ねえ、結局、彼女は何だったの?」
『ヴォジャ?』
「うん」
『なんて言うのかなあ?あの人も愛されたかったんだよ』
「も?」
『賭郎そんな奴ばっか』
「君と僕とは見えてる世界が大分違うみたいだね」
『あはは。否定はしない』
「でも、ヴォジャは船員にも船長にも、大分信用されていたようだよ」
『才能がなくなれば終わりの関係は愛じゃないんだよ』
「そうかな?才能に惚れるって言うじゃない」
『直器君、じゃあさ、貴方は何であの時、私に電話したの?』
何故。僕は口を噤み、あの日を思い出す。スーツのポケットから知らない女の写真が出てきたあの瞬間、僕はこの人に電話すればいいんだと悟った。そう、‘思った’でも‘考えた’でもない。僕は悟ったのだ。
「あの写真の君の、必死な顔を見たら、この人は味方なんだって」
『そうなの、直器君…ううん、お屋形様。私は貴方が大好きですよ。大好きだから、貴方が行方不明になったって知って、私は粛清覚悟で飛び出しました。お屋形様、貴方は素晴らしい才能をお持ちです。でも、私は貴方が貴方だから大好きなんです。貴方が何を失おうが、私は貴方のことが大好きな、貴方の味方です。分かりますか?これが愛…貴方が写真の私から感じ取ったのはこれなんです』
「……」
『……』
「…一回電話切っていい?」
『いいえ駄目ですお屋形様。私も超絶恥ずかしいのを我慢しています』
丁度というか何というか、船員がコートを届けにきてくれたらしい。彼女はオーバーなほどに喜んで、コートや靴を装着する。
『まあ…ヴォジャもね、そういうのが欲しかったんでしょ』
「…そうかもね」
彼女はコンテナの捜索を終わらせると、『城道さんに手だけ合わせてくる』と言って、通話を切った。それが終わったら、僕はこの戦いをどう終わらせるか決めなくてはいけない。彼女の、ガクトの仲間として。