アセビよ、貴方の手を引いて
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「誰か開けてくれ!」
「ヴォジャ!コンテナを開けてくれ!煙が…」
ヴォジャと呼ばれた男は、ついさっきつるはしで開けられた穴からコンテナを覗き込むと、「大丈夫だ、コンテナは必ず開ける。落ち着いて言う事を聞け」と声を掛けた。
「そのコンテナには建築資材が入っている。確か奥の方にセメントがあったはずだ。それをコンテナの扉の前まで持ってこい…火元が発見できないのは何か箱のようなものの中で目立たず燻っているからだ。恐らく何箇所もある火元を探す時間はない。全員上着を脱いでセメントのそばに置け。まだそのつるはしで穴は開けられるか?」
「も…もう無理だ…」
「では一人だけこの穴から息をしろ。残りは扉の前でうつ伏せになって寝るんだ…急げ。奴はお前らが昏倒するまでここを動かないつもりだ。今扉を開けようとすればその隙をついて襲いかかってくるだろう。あいつを殺すにはお前らが必要なんだ…」
「嘘つき」
投げかけられた声。僕もヴォジャも驚いてそちらを見ると、コンテナから出てきた晴乃君が、泣きそうな顔でこちらへ歩いてきていた。
「何、してるの、晴乃君」
「ごめん、ごめんね。分かってるの。見殺しにできなかったの」
「戻って」
「ごめん」
彼女は謝りながらも、真っ直ぐに歩いてくる。強情女。ふとそんな言葉が浮かんだ。
「二人とも、どいて。そのコンテナ開けるだけだから」
そう言いながら彼女はヴォジャの目の前に進み出ると、「何か都合悪い?」と尋ねた。ヴォジャの疑り深い瞳を、彼女の墨色の目が受け止める。二人は見つめ合う。
不意にヴォジャが右手を前に出し、真っ直ぐ彼女を指差した。
「私の目が怖いの?」
彼女は笑う。何も恐れぬ麗かな笑顔。ヴォジャはその言葉に眉を顰める。
「暴かれるのが嫌なら私の事は放っておいて。貴女に損はないでしょう?」
彼女はそれだけ言ってワイヤーに手を掛けると、結び目と格闘し出す。僕が力一杯結んだので、中々苦戦しているようだ。ヴォジャがそんな彼女の首に手を掛けようとするので、僕はそれを阻止しようと彼女に近付く。
「ヴォジャ、そのダイヤはお父さんの?」
「…は?」
ヴォジャの手が止まる。彼女はちらっとヴォジャのその姿を確認すると、「ダイヤは別にどうでもいいけど、その持ち主が大切なのね」と微笑んで、またワイヤーと格闘し出す。
「晴乃…お前、何者?」
「‘人が見ていない時、月は存在しない’…私を誰も知らないから、私は誰でもない。そうでしょ?」
「そう…なら…」
すっと伸ばされた人差し指が、今度は僕に向けられる。
「まずは、お前からだ」
ヴォジャが足下のダイヤモンドを蹴飛ばす。それらはカッカッとコンテナに跳弾して、僕の頬肉を抉った。
「思い出した。その変な動き、システマだね」
彼は何も言わず、ゆらゆらとした不気味な動きで距離を詰める。相手に間合いを測らせ辛くするのがシステマの特長の一つ。下がらねばと思うより先に、僕の体は吹っ飛んでいた。
(す…凄い…力だね…)
僕は早々に正面突破を諦め、仕込みを使う事に決めた。隠していたワイヤーを引けば、コンテナにあったアンチトラクションジェル…機動防止システムと呼ばれる米国海兵隊用に開発された非殺傷兵器のスイッチが入り、ジェルが散布され始める。これは通常暴動の鎮圧や橋などの封鎖を目的として散布される。このジェルが付着する事により表面摩擦は劇的に減少…つまり、滑るのだ。その効果は、車のタイヤを絡め取り、前進を許さない程に。
気付かずジェルの中に突進してきたヴォジャがジェルに足を取られ、転倒する。向こうでは晴乃君が「ひょええ」と間抜けな声を上げている。締まらない人だ。まあ、好きにさせておく。僕はヴォジャが立ち上がる前に靴を脱ぎ、足の指にナイフを挟んだ。やった事はないけど、これで動けるだろう。僕完璧だし。
ヴォジャが慣れない足場に戸惑っている内に、僕は飛び上がり、奴の喉仏を狙う。しかし、当然ながら腕でガードされてしまったので、もう少し下、心臓を狙ってナイフを突き刺した。
