アセビよ、貴方の手を引いて
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「何が薄汚い事で何が正しい事か、普通の人間と同じようにちゃんと理解してる…へへ…いつか真っ当な人間になりたいと心のどこかで願い、そのチャンスを目前にしていつも下衆な行為に走っちまう…俺は野良犬みてえに…まるで脳に白い膜がかかったみたいに…どうでもよくなる…改心したり信じる事を貫いたり…そんな幸せな事が出来ちまう幸せな人間によぉ…こんな俺の気持ちが分かってたまるかよぉ!」
「何だ…誰もいないぞこのコンテナ」
「これを見ろ!携帯だけここに!」
直器君はいつも一枚上手だ。直器君には、城道さんが船員側につく事がとっくに分かっていたのだろう。だから携帯を囮にする事が出来た。そして、それを使って船員をコンテナの中に閉じ込める事も。
ガチャンという、コンテナが閉まる音。
「ファミレスで僕は言ったよ、城道君。それが君が食べる最後の食事だ、と。そして自らの悪食が身を滅ぼすとも言ったよね。君は一億を諦めきれなかった…船長室のダイヤを手に掛けておいて尚ね」
「は?ダイヤって何だよ…へへへへ。俺知らねえし。ダイヤとか俺は知らねえし見た事もねえし」
ああこれ、嘘だ。そして、焦りがどんどん上乗せされていく。何だ?直器君にそんなにビビる必要あるか?
「行方不明の船員は二人…トイレにいる男と、僕が船に乗り込む時に必要だったこの服の持ち主。船長室の鍵やダイヤ情報が記された携帯はトイレのではなくもう一人の船員が持っていたものだった。君への餞別のつもりで僕はそれを君のポケットに入れただけなんだ」
「は?俺は知らねえ神に誓う!何だったら体中調べてもらっても構わねえ!」
「だから…よく聞いてよ。自らの悪食が身を滅ぼす。何でも食べる、正に悪食だ」
「はっ?何が言いたいか俺にはさっぱりわからねえ!もっと分かりやすく…」
どん!という大きな音がして、城道さんの声が一際焦る。やっと分かった。コンテナに船員全員を閉じ込められた訳ではなかったのか。
「おっおいおい!あいつの言う事真に受けたのかよ!?よし!調べたきゃ調べろ!俺はそんなダイヤ食ってねえ事が分かるっ!いいぜ!お…おい…息が…」
城道さんの声がどんどん小さくなっていき、何も聞こえなくなる。何だ?何が起きている?私はコンテナの壁に耳を押し当てる。何かが落っこちた音がした、気がした。
ほんの数秒の沈黙を挟んで、直器君が喋り出す。
「そのダイヤそんなに大事なの?じゃあ君は‘そのダイヤを持って黙ってこの船を去る’…それが君に残された最後のチャンスだ。…これは救命ボートにあった船外機用のワイヤーだ。こうやって固く結べば開けるのに多少時間がかかる。君がダイヤを拾い集めた後コンテナを開ければ仲間は助かるだろう。ただし…治療が必要だよ。その頃中の船員は大量の煙を吸い昏倒しているはずだから…仲間の治療に専念している間、僕は目的を遂げる。僕の邪魔をしなければそれでいい。どうする?邪魔をすれば命の保証はしない。大人しくこの船を降りる事を勧める。…さぁ、どうする?」
ぐるぐると頭が動く。何が起きている?そしてこれから何が起こる?分かることはニつ。コンテナに閉じ込められている船員は、放っておけば殺される。直器君の手によって、だ。そして、外には直器君と敵対している船員がいる。直器君が交渉しているということは…複数か、一人が強いか。いや、違う。複数はあり得ない。二人ならダイヤを拾ってからコンテナを開ける必要がない。手分けしろって話だ。ああ分かってきたぞ。ダイヤは拾わなきゃいけないんだ。城道さんが呑んで、体内に隠したはずのダイヤが出ているって事だ。そんなの普通は無理だ、腹を裂かないと。
城道さんは、絶対に凄惨な死体になっている。そうできる人が直器君の相手で、その直器君だって船員を一網打尽にして人質にしている。そうだ、分かってる。多分どちらも船員の命なんてどうでもいいんだ。
誰かが助けなきゃいけなくて、その誰かは私しかいない。分かってる。分かってるとも。
でも、行ったところで何ともならないのも分かってる。
ぐるぐる。頭が痛くなる。何が正解で、どうしたらいいのか。いや、分かってるとも。直器君の言う事を聞いて、直器君を信じて待つのが正解だ。でも、目の前で死にかけている人がいれば救助活動を実施するのも正解だ。後は、自分がどちらの正解を選ぶか。ああそうだ、分かってる。
「何だ…誰もいないぞこのコンテナ」
「これを見ろ!携帯だけここに!」
直器君はいつも一枚上手だ。直器君には、城道さんが船員側につく事がとっくに分かっていたのだろう。だから携帯を囮にする事が出来た。そして、それを使って船員をコンテナの中に閉じ込める事も。
ガチャンという、コンテナが閉まる音。
「ファミレスで僕は言ったよ、城道君。それが君が食べる最後の食事だ、と。そして自らの悪食が身を滅ぼすとも言ったよね。君は一億を諦めきれなかった…船長室のダイヤを手に掛けておいて尚ね」
「は?ダイヤって何だよ…へへへへ。俺知らねえし。ダイヤとか俺は知らねえし見た事もねえし」
ああこれ、嘘だ。そして、焦りがどんどん上乗せされていく。何だ?直器君にそんなにビビる必要あるか?
