アセビよ、貴方の手を引いて
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やっとこさコンテナのドアを開けると、もわ、と煙が顔に掛かったので、私は思わず咳払いする。中には船員さん達が意識朦朧で転がっている。
「大丈夫…ですか?」
「あ…ああ…誰だお前」
「あー、うん。敵という程じゃないですよ?」
「は?」
「まあまあ。ほら、綺麗な空気吸って下さい」
唯一立っていた船員さんが思いっきり胡乱な目で見てくるので、私はちょっと居た堪れなくなる。もう少し素直に感謝してくれても良いじゃないか。
「とにかくお兄さん達、ここから離れた方が良いですよ。ヴォジャさんも私サイドの人も化け物じみてるので、私達がいても巻き添えで殺されるだけです。さあ、とにかく気絶してる船員さん達を運ぶんです。ここにいたらいつどういう扱いされるか分かりませんし、私は自分より重いもの運べませんよ」
「私サイド?待て…お前敵か…!」
「お馬鹿!敵対している場合ですか?!あのお兄さんがヴォジャさんの片手間に気絶してる船員さんを殺したら貴方どう責任取るんです?」
「は?…は?」
「ほら頑張って!」
そう言って転がっている船員さんの一人の襟首を持ってお兄さんに押しつければ、お兄さんは目を白黒させながらも素直に船員の避難を始める。素直でよろしい。
私は二人の動向を確認する。曲芸師のような戦いを見せる直器君を前に、ヴォジャさんがやたら滑るジェル塗れになった服を脱ぎ捨てている。
ーーーーーーーーーー
「にげろ…蜂名。蜂名…お前は何者?」
ヴォジャを刺し殺し、さあ晴乃君のところに戻って説教でもと思った瞬間だった。僕は予想外の声に振り向き、ガクトの携帯を握ったヴォジャと再び相対する。
「…そういう君は?」
「覚えている…私が初めて見たものは、海水に歪む女の顔…。美しい目だった。あの目で知らされた。生まれて間もなく無用とされた存在だと…それが私の正体」
ヴォジャはそう言いながらジェルが付着した服を脱ぎ出す。
「理由は何?私が醜いから?禍々しいから?」
…女!?
「お前は立会人を介してコンテナの配置を操った。私を含めあの時それを知る者はいなかった。お前は知っていたな?あの立会人の性質を…お前は知っていたな?ダイヤを持って船を降りろと忠告しても、私がそれを聞かない事を。城道が自分を裏切る事もハナから分かっていた。まるで未来を見てきたかのように…お前は自覚している。私と同じだ。無自覚の者に大きな喜びや強い苦しみを与える…その時まるで自分が特別な存在になったかのような錯覚に陥ったと自覚できる…お前もそうだろう?」
彼…いや彼女はそう言って踵を返し、晴乃君に近付いていく。
「分からないのはお前よ…お前はどこまでも凡にして無自覚…なのに…何故ここに立っていられる?」
「秘密」
そう言いながら晴乃君は四歩下がり、コンテナの前を空けた。
「私は船員さんが助かればそれでいいの。セメントと上着はどうぞ持っていって」
そう言われても、ヴォジャは動かない。当然だ。罠に決まっている。警戒を露わにするヴォジャを、彼女は嘲笑った。
「大変じゃない?そうやって人疑ってばっかで。あんまりそんなことしてるとこっちも意地悪しちゃうよー?」
彼女はつるはしを手に取ると、セメントの袋の上に掲げる。
「ほら。ごー、よーん、さーん…」
不敵に笑い、カウントダウンを始めた晴乃君。するとヴォジャは大きな舌打ちをして、そんな彼女を突き飛ばした。
がいんという大きな音を立てて、晴乃君はコンテナの扉に強かに背を打ち付けた。
「いったぁ…」
彼女は座り込んで身悶え、ヴォジャを睨む。
「ほらぁ…何もしなかったじゃない、私…。いつまでも警戒するのやめてよね…」
「お前は…何者なの…?」
「だから誰でもないんだってばぁ…それそんなに重要?」
そう言った直後、彼女の表情に影がさす。そして申し訳なさそうに「ごめん、貴女には重要か」と呟いた。
「少し話そうよ」
「煩い…煩い!」
ヴォジャは彼女に駆け寄ると、腕で頭を薙ぐ。薄く残っていたジェルのお陰で100%のダメージは入らなかった様だが、それでも彼女は地面に打ち付けられ、昏倒した。思わず「晴乃君!」と叫ぶ僕を、振り返ったヴォジャが邪悪に笑った。
「蜂名…お前はこれから先をどれだけ予測出来ている?」
彼女はそう言うと、セメントを頭から被り、船員達の上着で拭き取る。それでジェルは効果を無くし、彼女はまた全力を取り戻す。
(そうか…あの時の)
こいつはコンテナのトリックに気付いていた。ガクトの船の沈め方…その順番を見てコンテナの中身を確認するルートを予測した。敵が既に確認したコンテナから何かをくすねている可能性はある。白兵戦、一対多数の場面で使用できるアイテム、つまりナイフとジェルを持ち出すと最初から予測する事は可能。