「ヴォジャ!コンテナを開けてくれ!煙が…」
ヴォジャと呼ばれた男は、ついさっきつるはしで開けられた穴からコンテナを覗き込むと、「大丈夫だ、コンテナは必ず開ける。落ち着いて言う事を聞け」と声を掛けた。
「そのコンテナには建築資材が入っている。確か奥の方にセメントがあったはずだ。それをコンテナの扉の前まで持ってこい…火元が発見できないのは何か箱のようなものの中で目立たず燻っているからだ。恐らく何箇所もある火元を探す時間はない。全員上着を脱いでセメントのそばに置け。まだそのつるはしで穴は開けられるか?」
「も…もう無理だ…」
「では一人だけこの穴から息をしろ。残りは扉の前でうつ伏せになって寝るんだ…急げ。奴はお前らが昏倒するまでここを動かないつもりだ。今扉を開けようとすればその隙をついて襲いかかってくるだろう。あいつを殺すにはお前らが必要なんだ…」
「嘘つき」
投げかけられた声。僕もヴォジャも驚いてそちらを見ると、コンテナから出てきた晴乃君が、泣きそうな顔でこちらへ歩いてきていた。
「何、してるの、晴乃君」
「ごめん、ごめんね。分かってるの。見殺しにできなかったの」
「戻って」
「ごめん」
彼女は謝りながらも、真っ直ぐに歩いてくる。強情女。ふとそんな言葉が浮かんだ。
「二人とも、どいて。そのコンテナ開けるだけだから」
そう言いながら彼女はヴォジャの目の前に進み出ると、「何か都合悪い?」と尋ねた。ヴォジャの疑り深い瞳を、彼女の墨色の目が受け止める。二人は見つめ合う。
不意にヴォジャが右手を前に出し、真っ直ぐ彼女を指差した。
「私の目が怖いの?」
彼女は笑う。何も恐れぬ麗かな笑顔。ヴォジャはその言葉に眉を顰める。
「暴かれるのが嫌なら私の事は放っておいて。貴女に損はないでしょう?」
彼女はそれだけ言ってワイヤーに手を掛けると、結び目と格闘し出す。僕が力一杯結んだので、中々苦戦しているようだ。ヴォジャがそんな彼女の首に手を掛けようとするので、僕はそれを阻止しようと彼女に近付く。
「ヴォジャ、そのダイヤはお父さんの?」
「…は?」
ヴォジャの手が止まる。彼女はちらっとヴォジャのその姿を確認すると、「ダイヤは別にどうでもいいけど、その持ち主が大切なのね」と微笑んで、またワイヤーと格闘し出す。
「晴乃…お前、何者?」
「‘人が見ていない時、月は存在しない’…私を誰も知らないから、私は誰でもない。そうでしょ?」
「そう…なら…」
すっと伸ばされた人差し指が、今度は僕に向けられる。
「まずは、お前からだ」
ヴォジャが足下のダイヤモンドを蹴飛ばす。それらはカッカッとコンテナに跳弾して、僕の頬肉を抉った。
「思い出した。その変な動き、システマだね」
彼は何も言わず、ゆらゆらとした不気味な動きで距離を詰める。相手に間合いを測らせ辛くするのがシステマの特長の一つ。下がらねばと思うより先に、僕の体は吹っ飛んでいた。
(す…凄い…力だね…)
僕は早々に正面突破を諦め、仕込みを使う事に決めた。隠していたワイヤーを引けば、コンテナにあったアンチトラクションジェル…機動防止システムと呼ばれる米国海兵隊用に開発された非殺傷兵器のスイッチが入り、ジェルが散布され始める。これは通常暴動の鎮圧や橋などの封鎖を目的として散布される。このジェルが付着する事により表面摩擦は劇的に減少…つまり、滑るのだ。その効果は、車のタイヤを絡め取り、前進を許さない程に。
気付かずジェルの中に突進してきたヴォジャがジェルに足を取られ、転倒する。向こうでは晴乃君が「ひょええ」と間抜けな声を上げている。締まらない人だ。まあ、好きにさせておく。僕はヴォジャが立ち上がる前に靴を脱ぎ、足の指にナイフを挟んだ。やった事はないけど、これで動けるだろう。僕完璧だし。
ヴォジャが慣れない足場に戸惑っている内に、僕は飛び上がり、奴の喉仏を狙う。しかし、当然ながら腕でガードされてしまったので、もう少し下、心臓を狙ってナイフを突き刺した。