「行方不明の船員は二人…トイレにいる男と、僕が船に乗り込む時に必要だったこの服の持ち主。船長室の鍵やダイヤ情報が記された携帯はトイレのではなくもう一人の船員が持っていたものだった。君への餞別のつもりで僕はそれを君のポケットに入れただけなんだ」
「は?俺は知らねえ神に誓う!何だったら体中調べてもらっても構わねえ!」
「だから…よく聞いてよ。自らの悪食が身を滅ぼす。何でも食べる、正に悪食だ」
「はっ?何が言いたいか俺にはさっぱりわからねえ!もっと分かりやすく…」
どん!という大きな音がして、城道さんの声が一際焦る。やっと分かった。コンテナに船員全員を閉じ込められた訳ではなかったのか。
「おっおいおい!あいつの言う事真に受けたのかよ!?よし!調べたきゃ調べろ!俺はそんなダイヤ食ってねえ事が分かるっ!いいぜ!お…おい…息が…」
城道さんの声がどんどん小さくなっていき、何も聞こえなくなる。何だ?何が起きている?私はコンテナの壁に耳を押し当てる。何かが落っこちた音がした、気がした。
ほんの数秒の沈黙を挟んで、直器君が喋り出す。
「そのダイヤそんなに大事なの?じゃあ君は‘そのダイヤを持って黙ってこの船を去る’…それが君に残された最後のチャンスだ。…これは救命ボートにあった船外機用のワイヤーだ。こうやって固く結べば開けるのに多少時間がかかる。君がダイヤを拾い集めた後コンテナを開ければ仲間は助かるだろう。ただし…治療が必要だよ。その頃中の船員は大量の煙を吸い昏倒しているはずだから…仲間の治療に専念している間、僕は目的を遂げる。僕の邪魔をしなければそれでいい。どうする?邪魔をすれば命の保証はしない。大人しくこの船を降りる事を勧める。…さぁ、どうする?」
ぐるぐると頭が動く。何が起きている?そしてこれから何が起こる?分かることはニつ。コンテナに閉じ込められている船員は、放っておけば殺される。直器君の手によって、だ。そして、外には直器君と敵対している船員がいる。直器君が交渉しているということは…複数か、一人が強いか。いや、違う。複数はあり得ない。二人ならダイヤを拾ってからコンテナを開ける必要がない。手分けしろって話だ。ああ分かってきたぞ。ダイヤは拾わなきゃいけないんだ。城道さんが呑んで、体内に隠したはずのダイヤが出ているって事だ。そんなの普通は無理だ、腹を裂かないと。
城道さんは、絶対に凄惨な死体になっている。そうできる人が直器君の相手で、その直器君だって船員を一網打尽にして人質にしている。そうだ、分かってる。多分どちらも船員の命なんてどうでもいいんだ。
誰かが助けなきゃいけなくて、その誰かは私しかいない。分かってる。分かってるとも。
でも、行ったところで何ともならないのも分かってる。
ぐるぐる。頭が痛くなる。何が正解で、どうしたらいいのか。いや、分かってるとも。直器君の言う事を聞いて、直器君を信じて待つのが正解だ。でも、目の前で死にかけている人がいれば救助活動を実施するのも正解だ。後は、自分がどちらの正解を選ぶか。ああそうだ、分かってる。