この女は…厄介だ。晴乃君が揺さぶりをかけ続けたのは、恐らく厄介なこの女の心を乱すため。なら…後は僕がやるしかないみたいだね。
「大丈夫…ですか?」
「あ…ああ…誰だお前」
「あー、うん。敵という程じゃないですよ?」
「は?」
「まあまあ。ほら、綺麗な空気吸って下さい」
唯一立っていた船員さんが思いっきり胡乱な目で見てくるので、私はちょっと居た堪れなくなる。もう少し素直に感謝してくれても良いじゃないか。
「とにかくお兄さん達、ここから離れた方が良いですよ。ヴォジャさんも私サイドの人も化け物じみてるので、私達がいても巻き添えで殺されるだけです。さあ、とにかく気絶してる船員さん達を運ぶんです。ここにいたらいつどういう扱いされるか分かりませんし、私は自分より重いもの運べませんよ」
「私サイド?待て…お前敵か…!」
「お馬鹿!敵対している場合ですか?!あのお兄さんがヴォジャさんの片手間に気絶してる船員さんを殺したら貴方どう責任取るんです?」
「は?…は?」
「ほら頑張って!」
そう言って転がっている船員さんの一人の襟首を持ってお兄さんに押しつければ、お兄さんは目を白黒させながらも素直に船員の避難を始める。素直でよろしい。
私は二人の動向を確認する。曲芸師のような戦いを見せる直器君を前に、ヴォジャさんがやたら滑るジェル塗れになった服を脱ぎ捨てている。
ーーーーーーーーーー
「にげろ…蜂名。蜂名…お前は何者?」
ヴォジャを刺し殺し、さあ晴乃君のところに戻って説教でもと思った瞬間だった。僕は予想外の声に振り向き、ガクトの携帯を握ったヴォジャと再び相対する。
「…そういう君は?」
「覚えている…私が初めて見たものは、海水に歪む女の顔…。美しい目だった。あの目で知らされた。生まれて間もなく無用とされた存在だと…それが私の正体」
ヴォジャはそう言いながらジェルが付着した服を脱ぎ出す。
「理由は何?私が醜いから?禍々しいから?」
…女!?
「お前は立会人を介してコンテナの配置を操った。私を含めあの時それを知る者はいなかった。お前は知っていたな?あの立会人の性質を…お前は知っていたな?ダイヤを持って船を降りろと忠告しても、私がそれを聞かない事を。城道が自分を裏切る事もハナから分かっていた。まるで未来を見てきたかのように…お前は自覚している。私と同じだ。無自覚の者に大きな喜びや強い苦しみを与える…その時まるで自分が特別な存在になったかのような錯覚に陥ったと自覚できる…お前もそうだろう?」
彼…いや彼女はそう言って踵を返し、晴乃君に近付いていく。
「分からないのはお前よ…お前はどこまでも凡にして無自覚…なのに…何故ここに立っていられる?」
「秘密」
そう言いながら晴乃君は四歩下がり、コンテナの前を空けた。
「私は船員さんが助かればそれでいいの。セメントと上着はどうぞ持っていって」
そう言われても、ヴォジャは動かない。当然だ。罠に決まっている。警戒を露わにするヴォジャを、彼女は嘲笑った。
「大変じゃない?そうやって人疑ってばっかで。あんまりそんなことしてるとこっちも意地悪しちゃうよー?」
彼女はつるはしを手に取ると、セメントの袋の上に掲げる。
「ほら。ごー、よーん、さーん…」
不敵に笑い、カウントダウンを始めた晴乃君。するとヴォジャは大きな舌打ちをして、そんな彼女を突き飛ばした。
がいんという大きな音を立てて、晴乃君はコンテナの扉に強かに背を打ち付けた。
「いったぁ…」
彼女は座り込んで身悶え、ヴォジャを睨む。
「ほらぁ…何もしなかったじゃない、私…。いつまでも警戒するのやめてよね…」
「お前は…何者なの…?」
「だから誰でもないんだってばぁ…それそんなに重要?」
そう言った直後、彼女の表情に影がさす。そして申し訳なさそうに「ごめん、貴女には重要か」と呟いた。
「少し話そうよ」
「煩い…煩い!」
ヴォジャは彼女に駆け寄ると、腕で頭を薙ぐ。薄く残っていたジェルのお陰で100%のダメージは入らなかった様だが、それでも彼女は地面に打ち付けられ、昏倒した。思わず「晴乃君!」と叫ぶ僕を、振り返ったヴォジャが邪悪に笑った。
「蜂名…お前はこれから先をどれだけ予測出来ている?」
彼女はそう言うと、セメントを頭から被り、船員達の上着で拭き取る。それでジェルは効果を無くし、彼女はまた全力を取り戻す。
(そうか…あの時の)
こいつはコンテナのトリックに気付いていた。ガクトの船の沈め方…その順番を見てコンテナの中身を確認するルートを予測した。敵が既に確認したコンテナから何かをくすねている可能性はある。白兵戦、一対多数の場面で使用できるアイテム、つまりナイフとジェルを持ち出すと最初から予測する事は可能。
この女は…厄介だ。晴乃君が揺さぶりをかけ続けたのは、恐らく厄介なこの女の心を乱すため。なら…後は僕がやるしかないみたいだね。